今宵もすてきな城へ(11〜20)

(11)
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      パレオ王国  次期国王 アロウ の妻となりし者を待つ。
      我ぞと思う者、ぜひ来たり。
      なお、妻へとなるべく多数の条件があり、
               1つずつ通っていくたびに賞金を与える。
                            
                             パレオ王国   国王 バルベン

  ___________________________________

   「すっごい‥‥こんなに集まってるんだ。」
   「すゅうごい、こんあにあつあってえるんだ。」
    わたしたちはパレオに着いたばかり。でもすごい人の数に驚くほど。
   「でもここにいる女、全部が花嫁になりたくて来てるんだよな。」
    うっ、そんだよね。こんなにいるとは思わなかったし、これじゃお金が貰えるか
    どうかわからないかも。
   「よーし、がんばって賞金をいただくわよ!!」
    マリーナが意気込んで言うとわたしもがんばらなきゃいけないんだと
    感じさせられる。
   「それじゃ、受付のところまで行きましょ。」
    シニアに言われてついていく。この人ゴミの中だから1度離れたら見つからない。
    
    ドンッ!!
   「あいたた‥‥ごめんなさい。」
    人にぶつかってしまった。 と、目の前にいたクレイたちが見あたらない。
   「あれ!? クレイたちどこ? どこにいるの?」
    呼んでも返事がない。
    えーん、またはぐれてしまったらしい。
    これでまたトラップに文句を言われるんだろうな。
    動けずに立ちつくしていると、おもいっきり腕を引っ張られた。
    見るとめだつ赤い髪がある。
   「まったく おまえはどうしてそう迷えるんだ?」
    トラップの顔を見て、じわりと涙が出てくる。
    うぅっ、どうしちゃったんだろう。
   「えっ、お おい どうしたんだよ!」
    トラップがあたふたとしてる。
   「……ゴメン なんか安心したら涙が出てきちゃって……。」
    わたしがうつむいていると、トラップが頭を『ポンポン』と叩く。
   「そんな顔 するなよ。」
    そう言って体を引き寄せた。
    えぇー!! なんとわたしを抱きしめてきた。
   「ちょっと ト トラップ…。」
   「……少し このままで いさせてくれ‥。」
    こう言われてしまっては何も言えない。
    でも トラップがこんなことするなんて思ってなかったから。
    あ〜 心臓がドキドキしちゃって トラップにも届きそう………。
    そっと体を離すトラップ。 顔が赤くなってるのが分かる。
    後ろを振り向き手を差し出す。
   「おら、行くぞ。」
    わたしはその手をにぎる。
   「……うん‥。」
    なんか いつもと違うトラップを見て うれしくなっていた。

(12)
   「では、参加される方は3名様ですね。」
   受付の係り員に番号の書かれている札をもらい胸元に付ける。
   5723番と書かれてるってことは5723人は来てるってこと!?
   ‥‥これじゃ、無理に近いかも……。
  「参加される方はこちらへ。もう少しで始まりますから。」
   着いたばかりですぐはじまるもかぁ。‥緊張してきちゃった!!
  「パステル?どうしたんだ。」
   クレイがわたしの顔をのぞき込むようにして見る。
  「ひゃぁ!!ク クレイ 脅かさないでよ。」
  「あはは、ゴメン ゴメン。だってなんか暗い顔してたから。」
  「……だって もうすぐで始まっちゃうんだもん。緊張しちゃって……。」
   と、そこにトラップが口をはさんでくる。
  「おまえでも緊張するのか?」
   うっ もう失礼なんだから……!!
   でも 今ので少しは楽になったかな。
  「じゃ、行きましょうか。」
  「うん。」
   行こうとするわたしたちにみんなが応援してくれる。
  「がんばれよ パステル、 マリーナ、それにシニアも。」
  「ぱーるぅ がんばうんだよぉ。」
   みんなのこの言葉、すっごく嬉しい!!
   よーし がんばるぞぉ!!

