誓う傭兵(31〜40)

(31)〜復讐の神獣〜

「ハァ・・・・ハァ・・・・・ハァ・・・・」
自分の息が荒いのがわかる。
しかしそれ以上に全身の傷の方が深刻だ。
「クソッ!!」
ここは森の中、その木の一つに背中を任せる。
「ちっ・・・・油断してしまったか・・・・・・」
血に濡れた茶髪、そして同じく血に濡れたボロボロの皮の服。
二時間前まではまだまともだったが・・・・。
「やっぱ・・・・よく調査してから行った方がよかったか・・・・・」
そう一人呟き、二時間前の自分を思いだした。
「・・・人間の匂いだ!!」
俺は森の中を徘徊し、その匂いに気付いた。
忘れようにも忘れられない人間の匂い。
そう、俺のオヤジを殺し、おふくろを罵倒し、差別し、そして自殺に追いやった人間。
それが原因でもう一つの人格が出来てしまった。
孤独な自分の・・・・・唯一無二の友人。
目をつぶる。
もう一人の俺と交信するために。
・・・・・どうする、殺すか・・・・・
・・・・・殺せ、人間は我ら神獣を全て殺した、俺達の敵だ・・・・・
・・・・・どうやら村があるようだ・・・・・
・・・・・あぁ、明かりが見える・・・・・
・・・・・殺す、俺の全てを破壊した憎むべき人間・・・・・・
・・・・・殺す・・・・・
・・・・・殺す・・・・・
だがよく村の状況を見てから破壊に入ればよかった。
その村には遠征途中のロンザ国駐屯軍がいたのだ。
最初はうまくいっていたものも、流石に騎士団には勝てはしない。
命からがら森に逃げ出し、雨も降り出した。
また目をつぶる。
・・・・・出血がひどいな、もう助からないかな・・・・・
・・・・・神獣は魔力を持っているモノだから、せめてヒールを覚えておくべきだった・・・・・
・・・・・人間相手に教えてもらうんだろう、それはやだね・・・・・
・・・・・そうだったな・・・・・
・・・・・あぁー、何か昔の事ばっかり思い出してきた・・・・・
・・・・・死ぬ前に見る走馬燈ってやつか、やっぱり人間の血が流れているんだな・・・・・
・・・・・おふくろはいい人だった・・・・おふくろみたいな人間は他にいないのかな・・・・・
・・・・・馬鹿なことを考えるな、他にロクな人間なんかいるわけはない・・・・・
・・・・・そうだな・・・・・
目を開ける。
暗い、雨の降る森。
これが俺の見る最後の風景か・・・・・・・・・・!?
明かり・・・・いや焚き火だ!!
「人間が・・・い・・るの・・か?」
地面を這うように歩き出す。
どんどんその風景が明確になってくる。
人間が一人いる。手にはミミウサギの塩焼きがあった。
途端、空腹を感じる。
「最後の道ずれだ、このくらいでくたばってたまるか・・・・・」
何処で拾ったか忘れたが、ショートソードを抜く。
風貌から考えるに冒険者・・・・・。
だがそれがどうした、どうせ死ぬんだ・・・・・。
その冒険者も流石に気付いたらしい、横に置いてある刀に手をかける。
「死ね・・・・・!!!」
カハッ
口から血が溢れ出る。
次の瞬間、全身の力が抜けていく。
「ガッ・・・ハッ・・・・」
膝を突き、ゆっくり倒れ込む。
「もう・・・・ここまで・・・・か」
薄れていく意識の中、あいつの声が聞こえてきた。
・・・・・あばよ、もう一人の俺・・・・・
軽く溜息死ぬ前に我ながらおかしなもんだと思ったが心の中で言った。
・・・・・じゃあな、もう一人の俺・・・・・

