「青き戦士の神話・至宝の寵児たち」(5)

想いは悲しみを・・・ 〜トラップ

「あ、こら!!髪引っ張らないで!!」
「おねーちゃん、髪お日様の色してるー!!」
「ほんとー!!きれー!!」
天使の子供達とじゃれあってるパステルはまるで女神のようだった・・・って何言ってンだ?オレ
でも事実だからしょーがねーか・・・
(・・・クレイが見たら素直に言っちまうんだろうな・・)
オレと同じことを考えて・・言葉にして・・・
・・くそっ!!
なんで先行っちまうんだ!?
おかげでこっちは失恋しちまうし、なのにあきらめられない自分に気づくなんてよ・・・
オレの考えに気づいたのか、ノルが気遣うように聞いてくる。
「トラップ、大丈夫か?」
「・・・なんともねえよ」
・・・オレはそう答えるしかなかった。
見ているだけがこんなに哀しいなんて・・・
しばらくノルとキットンと三人でパステルやルーミィ、天使族のガキどもを見ていると
「みんな!!どこに行って・・・!?」
一人の天使族の男がこちらに走ってきた。

天使の男は自分をリジェと名乗った。
「長老から話は聞いてます、守護石様方」
・・・何でも天使族の間じゃ、「守護石はすでに至宝とともにある」と長老から話があったそうだ。
「・・・リリスさんったら・・・」
悔しそうな声でパステルが呟く。
・・・コイツの考えくらいわかるさ。
あの女、クレイをモノにするためにオレ達を引き離したんだ。
パステルはそのことでリリスに嫉妬してやがる。
(・・ったく、クレイの奴・・!!)
どこまでパステルの気持ちに気づいてやがるんだか・・・!!
オレの葛藤なんて知ることもなく、キットンがリジェに色々尋ねてた。
・・なんでもこいつらは大人達の指示で戦いから逃れるように言われて、この集落にいるんだそうだ。
「この子達の大半は堕天使との戦いで親をなくしています。
ボク・・いや私も戦うと言ったんですが、聞いてもらえずに・・・」
それだけ言うとリジェはオレ達にすがるような目を向けた。
「守護石様方!!早く至宝様とともに戦いをおわらせてください!!・・・これ以上哀しい事が起きないように!!」
・・・ちっ!!
そんな目ぇしてこっちを見るんじゃねえっての!!
ホラ見ろ、パステル達すっかりその気になってやがる。
「・・・解りました、最善をつくします」
・・・・・あっちゃあ・・・・・
オレはテーブルに突っ伏してしまった。
・・・まあ、どっちみちクレイを連れ戻さなきゃならねえし、・・・・いっか。

・・・・オレがこの想いを出しさえしなければ。

・・・・だけど、想いは炎となり、みんなを傷つけるはめになるなんて、この時オレは知らなかったんだ・・


心が重なるとき

”カッ!!”
青い閃光があたりを青く染める。
「な・・・何?」
パステルが椅子から立ち上がる。
リジェははっとしたように空を見た。
「あれは青の至宝様のお力です!!」
「何だって!?」
(あれが・・・クレイの力だって!?)
信じられない思いでトラップはリジェにつめよった。
「クレイが戦ってンのか!?」
「は・・・はい、あなた様方とお会いする少し前に連絡が入りまして、そのときから・・・」
気弱げな彼の声に全員がはじかれたように外へ出る。
「クレイ・・・・!!」
そこには何人かの天使にに立ち向かう、青い翼を持つ青年の姿があった。
まさしくそれはクレイ。
「こうしちゃいられねえぞ!!」
「うん!!」
「行きましょう!!クレイのところへ」
「早く、行こう。クレイ、危ない」
「行くおう!!」
「行くデシ!!」
互いにうなずき合い、パステル達はクレイの元へ走っていった。