  「この奥みたいね。」
   今度は迷わないようにとマリーナとシニアが気をつかってくれてなんとか
   会場に着いた。さて どうしとこっかなぁっと……ドンッ!!
    うぅ 今回2度目だ。 
   1人の女の子にぶつかってしまった。
  「す すみません!あたしったらドジで…本当にすみません。」
   深々と頭を下げるその女の子。なんかみょーなものが付いている。
  「い いえ、こちらこそ………。」
   じぃーと わたしが見ていると女の子は「あっ これ?」 という
   しぐさで指さす。
  「これですか? これ耳なんですよ。」
   そういって ピンッ とはじくその耳はどうみても猫のようだ。
   でもアクセサリーじゃなさそうだし…。
  「こら!! セティ なにさぼってるんだ!!」
  「は はーい。 じゃすみません これで。」
   セティと呼ばれてその女の子は会場の奥へと行ってしまった。
  「あの子……『キャットラル』 っていう猫科の種族みたいね。」
   なんでも知っているシニアはあの女の子をみてそう言っていた。
   猫の種族? 猫人間ってことかなぁ。
   でもなんか変わった子だったなぁ。 

(13)
   会場に集まった人たちはみんなキレイな人ばっかり。
   なんかこの中にいると、詩人のときの試験を受けたときを思い出すなぁ。
   みんなキレイな人たちばっかりで……あのとき、別の意味でわたしってば
   目立ってたっけなぁ。ホントあのときは困ったのよね。
  「さて、いよいよね。」
   どんなふうに選び出すのか知らないからとても不安。
   と、そこにステージに1人のメガネをかけた男の人が現れてきた。
  「みなさん おまたせしました。これから、アロウ王子の花嫁を選ぶためいくつかの
   難問に挑んでいただきます。まず、最初の難関は‥‥○×クイズです。自分が
   こっちだと思うほうに行ってください。」
   ははは…まさか○×クイズでくるとは思わなかった‥。
   でも、これなら運があれば大丈夫かもしれない。
  「では 第1問です。アロウ王子は今18歳である。○か×か?どちらでしょう。」
   えぇ 王子の年齢?そんなの知るわけないじゃない!?
   えーと もう結婚する年なんだから…18歳ぐらいよね。
   じゃあ、○かなぁ。
  「たしか…19歳だったと思うから‥「×」よ!!」
   わたしの感(?) は見事にはずれてしまった。
  「シニア、知ってるの?」
  「うん。いちおう勉強しといたの。だってあの王様のことだから、何が出てくるか
   分からないし。」
   あの王様? ここの王様ってそんなに変わってるのかしら?
  「みなさん 分かれましたね。では正解を発表します。正解は「×」です!!
   ×の方はそのまま残れます。残念ながら○の方はお帰りください。」
   と、いったふうに このあと20問以上の問題が出され人数も少しになっていた。
   わたしたちはというと……無事 残って合格!!
   わたしたちを合わせて15人残ったの。
   まぁ、わたしはシニアのあとについていってたから楽勝だったけど。
  
  「パステル様、マリーナ様、シニア様ですね。はい、たしかに合格されてますね。
   ……で そちらの方々は?」
   クレイたちを見て難しい顔をする。
  「あの わたしたち冒険者なんです。そのパーティーのメンバーで。」
  「そうですか。みなさん3名様の関係者なのですね。ではお部屋をご用意しましょう。
   わたしたちは係員に連れられて、城の中へと入っていった。