(32)〜人間実態調査〜

暗い・・・・・・・。
ここは地獄の底か、はたまた無の世界か・・・・・。
いくら復讐のためとはいえ、人を殺したことは罪だ。
閻魔様にどんな弁解をするべきかな・・・・・・・・・・!?
不意に明るさが閉じている目の奥から光が届いた。
目を開ける。
「うぅっ」
いきなり眩い光が目を射した。
「あぁ、やっと起きたか」
明るい声が聞こえてくる。
そいつは俺の横で椅子に腰掛けていた。
ふと、やわらかいベットの感触が伝わってくる。
「痛ッ」
急いで半身を起こしてみたが、全身を刺すような激しい痛みに襲われ、
またベットに倒れ込んだ。
「寝てろ、普通だったら死んでいる怪我だ」
俺の上に毛布をかぶせる、その男・・・・・・。
年齢は二十歳かはたまたそれ以下、黒々とした長い髪を後ろで一結びしている。
おそらく人間から見れば美形であろうその顔に、笑顔が浮かんでいる。
「何だよ・・・・・てめぇは」
「命の恩人に向かっててめぇはないだろう?森で野宿してたらいきなり
後ろで何か倒れた音がした。見てみたら満身創痍の人間が
倒れているじゃあありませんか。見捨てるわけにもいかず、そのまま担いで
俺の家まで運んできたわけだ」
ふと周りを見渡す。
ドアが一つと小窓が二つ。
自分が寝ているベットに、それからそいつが座っている椅子と机。
あと応接用のテーブルと椅子が二つ。
どうやら木造一階建てみたいだ。
「状況は理解したか?」
あまりにキョロキョロしていたんだろう、男は俺にそう言った。
まだ完璧に全てを思い出せないがとりあえずこたえた。
「あぁ・・・・」
だがそこまで言ってすべてを思い出した。
そうだ、俺はこいつを殺そうとしていたんだ・・・・・・・。
どうする、このまま殺すか、だがこの傷では・・・・・・・・・・。
いろいろ迷っている最中、男はすぐに立ち上がり、
「ふもとの町まで食料買ってくるからまってろ」
といってドアから出ていった。
「ったく、何で人間なんかに・・・・」
とりあえず目をつぶる。
・・・ったく、人間に助けられるとは・・・・思ってもいなかったぜ。・・・
・・・・・・・・・
・・・どうする、このまま殺すか・・・
・・・・・・・・・
・・・おい・・・
・・・・・・・・・
・・・おい、起きろ!!!・・・
心の中で叫んだ。その後のあいつの第一声は
・・・うるせぇな、もうすこし寝かせろ・・・
・・・今の状況わかって言えよ・・・
・・・あれっ、死んでないのか?俺達・・・
・・・あぁ、襲おうとした人間に助けられたみたいだ・・・
・・・助けられた!!?人間に・・・
・・・あぁ、状況から考えるとそうみたいだ・・・
・・・おい、外見せろ・・・
目を開ける。
とりあえず少しずつ首を振ってやり、また目を閉じる。
・・・人間の家か?・・・
・・・あぁ、さっきまで人間もいた・・・
・・・話したのか?・・・
・・・そうだ・・・
・・・で、何て言ってた・・・
・・・いや、たいしたことは・・・
・・・まさか気を許したのか・・・
・・・いいや、ただこれだけの怪我じゃあ動けないんだよ・・・
・・・しかたねぇ、・・・・・・・そうだ・・・
・・・どうした?・・・
・・・ちょっと聞いていいか?・・・
・・・あぁ・・・
・・・あいつはおまえを人間と思っているのか?・・・
・・・たぶん・・・・そうだろうな、警戒とかしていなかったし・・・
・・・いいか、このままあいつと暮らすんだ、そして人間の実体をつかもう・・・
・・・・・・・・・・・・・はっ?・・・
・・・いや、おまえ死ぬ前に言っただろう?「おふくろみたいな人間他にいるのかなって」
だったらそれを調べようって言ったんだ、いいか、あいつは俺達のことを
人間と紹介するだろう、周りの人間もそれを信じる・・・
・・・つまりそのまま人間の生活に入り込み、人が俺達が思っているとうりか、
それとももっと違うような・・・・・たとえば俺達のおふくろのように優しいものか・・・
・・・良い案だな、そうだ、おまえは出てくるな、いくらなんでもいきなり
銀髪になるのは怪しすぎるからな・・・
・・・あぁ、だが状況は見ることにする、あと困ったことがあったら・・・
・・目をつぶれって言いたいんだろう・・・
先手をとられたからだろう、不機嫌な声であったが好奇心に満ちあふれた声で。
・・・とにかく頑張ろう・・・
・・・あぁ、頑張ろう・・・
その時ドアが開いた。
出てきた男はさっきの人間。
そして両手に麻の袋を持った男は親しげに声を出した。
「ただいま!」

(33)〜トモダチ〜

「おぉ、もう起きれるのか?」
「あぁ、もう大丈夫だ。えっと・・・・・」
「あぁ、名前ね。ゼフだ、ゼフ・ラグランジュ。ゼフって呼んでくれそっちは?」
「俺か?おれはサード・フェズクライン。そっちが好きなように呼んでくれ」
あまりにも無愛想だったんだろう、ちょっと眉をしかめたゼフだが、その後、
とんでもない悪戯を思いついたような顔で・・・・。
「そうだな、サーちゃんって呼ぶぞ」
「おい、それはよせ」
「じゃあサー君だ」
「だからおそのサーは」
「だったら何だ?フェズか・・・・クラくんか・・・・・」
「・・・・・・・・・フェズがいい・・・・・・・・」
がを強調していったが・・・・。まぁこれ以上エスカレートするよりはましだろう。
「じゃあフェズ、質問するぞ。おまえ何でそんなに傷だらけで倒れてたんだ?」
「いや・・・・・・それは・・・・・」
思わず口ごもった。
そんなこと聞くなよおい。何かいい、いいわけは・・・・・・・・。
俺が考え込んでいると、
「いや、いいんだ。話さないんならそれでいい」
と手を振った。
「・・・・ありがとう・・・・・」
思わずそう呟いた。
何か・・・・大きな誤解をしていたようだな。
なかなか人間もいいやつだ。ただこいつが変わっているだけかもしれないが。
「そんなこと言うなって、もう俺とおまえは友達なんだから」
笑いながらゼフが言う。
「トモダチ・・・・・?」
「そうそう、俺達は友達」
「・・・・そうか・・・・・・・そうだな!」
つられて笑い出す。
そして男二人の高笑いが小屋中に響いた。
少ししてゼフが家から出ていった。
そして目をつぶる。
・・・なかなかいいやつだな・・・
・・・俺もそう思う。人間もなかなか捨てたモノじゃあないな・・・
・・・だがまだ本格的に関わったのは一人だけだ・・・
・・・まぁな、それも言えてる・・・
・・・怪我が治ったら一緒に村に降りることにする。それで少しずつ解ってくるさ・・・
・・・そうだな・・・俺達には時間がたっぷりあるんだ、あせらずにいこう・・・
・・・・・・・帰ってきたか?・・・
・・・あぁ、そうらしい、じゃあな・・・
「お−い、帰ったぞ」
声と共にゼフが帰ってくる。
「何処に行ってたんだ」
「おや?その言い方だと俺がいなくて寂しかったのかな?」
「まさか・・・・・・ってだから何処に行ってたんだよ」
「まー気にすんな、お互いのプライバシーには触れないようにしようぜ」
と言って気がつかなかったが、机に立てかけている刀に手をかけた。
「・・・・・それは?」
「あぁ、刀だが?」
「だからそれを何に使ってるんだよ」
「ん?俺は冒険者だからな、これは俺の友人からもらったもんだ」
「冒険者!!?」
愕然とした。
あの『神獣狩り』の約六割を冒険者が行っていたことを知っていたからだ。
胸のあたりが痛い、おそらくあいつもそれに敏感に反応しているんだろう。
「あぁ・・・・それがどうかしたか・・・」
「いや・・・・何にもない・・・・」
そのような素振りを見せて見せたが、おそらくばれただろう。
だがそれ以上聞いてこなかった。
「これはなー、俺が冒険者になるときに親友がくれたものだ。まぁ風の便りでは
そいつはセラフィム大陸に渡る途中、かの大海賊、シーキングに
襲われて行方知らずと聞いたけどな」
ふと顔が曇る。
よっぽどの親友だったんだろう、今思い出しても心が痛むに違いない。
いきなり何故か思い浮かんだ。
それは何故か全く解らない。
神にでも操られているように俺の唇が動いた。
「なぁ、ゼフ・・・・」
「うん、何だ?」
無理矢理作った笑顔。それに微笑みながらもこういった。
「怪我が治ったら俺に・・・・剣を教えてくれないかな?」

