闇を知る者(101〜110)

(101)〜いってこい〜

「ふわぁ・・・」
 霧がたちこめる朝。
朝日が遠くで霞み、森が不気味な光をかもしだす。
 刀を片手に、少し歩く。
広場になっているそこで、朝の修練を行う。
 さきほどの眠気を全て振り払う。
「フゥ・・・」
 深呼吸を一つ。
そこで、刀を一瞬で抜き、空を斬る。
 さらに基本のである唐竹から突きまでの九つの斬撃を一気に繰り出し、すぐに鞘に収める。
かかった時間、約五秒。
 それから軽くストレッチ。
数年前までは石のように硬かった体が、今ではかなり柔軟になっている。
 最後に、体中の筋肉を一気に硬直化させる。
十秒ほどそれをした後、軽く深呼吸。
 それで、全てが終わり。
「へぇ、すごいな・・・」
 後ろから声が聞こえた。
あの緑の髪の、そう、レン・メグリアーザだ。
「昨日言ってたことは、あながちウソはないね。強力なライバルの登場、ってわけだ」
「おまえこそ、あいつらの期待を全部背負ってるんだ。精神面で楽じゃないぜ」
 そう、昨日の話。
それが、とてつもなくおかしな話だったのだが。

「マジかよ・・・」
「えっ、もしかして、あなたも出場するの!?」
緑髪の女性、ミネルバが言った。
「あぁ・・・」
 軽くそう言うと、向こうも驚いた。
そりゃあ、そうだ。まさか、出場するヤツと会うことになるとは・・・。
「おれら全員出場するからな。全員強敵だぜ」
 自慢げに緑髪の少年、レイが言う。
しかし、その台詞が、一つの疑問を生んだ。
「おれ、ら?」
「そう、わたしたち全員よ」
「ちょっと、待て。たしか、あの大会・・・」
 そう言って、荷物をあさる。
ただ、あのパンフレットは、わかりやすいところに置いておいたからすぐにわかった。
「あ、やっぱり」
 その期日、場所、ルール、優勝賞金、そして出場対象者を見て言った。
それを、無言でわたす。
「なに!?わたしたちも持ってるけど」
「出場対象者を見てみろ」
 まったく、こんなことにも気付かないとは・・・・・・。
出場対象者は十五歳以上の男性、そう書いてあるのだ。
 ガイゼルン独裁時代、この時女性差別は深刻な問題だった。
ジグレス二百三十八年、ガイゼルン帝国崩壊まで、女性は徹底的に差別され続けたのだ。
 帝王は全て男性、大臣もすべて男性。
それらの秘書はすべて男で占めており、城の中の女は全てメイドであった。
 さらに、外の世界でも、働くのは男、女は、結婚相手を見つけるのが仕事、といった次第であった。
それで、冒険者となる女性は多いが、こういう腕試しの場でも、差別はおこる。
「ちょっと、なによこれ。腹立つなぁ」
「男装してでも出てやるぅ!!」
無理を言う女二人を止める男二人。
「よせよ。仮にも皇帝の御前だぜ!?見つかったら首チョンだぞ」
「それに身体検査も行われるからな。すぐに女だよわかるぞ」
 三十分にもわたる説得で、なんとか納得させる。
しかし、その矛先は、レイに向けられることに。
「レン、負けたら承知しないわよ」
「優勝して、わたしたちを楽にさせてね」
おいおい。
「無理言うなよ。どれだけの達人がそろうと思ってるんだ?」
「そうだな」
あっさり肯定すると、今度はこちらに矛先が向けられる。
「じゃあなに? 誰が出場するの?」
えっと、たしか・・・・・・。
「まず老兵、槍術の達人、アレイス。騎士団の貴公子、アルフレッド。流浪の戦士、リスチャー、そして、最後、最高の優勝候補」
 ここで間をおく。
顔を近づける三人。
「オレだ」
次の瞬間、オレがフクロにされたのは言うまでもない。

「んじゃ、行きますか」
「ねぇ、乗り合い馬車とか、ないの?」
「いいじゃん。まだ、日にちはあるんだし」
完全に準備を整え、小屋を後にするオレたち。
「あっ、すまねぇけど、先に行ってくれ」
 山に入ろうとしたときに、オレだけが小屋に戻る。
そして、崖の下を見ながら、こういった。
「行って来る。おまえとの誓いのために」
 後ろを振り向き、後を追う。
─いってこい─
 背中をポンと叩かれた気がした。