「くっ・・・!!」
クレイの身体はすでに傷だらけだった。
無理もない、多勢に無勢のうえ、風と大地の天使族の力が炎と水の天使達に及ばないのだ。
「ルシファー!!」
「あなた様は人として生きる、ならば神官などいらないでしょうに」
もう一つの天使族の長、ルシファーが冷たく言い放つ。
・・・クレイは戦う前、彼にはっきり言ったのだ。
『オレは人として生きる』と
なのに彼は天使族の殲滅を命じた。
「だからって、滅ぼすなんて!!」
「あなた様のお言葉を聞いたからこその選択です」
ルシファーは感情を青い瞳に隠し、笑った。
「うそおっしゃい!!神官の座を自分のものにしようとするためのくせに!!」
翼から血を流しながら、リリスが叫んだ。
「貴女にだけは言われたくありませんな」
辛辣な言葉にリリスは声を失った。
そう、自分は彼を自分だけのものにしようとした。
その行為は同族にも許されることではない、でも・・・
(あの人が好き・・・それだけなのに・・・!!)
リリスの瞳にはクレイだけが映っていた。
「おしゃべりはこれまでです!!」
ルシファーは炎の剣をかざし、クレイに迫った。
赤い剣がクレイの剣を打つ。
「くっ・・・!!」
「・・・さすがですな。・・・ですが、甘い!!」
次の一撃で炎の天使は至宝の青年を打ち据えた!!
「ぐはっ・・・・・!!」
クレイの身体が岩肌にたたきつけられた。
口から鮮血が流れてくる。
「・・これまで、ですかな?」
翼が消えたクレイにルシファーが剣を向ける。
「・・・」
(会いたい・・!!)
愛おしい人に・・・仲間達に・・・
その願いが通じたのか。
今まさに振り下ろされそうになる炎の剣を、何かがはじき飛ばす。
「だ・・だれだ!!?」
「クレイ、なにやってんだよ。それでも至宝かぁ?」
・・・剣をはじいたものの発信源には白い竜に乗った赤毛の少年がいた。
「トラップ!?」
「クレイ!!探しましたよ!!」
トラップだけでない、そこには彼の仲間全員がいる。
「パステル!!キットン!!ノル!!ルーミィ!!シロ!!」
クレイの声に明るさが戻った。
先ほど打ち据えられた衝撃もなんのその、彼らの方へ駆け寄っていく。
「・・・守護石様がいらしたか・・・」
二つの天使族の長がほぼ同時に同じつぶやきを発した。
だが、込められた感情はまるで違っていた。
一人は安堵。そして、もう一人は解放される喜びを込めて。


青い風がうまれる

「クレイ!!」
「みんな!!」
あわや戦場で感動的な再会シーンが・・・と思いきや。
”どかっ!ばきっ!ごすっ!!”
・・・クレイは全員に袋叩きにされていた・・・
「痛いっ!!なにすんだよ!!」
「うるせえ!!人に散々心配かけやがって!!」
「トラップの言う通りです!!そんなに私たちが信用できないんですか!?」
「だかっ・・・・それは・・・」
「オレ達信用しろ!!仲間だろ!!」
「くりぇい、おいてっちゃいやだおう!!」
「僕たち仲間なんデシよ!!」
「みんな・・・・」
みんなを護りたくて、離れたのに・・・
悪口雑言の中の優しい思いにクレイの心は一つの答えを導き出す。
みんなを護るためならこの力はいとわしくない。
彼らを護るためにこの力を使おう。
(そのためには至宝であることも受け入れなきゃな・・)
どちらも紛れもない自分。
心が変わらなければ、自分は自分でいられる。
「バカ!!クレイのバカ!!」
泣きながら自分を殴るパステルが愛おしい。
仲間のそばにいられることが嬉しい。
その気持ちを抱きしめながら、クレイはそっとパステルを抱きしめた。
「クレイ・・・・」
「ごめん・・・・泣かせてしまって」
優しくささやいた後、トラップ達をしっかり見て、
「悪かった、オレが間違っていたよ」
「・・・クレイ」
「けっ!!ようやく気づきやがったか!!」
そう言うトラップの表情には照れくささがあった。
もう一つの感情は巧妙に隠していたので気づかれなかったが。

リリスは悲しみにうちひしがれていた。
今ここにいるクレイは自分の知っているクレイではない。
(あんな表情も・・・できるの?)
この時、自分が初めてクレイの事をほとんど知らないことに気づいたのだ。
(クレイ様はやはり守護石のそばがいいのね・・・)
人として認めてくれる守護石、彼らのために力を使う至宝。
リリスは彫像のように立ちつくしたまま、彼らを見つめていた。

風が渦巻いた。
至宝と守護石を中心として青くきらめく風があたりを包んでいた。
「これが本当の至宝の力・・・」
ユリウスは厳かな表情で風を見つめる。
「ルシファー様!!これは・・・」
火と水の天使が長に声をかける。
彼らは近づけないのだ、青き風のなか―至宝と守護石に。
ルシファーは喜びに満ちた顔でうなずくと、
「至宝様の怒りをこちらに向けねばな・・」
風の中の炎を巧みにあおり立てた。
パステルを想うトラップの心を。