(34)〜三週間〜

「ハァー、ハァー、ハァー」
自分の息が荒いのが解る。
泥だらけの体でベットの上に寝ている俺。
そんなことをしたらシーツを洗うのは自分だとわかっている。
わかっている、が。
それどころではない。
全身の筋肉が少し動く事に錆び付いたアイアンゴーレムのように軋み
頭の先から踵の先まで、ベットに根を生やしている。
けど・・・・・確実に強くはなっていた。
ゼフには足下にもおよびはしないが。
あれから三週間が過ぎた。
怪我は一週間でなおり、その後町にもおりた。
だがその前に、この家がどんな位置にあるのかがわかった。
高い、ただただ高い山の上。その崖の一角にこの家がある。
もちろん崖すれすれではなく、少し間をおいたところだが・・・・。
町の人口、およそ千人。
ゼフはこの町の馴染みらしく町の至る所で声をかけられた。
そして人間の実体が少しずつわかってきた。
十人十色、まさにその通り。
全ての人間が違う顔をし、違う性格で、また全く違う笑顔をしていた。
俺に会って素っ気ない人、必要以上に喜ぶ人、珍しそうにジロジロ見る人、
いきなり抱きついてくる人、恥ずかしそうにこちらを見る人・・・・。
その後のあいつとに会話は今でも頭の中に焼き付いている。
・・・何か・・・・・自分が大馬鹿野郎ってのがよくよくわかったな・・・
・・・あぁ・・・
・・・つまり『神獣狩り』を行った人間の方がどうかしてたって事だな・・・
・・・そうだな・・・・でも、そのどうかしていた人間がいるかぎり、神獣は追われ続ける・・・
・・・もう・・・・おそいだろうな・・・・・共存なんて・・・
・・・いや、まんざらそうでもないらしいな・・・
・・・えっ!?・・・
・・・絶対に出来ないと思っているのか・・・
・・・いや・・・・絶対とは言わないが・・・
・・・可能性がないワケじゃあないだろう・・・
・・・あぁ・・・
・・・不可能じゃないならまだ賭ける価値はある、それがまた自分に賭けるんなら・・・・・・
・・・強気で行ってみろ!って言いたいんだろ・・・
・・・よくわかったな・・・
・・・ばーろー、伊達につきあい長くねーよ・・・
・・・だよなー・・・
・・・何当然の事で驚いてんだよ・・・
お互いの笑いが心の中で響く。
・・・じゃあ、その日がくるまで・・・
・・・お互い、頑張ろうな・・・
しかし・・・あれを言ったのを今、確実に後悔している。
それはゼフに向かって「剣の教えてくれ」と言ったことだ。
そのあと手頃な木の棒を持ち、あいつに剣を教えてもらったが・・・・・・。
もう思い出したくないから話したくもない。
それはまさに地獄だった、とは言っておこう。
目をつぶる。
・・・おまえ・・・・今あのとき言ったことをふっかーーく後悔してるだろう・・・
・・・あぁ、よくわかったな・・・
・・・ばーろー、伊達につきあい長くねーよ・・・
・・・・・・・・・・・その言葉にデジャブ感じるんだが・・・・・気のせいか?・・・
・・・ん?そうか・・・
・・・まぁいいや・・・
・・・で、何でそんなこと言ったんだよ・・・
・・・・・・・・・・・・・何でだろ、おまえ知ってるか?・・・
・・・・・・・・・・・・おまえが解らないのに俺に解るわけねーだろ・・・
・・・だよなー・・・
「おい」
びっくりして目を開ける。
見るとドアのところにゼフが立っていた。
「おまえさ、よく目をつぶるけど、何かワケあるのか?」
「いいや・・・・・今日は疲れただけだ・・・・」
溜息をつくゼフ。
しかし次の瞬間
「おまえ!!そんな泥だらけになってなんでベットに寝てるんだよ!!!」
「ん?疲れたから」
「あのくらいで疲れるヤツがいるか!!早くそこをどけ!!」
「いや・・・・・頭のトッペンから踵まで根を生やしているから動けねーんだ」
のほほんと言うと
「ばーろ、そんなことでバテてどうする。もう休憩は終わったんだ、早く外に来い」
「・・・・・・・・・・・・は!?・・・・・・・・・・・・」
「だから休憩が終わったから早く来いって言ったんだ。もっと厳しくするぞ」
「あっ・・・・そうか・・・・・」
すっかり忘れていたが、「よし、休憩だ」とゼフに言われてこの小屋に
入って、それでベットにねてたんだ。
「まてよ・・・・体中痛いし、それにもう動けねーよ・・・・・」
「何弱音はいてんだ、とっととそのベットからどけ」
無理矢理背中やらベットに張ってあっった根を引きちぎり、外に連れていくゼフ。
はぁー、頼むんじゃなかったな、こいつなんかに・・・・・。
そして眩い光が俺達を包んでいく。
        