(14)
  長い長いじゅうたんが敷かれている廊下を歩いていくと、今度は幾つものドアが見え
  る。そのドアをよく見ると『クレイ様』と書かれてる。
 「各自、お部屋のドアに名前が書かれております。そこが、ご自分のお部屋です。19時
  になりましたら、中央の間でパーティーがございますので、お部屋に用意しております
  お召し物にお着替えください。では、時間になりましたら、また来ますので それまで
  ごゆっくりおくつろぎください。」
  わたしたちを案内してくれた人は、さらに奥へと行ってしまった。
 「19時からパーティーか。」
 「服が用意してあるってことは、オレたちも出られるんだろ?」
 「う〜ん そうでしょうね。みんな集まるみたいだし。きっと王子も見られると思うけど。」
 「王子!? そ そういえば会場では見てないもんね。…そっかぁ 王子様が見られる
  んだぁ。」
  わたしがぽわ〜っとしてると痛い言葉がとんでくる。
 「王子っていっても、どんな奴かは分からないぜ。案外 キットンに似ててりして(笑)」
  うっ‥せっかくの王子のイメージが崩れていくぅー…‥。
 「そ そんなことないもん。王子様だから、きっとカッコイイはず!!」
 「……パステル、それってあんまりじゃないですかぁ。」
  キットンがそこにいるのを忘れてしまってて、言ってはいけないことを言ってしまった。
  いや〜 、つい口がすべっちゃって。
 「ごめーん、キットン。ねぇ そんなに怒らないでよぉ。」
  このやりとりに、みんな大笑いしちゃって わたしもそれにつられてお腹が痛くなるほど
  笑い続けてしまっていた。

(15)
  「じゃ、また後でね。」
 「うん、後でね。」
  みんな各それぞれの部屋に別れて休むことになって ホッと胸をなで下ろす。
 「はぁ〜 なんか疲れたぁ。」
 「つかえたぁ〜。」
  広い大きなベットにわたしとルーミィは飛びのって「大」の字になる。
  う〜 なんか眠くなってきちゃった。
  ウトウト……‥‥

  トントン。
  う〜ん なんか音がする。
  トントン。
 「パステル いる?」
  ……パステルさーん 呼んでるよぉ…ってパステルってわたし じゃないか!?
  何 寝ぼけてるんだろう。
  ガチャ
  ドアを開けるとシニアが立っていた。
 「ん? どうしたの シニア?」
 「あ ゴメン。寝てた? …実は話したいことがあって‥いいかな?」
 「うん いいよ。わたしでよかったら。じゃ、入って。」
  シニアを部屋へと入れるとルーミィとシロちゃんを起こさないように座る。
 「それで、話したいことって何?」
 「……うん、実はパステルはギアがあなたのこと好きなのを知ってるのかなぁ と
  思って。」
 「えぇ!! い いきなり何言うの?」
 「ギアの目がパステルを見るときだけ すっごく優しい目になるの。私もそれを見て
  『あぁ ギアはパステルのこと好きなんだな』 って分かったし。パステルも気づいて
  るんじゃないかなと思ったんだけど‥。」
 「‥‥そ そんなこときっと分かんないよ。わたしってそうゆうの鈍いから‥。
  ……ギアから告白されたときも すっごく驚いたし‥。」
  あっ!! 言ってしまった!誰にも言ってないのに。
 「そっか。ギアはもう言ってるのかぁ。それじゃぁ しょうがないかな。」
 「えっ? どうゆう意味?」
 「‥‥ホントはね、私もギアのこと好きなんだけど‥小さい頃から。‥‥でも今の
  彼の目はパステルに向いてるんですもの。あきらめるしかないかなぁ。」
  下を向くシニア。なんだか暗い空気が漂う。
 「‥だからって、私に遠慮しなくていいわよ。私もパステルならって思ってるし。それに
  私が男だったらパステルのこと好きになったかもしれないし♪」
 「そ そんなぁ わたしなんて。シニアのほうがもっとすてきだよ!」
 「えへへ ありがと。私もがんばらなきゃね。いっそここの王子様でも狙っちゃおうかな。」
 「あははっ うん そうだね。わたしもがんばらなきゃ!!」
 「それじゃぁ パステル。これからもよろしくね!!」
 「うん!! こちらこそ。」
  わたしたち2人は堅い握手をした。
  なんだか心強い仲間ができたみたいですっごくうれしい。
  でも小さい頃からギアのことを好きだったシニアを思うとやっぱり気が滅入って
  しまっていた。これからもがんばろうと言った彼女は自分に言い聞かせている
  みたいに……‥‥・・。