(102)〜野営地にて〜

「やれやれだ・・・」
 揺れ動く焚き火と、深い闇に染まった森と。
その闇に蠢く影を見て、思わず溜息をついた。
 左手には愛刀の刀。
右手は柄を握っている。
 他の三人も同様、緊張の面持ちでまわりを見ていた。
「ついてねぇな」
 レイが呟く。
ガイゼルンまであと一日というところ。
 その野営地点で、モンスターに囲まれたのに気付く。
押し寄せる殺気、にじむ汗。
 右手が、焚き火の木に伸びた。
全員と顔を見合わせ、頷く。
 投げられた火がまわりを照らす。
映し出される、ゴブリンに似た生物。
 いや、あれは・・・。
瞬時に、一つのモンスターと一致する。
 餓鬼、たしかそう呼ばれるモンスター。
低い身長に、異様に細く、長い手、そして爪。
 全身は赤く染まり、着ているズタボロの服も、返り血で赤い。
口からは、血で赤く染まった長い牙が突き出ている。
 そして、目は、それらの赤よりより深く、赤かった。
『風よ 汝は鋭利なる刃と化し 我らの敵を切り刻め ウインドカッター』
 ケルンの魔法が一匹の餓鬼を袈裟斬りに斬る。
それが、闘いの口火を切った。
 二匹、こちらに飛んできた。
「シャッ!!」
 一匹をかわし、一匹を斬る。
その返す刀で、胴と首を切り離す。
「ケルン、武器!!」
「ハイッ!」
 レイに渡されるケルンの剣。
彼の剣の柄が外れ、ケルンの剣の柄が、合わさる。
「ゥラッ!!」
 豪快に一振り。
双剣へと変貌したそれは、次々と餓鬼を切り刻んでいく。
 小柄な彼からは想像できない力。
─こりゃあ、優勝するって言ったのも冗談じゃないな─
 心の中でそう思いつつ、次から次にくる餓鬼を倒していく。
「キャッ!!」
横で、一人倒れ込んできた。ミネルバだ。
「おい、大丈夫か?」
「手を出さない」
 その隙を逃がさずに襲いかかる餓鬼たち。
すると、その全てを一突き、全て喉を突いた。
─大丈夫のようですね─
 たぶん、わざと隙をつくったんだろう。
その大胆かつ友好的な戦い方に、どこか皮肉さえ感じる。
『水よ 汝は大地にその身を捧げよ 大地はそれにこたえよ』
 その通り、土がぬかるんでいく。
それに足をとられた餓鬼たちは、次々に斬られていった。
「虎・空・飛・踊!!」
餓鬼と同じように跳び、そして空中で連続して斬り、最後は・・・。
「龍・首・断!!!」
 着地地点にいた一匹を、頭から真っ二つにする。
レンは、その双剣を頭上でふるい、ケルンの魔法は餓鬼をよせつけない。ミネルバは、相変わらずわざと隙をつくり、そこに誘い込みながら、餓鬼を一突き、一斬りで始末していく。
「負けてられねぇなぁ」
ここは、大技一つ、見せるくらいしないと。
「はいはい、ちょっとどいて」
 焚き火を飛び越え、一番気配が多いところに突っ込む。
今までのように迎え撃つのではなく、こちらから向かうのだ。
「おい、無理はよせ・・・」
必死に敵を振り払うレイ。
「心配御無用!」
 軽くそう呟き、刀を鞘に納める。
そのまま、左手を頭の上にあげ、右手を柄にかける。
「地・断・閃!!!」
 一気に抜き放たれた刀。
それは、大惨事をおこすには十分な威力だった。

「いや、たしかに凄いぜ。あの餓鬼が怯えて去っていくぐらいだからなぁ。たいした威力だ」
レイの厳しい言葉。
「だけど、やりすぎだろ、これは」
 森の一部がかんぺきに禿げたのだ。
その奥には、帝都の姿が見えていた。
「いいじゃん。近道見つかったんだし」
「いいわけないでしょ」
ミネルバの厳しい言葉が心に突き刺さった。
「まぁ、なんにしても、近道はできますね」
 そこから朝日が昇ってくる。
大会まで、あと、五日。


(103)〜繁華街にて〜

 帝都ガイゼルン。
大きくわけて、四つに別れるこの町。
 まず、一般住民が住む住宅街。
そして、商店や出店がにぎわう繁華街。
 貴族、騎士の上流階級の者が占める高級街。
そして、人生の脱落者が住むスラム街。
 中央に王城、そこから放射線状にのびる主街道、そして、蜘蛛の巣のように張り巡られた裏通り。
三方を山、一方を平地に囲まれ、町自体が強大な城壁に囲まれている巨大都市。
 繁華街は常に人で賑わい、住宅街は常に笑いが絶えず、高級街では常に心地よい香りがただよい、スラム街は常に暗く。
四つの顔を持つ帝都ガイゼルン。
 この帝都が滅ぶことはないだろう、とまで言われていた。
だが、滅ぶ日はくる。
 ロンザ国が次々とほかの国と合併していく中、帝国最低最悪の皇帝と言われる、二十六代目皇帝、アレン・ゴルファルニス・S・ガイゼルン皇帝の独裁政治がはじまる。
 それに耐えかねた住民たち。
一斉蜂起と共に、ロンザが攻め入り、見事ガイゼルンは落とされた。
 そして、その二十年後、ロンザ国王都は、ここに遷都されることになるのであった。