            そして、事件が起きた

(35)〜事件〜

二ヶ月がたった。
俺はゼフと共にチームを組み、傭兵として日々仕事に励んでいた。
何故傭兵かって!?
理由は簡単。生活費が・・・・苦しいからだ。
いやー、今までゼフは自分の生活だけで精一杯だったらしく、そこに俺が
転がり込んできた。だからもう金が底をついた。
そこで傭兵で一緒に稼ごう!!ってことになった。
だが俺も結構気に入っている。
人間をたくさん見れるこの職業は、人間観察している俺達にとって好都合のモノだった。
仕事のくちがあるかどうかが心配だったが、幸いゼフはこの世界で
それなりに知られている存在らしい。だから俺というお荷物がついてても
雇ってくれる貴族やら町がある。
そういうわけだ。
で、その日は久々に小屋に戻っていた。
全身筋肉痛で、こりゃあ当分動けないぞ。
「けっこうな稼ぎになったな・・・」
「いくら稼いだ?」
「ふっふっふっ」
ゼフがじらす。
「おい、言えよ」
「聞いて驚くな・・・・・十万ゴールドだ!!!」
「十万!!!?」
十万って・・・・・・。とんでもない金額じゃないか。
あぁ・・・・・買うモノがいっぱい浮かんでくる。
「そうだな・・・・・おれは町まで食材いっぱい買ってくるからおまえは薪やら
水やら持ってこい」
「はいはい」
気のない返事をする俺、その時、
「いいか、パーティー終わったら、おまえの装備買いに行くぞ」
「マジか!!?」
「あぁ」
「よっし!!」
おもわずガッツポーズ。
だって今の俺の装備ってのは・・・・・ボロボロのショートソード+布の服。
まぁもともと徒手空拳で今まで人間を襲ってきたワケだから、この装備でも
十分人間相手にわたりあってきたわけだし・・・・・。
でも装備ぐらいは整えたい。
「じゃあ・・・二時間後にここでな」
「あぁ、それじゃあ」
川に行く途中の道で、小休止。
全身の筋肉痛がかなり体にこたえてきているからだ。
目をつぶる。
・・・どうだ・・・・この仕事が気に入ったか・・・
・・・あぁ、いい仕事だ・・・
・・・なかなか割のあった仕事だな・・・
・・・金はもらえる、人間の観察もできる・・・
・・・これからもこの仕事、続けていくか・・・
・・・もちろんだ・・・
・・・よし、じゃあここに傭兵、サード・フェズクラインの誕生を俺が認める・・・
・・・俺も、ここに傭兵、サード・フェズクラインの誕生を認める・・・
・・・よし、早く水汲んで帰ろう・・・
・・・結局肉体労働俺が担当かよ・・・
・・・そういうこと・・・
目を開け、川を目指す。
そして両手のバケツに水を汲み、引きちぎれそうな腕を必死に繋げ
坂道を上り始める。まぁ小屋までもって精一杯だな。
そもそもこれが後で人生二回目の大きな悲しみに襲われることになるとは・・・・。
一回目は『神獣狩り』の時、父を殺され、母が自殺したあの時。
そしてこれから一時間後にあんな事が起こるなんて・・・・。
このとき知る由もなかった。
「おおい、おせーぞ」
ゼフが竈を組み立てながらこちらを向いた。
「わりーわりー、もう腕が疲れて疲れて・・・・」
肘は曲がるものの肩は上がらない。
「なっさけねー、それで冒険者か?」
「初心者なんだから勘弁してくれよ」
「けっ、それが情けねーって言ってるんだ」
「はいはい」
俺がゼフの横に座ったとき、後ろの方で羽音が聞こえてきた。
最初は鳥かと思ったが、どうも変だ。
羽音が重なっている
変な表現だがこれ以外に形容できない。
「なっ・・・何だ!!?」
「えっ!!?」
後ろを振り向く、そこには四枚の羽を持った人間・・・・・いや・・・・・悪魔!!?
「死ね!!!」
「うわっ!!!」
「なっ!!!」
悪魔のかけ声と共に突然の疾風、いや、疾風なんてもんじゃない。
何か巨大なものに押されたような・・・・そんな感じだった。
地面と青空が二回転する。
そして崖に投げ出される俺とゼフ・・・・。
バサァァァ
おそらくどこかに悪魔が飛び去ったのだろう、羽音がまた聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
為すすべもなく、崖から転落する俺とゼフ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ガキィィィーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!?
何かが突き刺さる音がした後、俺は目を疑った。
・・・浮いてる!!?・・・
・・・まさかっ!!?・・・
上を向く、そこには刀を右手に、そして俺の手を左手にとって苦痛に
顔をゆがめる・・・・・・・・・ゼフの姿があった。

