あなたを好きになった瞬間

(前編)

「こんにちわ、おばちゃん。これ、うちのお母さんから 食べてくださいって。」
 手に持っていたかごを渡す。
「あらぁ、シニアちゃん。有り難うね。…そうだわ、おばちゃん シニアちゃんに良い物
 あげるわ。ちょっと、後ろを向いてごらん。」
 そう言われてシニアは後ろを向く。
 何か髪に付けているようだ。
「はい、出来たわ。」
 鏡を見せられて自分を見てみると、大きな水色のリボンが付いている。
「わ〜 かわいい! おばちゃん ありがとう。」
 にっこりと笑って1回ぐるりと回る。
「かわいいわぁ…やっぱり、女の子はいいわねぇ。」
 ふっ〜とため息をついている。
「それじゃぁ、おばちゃん。また来るね。バイバイ。」
 シニアはうれしそうに家へと帰っていく。
 今年 7歳になるシニアである。
 お隣のリンゼイ家にパンケーキを届けに行っていた。
 リンゼイ家…そう、ギアの家である。
 幼なじみで、家はお隣。
 これなら、仲良くなるはずだ。
「シニア、一緒に遊ばないか?」
 青々とした木の間から声がする。
 その間からするりと1人の少年が降りてくる。
「ギア! …一緒に遊びたいけど…まだ、お薬ができてないの。」
 するとギアは しまった!! という顔をする。
「…ごめん。まだ、おじさん病気なんだよな。でも、本当にシニアがおじさんの薬作れる
 の?」
「‥わからない。けど、何もしないよりはマシだもん。だから、がんばる。早くお父さん
 が治るように。‥じゃ、帰るね。バイバイ、ギア。」
「あぁ、こっちこそ悪かったよ。…バイバイ。」
 シニアは家のドアを開けて中へと入っていった。
 でも、ギアはまだそこに、じいーと立ったままだった。

「これで完成!! きっとこれでお父さんの病気が治るはず。」
 そこには、ビーカーに入った液体が置いてある。
 7歳の少女が発明をしているのである。
 街では天才少女を呼ばれて有名だが、人の命のかかった発明をするのはこれが
 初めてなのだ。
 それも自分の父親の薬。
 一週間前に謎の病気で倒れたのである。
 医者も駄目だろうと言われ、どん底になったが、それならわたしが作ると言い出した。
 みんなから反対された。
 だが、母親だけは 賛成してくれたのである。
「できたの? よく作ってくれたわね、シニア。…でもお父さん治ってくれるかしら?」
 母親が心配そうにその液体を見て、言う。
「…うん、治ってくれるといいけど。…でも治るかもしれないもん。‥じゃぁ、お父さんに
 飲ませてみるよ。」
 ベットに寝ている父親にその液体を飲ませた。
 …………。
「あなた…。」
 な なんと!! 立ったではないか。さっきまで横になっていた父親が。
「…お父さん……良かったぁ、成功したんだ…本当によかったぁ…。」
 ぽろぽろと涙が出てくる。
「…シニア。有り難う。わたしもまさかこうやって立つことができるとは思っていなか
 ったよ。ほら、シニア泣かないでおくれ。」
 シニアの頬に流れていく涙を父親が拭こうとした瞬間だった。
 …ドタッ!!
 さっき立っていた父親が倒れたではないか。
「…お父さん、お父さん!! どうしたの ねぇ お父さん!!」
「あなた! あなたぁ!!」
 2人の必死の叫びも父親のは聞こえなかった。
「…これは、副作用だろう。ケリアロンの花を飲ませれば治るかもしれないな。
 でも、わたしはこの病気が治ったことにびっくりしましたよ。われわれ医学では
 治せないと思っていたのに。…まったく、すごいお嬢さんです。」
 街の医者が父親を見てつぶやく。
「あの、でもたしか ケリアロンの花は冬にしか咲いてないはずですよね。
 今は春ですもの。…無理だわ。」
 周りの空気が暗くなっていく。
「わたし、あきらめないもん。ぜったい、見つけてくるから。」
 シニアはそう言うと家を飛び出して行ってしまった。
「ただいま。母さん、ご飯は?」
 遊び帰ってきたギアは帰ってくるなり、いつもと違うのを感じた。
「どうかしたの?」
「あぁ、シニアちゃんがまだ帰ってこないんだよ。ケリアロンの花を探しに行くって
 言ったまま。」
「そんな…もう外は暗くなって、危なくなってるのに。…くそっ!」
 と、ギアは外へと飛び出して行った。
「ちょっと、ギアどこへ行くんだい!!」
「シニアを探しに行ってくる。大丈夫だから、心配しないで。」
 そう言うと、森の奥へと入って行った。