(16)
 「う〜ん、これでいいかなぁ。」
  髪型をどうしようか迷ってて なかなか決まらない。
  トントン。
 「パステル、入るわよ。」
  もう服を着替えているマリーナとシニアが入ってきた。
  うわ〜っ キレイ。
  マリーナはワイン色の短めのドレス。肩に黒い布を羽織ってて、同じ色のヒールをは
  いてる。髪型はポニーテール、ドレスと同じ色のリボンで結んでいる。
  シニアは肩が大きくひらいたグリーンの長めのドレス。髪は1つに結んでいて、
  すっきり見える。 そして2人共、イヤリングとネックレスを付けていた。
 「パステルにも付けてもらおうと思って。」
  シニアが取り出したのは花形のアクセサリー。
 「えぇ いいの? …でも似合うかなぁ。」
 「うふふ、バッチリよ。」
  O.Kサインをするマリーナはルーミィとシロちゃんを見るとにっこり笑う。
 「うわ〜〜 かわいい!!」
  そういって ぎゅうっ と抱きしめてる。
  わたしはというと……なれない化粧に悪戦苦闘。
  わたしの服は白いすっきりした長いドレス。髪もおろして、さっき貰ったイヤリングと
  ネックレスを付ける。ピンクの花のアクセサリーがとてもかわいい。
  そんなこんなで、女性陣の準備は整り 後は男性陣がどうなってるかよね。

 「馬子にも衣装 だな。」
  トラップがわたしを見て言った言葉がこれだった。失礼しちゃうわよね。
 「そんなことないよ、パステル。…トラップ、どうしておまえはいつもそうなんだ?」
  クレイとトラップ。なんでこう違うもんかなぁ。
  男性陣はみんなタキシードでサイズもピッタリ。ノルでも着れるタキシードがあるなん
  て。そういえば、シロちゃんもタキシードを着てるの。…犬用のだけど。
  
 「では 中央の間にご案内いたします。」
  メイドさんが来て案内してくれるらしい。
  うぅっ でも履きなれないヒールを履いてるから歩きにくい。なんか今にも転びそう。
 「あぶなっかしいなぁ おまえ。」
  そういって腕をつかんだのは トラップ。
 「だ だってー 履きなれないヒール履いてるんだもん。しょうがないでしょ。」
  フンと反対方向を向くと急にトラップが謝ってきた。
 「…さっきは、悪かったな。」
  照れてるみたいで、その後グングン先に行ってしまった。
 「トラップでも謝ることがあるんですねぇ。」
  後ろで見ていたキットンがわたしに言った。そういえば、トラップが謝ることなんて
  めったにないものね。

 「ここでございます。」
  大きな扉が開かれると、そこにはみんな「あっ」と驚く人がいるではないか!?

(17)
  「オーシ!?」
  みんな声をそろえて、そこにオーシがいることに驚いてしまった。
  なんでここにいるの?
  わたしの頭の中で『何で?何で?』が繰り返してて…
  その間にもトラップが先にオーシに突っ込んでいた。
 「おめぇ、どうしてここにいるんだよ!」
  オーシの顔に迫っていく。
 「なーに堅いこと言ってんだよ。いいじゃねーかオレがいたってよ。オレがここにいたら
  変だっていうのか? これでも正式に招待されたんだぜ。」
  そういって胸元のポケットから一枚の紙を出した。
  …たしかに招待状みたい。
 「でも何でオーシが招待されるのよ?」
 「おっ いいところを突いてくるじゃねーか。実は、オレの紹介した冒険者が第1関門
  に突破すれば招待してくれるって言ってたからよぉ。そんで、おめーらを勧めたら
  見事に突破してくれちゃって、こーして来れたわけよ。‥それにしてもおまえらが残る
  とは思ってなかったけどな。」
  クレイの肩をバンバン叩いて笑ってる。
  それにしても…わたしたちって利用されてたのね。もう、オーシもいい性格してる
  わよ。まぁ 簡単に引き受けたわたしたちもだけど。
 「でもよぉ、ここまでこれたんなら もちろん狙うんだろ王子の花嫁。」
  そーよ そうだった。
  条件に突破していけばお金がもらえるのはいいけど……そのまま全部条件をクリア
  したらどうなるの? まさかそのまま王子様と結婚とか?
  わたしはまだ17歳諱@結婚なんて…って気が早すぎるかな。
 「もうそろそろ王子が出てくる時間だぜ。オレも初めて王子の顔を見れるな。」
  へぇ オーシも見たことないのかぁ。
  王子様……どんな人なんだろう。