(36)〜誓い〜

「なっ!!?」
目を疑った。
下に広がる途方もない風景。
そして上には右手を崖に突き刺し、左手で俺をぶら下げているゼフの姿があった。
「だいじょーぶかー?フェズ」
場違いな明るい声が聞こえてきた。
「馬鹿!!何で俺なんかを!!」
「馬鹿はおまえだ、何でおまえを見捨てなきゃいけないんだ?」
今までにない真剣な目つき。
「仲間だろう、友達だろう!!だったら見捨てるわけないだろう!!!」
涙が急降下していく。
二つの滴の一つが俺を通過し、さらにもう一つが俺の右目から流れ落ちた。
「・・・・・その友達と一緒に死ねるなら本望だな・・・・」
「いいや、死なない」
「えっ!!」
キョトンとした顔で見上げる。
「おまえだけは生きるんだ!!!!」
次の瞬間、俺は空を飛んだ。
いや、それは錯覚だった。
投げたのだ、俺を、ゼフが。
嘘だろう!!?一メートルはゆうに有るんだぞ!!!?
ドサッ
次の瞬間、俺は左腕から真っ先に落ち、苦痛で顔をゆがめた。
だがそんなことをしているひまはない。
「ゼフ!!!」
必死の形相で崖の下を見る。
そこには刀にぶらさがったままのゼフの姿があった。
「ゼフ!!左手のばせ!!!」
だが、お互い左手を伸ばさなかった。
左手に激痛が走ったのだ。
たぶんさっき打ち付けられたとき、骨でも折ったのだろう。
「なら右手を・・・・・」
「無駄だ、フェズ」
ゼフが冷静に言った。
「なっ、どうした、左手を伸ばせ!!!」
「さっきなー」
一息おき、
「さっきおまえ投げたときに、左手イカれちまった」
笑いながら言う。
「なっ・・・・、おまえ、まさか!!!」
「そうだ、そうなることを予想してた、でもおまえを投げた」
「馬鹿野郎!!!」
再び滴が空から地に消える。
「なんで・・・・・なんでそんなことを・・・・・」
「昔言っただろう、俺の親友の話」
いきなり昔話なんか・・・・・一体何を考えてるんだ?
「そいつと昔約束したんだ、あいつは鍛冶屋だったがな・・・・・お互い
世界一を目指そうって・・・・あいつは世界一の剣を創って・・・・俺はその剣で
世界最強の剣士になる・・・・・」
そういって刀の方に目をやり、
「これはその約束したときにもらったもんだ、そしてその後お互い別れた」
苦笑いをして、
「その大海賊・シーキングに襲われて行方不明って・・・・風の噂できいた・・・・」
「どうしたんだよ・・・・そんな話して・・・・」
そこで俺に向き直った。
「だからおまえに託したい、俺とあいつとの約束を・・・・。
あいつは他のヤツにこの事を託している、俺はそうであることを信じる!!!」
「・・・・・・・・・」
「だからおまえに託す。俺の変わりに世界最強になってくれ」
「・・・・・・・・・」
「親友からの・・・・最初で最後のわがままだ・・・・・・聞いてくれるよな」
そんな事のためにおれに・・・・・。
そこで俺は立ち上がり、そして天に叫んだ。
「私、サード・フェズクラインは、ここに、世界最強になるはずだった男
ゼフ・ラグランジュにかわって、世界最強になることを誓います!!!!!」
涙を流しながらも必死に叫んだ、あいつに聞こえるように。
「くっくっくっくっく」
下から笑い声が聞こえてきた。
涙混じりの笑い声。
「おまえらいだろうなー、そんなこんなことを言うヤツは・・・・・。『誓う傭兵』か・・・・・・」
「何笑ってんだよ・・・・」
涙で顔をグシャグシャにしながらも言う。
「まぁいいや、それだけ言ってくれれば問題ない」
そこでふととまり
「そうそう、その時は俺の墓石にメッセージ刻んでくれ、天国からそれを見に来てたるから
何でもいい、世界最強になったときに・・・・・・な!?」
「あぁ、わかった・・・・・」
「じゃあな・・・・・・・世界最強になる男、サード・フェズクライン」
         下を見ると崖に突き刺さった刀があった
          そして絶叫する俺達の声が木霊した
           涙があいつのところに落ちていく

