今宵もすてきな城へ(61〜)

(61)
 アイレンスさんがこの「花嫁候補」の場所に来た理由。
 それをわたしたちは聞こうとしている。
「深く考えることはないのよ。あのチラシを見たとき最初は『王子も大変ねぇ』なんて思って
たんだから。でもさぁ、よく読んでみると、花嫁候補として残ったら賞金が出るっていうじゃ
ないか。それなら出ないわけにはいかない! …ってわけなの。」
「…盗賊の血が騒ぐってか? アイレンスらしいっていやーそうだけどよ。旦那は反対した
んだろ?」
 トラップがそう聞くと、アイレンスさんは笑ってしまった。
「何がおかしいんだよ!?」
「あははっ…ゴメンゴメン! だってトラップが旦那と同じ事、言うんだもの。あいつもね、こ
う言ったのよ。『何ぃ? 王子の花嫁候補になれば賞金が貰える!? …まさか、ソレに
行きたいってか? ……まさか盗賊の血が騒いでるの♪ なんて言うんじゃないだろうな』
ってさぁ。もう、可笑しくて、その時も笑っちゃったんだけど…わたしを見てるとそう見えるの
かしらね。」
 そう言って、ポーズをきめてる。
 たしかに言われてみれば…それも盗賊だったことを知ればなおさら。
 賞金って聞いただけで、わたしだって血が騒いじゃうものね。
 でも、話を聞いただけでも、旦那さんと仲良しなんだろうなぁ。
 いいなー、わたしなんて『恋』っていう字がなかなかだもん。
 …そりゃ、プロポーズはされたけど…。
 と、そこでギアと目が合ってしまった。
 ドキドキッ!!
 駄目だぁ! やっぱ意識しちゃう! …こんな事じゃ、いつまでたっても結婚なんてできな
いかもしれないなぁ。
 わたし1人であれこれ考えていると、アイレンスさんがわたしを見て、トラップをからかい
始めていた。
「トラップもけっこうやるのねぇ。」
「何がだよ。」
「とぼけなくたっていいのよ。この子、あなたの恋人でしょ!」
 と、わたしの方を向いて言った。
「「はぁっ??」」
 2人同時にハモったかもしれない。
「どうしてオレがパステルと恋人同士なんだよ!」
「そうですよ! 全然違うんですから。それにトラップが恋人なんかだったら絶対苦労しそう
なの、目に見えてるもん!!」
「なんだよ、それ! こっちだって、おまえなんかとそんな関係になったら大変なのが目に
見えてるぜ!!」
「なによぉ!!」
「なんだよ!!」
 結局、2人の喧嘩になる。
 そのまま続きそうだったけど、アイレンスさんの止めが入った。
「ほらほら、今のはわたしが悪かった。だからその辺にしときなさい。」
 なんだか母親が自分の子供をあやすみたいな感じ。
 いちおう喧嘩はおさまったけど…トラップの方はご機嫌ななめのご様子。
 どこかに行ってしまった。
「あの子もまだガキね。あれじゃ、いつも苦労してるでしょ、クレイ?」
「…しっかりしてはいるんだけどね。もう、幼なじみのくされ縁だから慣れたよ。」
「たしかに…小さい頃から3人いつも一緒だったものね。いまさら言うことじゃなかったわ
ね。失敗!」
 ペロッと舌を出すアイレンスさん。
 年を感じさせない人だなぁ。
 それから長い時間、アイレンスさんとわたしたちは話していた。
「それじゃ、そろそろ準備しなくちゃ。パステル!」
「あっ、ハイ!」
「対戦を楽しみにしてるわ。また、後でね。」
「はい!!」
 アイレンスさんが部屋へと戻ろうとすると同時にトラップが帰ってきた。
 何やらアイレンスさんがトラップに話してる。
「トラップ〜…あんたも意地ばかりはらないで素直になりなさいよね。」
「…何のことだよ。」
「あら、言ってもいいの?」
「………」
「…パステルちゃんのこと好きなんでしょ。」
「!!!」
「わたしの前では素直なのにねぇ。」
「………」
「何で分かったのかって? あんた顔が赤くなってわよ。ついでに言うと、トラップが彼女
を好きだって分かったのはねぇ…目線よ目線! パステルちゃんを見る目がときたまだ
けど優しい目をしていたからよ。盗賊はいつでも目を光らせていなきゃ!! そんじゃね、
トラップ!!」
 アイレンスさんと話し終わったトラップは、何やら赤い顔で戻ってきた。
「どうしたの、トラップ? 顔が赤いわよ。」
「な、何でもねーよ!」
 と、またどこかへ行ってしまった。
 いったい何なのよーっ!
 わたしがプンプンと怒っていると、マリーナとシニアがクスクスと笑っていた。
「何かおかしいかな?」
「別にそういうわけじゃ、ないのよ。」
「そうそう、ただ2人のやりとりを見てると妬けちゃうなぁと思って。」
「そう?」
「「うん。」」
 わたしはわけも分からずまま、準備に取りかかった。