  舞台の上にぞろぞろと人が出てきた。
  その中には わたしたちが待ってましたの王子様の姿も…。

(18)
  大勢の人の中でひときわ背の高い人がいる。
  きっと王子様であろう。 う〜ん よく見えないなあ。
  わたしより背の高いクレイ達はうまく見れてるみたいだけど。
 「……おい…あれって さぁ……。」
 「…うん…パステルに似てるような……。」
  へ? わたしに似てる? 誰が?
  よーし、わたしも背伸びして、なんとか王子を見なくっちゃ!!
  あ あれ? ま まさかあれが王子様!?  わたしにそっくり!!  うそぉ〜!!
  確かにミモザ王女ともうりふたつだったけど、まさか今度は王子とは……。
  でも、詳しくいうとそっくりというよりか わたしにお兄さんがいたら、きっとこんな人
  かもしれないと思う程。目の色も髪の色も同じ。とてもスラッとしててとてもかっこいい。
  『世の中には3人は同じ顔の人がいる』って聞いたことはあるけど、まさか会えるとは
  思ってなかったし、そのうち2人は王子や王女だし…う〜む、なんでかなぁ。
 「今度は王子かぁ。なんかすごいメンツだな、パステルの顔ってさ。」
  ぼ〜っと見ているクレイがそんなこというから、どう答えていいものやら。
 「そうよねぇ、いきなり見たら驚くわよね。実際、私もパステルを見たとき驚いたし。」
  シニアはみんなの反応を見て納得って感じでうなずいてる。
  でも、なんでわたしを見たとき驚いたんだろう?

 「あの人、パステルおねーしゃんのお兄さんデシか?」
  シロちゃんが王子を見て聞いてくる。
 「ほんとらぁ、ぱーるぅにそっくりだおぅ。」
  ルーミィなんか王子を指さしてるし‥‥。
  そうだよなぁ、本当によく似てる。
  王子をジロジロ見ているとバチッと目が合ってしまった!
  あっちも驚いた様子をしている。そりゃそーかも。こんなに似てたらねぇ。
  でも王子はなにも動じずにニコッと笑って微笑んでいる。
  予想できるだろう。
  それを見た瞬間、わたしはとろけそうにフニャフニャになっていた。

(19)
 「今宵、パーティーへお越しくださった皆様、今から国王・王子からのご挨拶がござい
  ます。そして今日、無事に合格された15名の方々もご紹介いたしますので、前の方
  でお聞きください。」
  マイクの前には、王国の衣装を身ににまとい勲章をたくさん付けた国王が立っている。
  顔だけを見るとまだ若く見える。
  40代くらいかな。
 「今日は、我が息子アロウの花嫁を決めるべく、その第一関門を突破した15人の姫君
  たちを祝うため、こうやってパーティーを開いた。ここにおられる客人方、この15人の
  姫君たちが今から挑んでいく関門を一緒に見届けて、応援してくれるよう頼みますぞ。
  今日はゆっくり、ぞんぶんに楽しんでくだされ。」
  見た目と違ってやけに年寄りくさい人みたい。
  でも、目は王子と同じ色をしている。
  後ろに下がった国王と入れ替わって今度は王子が前の立った。
 「今日は、こうやって僕の花嫁になりたいと来てくださった方々、その中で15人の女性
  が残ったこと、客人方も集まってパーティーを開けたこと、とてもうれしいです。今日は
  僕も楽しみたいと思っております。皆さんも楽しんでくださればと思っております。」
  2人の挨拶がおわると拍手がおこる。
 「では、これから15人の花嫁候補たちをご紹介いたします。15人の方たちは、お名前・
  ご職業などを言ってくださいませ。ライトで照らされますので、そのときがご自分の番
  でございます。」
  ライトが照らされるって…それじゃあ目立っちゃうよ〜‥って紹介するならしょうが
  ないかぁ。でも緊張するよぉ。
  どーか最初でありませんように!!