(37)〜誓いのために〜

           涙が止まらなかった
それでもその目を拭いながらサードを見ていた。
涙で揺れるサードの姿、そして私と同じように涙に濡れているサードの目。
銀色の目が、涙によっていっそう不思議さをかもし出す。
「その後のことは・・・・・全然覚えていない。どうやって刀をとったのか、
どうやって町に降りていったのか・・・・・・」
溜息をついた。
「そして気がついたらあいつの葬式に立ち会っていた・・・・村中の人が泣いたよ。
遺体がない葬式は初めてだって、誰かが言っていた事はよく覚えている」
「それで・・・・傭兵を続けていった・・・・・」
クレイが珍しく涙を流している。
ううん、クレイだけじゃない。みんな泣いている(約一名疲れて寝ているけど)
「そうだ・・・・だが後で重大なことを知ったんだ」
「重大なこと!!?」
キットンが聞く。
「笑いもんだよ、俺もゼフも・・・土地勘なくってな、こんなに世界が
広いとは思わなかったんだ」
途端笑顔に戻る。
「つまり・・・・・上には上がいるってことですか?」
「いいや、そういう事じゃない、人間一人の寿命じゃ世界をまわりきれ
ないってことだよ」
ドテッ
ついついジト目でサードを見る。
「なぁに、確かに世界全部まわることはできる。でも金がないんだよ、だから傭兵
続けなければ金は手に入って強くなれる」
笑うサード。おいおい、そんなこと言ってる場合か?
今までのシリアスな空気がいっきに流される。
そう思うと一つ疑問が浮かんだ
「あれっ、でもどうして『サード・フェズクライン』の名前で傭兵続けてるの?
名前変えた方が人からばれないんじゃない?」
「わかってないな『サード・フェズクライン』の名前で世界一にならなきゃ意味がないんだよ」
トラップが当たり前の事をいうように言った。
「そう、それが一番の理由だ、だがそっちの方が貴族の方も安心してくれるからな」
笑いながらそう言う
「でもな、この名前のおかげでいろんな英雄に会うことも出来た。デュアン・サークも
その一人だし、青の聖騎士クレイ・ジュダとも会った」
「おれのひいじいちゃんに!!?」
クレイが声を上げる。
「そう、彼は強かった・・・・おまえたちが思っている以上に強かったぞ」
懐かしそうな声をあげる。
「デュアンは三回も会った。最初会ったときはひ弱な美男子だったがな
相方のファイターにすっかり助けられていたよ」
ひっ・・・ひ弱な美男子!!?一回見てみたいモノだね。
「でもその後二回会ったときは確実に成長していた・・・・最後は俺を
抜いていたくらいだ」
ふぅーん、そうなんだ・・・・。
「で、それが理由で俺達とわかれるのか?」
トラップが口を開く。
「あぁ・・・・それも理由の一つだが・・・・・他にもあるんだ・・・・・」
「他にも!!?」
「自分自身に、こいつと共に誓った。いつか人間と神獣が共存する
俺達の理想郷を作り上げることを・・・・・」
「神獣と・・・・人間が・・・・・」
「共存する・・・・・か」
「そのためにも世界中歩き回ってもっと神獣の生き残りを捜さなくちゃ
ならないんだよ」
「もっと・・・・・・ってことは・・・・・・」
「他にも・・・・・神獣の生き残りがいるってこと・・・・・」
サードは答える変わりにニカッと笑った。
「マジかよ!!」
トラップが叫ぶ。
「でも・・・・絶滅したって話じゃあ」
「あぁ、それは甘いな。神獣は自分の姿を自由に変えれるんだ、だから神獣狩りが行われた時、生き残りは山にこもって人間に姿を
変えた、実際俺にだって気付かなかっただろう、人間じゃないって」
サードが得意げに言う。
「もしかして・・・・山にこもってた理由ってその人の姿を変えるために?」
「そう、大体三年ぐらいかかるからな」
「残りの二年は?」
「修行、っていうか五年の方がきりがいいから」
「だぁぁぁー、もう!!!」
トラップが怒鳴った。
「だったらそう言ってくればいいじゃないか、何で黙ってたんだよ!!!!」
「思い出したくなかったからだよ!!!」
強い調子で言うサード。
そうだったんだ・・・・・。
それでも、その悲しみを抑えて、私達に話してくれた。
何で・・・・・何でなんだろう・・・・・・。
「思い出したくなかった、ただそれだけだ!!!」
強い調子で言う。
「・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・・」
素直に謝るトラップを見たのは初めてだった。
それほど本当にすまなかったと思っているんだろう。
「それで・・・・・俺達とわかれる・・・・・」
クレイが言い出した。
「あぁ、もう二度と大切な人を失いたくないからな、それに早く誓い果たして
あいつの墓石に刻んでやらなきゃならない」
サードが目を伏せる。
「あと・・・・・・もう一つの誓いの事もあるからな・・・・・・・」
聞こえるか聞こえないかのか細い声でサードが言う。
だが私達の耳には届いていた。
「えっ?」
「何だって?」
「もう一つ!?」
だがサードは立ち上がり
「今日は話疲れた、俺は寝るから」
そう言って、ドアから出ていった。

(38)〜最後の晩餐〜

そしてサードがここを発つ前日の夜になった。
みんな口数を少なくしていままで過ごしてきた。
当のサードは今、ジェームスさん(あの時来たおじさんのこと)と自分の部屋でなにやら話している。
私の横で、すやすや寝息をたてているルーミィーがいた。
「明日・・・か」
クレイがぼやく。
「あぁ、明日だ」
トラップがそれに答える。
「明日ですね〜」
「うん、明日だ」
キットンとノルまで言い出した。
バタンッ
いきなりドアが開いた。
そこには全員の視線を浴び、困惑した様子のジェームスがいた。
「サードは?」
「あれっ、いないんですか?」
聞かれた当人がそんなふうに言い返すなんて・・・・。
「おい、クソジジイ、どういうことだよ」
トラップが詰め寄る。
だがそれを避けて、
「いや、先程あなた達のところに行くと言って部屋を出ていったんですけど・・・・」
そこまで聞いて、全員が同じような感覚に襲われた。
イヤな予感がする!!!
「あいつ、このままここを発つつもりかよ!!!」
トラップがジェームスを押しのけ部屋から出ていく。
「パステル、キットン、ノル、このままサードが戻ってきたら俺に知らせてくれ」
「あわわ、私も行きますよ」
と、クレイにつづき、キットンも出ていった。
部屋に残された私とノルとシロちゃん+ジェームスさん、それに眠っているルーミィー。
私も行きたい、そういう衝動に襲われたが、どうしても一歩が踏み出せない。
私が戸惑っていると、
「パステル」
後ろからノルが声をかけてきた。
「行きたいだろう、行くといい、俺が、ここに残るから」
その一言で、私は一歩目を踏み出し、駆け出した。
ノルへの感謝の気持ちからか、はたまたサードがこのまま行ってしまう
という不安からか、
              涙が溢れてきた
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・ハァ・・・・」
あれから三十分が過ぎた。
サードは、まだ、見つからない。
これで考えられることは三つ。
もうみすず旅館に戻っているか、まだこのシルバーリーフにいるか。
         もうどこか遠くへ行ってしまったか
バカッ
何を考えているのよ、パステル。
そんな弱気じゃあサードもどっかに行ってしまう。
首を横に大きく振って、そして駆け出そうとしたその時、
「パステル?」
後ろから声をかけられた。
猪鹿亭の看板娘、リタだ。
「あぁ、リタ!!」
私はリタに駆け寄り、そして一気に言った。
「あのね、こんな人知らない?身長はクレイより少し低くって、それで茶髪。
あと目は不思議な銀色で、それから・・・・それから・・・・・」
「あぁー、パステル、落ち着いて」
リタは私の肩に手をおいてなだめた。
「で、そんな人知らない?そうだ、リタも一回会ったことがあるハズだけど・・・・・」
でもそれはもう一人のサードの方だし・・・・・大丈夫だろうか。
「うーんとね、パステル」
リタは私の肩から手をはずし、
「その人だったら私の店にいるわよ」
「サード!!」
店に入るなり叫ぶ。
「パステル!!?」
カウンターの椅子の一つに腰掛けているサード。
キョトンとした顔でこちらを見ている。
「もう・・・・・捜したんだよ・・・・・」
ゆっくりと近づく。
「お、おっと」
私が倒れかけたのを受け止めるサード。
「一体どうしたんだよ」
「だから・・・・捜したって・・・・・」
「俺を・・・・・か?」
ふと真顔になるサード。
銀色の目が心なしかすこし濡れているような・・・・・。
そして私を椅子に座らせ、彼も隣に座った。
「ビールとB定二つ追加ね」
と、たったいま飲み干したビールをかかげる。
そして二人の間に流れるしばしの沈黙。
私はそれこそ勇気を一生懸命振り絞ってサードに話しかけた。
「サード」
「何だ!!?」
お互いに見つめ合う。
「あのね・・・・お願いがあるの・・・・・」
顔をサードに向けたまま話す。
サードから目を離すと、どこかに消えてしまいそうな気がしたからだ。
「私達と、これからずっと・・・・一緒に冒険してくれない?」
向こうも目を逸らさない。
「それは・・・・無理な話だ・・・・」
サードが今きたばかりのビールをあおる。
「やっぱり・・・・その誓いの方が大事なの」
涙が出るのを必死にこらえる。
「いいや、それもあるがな・・・・」
そこで私から目を逸らした。
「もう二度と、大切な人を失いたくないんだ・・・・」
ポツリとそう言って、胸にぶら下がっていた、あのクリスタルのペンダントを手にかけた。
「俺の両親、最大の親友、そして・・・・守るべき人を失った・・・・」
「守るべき人!!?」
それは初めて聞いた、あの時の話ではゼフの事しか話さなかったからだ。
「そのくらいにしとけよ」
「っでっでも・・・・」
「それにな、俺も嬉しいんだよ」
「嬉しい?」
「そう、あんたがそんな倒れるくらいになってまで俺を捜してくれた。
それがすっごく嬉しいんだ」
そこで目を伏せ、
「ホント・・・・・俺も・・・・・大切に思われてたんだ・・・・・あんた達に」
その顔に、いままでにな表情が浮かぶ。
「早く気付けばよかたな」
そう言って、私にきたばかりのB定を差し出す。
「最後の晩餐だよ」
そう言って微笑む。
「あんまり豪華な料理じゃないが・・・・我慢してくれよ」
そう言って私の前においた。
その時の笑顔が・・・・・最高のプレゼントだった。
後はただ泣くだけだった。
「おい、泣くなよ。早く食わないと冷めるぞ、ほら、涙拭えよ、ったく」
ドアの前では長身で黒髪の男が拭うのも忘れ一筋の涙を落としている。
そして窓の方でも赤髪でハデな服の男が、誰にも見られていないのに
恥ずかしそうに頭をかき、涙を拭っていた。