至宝と守護石が争うとき 〜リリス

・・・何か変。
風の中のかすかな違和感が膨らんでいく。
(まさか、異変が・・・!?)
そう思い、風の中心を見ると・・
”ガッ!!”
緋色の守護石、盗賊のトラップが剣を片手にクレイ様を攻めていた。
「何するんだ!?トラップ!」
クレイ様が叫ぶんだけどまるで聞いてないって顔。
瞳に暗い炎を宿らせ、クレイ様に襲いかかる。
「あ・・・・!!」
彼の持つ剣は、堕天使ルシファーのもの!!
そうか!!トラップのあの女への想いを暴走させたのね!!
「長老・・・!!」
私は彼らのそばへ行くことを長老に伝えた。
「うむ・・・!」
長老の答えはYes。
私は力を使い、青い風の中へ入っていった。

「クレイ!!トラップ!!やめて!!」
風の中で私の目にまず入ったのは、虹色の守護石、・・・そしてクレイ様の思い人、パステルの姿だった。
その事実が私を嫉妬させる。
「リリスさん!!」
緑の守護石、キットンが私に気づいた。
私はそちらへ駆け寄る。
「クレイ様は・・・」
「トラップと戦ってます!!リリスさん、トラップは一体・・・」
「彼の隠れた想いを堕天使が暴走させたのよ」
そう、パステルへの想いを・・・
パステルは何かに気づいたのか、私の方を見る。
「リリスさん・・・それ・・・」
「・・・どうやら心当たりがあるようね」
冷笑を含ませた言葉だったのに・・・・
彼女はうなずくと全てを話してくれた。
彼に告白されたこと。
それを受け入れなかったこと。
そして、クレイ様を愛していることに気づいたこと。
「リリスさん・・・・私のせいなの・・?
私のせいでクレイとトラップが・・?」
「残念ながら、そうよ」
戦いはクレイ様が一方的に押されていた。
だってあの方は剣すら抜いてないんだもの!!
仲間は斬れない、そう思ってるから。
パステルは愕然としたのか、唇を震わせて戦いを見つめている。
「リリス、どうしたら、二人を止められる?」
黄金の守護石、ノルが静かな目で尋ねてくる。
私は再び嫉妬がわき上がるのを感じた。
だって、彼らを止めるには・・・・
「パステル、アンタがあの男のものになればいいのよ!!」
嫉妬が偽りを込めた真実をぶつけていた。


真実の想い 〜パステル

「何ですって!?」
リリスさんの言葉に私は耳を疑った。
私が・・トラップのものになる?
硬直した私にリリスさんが冷たく言い切った。
「だってそうでしょ?お二人が戦ってる原因が貴女なんだから。
要は緋色の守護石・・・じゃないトラップの炎を消せばいい。で、そのためには・・・」
「彼の想いを成就させればいいんですね?」
キットンの答えに彼女はうなずくんだけど・・・
(クレイが好きなのに・・・トラップのものになる?)
そんなのいや!!
心を偽るなんて私にはできない!!
「でも、そうしなきゃクレイ様が死んでしまうわ」
心を見透かすような言葉が考えを混乱させる。
クレイが好き・・・トラップのもの・・・
想いの炎を消す・・・クレイの死・・・・
「りりすぅ!!ぱぁーるをいじめちゃだめだおう!!」
ルーミィの言葉にはっと我に返った。
見るとリリスさんも同じ顔をしてる。
「私・・・・」
「リリス・・・・!?」
互いに何かを言おうとしたその時、
「くっ!!」
トラップの剣がクレイの肩を貫いた。
右肩から鮮血があふれてくる。
「トラップ・・・」
「おめぇさえいなきゃ・・・パステルはオレのものになったのに・・・!!」
悲しげなクレイをトラップがあざ笑う。
剣がクレイの心臓めがけてとぶ!?
「やめてーーーーーーーーーーー!!」
気が付くと私はクレイをかばうように身を投げ出していた。
「パステル・・・・」
「どけよ!!こいつさえいなきゃ、お前俺の気持ち受け入れてくれただろ!?だからオレは・・・」
「バカ!!」
・・・私は泣いていた。
誰かがいなければなんて考えないでほしい!!
「・・・・私、クレイが好き。
でも、彼一人を独占するためにみんなを切り捨てるなんてできないわ!!
私に選ばせないでよ!!切り捨てさせないでよ!!」
「パステル・・・・」
クレイが驚いたように私をのぞき込む。
「パステル・・・今の・・・本当か?」
「そうよ・・・クレイ、貴方が好き。
だけどね、みんなと一緒にいたいの。それはいいでしょ?」
「・・もちろんさ。オレもそうだから」
”カラーン!!”
互いに微笑み会う私たちの耳に、哀しげな音が入ってきた。
「パステル・・・クレイ・・・・」
トラップが剣を取り落とし、私たちを見つめている。
「・・・オレのしたことはわがまま・・・だったのか?」
「いいえ、いつかはやらなきゃならないことですよ」
いつの間にかトラップの横に来ていたキットンが慰める。
「トラップ、アンタ真剣だったんでしょ?
なら気持ちを隠さずぶつかったことは決して損にならないはずです」
「そう・・・なのか?」
「そう、トラップ、素直になれ」
ノルもうなずいている。
ルーミィとシロちゃんは嬉しそうにはしゃいでる。
「わーい!!やっと、みんな一緒だおう!!」
「一緒デシ!!」
そう、想いはいくつもあるから・・・
私はみんなと一緒で、でもクレイが大好き!!
それが紛れもない真実。