 そのうちの繁華街で、今、歩いている。
あの三人とは別れ、一人で宿を探しているのだ。
 あてがないわけじゃない。
ただ、この大会に出ると言ったとき、ショウからこう言われたのだ。
─ここを訪ねて。ガイゼルンでの世話はこの人がするから─
 メモも渡さず、ただ、住所だけを言われた。
それが、二週間前の出来事である。
 たしか、繁華街、アライ、なんてら通りの、どこそこ、ってのは覚えているんだが・・・・・・。
町のマップを見て、それがアライレム通りというのはわかった。
 だが、その通りがこの帝都で一番長い。
せめて、番地の頭文字くらい覚えて置いた方がよかった。
「しゃあない。宿くらい、自分で探すか・・・」
 うさんくさい武器をうりつける武器屋。
どっかの盗品をかなり安く売りつけるアクセサリー店。
 溢れる音と声。
人は人を押し、人は人の波にのまれていく。
 その流れに時折逆らいながら、宿の値段を見ていった。
「やっぱ、どこも高いなぁ・・・」
 ここは帝都。
さらに経済の中心地ともあって、物価も高い。
「野宿、もいやだしな」
 スラム街もあるこの町。
夜、帝都を徘徊するのは、人生の堕落者ばかりという。
 人を殺すのは気がひけるからなぁ。
「やっぱ、どこかに宿とるしかないか・・・・・・」
 そうあきらめかけていた瞬間。
特にでかい声が、耳に届いてくる。
「おぉい、新入り。鋼材とどいたから取りに行ってくれ!!」
 店の中からだというのに、かなり響いている。
この雑音の中、はっきりと聞き取れた。
 そして、それに対するこたえの声も。
「はぁい、了解!!!」
 あ、れ!?
今のは、聞き間違いか!?
 さっきの声は、たしか・・・・・・。
声の先を見る。
 そして、見つけた一つの頭。
紫の髪を、ポニーテールで結ったその頭は・・・・・・。
「クリス!!!」
オレは必死に声をあげた。


(104)〜闘いの始まり〜

「へぇ、旅団として、ねぇ」
 クリスの話を一通り聞き、感心したように言う。
クリスと会い、その後、彼女の止まっている部屋に案内される。
 そうそう、ちょっと、こいつとオレの話をしよう。
シー・キング海賊団解散後、今のケルアイニスに全員が移住。
 さらに、希望を見つけに来る人間なども移住する。
そして、傭兵をしながら見つけた神獣たちも、そこに案内する。
 それがオレの役割だった。
そんなこんなで、クリスとは音信不通になっていたのだ。
 どうやら、ショウには手紙を送っていたらしい。
で、その旅団。
 どうやら、武器、防具職人のあつまりで、その噂を聞いたクリスは、そこへの入隊を希望。
やりたいヤツは勝手に入れ方針のであったため、すんなり入団。
 だが、あまりにも厳しい生活であったため、たいがいは一週間で消えていった団員たちだが、クリスは別であったらしい。
「で、一人前に武器くらいつくれるようになったのか?」
「まぁ、ひととおりの物は造れるようになった。それでも、まだまだ半人前だよ」
「まっ、そう簡単なもんじゃないか」
そこで、一つの疑問が浮かんだ。
「女であること、話したのか?」
「うん、親方がいい人でさ。おまけに『クリスに手を出さない』って掟までつくっちゃうんだもん」
「へぇ・・・」
 よかったな。
なぜか、この言葉は言えなかった。
「それより、武術大会に出場するつもりでしょ?サード」
「そりゃあ、ね」
「傭兵としては当然か」
「おまえが出てなくてよかったと思ってる」
「そうしたら、優勝は私のものだもんね」
 そうなるんだよなぁ。
女とはいえ、かの伝説のシー・キングであるこの女。
「つくづく、おまえが男じゃなくてよかったと思うよ」
「女に負けてていいの?」
「その点じゃ男がいい」
 たあいもない会話が続く。
すると、クリスがこんなことを言い出した。
「で、わたしの娘は見つかった!?」
「見つかるわけないだろ。緑の髪に緑の目。これだけのヒントじゃ見つかるモノも見つからない」
「私も期待してるわけじゃないけどね」
「その、おまえの兄貴のレンと、連絡とれないのか?」
「ジェームスが必死に探してるけど・・・・・・。やっぱ、海底に沈んだ指輪を探すようなものよ」
「見つかりっこないか」
 はぁ・・・。
お互いの溜息が重なる。
「そうそう、明日も朝早いんだから、はやく出ていって」
「出ていくって、どこに?」
てっきりこの部屋かと思ったんだが。
「大部屋。うちの先輩たち、ほとんどそこだから」
「どこだよ」
「えっと、この部屋でて、左に二つ行ったとこ」
「あぁ、わかった」
 荷物をかかえ、部屋を出ようとする。
すると、クリスに呼び止められた。
「サード」
「なんだ?」
「明日、応援行くからね」
 やっぱ、おまえは男じゃなくてよかったよ。
心底そう思い、部屋を後にする。