(62)
 ドキッ…ドキッ…ドキッ
 心臓が高まっていくのが分かる。
 いよいよ本番。
 どうか失敗しませんように!
「続きましての対戦は…パステル・G・キング VS アイレンス の対戦です。先行はパス
テル嬢からです。では、舞台へどうぞ!」
 う〜っ、足が硬直して動かないよぉ。
「パステル、パステル!」
 後ろからアイレンスさんの声が聞こえた。
「あなたなら大丈夫よ。あんなに練習してたじゃない。がんばりなさい!」
 行けっとばかりに背中を押される。
 そうでもしないと今のわたしじゃきっと逃げ出してたかもしれないもんね。
 今回の課題「テーブルマナー」は、王族の人達が審査をする。
 1つずつ丁寧にやっていかないと、今にもヘマをやりそうで怖かった。
 冒険者のわたしにとって作法などは縁がないから…ここで冒険者でもできるんだ! って
ことを見せてこいよな…トラップが会場へと向かう前にそう言ってくれた。
『うん、分かってる』
 なんだかこんなところがパーティを組んでてよかったと思う。
 きっと1人では出来なかったと思うから。
 頭の中でそんなことを考えていたら、あっという間に終わってしまった。
 なんか、良かったのか悪かったのか全然分かんないけど。
 舞台から降りると拍手をしながらアイレンスさんが迎えてくれた。
「がんばったじゃない」
「…なんか『やった』っていう記憶がないんです」
「それって集中してたって証拠じゃない?」
「……そうかなぁ」
「わたしもそんな風にいっちょ戦場へと行ってきますか」
「あっ、がんばってください」
「うふっ、まかせて」
 舞台へと上がっていったアイレンスさん。
 テーブルマナーの課題をやっている最中『がんばれ、アス!!』っていう声がした。
 ちょっと照れたアイレンスさん。
 でも笑顔を絶やさずに着実に事を運んでいる。
『緊張するのもいい刺激よ』
 人前に出るのを楽しんでるって雰囲気。
「じゃあね〜♪」
 手を振りながら舞台を降りてきた。
「すごかったですよ」
「……あぁ〜めちゃくちゃ緊張したー」
 その顔には満足した笑みが浮かべられていた。
 このテーブルマナーの結果は…というと。
 アイレンスさんの勝利。
 でも悔しくないのは何でかな?
 まだ13戦もあるからかな。
 でも無事にすんだし、よ〜し、次もがんばるぞぉ!!

(63)
 お城に来て数日目。
 方向音痴なわたしでもだいぶ覚えてきた。
 長い間、この城にいなければならない。
 それを考えると冒険者だということを忘れてしまいそう。
 気がゆるんでるせいかなぁ。
「次の課題は…料理勝負みたいね」
「料理なら、なんとかなるかも」
 2戦目がやっと終わったわたしたち。
 でも、まだまだあるんだよね。
 次の対戦の課題と相手が書かれている表が張り出されたと聞いてシニア・マリーナ・
 わたしの3人は見に来ている。
 わたしはシニアと2人、今度の課題を見ていた。
「ねっ、パステル。対戦相手、誰だった?」
「えっ、まだ見てない。マリーナは誰と?」
「それがアイレンスとなの」
「そっかぁ。わたしは誰とだろう」
 貼ってある対戦相手の表を見ようとした瞬間、目の前が真っ暗になった。
「あ、あれ〜っ??」
「ごめん、驚いた?」
 後ろから声がすると、今度は目の前が明るくなる。
 ぱっと振り向くと女の子が立っていた。
 …たしか……あれっ!? 名前なんていったっけ??
「たしかリオンさん…だったわよね」
 隣にいたシニアが彼女に聞いた。
「当たり。覚えてもらえてるなんて嬉しいな」
 喜ぶ彼女。
 でも、いきなりだったからビックリしたなぁ。
 急に暗くなるんだもん。停電かと思っちゃうじゃない。
「……から、よろしくね」
「‥へっ??」
 聞いていなかったわたし。
「あーっ、聞いてなかったの?」
「ご、ごめんなさい」
「んも〜、しょうがないなぁ。じゃ、もう一度言うよ。今度の対戦相手だから、よろしくね」
 強引に手を取って握手してきた。
 …対戦‥相手? ……ええっーーー!!
 次はこの人となの〜?
「そんなに心配しなくても大丈夫。お店で働いてても、料理は全然できないから」
 ケラケラ笑いながら言ってる。
「今から特訓する予定だから、じゃあね」
 スルリとわたしの横を通っていくと奥の方へと走っていった。
 なんだか嵐が去ったみたいな雰囲気。
 …ちょっと失礼かな?
「次もがんばろうね、パステル」
 隣で彼女の姿を見ていたシニアが言う。
「…うん。さーて、これからわたしも特訓しなくちゃ!」
 自分の部屋へと足を運ぶ。
 3戦目まであと2日。
 自分の腕が試されるとき。