でも・・・・炎と水の天使族の本当の想いって・・?
私たちがそれを知るのはあとわずかのことだった。


堕天使の願い 〜クレイ

「・・・さてと」
オレはみんなのそばから離れると、炎と水の天使達に向き直った。
「おい、クレイ!!」
トラップがせっぱ詰まった声で呼びかける。
さてはあいつさっきのこと気にしてるな。
オレはあいつの方へ向き直り、笑った。
「オレの仲間をコケにした借りを返すだけだ。心配すんなって」
「・・・!!」
・・・果たしてこの時、トラップがどんな顔をしたか。
オレは知ることができなかった。
あいつが顔を背けてしまったから。
「馬鹿野郎・・・!!」その一言とともに。

「ようやくお怒りになられたか」
「・・・もう、とっくに怒ってたよ」
ルシファーの冷静な顔にオレは怒りを通り越して笑った。
よく、あんな顔ができるもんだ・・・
オレは地面に落ちていた剣を彼の元へ投げた。
「至宝様・・・?」
「オレと最後の勝負だ、みんなの思いをこめてな」
そう、これで決着をつける!!
彼らの侵略で傷ついた風の天使族、オレをおってここまで来てくれたパステル達、そして俺自身の気持ちの決着を・・

剣が光を放ち、風を生み出す。
さっきの時とは大違いで、オレがルシファーを押していた。
「これが・・・至宝の力・・」
「違う!!人間の中にある至宝の力さ!!」
多分至宝は元のままならこんな風にならなかった。
クレイ・シーモア・アンダーソンと言う一人の「人間」の中にあるからこそ、こんなに強い力が生まれたんだ!!
そして「仲間」と言う守護石があるからこそ、オレは強くなれる、ようやくそれがわかったんだ!!
オレは彼の剣をはじき飛ばした。
「くっ・・・」
「これで決まり・・・だな」
黙って剣を鞘に納める。
「・・・クレイ!?」
「クレイ様!?」
「貴方は・・・」
みんながこの行動に驚きの声を上げる。
でも・・・これがオレの性分だから。
「オレは人殺しはしたくない。単なるお人好しって言われても・・・あんなのはもういやなんだ・・・」
オレの片割れ、ジュディ。
彼女はオレが殺した・・・。
覚えている、あの時消えようとした命。
残されていく者の悲しみ。
・・・あんな気持ちは二度と味わいたくない。
「クレイ!!」
「このお人好しが!!」
パステルとトラップが抗議の声を上げてるけど・・・ノルがなだめてくれていた。
「クレイ、命の重さ知っている。だから、やめた」
・・・・重さを知ってる訳じゃない。
でも・・・あいつの命は・・・・
「至宝様、お甘いですよ。敵に情けをかけるなど」
ルシファーは苦々しげに呟く。
”そうではない、それが人間の証なのよ”
荘厳な、でも聞き覚えのある声が天から降ってきた。
「・・その声は・・・!!」
”久しぶりじゃのう、水の王ルシファー”
穏やかなこの声・・・!!
「ウギルギ様!!?」
キットンの声が辺りに響きまくる。
そう、そこに現れたのは小麦の神ウギルギ様と恋の女神メナースだった。