「うっわっ!!?」
部屋に入り、ドアを閉めると、いきなり男たちに囲まれる。
「なぁ、おまえ、クリスちゃんとはどういう関係なんだ!?」
「オレたちのクリスに手ェ出してねぇよな」
「それより、クリスの昔のこと、教えろよ」
 いきなり言葉を浴びせられる。
おいおいおい、こ〜んなにクリスって人気あるのか?
 まぁ、男のフリしようが、女として立っていようが、共通するのは美形ということ。
そういえば、あいつ以外、女いないって行ってたよな。
 それじゃあ、当然かもな。
『はやくこたえろ!!!!』
 明日が試合当日。
それなのに、一睡もできなかった。

 第一回ガイゼルン武術大会。
騎士団長アルフレッド・クライフの提案により開かれたこの大会。
 ルールとして、急所への攻撃は反則。
武器は、全て木、魔法鉱石によってつくられた、殺傷力のないもので、形は自由。
 定員は千名で、クジによって1〜50ブロックに振り分けられる。それから選ばれた五十名が、またクジを引き、それによって決められたトーナメントによって、闘いがおこなわれる。
 これらは、三日にわかれて行われることになっている。

ルールの書いてある紙に、もう一度目を通す。 
「よっし、そんじゃあ、行くか」
 刀を腰に帯び、木刀をいれたバックを片手に闘技場を目指す。
そして、闘いが始まった。


(105)〜大会当日〜

「よぉ・・・」
「あぁ、レンか」
 ちょうど、抽選の結果発表が終わり、試合会場に向かっている途中、レンに出会った。
ちなみに、他の女性二人はいない。
 そんな彼の表情は、かなり明るい。
「どうだった?組み合わせ」
「二十一ブロックだった」
 それを聞いて、少し考え込んだレン。
すると、その表情は次第に喜の感情に変わってくる。
「うっそぉ〜!!それって」
「あぁ、ガイゼルン騎士団の貴公子、アルフレッドと同じブロック」
ご愁傷様と言わんばかりに、両手を合わせる。
「残念だったな。もう、終わったね、あんた」
「遅かれ早かれ当たるんだ。別にかまわない」
 これは本心であった。
それに、ここで負けるようでは、あいつとの誓いも果たせない。
「へぇ、かなり自信ありげ、だね」
「そういうおまえは?」
「ガイゼルン騎士団第五部隊部隊長フセインと決勝で」
「楽勝だな、おまえの実力だったら」
「ありがとさん」
 たしかに、あの時、餓鬼と戦った時の実力だったら十分だろう。
もっとも、本番のプレッシャーというヤツに潰されるかどうかという問題もあるんだろうが。
「に、しても。さっきから注目されてないか、オレら?」
「オレたちじゃない。オレたちの後ろのヤツだ」
「ん!?」
 首だけを後ろに向けるレン。
そこには、女に囲まれた男がいる。
 金髪金目、透き通るような白い肌。
純白のアーマーを身に包み、手には魔法鉱石によってつくられたソードを手にしている。
 ガイゼルン帝国騎士団の貴公子、アルフレッドだ。
「あんたの相手、か」
「決勝の、な」
 そういえば、もう一人の自分はいないんだと、この時気付いた。
今思えば、あまりにもくだらない理由でケンカしたもんだ。
「あいつを倒せば、一躍ヒーローだぜ、あんた」
「だったら決定だな」
 今日中に、ブロックの決勝まである。
一回戦は、あと三十分後。

「やっほ〜」
 試合会場へ行く道。
その途中で、声をかけられる。
「よぉ、あんたらか」
「なんだ、来てたの」
 その声は、あの二人。
ミネルバ・アランとセルフィーユ・ケルンの二人だった。
「レイ、わかってるだろうと思ってるでしょうけど」
「あぁ、負けない負けない」
ケルンの厳しい視線。
「そうそう、サードも負けないようにね」
「せいぜい頑張るよ」
 軽く手を振り、そのまま歩いていく。
すると、再び呼び止められた。
「来たんだ、マジで」
「そりゃあ当然よ」
 次はクリス。
あいつらとは、ちょうど十メートルほど離れたところ。
「なに?彼女!?」
「ただの友達だよ」
「そうそう。こんな男と付き合ったりしないって」
 そりゃあ傷つくな。
おまえみたいな男勝りの女に言われるなんて。
「で、あんた名前は!?」
「レン・メグリアーザだ。三日後、この名前がガイゼルンで二番目の男になるぜ」
「奇遇ね、わたしもメグリアーザよ」
「ホントか!?」
なぜかうれしそうな顔のレイ。
「ファーストネームは?」
「クリスよ」
「なぁんだ・・・」
なぜかがっかりした声のレイ。
「んじゃ、軽く勝ってくる」
「がんばってねぇ〜」
あいつの明るい声が耳に響いた。