(39)〜幸せ者〜

 そして翌日、私達は乗り合い馬車を待っていた。
そう、サードがここを発つ日。
 私達は、それぞれの思いを胸にその場に立ちつくしていた。
すっかり旅支度を調えたサードと、となりで何か読んでるジェームスさん。
最初に声をかけたのはサード。
「クレイ、悪いな」
サードが呟く。
「最後まで、修行付き合いきれなくて」
「大丈夫です、あれだけで十分ですよ」
笑顔でこたえるクレイ。
 そういえば・・・・クレイって何でサードに修行つけてもらってたんだろう?
「もう、稽古つけられないけどな」
「だから大丈夫ですって」
 この二人が並ぶだけで、すっごく絵になるな。
本人たちは気付いてないだろうけど。
「そうだ、パステル、メモ用紙と鉛筆かしてくれ」
「えっ、いいけど」
二つを受け取り、メモ用紙になにかを記す。
「何かあったらここを訪ねろ、俺のことを話せば必ず力になってくれるはずだ」
といって渡したメモ用紙には、エベリンのとある住所が記されていた。
「これて・・・・誰ですか?」
「あぁ、訪ねたらわかる。そうだな・・・・俺の正体を言ってくれ、そうでないとダメだな」
「正体って・・・・・わかりました」
 クレイが注意して答える。
シルバーリーフといえども、人はいる。
 ここで神獣なんて言ったら周りの人が騒ぎ出すに違いない。
そして後少ししたら馬車がくるという時間になった。
「じゃあな、もう会うこともないだろうけど・・・・・」
「それじゃあ記念にこれもらって行くぞ」
 と言ったトラップの手に握られていたモノ。
あのクリスタルのペンダントだった。
「それは!!」
焦るサード。
「そんなに大事なモノか?」
「あぁ、返せ!」
かなり真剣な目つき、それを見たトラップは、
「わかった」
素直に従うように見えたトラップ・・・・だが。
サードが差し出した手を全てヒョイヒョイと避けた。
「おい、返せ」
サードが言う。
「だから返してやるよっていってるだろう」
それでも返さないトラップ、
「何だよ・・・・返さないじゃないかよ」
「返すよ、二年後に」
はぁー?
 その台詞に全員がぽかんと口を開けている。
一体何を言っているんだ?
「二年後の二月六日、パステルの二十歳の誕生日だ」
そこで真剣な目つきになり、
「このお子さまが大人になる日だ、祝いに来てくれよ」
そういうトラップの目が少しずつ潤んでいく。
「そうだな・・・・このままどっかいってそのまま会えないなんて・・・・寂しいもんね」
 私も涙が出そうになる。
「それに俺達が出会った日でもあるもんな、出会った日に再会する。
うん、いい感じじゃんか」
クレイも賛成した。
「私も、このままあなたとわかれるなんか納得がいきませんよ」
キットンも
「俺も、そのまま、だったら、俺、怒るぞ」
ノルまで
「そうだおう、ルーミィーもっとまほおを覚えてるおう、見に来てほしいおう」
ルーミィーまで
「そうデシ、僕も頑張ってるデシ」
シロちゃんまで。
「ねっ、だから・・・・・会いに来て・・・・よ・・・・」
涙が溢れてきた。
あぁー、もう。最近は涙もろいな。
ばっかみたい。
「パステル」
クレイに背中をたたかれ、顔を上げる。
銀色の目から一滴、涙がこぼれている。
そして、刀を抜き、天に向けた。
「私、サード・フェズクラインは、二年後のパステル・G・キングの誕生日に
また会いに来ることをここに誓います」
周りの人が見ているのも気にせず、大声で叫ぶサード。
「ったくよー」
一息おいて、
「誓いを増やしやがって・・・・」
そういうサードの顔は・・・・・最高の喜びを味わった笑顔だった。
「ちゃんと返せよ、トラップ」
「あったりめーだろ」
涙を流しながら頷くトラップ。
「サードさん、あなたが会いに来るその日までに・・・・俺、強くなりますから」
クレイも泣いている。
「あぁ、クレイを悲しませない程度に強くなってくれよ」
クレイって・・・・あぁ、クレイ・ジュダの事だね。
「パステル」
今度は私に顔を向けた。
「最後の晩餐、今度は豪勢な料理でやろうな」
笑うサード、
その時、馬車が到着した。
「じゃあな」
 先にジェームスさんが乗り、つづいてサードが乗り込もうとする。
だが、私を見て、ふととまった。
「パステル・・・・」
心配そうな顔で顔をのぞき込むサード、そして口を開く。
「だめだなー、おまえが笑ってくれなきゃどうも乗れないよ、馬車に」
 自分が泣いているのに気がつく。
そして涙を拭ってサードを見る。
「うん、行ってらっしゃい」
涙を一生懸命こらえて、そして笑顔をつくる。
「その笑顔、今度あったときに、また見せてくれよ」
私の頭に手を置き、そして馬車に乗り込むサード。
 最後に言い残したこの台詞。
           「また会おうな、幸せ者」
 その言葉の真意を聞くのは、私の二十歳の誕生日になるだろう。