愛しているが故に・・・

”ザッ!!”
2柱の神の降臨に二つの天使族は膝をついた。
「メナース!!ウギルギ様!!」
パステルが驚きの声を上げた。
「久しぶりね、パステル」
「ほっほっほ、みなさん元気そうじゃのう」
彼らはおおよそ神様らしくない口調で至宝と守護石に懐かしそうに声をかけた。
なぜなら彼らはかの神々と一度会ってるからだ。
メナースはサラディ、ウギルギはサバトで。
パステル達がトラブルにあったとき、出会ったのだ。
「オーティス様から聞かされてびっくりしたわ。まさか、あんた達が至宝と守護石だったなんて」
にこにこ笑いながらメナースが言う。
「わしらもせっぱつまっていたとは言え、情けないのう。至宝の存在に気づかなかったとは」
・・・だが、クレイはメナースと会ったときオームになっていたし、ウギルギの時は神様自身が行き倒れていたで気づかなかったのは仕方ないのかも知れない・・・。
ともかく、天使と神、至宝と守護石がそろった。
メナースとウギルギは天使達の方へ向き直った。
「このたびの天使族の内紛、オーティス様はお怒りになっている」
りんとした声に炎と水の天使は深く一礼した。
後ろではメナースの姿にパステル達がなにやらごそごそ話している。
(なんかメナースってイメージと違うな)
(アレは多分猫かぶってるんだって)
(トラップ!!きいたら怒るわよ。彼女)
(事実は隠しようがありませんって)
(そーそー、大体おめえあいつのせいでひでぇ目にあってるじゃねえか)
(だからってそんなこと・・・)
(しっ!!ルシファーへの、質問、始まる)
彼らの騒ぎをよそに事態は緊迫していた。
神による天使への糾弾が始まったのだ。
「・・最初、我々は事態を静観していた。
しかし、至宝まで引っぱり出したとなれば、話は別。
それ故、至宝達と縁がある我々が降りてきたのです」
「水の王ルシファー、お前さん、何故こんな侵略行為を起こしたんじゃ?
わしの知るお前さんはもっと穏やかな人物じゃったはずじゃが」
ウギルギの言葉にルシファーは静かに神を、そして至宝―クレイ―を見た。
「・・・今回のことは、すべて赤の至宝様ご逝去に端をを発します」
さっきとうって変わった静かな口調にその場にいた者全てが彼を見た。

「我らは赤の至宝、ジュディ様を知っておりました。
冷たい中に悲しさを潜ませたあの方。守護石をたった一つだけしか持ってなかったあの方。
・・・我々は何とかしてあの方の力になりたい、何とか兄君と和解させたい、そう願ってました。
ところがジュディ様は自らクレイ様にお会いになり、命を落とされた」
その言葉にクレイは胸の痛みを覚えた。
(あいつ・・・・気づいていたのか・・・?)
彼らの存在に。・・・いや、知らなかったのだろう。
知っていれば必ず天使がいたはずだ。
だがそばにいたのは氷の狼ただ一頭。
(ジュディ・・・お前、一人じゃなかったんだぞ!!)
天使の言葉の中にある想いがもっと早く彼女に届いていれば・・・・
クレイの表情に気づいたのだろう。
パステルがそっと、彼の手の中に自分の手を滑り込ませた。
「パステル・・・」
「大丈夫・・・?」
彼女の心遣いが嬉しかった。
クレイはパステルの手を握りしめ、小さくうなずいた。
そんなやりとりが恋人達のなかで行われている間にもルシファーの言葉は続いた。
「・・・我々はあの方を愛していた。
たとえ運命に逆らってもあの方を護りたかった。
それができなかった我々には死しかなかった・・・・」
うなだれた顔と言葉にその場にいた者全てが悟った。
彼らは赤の至宝、ジュディの元へ逝くために戦いを起こしたのだ。
青の神官が至宝を呼ぶことをしなければならないほどの危機となり、かの至宝の力で彼女の元に逝くこと。
それが炎と水の天使達の望みだったのだ!!
「・・あなた方はわしらと同じ気持ちだったのだな・・・」
風と大地の天使族の長、ユリウスが小さくうなずいた。