「ところでさ、さっきの台詞」
「ん!?」
「いや、おまえ、二番目っていったろ?優勝する気ないのか?」
「優勝するぞ」
「んじゃ、なんで?」
「一番は、オヤジだから」
「強いのか?」
「強いも何も、オレなんざ十秒も経たずノックアウトだ」
「それでも、世界で三番目だよ」
「どうして?」
「オレはな、昔、ある二人に負けたことがあるんだ」
「誰だ!?」
「世界一の奴と、世界一になるはずだった男だ」


(106)〜決勝開始〜

 審判のかけ声、まき起こる歓声。
まわりから聞こえる気合、怒声、悲鳴。
 弱き者は破れ、強い者が生き残る。
だだっ広い闘技場を、無理矢理五十に区切られている。
 時々、審判のかけ声が自分のものだと勘違いし、歓喜の声をあげ、十秒後に悲鳴をあげるものもいる。
二十万人にも及ぶ観客は、一勝負がつくたび、歓声を上げ、持っているモノを投げ、さらにケンカまでする始末。
「それまで!」
 さっきのはたしかに自分のものだな、うん。
それを確認し、試合会場を後にする。
 今までで五回戦。
それを全て一分以内で終わらせてきた。
 そんでもって、次はついに決勝。
あの、アルフレッドとの闘いだ。
「よぉ、そっちはもう終わったのか!?」
 闘技場を出たすぐそこにある木の下。
そこで、魔法鉱石で造られた双剣を手に、レイが休んでいる。
「楽勝だよ。赤ん坊の世話の方が大変なくらい」
「おまえがうらやましいよ」
思わず、溜息をつく。
「遅かれ早かれ当たるんだから、って言ってたのはどこのどいつだ!?」
「ここにいるバカだ」
そう言って、もう一度溜息。
「まっ、せいぜい頑張れや。オレがセコンドについてやっから」
 そうそう、この大会ではセコンドにつくのは自由。
クリスにやってもらおうかと思ったが、あの、旅団の男たちのことを考えると、どうも気がひけたのだ。
「で、アドバイスは!?」
「あるわけない」
三度目の溜息が流れていった。

『サード・フェズクライン選手、二十一ブロックグラウンドに集合して下さい。十分以内に来ないようでしたら、棄権とみなします』

「どうする?このまま棄権するか?」
「冗談を・・・」
「それじゃあ、行くか」
「あぁ・・・」

 ちょうど、他のブロックの試合は全て終了していた。
二十一ブロックでは、二十分以上におよんだ試合が、四試合もあったため、ここまで遅れたのである。
 つまり、会場に入っている二十万人の観客が、こちらに注目しているのだ。
さらに、審判は三人、そして、この会場の四分の一が使われることになったのだ。
 普通の参加者だったらこうまではいかない。
つまり、これもアルフレッドの人気のたまものというものだった。
 その証拠に、歓声の中でも、半分以上は女である。
相手のセコンドは、祖父であるアルフレッド・クライフ。
 こちらのセコンドは、レイ・メグリアーザ。
「サード・フェズクライン選手、アルフレッド・S・クライフ選手、前へ出て下さい!!」
審判のかけ声。
「お互い、礼!」
 礼をする二人。
訪れる静寂と緊張感。
「サード・フェズクラインさん、でしたっけ?」
「なんだい、アルフレッド・S・クライフさん」
「残念でしたね。わたしと当たることになって」
「いや、残念なのはそっちの方だ」
 この時、一つの変化に気付いた人が会場に十数名いた。
レイ・メグリアーザ、クリス・メグリアーザ、ミネルバ・アラン、セルフィーユ・ケルン、決勝トーナメントに出場した、本物の猛者たち、そして、彼と対峙するアルフレッド自身。
「あんたは強い。騎士団期待の新星と言われるくらいに、な」
その、気付いたこととは。
「オレは、もっと強いからなぁ」
サード・フェズクラインの、気の質が変わったことに。


(108)〜決戦〜

 特に、この変化に驚いたのはレイだった。
─大ウソつきが─
 心の中でそう呟いた。
五日前、彼と共に餓鬼と戦ったときの彼のから感じた気。
 深い森の奥深くの闇、その中で、小さく輝く木漏れ日程度のものであった。
殺気や怒気が自然の優しさに包まれて中和されているというような感じだった。
 だが、今、立っている男はどうだ。
まるで、その森を燃やす大きな炎といったところだ。
 殺気や怒気がむき出しで、背筋に寒気を覚えたほどだ。
─バケモノだな─
 だが、その表情に変化はない。
だから、会場から見ている人間には、なぜアルフレッドがしかけないのかがわからなかった。
 それどころか、サードが一歩前進するたびに、一歩退いていっているのだ。
「なるほど、あなたは強い・・・」
サードが前進したが、アルフレッドは退かなかった。
「あなたを倒せば、また上を目指せるような気がします」
「お互い、な」
 二人がかまえた。
アルフレッドは右手中段、サードは両手下段の構えを。
 審判のはじめの合図から五分。
二人が、動いた。