(64)
 今度の課題は料理。
 料理は得意だから別に問題はないんだけど、何を作ったらいいのか迷ってしまう。
「ねぇ、2人は何を作るつもりなの?」
「ん〜…そうねぇ」
 あごに手をやりながら考えるマリーナ。
「私は自分の得意料理を作ろうと思ってるけど」
 料理のレシピを見ながらシニアが答えてくれる。
 う〜ん…得意な料理かぁ。
 普段に作ってる料理がいいだろうし……なんかこう「わたしらしい」って言える料理が
ないかなぁ。
 
 暗い廊下を料理のメニューを思い出しながら歩いているとドアが少し開いているようで
光が漏れている部屋があった。
 たしかここは、調理室だったと思うんだけど。
 誰かいるのかな?
 ちらりと隙間から覗いて見ると、お鍋と格闘している人の後ろ姿が見えた。
「あぁー…またやっちゃった!」
 お鍋をひっくり返してしまったらしく、床に散乱している。
 そのまま見ない振りで通り過ぎていくわけにはいかないし。
 驚かせないように近づき声をかけた。
「あの〜…」
「きゃっ!?」
 驚かせてしまったらしく、おもいっきり肩を上げた。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんだけど」
「あ、あなただったの…」
 安心したらしく一息ついた。
 そこにいたのは次の対戦相手のリオンさんだった。
 指にケガをしているみたいで切り傷がたくさんある。
 練習していたのかな。
「あはは…恥ずかしいところ見られちゃったな」
 ぐちゃぐちゃになった前髪を整えながら苦笑いをしている。
「こんな遅くまで練習してたんですか」
「…店の看板娘のくせに料理は全然ダメなの。料理を運ぶのは慣れてるんだけど…
無謀な挑戦のような気がする」
 落ちてしまったお鍋を見ながらため息をついている。
「それにあの日から気になってることがあって…」
「気になること?」
 聞き返すとリオンさんはわたしを見て、にやりと笑った。
「話…聞いてもらえるよね」
 結局(半ば強引)、わたしは彼女の話を聞くこととなった。

(65)
 いきなりリオンさんから話を聞くこととなったわたし。
 何をいったい聞かされることになるんだろう。
「ねぇ、あなたに…き…気になる男の人っている?」
「お、男!? えーっとその…」
 気になる人。
 ギアはそういう対象に入るのかな。
「花嫁候補の最初のパーティーがあったじゃない。そのときのわたしの自己紹介の
ときに1人の兵士がわたしのこと知ってたでしょ」
「…たしかにそうでしたね」
「それ以来、あの人のことが頭から離れないのよ」
 どんな人だったかな?
 ちょっと思い出してみよう。
  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
 ここからはリオンの自己紹介の場面を回想しています。

 質問してきたのは、国王の後ろにいた家来。
「あなたはたしか、まだ13歳のような気もしたのですが…」
 なんでこの人が彼女の年を知ってたのだろう。
「えぇ、でも今年で14歳になりますもの。それに今すぐ結婚ってわけではないでしょうし。
 うちのお父さんは14歳になったら結婚を許すと言ってましたから。…でも、なんで
 わたしの年をあなたが知ってるんですか?」
 するとその家来はあわててるみたい。
「‥いえ その〜 あっ ほら ここの誰かが言っていたのを偶然聞いて…そ、それで
 知っていたんですよ」
「‥ふ〜ん‥」
 なんだか、あやしいよねぇ。
 彼女もそう思ったのか首を傾げてる。
  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
 たしかにあやしい。
 けど、あのときの彼女からして気になっているとは思っていなかった。
「…気になるんだったら会いにいけばいいじゃないですか」
「それが出来ればこんなに悩んでないわよ。……1人で行く勇気がなくて…」
 まだ13歳っていってたもんね。
 外見は16歳ぐらいの女の子に見えるのに。
「……パステル…一緒に来てくれない?」
「へっ? どこに?」
「その…気になる彼のところ」
「えぇっ!? わたしが!!」
「お願い!」
 冒険者のさがだろうかお願いされると断りきれない。
「しょうがないですね。でも、今日はもう暗いですから明日にしまょう」
「…ありがとう。じゃあ、明日ね、明日」
 自信が出てきたのだろうか、すっかり元気。
 片づけのさっさとすませて部屋へ帰っていった。
「大丈夫かな…」
 ちょっと不安なわたし。
 今夜は眠れるかなぁ。

 1998年11月04日(水)17時54分10秒〜1999年2月02日(火)23時40分43秒投稿の、61〜65話です。まだ継続中です。

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