”グラ・・・・ッ!!”
突然、ルシファーの身体が大きく傾いだ。
「ルシファー!!」
「ルシファー様!!」
全ての者が彼の元に集まる。
「おい!!どうし・・・!?」
彼の身体を支え、クレイは絶句した。
剣が心臓を貫いていたのだ。
「なぜ・・・!!」
嘆くメナースにルシファーが笑った。
「メナース様、・・・ウギルギ様・・・私はあの方を護りたいのです・・・たとえこの身が精霊になろうとも・・・・」
彼の目がリリスを向いた。
「風の・・・若長・・・・愛は一つではない・・・
・・・見守ることも・・・できるの・・ですぞ・・
・・・・そうですな?・・メナース様」
恋の女神はうなずいた。
彼女は知っていた、全ての想いを。
至宝へ報われぬ愛を捧げた天使の想いを。
だからこそ、彼の言葉にうなずいたのだ。
「おい!!オレのことあやつっといていきなりしおらしくなるな!!」
トラップの声が怒りに震える。
「・・・緋色の守護石・・・さま・・・
・・・申し訳ございません・・・お許しを・・」
それだけを言うのがやっとなほど、ルシファーは弱っていた。それほど血は流れきっていたのだ。
神々は静かに見守るだけ。そして天使も・・・
運命という言葉はそれくらい重いものだった。
ルシファーは最期にクレイの方を見、
「人として・・・至宝として・・・あの方の・・・分まで・・・」
・・・光を失った。
(・・・また、オレの手の中で・・・命が・・・)
クレイはそっと堕天使と呼ばれた男の瞳を閉じてやった。

夕闇がすべてを覆っていたことに気づいたのは子供達とリジェだけだった。
「・・・・・終わったのですね・・・全てが」
彼は小さく呟いた。


夜の虹 〜パステル

・・・虹?
炎と水の天使ルシファーの身体は淡い燐光に覆われ・・
やがて虹になった。
夜の闇に美しく輝く大きな橋に・・・・

「・・・クレイ?」
クレイは厳粛な表情で虹を消えた後も見つめていた。
まさかクレイ・・・また気に病んでるんじゃ・・・?
私の心を見透かすように彼は笑った。
「気には病んでないよ。ただ・・・オレは生きなきゃな、って思ってさ」
「生きなきゃ・・・?」
私もトラップも、ノルやキットンも、そしてルーミィやシロちゃんもクレイの方をじっと見た。
クレイは瞳に静かな光をたたえて、言葉をつづけた。
「ジュディ、ルシファー、・・・そしてこの戦いに巻き込まれた天使達・・・彼女らの死に全部、至宝であるオレが関わってる・・・・どんな形であっても。
だから・・・・あいつらの分まで生きていかなきゃならない、そう思ったんだ」
そう言ったクレイは優しさと強さ、二つの力に満ちていた。
「クレイ様・・・」
リリスさんがクレイの方へ歩いてくる。
クレイはにっこり笑うとマントの留め具にしていた
宝石をはずし、彼女に手渡した。
「これは・・」
「君からもらった魔晶石、返しておくよ」
「・・・」
リリスさんは魔晶石とクレイを交互に見た。
「オレはもう、よほどのことがない限り、力を使おうとは思わない。
だから、・・それは返すよ。
このまま持ってたら、トラップがギャンブルに使いそうだしな」
苦笑混じりの言葉にトラップが割り込んできた。
「おいコラ!!オレを変なトコで引き合いに出すんじゃねえ!!」
「あーら、トラップ、限りなく正しい認識だとおもうんだけど」
「そうです、最初のクレイのアーマーはあんたの借金のカタに取られたんですからね!!」
ぎゃんぎゃん言ってる私たちを彼女は呆気にとられた顔で見て・・・・そして、笑ってうなずいた。
全てを受け入れた、すがすがしい笑顔で。
「わかりました。
・・・私祈ってますわ!!クレイ様が運命に負けることなく生きていられるように、みなさんがいつも笑顔でそばにいられるように、って!!」
その笑顔、さっきの虹みたい・・・
私も祈った。
彼女が幸せでいられるようにって。

メナースとウギルギさまが虹の中に眠る妖精を抱え天界へ戻っていった。
ルシファーの生まれ変わりの虹の精を・・・
(ジュディさんに会えるといいね)
それはみんなの願いだった。