「はぁっ!!」
 右足を前に踏み出し、突きを繰り出すアルフレッド。
対してサードは、それを腰を回してかわし、下段の剣を逆袈裟に切り上げる。
『ぐっ!!』
 二人のうめき声が交差する。
アルフレッドはその剣を左腕にまともに受け、サードは突きから連続して放たれる横薙ぎの剣を脇腹に受けたのだ。
 再び間合いを取る二人。
「やるなぁ、胴への突きを横に薙げば、剣で受ける以外、かわしようがねぇ」
「あなたこそ、突きをかわすと同時に逆袈裟に切り上げるなんてとてもまねできませんよ」
 お互いの実力を認めあっている証拠だ。
サードはともかく、騎士団新星のアルフレッドがサードを認めた。
 これは、観客には考えられないことだった。
アルフレッドの剣のかたは、通称、フェンシングと言われる剣術。
 突きが中心の剣術で、ロンザ国騎士団の剣術の原型にもなったほどだ。
「次、いきましょうか」
「おぉ・・・」
 また、二人が動いた。
常人では、とても目に追えない速さ。
 アルフレッドは、今度は二段突き、そして、サードは、それをかわすので精一杯だった。
慌てて、後ろに二歩退く。
「おっそろしいなぁ。二つの突きが同時に見えた・・・」
「今度は、わたしの勝ちですね」
「一敗一分、だったら一勝しなくっちゃあなぁ」
 そう言って、また二人が動いた。
サードは、下段から、上段に変わっている。
─上段なら、打ち下ろす以外ない─
 そう瞬時にそうよんだアルフレッド。
腰を低く保ち、下から喉へ、突きを繰り出した、が。
「がっ!!?」
不意に、下から衝撃が訪れた。
「卑怯ですね、蹴りを出すなんて」
「この大会のルールは、形は自由、オレの形は我流だからな」
 実際、モンスター相手にも蹴りを出すことがある。
だが、蹴りといっても回し蹴りなどではない。
 ただの前蹴りなのだ。
この時代、モンスターばかりが繁殖していた。
 騎士団願望の若者が増え、それになれなくとも、傭兵になるものが多かった。
さらに、ボランティア精神で冒険者になるモノも。
 だが、まさかモンスター相手に素手で勝てるわけがない。
そのため、拳法などの武器を使わない武術は廃れていき、逆に剣術などの、武器を使う武術が流行っていったのだ。
 サードの場合、元々徒手空拳で戦っていた上でのクセとなっているのだ。
「これで、一勝一敗一分だな」
「次で、最後にしましょうか」
 二人が、四度構えた。
そして、二人が四度動いた。


(108)〜街道中〜

 サードは片手中段、そして、アルフレッドも片手中段。
まったく同じ体勢で、同じ突きが繰り出される。
─その一瞬、なにかが起こったのだが─
 ただ一つ違ったこと。
それは、サードが突きをかわしたことだった。
「それまで!!」
 アルフレッドが剣を落とし、膝を付いたのを見て、審判が叫ぶ。
まわりに起こる歓声、悲鳴、さまざまな声。
 そのどれもが、この番外狂わせに驚いている。
「まいりました」
「後二年、しっかり修練すれば、あんた、まだ強くなるよ」
 アルフレッドに手を差しだし、彼を起こす。
駆け寄ってきた彼の祖父が、そのまま何も言わずにアルフレッドを連れ行ってしまった。
「バケモノが」
「ん!?」
振り向くと、セコンドに立っていたレイが顔をしかめていた。
「いいや、大ウソツキとも言うがな」
「なんの話だよ」
「あんたの話だよ」
軽く溜息をつく。
「相手の得手とする突きで対決して、それで、なお勝つんだから」
「あいつは負けていないよ」
 軽くそう言い放つサード。
そのまま、肩を木刀で叩きながら、会場を出ようとする。
「おっ、おい。待てよ!!」
 追いかけるレイ。
すると、サードが止まった。
 だが、それはレイに対して止まったのではなく、クリスに対して止まったのだったが。
「成長したな」
「そのぶんあんたに似たかもな」
 それだけ言った後、また、すぐに歩き出したサード。
レイも、クリスの前で止まることに。
「なぁ、さっきの会話、なんだったんだ!?」
「わたしに似てきたんだよ、あいつは」
「はぁ!?」
「驚いたよ。あの一瞬、あいつ、木刀の鍔を、剣の切っ先に当てたんだ。それで、剣はあいつの体をかわすようになり、あたかもサードが刀をかわしたように見えたんだ」
─こいつ、何者だ!?─
 自分でも見えなかったそんな一瞬の動作。
それを、百メートルは離れているだろう所から、見切った。
─人の世は狭い、けど、バケモノの世は広いな─
「あんたも、バケモノだね」
「わたしは、ただの鍛冶屋だよ」
女は去っていった。