(40)〜そして、今〜

コトッ
マリーナがもっていたお茶をテーブルの上に置いた。
「ふぅーん、大変だったんだね」
「ううん、楽しかったよ」
笑顔でこたえる私。
「サードは・・・・本当にいい人だった」
「うん、そうだった」
ノルも賛成した。
「もしかしたら・・・・誓いの一つぐらい果たしてるんじゃあないか?」
「そうかもしれないデシね」
「でもそれだったら冒険者中に広まるハズよ?私達に言ったものを一つでも果たせば」
 そう、彼はただ一つだけ言っていないことがある筈だ。
答えは・・・・・一年後に絶対聞いてやるけど。
「しかし・・・人間と神獣が共存とは・・・・・どえらいことを言う傭兵さんだな」
アンドラスも感心した様子。
「でも、彼ならできそうね」
マリーナが笑う。
「本人も自信たっぷりよ、自分に賭けるから信じなきゃあな、って」
「今頃サードはどうしてるんだろうな」
「あいつのことだ、星でも眺めてるんじゃないか?」
笑いながらトラップがこたえた。
「そうですね、それは一理ありますよ」
「だな!」
キットンまで・・・・かなりできあがってると見た。
「彼なら・・・・全ての誓いを果たせるよね」
そう言って外に出た私。
             後三百六十五日
     その時、サード・フェズクラインが帰ってくる
       私はそう思いながら、星空を見上げた
「ハッピーバースデー、パステル」
 ちょうど同じ時、同じように星を見上げる青年がいた。
彼の足下には三つの墓がある。
 一つにはまるで後で何か書き込めるように不自然なスペースがある。
 一つには、白く、美しい花の束が置いてある。
そしてもう一つにはその二つと並んでいるために、普通であるのが
不自然に見える墓があった。
「どうした、急に」
後ろから声がかけられる。
闇に隠れて姿は見えないが声から察するに女。
「いいや、丁度今日が誕生日なんだ、親友の」
「あぁ、前話していた人だね」
そういって手に持っていた青い花を、その不自然に見えた墓に置く。
こうしておくと三つの墓の調律がとれる。
「まさかこいつの命日が・・・あいつと同じ誕生日だとはな」
軽く溜息をつき、白い花が置かれた墓を見る。
「もしかしたら・・・・・・生まれ変わりかもな」
「私もあんたも長く生きているが」
女が切り出した。
「でも生まれ変わりにあったことはない」
「前例がないわけであって、決してそれが実現しないわけじゃあないだろう」
「相変わらず理想主義だな」
「おまえとちがってな」
「だが昔はあんたと同じ理想主義だった。今と昔と、どっちか好きだった?」
ふと考える青年。
「まぁ・・・昔もよかったが、今の方がいいな」
「何故!?」
「現実主義であり、一部では理想主義だからな」
二人の間に流れる冬の凍てつく風。
「まぁ・・・・そんなところにしておこう」
そう言って後ろを向いた。
「何処に行く?」
「家に帰る」
「もうちょっとここにいないか?」
「・・・・・・・・・いいだろう・・・・・・・・・」
そう言ってもう一度墓にむき直した。
「結局残ったのは俺とおまえみたいな馬鹿だけか・・・・・」
「あぁ」
「もう・・・・何も失わねぇーぞ、絶対に」
「聞き飽きたよ」
そうこたえると思い出したように胸元を探る。
出てきたのは懐中時計。
「おい、これ見ろ」
そういって青年に見せる。
そこで青年は少し微笑み、
「後・・・・・・・三百六十四日か」

 1999年4月16日(金)18時52分17秒〜4月25日(日)19時31分54秒投稿の、PIECEさんの長編、一応完結編です。続きはちゃんとあるんですけどね。

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