(中編)
 夜の森は誰でも怖いものである。
 その中にシニアは1人、迷っていた。
 幸い、月の光で薄暗かったのが幸運だろう。
 そんな状態でもシニアは必死にケリアロンの花を探していた。
「ここにもないなぁ‥もう、咲いてないのかも。」
 あきらめようとしたときだった。
 ガサガサッ
 後ろの茂みのほうで音がする。
「‥何?‥虫?‥動物?‥モンスター!?」
 逃げることしかできない。
 でも、その逃げることさえシニアにはできなかった。
 足が思うように動かなかったのだ。おびえる体を小さくすることしか‥。
 ガサガサガサッ
 大きな体のようなものが見えた。
「キャーーーーーーーー!!」
 シニアは叫ぶと近づいてきたほうも驚いた。
「‥‥そんなに大声出さなくても‥オレってそんなに怖いか?」
 そこにはギアの姿が目の前にあった。
「‥…ギア‥」
「良かったよ。シニアが見つかって。おばさん心配して‥!!」
 まだ言い終わらないうちにシニアがギアの胸に抱きついてきた。
「お おい、シニア。」
 ギアの顔が真っ赤になる。
「…その様子じゃ、まだ見つかってないんだな。」
 コクリと頷く。
「…帰ろう と言いたいところだけど、ここまで来たんだ。オレも一緒に探してやるよ。
 ‥だから、顔上げてくれよ。」
 ゆっくりと顔を上げたシニアが見たのは、とても優しい目をしたギアだった。
 『ドキン!!』
 シニアの胸の奥でドキドキしはじめている。
 周りが薄暗いから顔色までは、分からなかったが、シニアの顔は赤くなった。
「‥うん、ありがとう ギア。探しださなくっちゃね。‥お父さんを助けるために。」
 ガサガサ…
「…なぁ、シニア…。」
「 ん? なあに?」
「‥オレのこと、どう思う?」
「な なによ、いきなり…。」
「いや…別に……。」
 無言の状態がつづく。
「ねぇ、ギア。」
 何も答えない。
「ねぇ! ギアったら!!」
「おい! これじゃないか!! ケリアロンの花って。」
 ギアの手には、8つの花びらのついた花がある。
 シニアはその花を手に取り、よく見てみた。
「…これだ‥これだよ! やったぁ〜。」
 その場を飛び跳ねている。
「やった〜 ギアありがとー。」
 ギアに飛びついたが………すぐ離れた。
「 あ……ごねんね。ついうれしくって…その…。」
 すると、ギアがシニアを後ろから抱きしめてきた。
「本当に良かったよ。…これで、おじさんを治せるんだよな。」
 小さく頷いた。
「…うん!!」

(後編)
「シニア! 無事だったのね…。」
 森の中から帰ってきた2人を最初に見つけたのは、シニアの母親だった。
「…有り難う ギア。シニアを見つけてくれて。なんてお詫びしたらいいのか‥。」
「そんないいんですよ。オレは当然のことをしたまでですから。」
 そんな2人の会話にいきなりシニアが謝ってきた。
「本当にごめんなさい!! みんなに心配かけちゃって。」
 母親は優しく声をかける。
「シニア‥あなたにもしもの事があったら、お父さんが治っても喜べないわ。だから、無理
 なことはしないと約束してちょうだい。今回のことは、目をつぶるから。」
 そう言って、シニアを抱きしめた。
「……うん、約束する。…ほんとにごめんなさい。」
 この夜は長い長い時間に感じさせる日だったようにギアは感じるのだった。
 それから10日後。
 シニアの父親も元気になり、またいつもの平和な日々を送っていた。
「ギア、ご飯できたよ。ほら、口 あ〜んして。」
「い いいよ! 自分で食べるから!」
「なに言ってるのよ。そんな腕でどうやって食べるつもり。」
「……………。」
「最初から素直に食べとかなきゃ。」
 ベットの上に寝ているギアにシニアがご飯を食べさせていた。
 4日前にギアは、シニアの家の屋根の修理を手伝っていたら、屋根の上から落ちてし
 まったのである。腕を骨折。全治1ヶ月。
 それからというもの、こうやってシニアがご飯を食べさせているのである。
「…どうしてシニアがオレの世話をしてくれるんだ?」
 リンゴをむいていたシニアにギアが聞いた。
 すると照れるようにシニアは言った。
「…だって、あの夜から好きになったんだもん…ギアのこと。」
「えっ? 何、よく聞こえない。」
「1回しか言わない。」
「何だよ、教えろって。」
「教えなーい。」
「あっ こいつ!」
「あははは……。」
 シニアが初めてギアを男の子と気づいたあの日。
 あの瞬間から恋が始まった。

 1999年6月16日(火)19時14分06秒〜6月28日(日)14時27分55秒投稿の、みすなさんの小説です。「今宵もすてきな城へ」の番外編です。

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