「でも、驚いたなぁ。サードが勝つなんて」
何度目だろう、このミネルバの台詞は。
「なぁ、な〜んども、おんなじ台詞、繰り返すなよ」
「ホントに凄いんだから、いいでしょ」
何度目だろう、このケルンの台詞は。
「おまえも、いい加減にしろ」
「いいねぇ、兄さん。両手に花で」
何度目だろう、このレイの台詞は。
「おまえら、よってかかって、オレをいじめてないか!?」
「ぜぇ〜んぜん」
何度目だろう、このやりとりは。
「それより、オレ、こっちだから。じゃあな」
ちなみに、この台詞ははじめてだ。
「わたしたちもなのよ」
 かなり疑わしい。
だけど、そう言われては、どうにもできない。
「でも、サード、ホントに格好良かったよ」
「そりゃどうも」
「ホント、ホレボレするくらい」
 ドキッ
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
 いきなり、それはなんだ!?
「ミネルバ、おちょくったらダメだよ」
その通りだ、ケルン。
「ったく、姉貴は惚れっぽいとこ、あるからなぁ」
 その通りだ、レイ。
って、あ、れ!?
「レイ、今、姉貴、って言わなかったか!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「ねぇ」
顔を見合わせる二人。
「わたしたち、これで兄妹なのよ。血のつながりないけど」
「姓が違うのはどういう理屈だよ」
「冒険者になるんだ!って親に言って、そんで、家出るときに、親に言われたの「おまえは儂の子供じゃない」ってね。んで、本当のお父さんの姓がアランだったから。ちなみに、レイとはれっきとした親子だからね」
「まっ、今更この関係も崩れないし、オレは、メグリアーザのまんまだからね」
 はぁ〜。
そりゃあ、奇妙な話だな。
「んじゃあ、あんたの本当の両親は!?」
「お父さんの方は死んでるらしい。でも、お母さんのほうは生きてるらしいの」
 明るくそうこたえるミネルバ。
この時、なぜか強くこう思った。
 笑顔が綺麗だって。
「で、その、母親のな・・・」
「それより、おたく、ここじゃなかったっけ?」
 そう言って、指を指された方向を見ると。
ありゃ、本当だ。
「あぁ、んじゃ、これで」
そう言って、その場を去った。

「レイ、あの人と戦って、勝てる自信ある!?」
「そりゃあ、五分五分だな」
「ふぅ〜ん。今日の見て、怖じ気づいた!?」
「いんや、ゾクゾクした。はやくやりたい、ってね」
「じゃあ、あの人にあたるまで、負けるなよ」
「そうするは」
 そのまま、レイとケルンは歩いていく。
一人、ミネルバは、サードと歩いた街道を、じっと見つめる。
「ホント、ホレボレしたよ」


(109)〜大会二日目〜

 この街で、王城の次に大きい建造物、ガイゼルン国営闘技場。
まだ、開場一時間前だというのに、ものすごい行列。
 昨日のブロック予選終了時から並んでる人間もいる。
その中で、もっとも女性の多い場所、選手専用出入り口。
 帝都の警備隊だけではたりず、騎士団の一個部隊まで出る始末。
なんで、騎士であるわたしたちが・・・などと思っている人間がたくさんである。
 選手が来るたびに、黄色い歓声を上げる女性たち。
その中でも、とびきりの歓声を浴びた選手。
 サード・フェズクライン、その人である。

「いっきにヒーローだな」
 選手専用出入り口から、少し入ったところ。
そこで『←控え室』と書かれた看板を見つけ、その矢印に沿って歩いていく二人。
 サードとレイ・メグリアーザである。
「アルフレッドたおしたから当然か」
「それが目的で勝ったんじゃねぇよ」
 仏頂面でこたえるサード。
女にもてることに不快を感じてるのではない。
 ただ、二晩連続で眠れなかったことで不機嫌になってるのだ。
「抽選、いつだっけ!?」
「あと三十分後」
「眠れねぇ、か」
「一回戦最終試合だったら、一時間以上は眠れるぞ」
「そうあってほしい」
 頭がガンガンする。
そのうち『サード・フェズクライン選手』と書かれた貼り紙のあるドアが目に付いた。
 そうそう、決勝トーナメントとなった今日。
その選手は、全てが控え室に入るようになったのだ。
「オレ、ここらしいから」
「んじゃ、あとで」
 ハァ・・・
ドアを閉めると同時に、溜息をつく。
『水よ その全てを癒やす力よ 我の心身の闇を癒やしたまえ』
 軽い回復魔法を自分にかける。
時々、重傷相手に使う魔法を使おうかなど思うが、ただの風邪に劇薬を使うようなもので、逆に悪化するだけなのだ。
「ちょっと、休むか・・・」
そう言って、椅子にもたれかかり、寝息を立て始めた。