(20)
  ドラムウォールが鳴り、ライトがあちこちを照らす。
  ライトが照らしたみんなの顔が見える。
  ルーミィは、ぽよよんとした顔をしてるし、シロちゃんは目をキラキラ輝かせている。
  わたしは…というと顔がひきつりはじめてて、周りの人から見たらすっごく変な顔に
  見えるかも。
  だってー、いつの間にか緊張してるんだもん。
  あぁ、心臓がバクバクしてきたよぉ!
 「最初に紹介する方はこの方です。」
  言い終わったのと同時にライトも止まる。
  へっ? わたしのとなりが照らされてる‥てことは マリーナ!!
  照らされたマリーナよりもわたしの方があたふたしちゃって。
  そんなところに誰からかわたしの肩に手を置いた。
 「おまえがあわててどうするんだよ。それよりもマリーナをよく見とけよ、あいつだって
  だてに詐欺師をやってるわけじゃないんだしな。」
  トラップの目がマリーナをじっと見つめている。
  …ズシッ…
  ん? なんかいま胸に重みがかかったような…。
  それにちょっとムカムカしてきたぞ?
  どうしちゃったんだろう…わたし…。

 「マリーナ、演技のほうをするのかな?」
  クレイが小声で聞いてくる。
 「う〜ん、分かんないなぁ。でもマリーナのことだもの、上手くやるでしょ?」
  …わたしも分かってる。マリーナが実力者であること。
  偽りのミモザ王女をやっていたとき、マリーナの演技力にびっくりしたのを覚えてる。
  普通の人から見れば、あれが演技だと思う人はなかなかいないかもしれない。
  だからこそ、あのときもうまくいったんだもんね。
  マリーナはというと、ドレスのすそを少し持ち、お辞儀をしている。
  お嬢様を思わせ、お辞儀して上げた顔はキリッとしていた。
 「マリーナといいます。エベリンで古着屋を経営しておりまして、今日は友人たちと一緒に
  参りました。」
  マリーナが言い終わったのと同時にあるところから質問が出される。
 「マリーナ殿、なぜあなたはこの王子の花嫁になりたいのですかな?」
  なんと聞いてきたのは国王!
  そんな『なぜ?』 と聞かれると何て答えていいものやら。
  マリーナは何て答えるんだろう。
 「…結婚はまだ早いかなとは思っています。それにまだ王子の花嫁に決まったわけでは
  ないですし。王子だってわたしがどんな女性かご存じでないでしょうし。わたしも王子
  のことはくわしくは知りません。どんな性格でどんな人物であるかも。だから今は、
  はっきりとは言えません。…ただ正直に言えば最初は興味本位で来ましたから。」
 「興味本位か…あははは‥うん! あなたは正直でいいですね。」
  王子は怒るどころではなく逆にマリーナを気に入ったみたい。
 「興味本位と言いまして申し訳ありません。でもあまり嘘はつきたくありませんでした
  から。」
  そうすると王子は手を横に振ってみせた。
 「いいや、気にすることはない。僕も、もし君の立場だったら興味本位で来たかもしれない
  し、でも そのおかげで君に会えたことに感謝するよ。」
  な なんて心が広い人なんだろう。
  そう思ってしまった。
  でもマリーナはなぜ正直に話してしまったのだろう?
  …マリーナには、何か考えがあるのだろうか?
  なにか訳があるはずだよね。なにか…きっと…。

 「ありがとう、マリーナ。ちゃんと答えてくれた君に拍手をおくろう。」
  パチパチパチ。
  国王と王子の2人がマリーナに拍手をおくっている。
  それはそこにいるみんなの拍手へと変わっていった。
  マリーナはちょっと涙ぐんでる。
  こんな風におくられる拍手は心に響くのかもしれないね。
  わたしも心からの拍手をマリーナにおくるよ!!
  マリーナを見習って正直に‥‥ね。

1998年5月10日(日)16時41分19秒〜6月9日(火)23時34分34秒投稿となっている、11〜20話です。コメントは略させていただきます。

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