プロポーズ 〜パステル

メナース達が去った後、クレイが倒れた。
・・・無理ないわよ。
彼のダメージ、相当な物だったし。
・・・結局、キットンがクレイの手当に当たった。

「・・・クレイの目が覚めましたよ」
二時間位しただろうか、治療に割り当てられた部屋からキットンが出てきて、開口一番そう言った。
私達は顔を見合わせた。
あ、そうそう、ルーミィとシロちゃんはもう寝てしまいノルが見ていてくれてる。
他の天使族もクレイの無事を祈ってて、ここにいるのは私とトラップ、それにリリアさんと長老だけだった。
「よかった・・・・」
安堵のため息をもらすと
「あいつがあれくれぇで死ぬわけねえだろう?」
・・・トラップ、素直になりなよ。
顔がしっかり喜んでるよ。
「・・・で、これからは誰かがしっかり見張ってなければなりませんよ。
今が注意時なんですから」
その途端、全員の視線が私に向いた。
「へ・・・?」
「パステル、貴女、クレイ様のことしっかり見張っててね」
「そーそー、惚れた女の言うことなら聞くだろうからな」
にやにやと意味ありげに笑うトラップとリリアさん。
・・・でも、二人とも寂しそう・・・
戸惑ってる私に
「お行きなさい、あなた様がいれば、クレイ様の傷もよくなりますよ」
・・・そう、長老が言った。
そこまで言われれば・・・
私は部屋に入った。

「クレイ・・・」
月明かりに照らされるようにクレイがいた。
上半身に包帯を巻いて、見るからに痛々しい。
「パステル」
「大丈夫なの?そんなに包帯巻いて」
私の言葉にクレイが笑った。
「キットンの話じゃ、そんなにひどくないって。
大体・・・三日休んだら動けるって」
「なんだ・・・」
安心して彼を見た。
瞳が情熱的に輝いてる・・・?
いつか・・・・キスキン国の王家の塔で告白されたあの時のように・・・
「クレイ・・・」
「パステル・・・・」
私達はゆっくりと口づけをかわした。
優しく・・・そして激しいキス。
愛おしい、この人が愛おしい。
陶酔に浸りそうになった時、クレイがゆっくりとのしかかってきた。
「!?」
キスをしたまま、クレイの手が胸の方にのびて・・・
私の胸に触れた。
「や・・・やめ・・・」
抵抗しようにもクレイと私じゃ力の差がありすぎる。
でも私は抵抗した。
だって、・・・怖い。
クレイがクレイじゃなくなる・・・そんな恐怖が私を動かしていた。
なのにクレイは・・・・
”バチィッ!!”
「いてっ!!」
・・・私の手はクレイの右肩をひっぱたいていた。
そのままうずくまるクレイ。
「パ・・パステル・・・傷口殴るこたぁないだろ・・?」
「クレイが悪いのよ!!あんなことするなんて」
身体の下から這い出しながら、私は文句を言った。
クレイは起きあがりながら肩をおさえ・・・
再び私を抱きしめた。
「ちょ・・・・クレイ・・・」
「・・・何もしないから・・・そばにいてくれないか?
色んな事を話したいんだ・・・」
その言葉に私はうなずいた。

・・・私達は色んな事を話した。
離れていた間のこと、小さい頃のこと、みんなのこと・・
まるでそばにいなかった時を埋めるように・・・
クレイは私を壊れ物のように優しく抱きしめ、私はその温もりの中にいた。
・・・そんな幸せの中、クレイが口にした言葉は私をうれし泣きさせた。

「結婚しよう」って。


笑顔が見たいから・・・ 〜トラップ

”・・・はどうするの?”
ドア越しにパステルの声が聞こえる。
・・ったく、オレは毎回何やってんだか・・・
オレはパステルとクレイのやりとりを立ち聞きしていた。
”家は関係ない。お前に一生そばにいてほしいんだ!!”
・・・プロポーズなんかしやがって。
クレイの奴、パステルのためなら家だって捨てかねねぇぞ、この勢いなら。
あいつ、昔っからそうだもんな・・・
自分の大切な物のためになら、覚悟を決められる。
オレが誘拐されたときだって、あいつは単身助けに来てくれた。
(・・・なにやってんだか・・・)
急に自分が情けなくなって、オレはドアから離れた。
”クレイ・・・私で・・・いいの?”
喜びに満ちたパステルの声をオレの耳は聞き漏らさなかった。
・・・望みは完全に絶たれた、って訳だ。