 ・・・コンコン・・・
どれくらい時間がたっただろうか。
 どこからか、何かを叩く音が聞こえてきた。
「サード゛・フェズクライン選手!!」
 次に、自分の名前が呼ばれた。
あぁ、もう。うるさいなぁ。
「サード・フェズクライン選手、集合の時間ですよ。起きて下さい」
「後五分・・・」
 たぶん、外まで聞こえたんだろう。
その証拠に「はぁ!?」という声が聞こえてきたし。
「なに子供みたいなこと言ってるんですか!!とっくに他の選手集合してますよ」
「待たせておいてくれ」
「失格になりますよ!!それでもですか!!?」
「あぁ、かまわ・・・」
 あ、れ!?
頭の中がグルグル回る。
 そうだ、オレ、武術大会に出てて・・・。
それで、レイと別れて、控え室に入った後・・・・・・。
 眠ったんだ。
「待った待った。すぐ行くから!!!」
あわてて木刀を片手に、部屋を後にした。

「なにやってんだよ」
抽選会場に入るなり、レイにこずかれた。
「わりぃわりぃ。眠ってた」
「よっぽど、眠かったんだなぁ」
 呆れてモノも言えないという顔だ。
まぁ、当然だろうなぁ。
「えぇ〜、それでは、第一ブロック優勝者の方から、券をお引き下さい」
 そう言われて、何人かの選手が、中央に歩き出す。
ちなみに、この抽選の結果は、この場で公表はせず、観客の入った闘技場の中央で公表するらしい。
 券を引き、大会委員に渡した選手は、まっすぐ会場に向かった。
「んじゃ、おさきに」
「おぉ」
 二十一ブロックの選手、と言われたので、とっとと券を引きに行く。
この時、オレがこれほど、くじ運が悪いとは、思ってもいなかった。


(110)〜指切り〜

「レディース・エンド・ジェントルマン。さぁ、ガイゼルン武術大会二日目、決勝ブロック、第一戦から準々決勝までが本日行われます。はたして、ガイゼルン最強の男は誰か!?」
 司会のいかにもといったフレーズの後、おれたちの入場。
総勢、五十名が入場する。
 巻き起こる歓声。
そして、その中央で、全員が止まる。
「もうすでに、トーナメントの組み合わせは決定しています。し・か・し、その事は会場の皆さんはもちろん、選手の方々も知ってはおりません。そう、この場で、全てが公開されるわけです」
 やだなぁ、こういう展開。
もしかすると、裏で工作されてるかもしれないからなぁ。
「それでは、あちらの方をごらん下さい」
 そう言って、指さされたのは、入場門と、正反対の所。
そこには、大きな板に、白い布がかぶせられていた。
「それでは、オープン!!!!」
 そして、オレは。
くじ運の悪さを思い知るのであった。

「・・・・・・勘弁してくれよ・・・・・・」
「落ち込むなって、いいことあるあるから、な!?」
 ぜ〜んぜん、くじ運いいヤツに言われたくはない。
って、どういう組み合わせになったかというと・・・・・・。
 最初の方の相手自体は、ぜんぜん無名だ。
だけど、決勝ブロックまで残った人間ばかり、油断はできない。
 だけど、順当に勝ち進むとして、まず、準々決勝であたる相手がなんと、流浪の戦士、リスチャー。
噂によれば、得物はオレと同じ刀らしい。
 そして、準決勝では。
老兵、槍術の達人アレイス。
 何度も修羅場を渡ってきた、歴戦の猛者だ。
そして、決勝。
 相手はまったく予想できない。
「まっ、決勝の相手はオレだから。遅かれ早かれ負けるって」
「おまえはいいよな。一回戦シード。準々決勝で、現、ガイゼルン帝国剣術指南、ツヴァイクル。準決勝は、傭兵、サイルってところだろうからなぁ」
「サイルって、あんたと勝負して、負けたんだろ?だったら楽勝」
「でも、根性はあったから。それに、憎めるヤツでもないし」
 そう、サイルとは一度、勝負したことがある。
結果は、先に見えてたが、何度も何度も立ち上がるあいつの根性は本物だ。
 そして、最後に言った言葉がこれだ。
『オレは、もう一度おまえとやるまでに、もっと強くなってやる』
 だから、言ったやった。
『もう一度、やろうぜ』
 と、な。
けど、レイ相手だったら、負けるだろうなぁ。
「まっ、ツヴァイクルとの試合が正念場だから。せいぜい頑張らないと」
「あぁ、そうだな」
「んじゃ、約束。ぜったい決勝、二人でやろう」
「あぁ」
少し子供っぽい、指切りでの約束だった。


 1999年11月5日(金)21時52分〜11月22日(月)18時25分投稿の、誠(PIECE)さんの長編「闇を知る者」(101〜110)です。

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