「くそっ・・・!!」
オレはいつの間にか泣いていた。
わかってる・・・わかってるだろ!?トラップ。
お前にはもう勝ちはねえんだ!!
あいつは・・・パステルはクレイの物なんだ!!
盗賊でもダチのものは奪えねえ!!
ましてや、心はもう・・・
「・・・トラップ・・・さん?」
・・この声は・・・
オレは声の方を向く前に目をこすった。
「リリス・・・」
・・コイツが余計なことをしたから・・・
そんな思いがオレのなかで渦巻く。
「・・・私のこと・・・怒ってます?」
オレの気持ちを見透かすように、リリスは言った。
「・・ああ!!怒ってるぜ!!
厄介なことオレ達に押しつけやがって!!」
懸命に気持ちを隠した言葉だったのに・・・・
リリスはオレのそばに座ると、杯を手渡した。
「・・・飲みましょう・・・互いの失恋を癒すために」
・・・そうだった、コイツ、クレイに惚れてたんだった・・・!!
リリスがついだ酒を飲み干し・・・・オレは口を開いた。
「辛れぇな・・・」
「そうですね・・・」
かすかに瞳を伏せて、リリスはうなずいた。
「・・・でも、あの方が笑っていてくれるなら・・・
この痛みにも耐えられます」
「・・・!!」
オレは雷に打たれたような衝撃を受けた。
(オレは何を見たい?)
パステルの笑顔。
それに決まってる!!
あいつの笑顔の為に耐えるんだ!!この痛みを!!
オレはにやりと笑って、リリスと酒を酌み交わした。

・・・同じ痛みを持つ、仲間と。


生きることから始めよう 〜パステル

・・・それから三日後。
私達は天使族の里をあとにした。
クレイのケガが良くなったこともあったし、何より今までと同じ、でも少し違う生活を早くしたかったから。
・・・みんなに冷やかされるのも恥ずかしかったしね。

「お元気で!!」
「お幸せに!!」
天使達が口々に言ってくる。
あ、そうそう。長亡きあとの炎と水の天使達。
彼らは風と大地の天使族と共存していくことにしたんだって。
それは、以前からルシファーさんに言われていたことで、長老やリリスさんも了解してくれた。
・・・すぐ、なじんでいくと思わない。
でも、きっと上手くやっていけると思う。
「・・・きっと、上手くやっていけるさ」
気持ちを見透かすようなクレイの言葉に、私は顔を赤くした。
だって、クレイったら、すっごく優しい目で私を見るんだもの。
・・・そりゃあ、婚約までしたんだし、・・いいんだけどさ
「おーおー、お熱いねぇ、ご両人」
ほら、トラップが冷やかす。
「おい、トラップ!!」
「あ、赤くなってら」
「何を今更照れてんですか?もう、だいぶ進んでるんでしょ?二人の仲」
「キットン!!何言ってるのよ!!」
「あ、ますます、赤くなった」
「もう!!ノルまで!!」
「ぱーるぅ、顔真っ赤だおう!!」
・・ルーミィまで加わって、冷やかし大会になってしまうし・・・
クレイの方でも家のこととか決着をつけなきゃならないし・・・私達いつ結婚できるのかしら・・・とほほ

で、私達はキスキン国とホーキンス山に事の次第を報告に行った。
最初からの約束だったしね。
ミモザ女王はクレイと婚約したことでやっぱり冷やかしてきたし・・・
リリアさんは天使族の共存の知らせにほっとしていた。
やっぱり寂しさを顔に隠して。

途中ギアにも会えた。
で、今回の話をすると、うなずき、
「幸せにな」
・・・そう寂しそうに言った。
「ギア・・・」
「クレイ、パステル泣かせるなよ」
優しい笑顔を浮かべ、彼は私達の前から去っていった。
(ごめんなさい、ギア)
・・・私を好きだって言ってくれた人。
あなたのこと、ずっと忘れないから。

「ふむ・・・そのような顛末となったか」
JBはしきりに顎をなでながら、何度もうなずいた。
・・何だか、感慨深いものがあるみたいね。
何せ、友人だったクレイ・ジュダが至宝を宿し、その子孫がこうして目の前にいるんだから。
「じゃ、そういうことで」
さっさと席を立とうとしたトラップをJBが引き止める。
「まあ待て。おもしろいゲームを考えたんだ。やっていきたまえ!!」
・・・この提案に全員が一斉に声を上げた。
『えーーーーーー!?』

  今でないとき。
  ここでない場所。
  この物語は、一つのパラレルワールドを舞台にしてる。
  そのファンタジーゾーンでは、アドベンチャラーたちが、
  それぞれに生き、様々な冒険談を生み出している。
  ・・・私はこれから、その一つのパーティの
  話をしたいと思っている。
  彼らの目的は・・・・生きること。
  神々の宝を宿した彼らは、人として生きようとしている。
  運命の糸を必死にたぐりながら。

fin


 1998年8月18日(火)20時37分20秒〜9月08日(火)20時54分33秒投稿の、冬木来奈さんの小説です。完結。

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