闇を知る者(81〜90)

(81)〜船上の攻防〜

・・・・・・・・・・???の視点で・・・・・・・・・・

その日は朝から最悪だった。
「なんだよ、いったい・・・・・・」
「一つ手合わせを願いたい」
 そう言うと、問答無用とばかりに、斬りかかってくる。
相手の得物はハルバード。
 この場合、先程と同じく、自爆を誘った方がいい。
「おっと!」
 逆袈裟に振られたハルバード。
それを避け、更に、剣を当てて勢いを増させる。
 こうすれば、体ごと武器に振り回され、倒れるはずだ。
普通の使い手なら。
 それに振り回されることなく、右手一本でその勢いを止める。
─んなバカな。普通、転けるぜ─
「一応、この武器の短所は知っているようだね。だけど、使い手がこれなら、あんたに打つ手無しだね」
 たしかに、長所として、ハルバードは突き、払い、斬りの三つの攻撃ができる。
さらに、使い手が一流であれば、それを最大限に生かした連続攻撃ができるだろう。
「ちっ!!」
 ひとまず、大きく間合いを開ける。
─ダメだ武器の短所をついて勝てるほど、相手はあまくない─
「しょうがねぇ」
左手に、娘を抱えたままだが、やむおえん。
「左手に持ってるモノが、邪魔らしいね」
 背筋に寒気を覚えた。
狙ってくる、確実に。
 そんなこと、させるか。
意地でも、守り通してみせる。
「シッ!!!」
 いきなり、相手が動いた。
自分の懐まで飛び込み、突きを繰り出してきた。
「くっ!!」
 それを剣でたたき落とす。
普通なら、これで終わりだった。
「あまいね」
そのまま、地面に下ろすことなく、足払い。
「ヤバッ・・・」
右足が、避け切れ・・・・・・。
「ッラアッ!!!」
 左足で、武器を踏む。
そのまま、バランスを崩しながらも、必死に遠ざかる。
「ウソだろ・・・」
 普通、人間が思いっきり踏んだら、槍が折れるぞ。
おそらく、相当いい腕の鍛冶屋が鍛えたんだろう。
「どうやら、本当に左手のモノが邪魔らしいね」
 狙ってくる。
再びそう直感して、構える。
「今度は、守れるかな?」
 不適に笑うそいつ。
スカーフで顔を隠していてわからないが、笑っていると直感でわかった。
 そして、何が起こったかわからなかった。
ただ、気がついたら。
 娘がいなくなっていた。
「なっ!!!?」
「あら、よく見たら赤ん坊じゃないか」
 さっきま前の立っていたハズの人間が。どうして、後ろに立っているんだ?
しかも、娘を抱きかかえて。
「てめぇ・・・」
「そんな怖い顔しないで、別に危害を加えるわけじゃないから」
と、いいつつ、別の人間の娘を預けた。
「自分を守るので精一杯の人間が。他人を守ろうなんて都合がいいんだよ」
 それを聞いた瞬間、ある記憶がよみがえった。
そういえば、あの時も。同じような事を言われた記憶がある。

─ったく、情けねぇ。それくらいでバテてどうする─
─うるせぇ。だいたい、なんで俺がおまえに鍛えられなきゃいけねぇんだよ。俺はおまえと違って、そんな職業ついてねぇんだ─
─おまえが貧弱だからだよ。戦うこと忘れないように─
─うるせぇ─
─だいたいよ、この世の中で、好きな奴ができて、それを守らなければならないとき、おまえどうすんだよ─
─守る、意地でも─
─自分を守ることもままならない大バカ野郎が。人を守ろうなんざ都合のいいこと言ってるんじゃねぇよ─
─おまえには一生そんなことないだろうな─
─・・・・・・もう一回鍛え直してやる─
─・・・・・・冗談だよ─

 他愛もない会話だった。
だけど、俺はずっと覚えていた。
 あいつが覚えているかどうかは別だけど。
「どうした?かかってこいよ」
「言われなくても、やってやる。それとありがとな」
 いきなり、お礼をされて驚く相手。
そして、構える。
 あいつと、同じ構えを。
右手のロングソードを逆手に持ち、左足を前にし、後屈に低く構える。
これで、得物があれだったら、完璧にあいつとダブることになるだろう。
「フゥゥゥゥーー」
 思いっきり息を吐く。
これは、ある意味でカモフラージュだ。
「おかしな構えだな。見たことがない」
また、笑っている。
「悪いが、10秒後、そのきにくわねぇ笑いを恐怖の顔に変えてやるぜ。それが俺の今やるべき事らしいな」
「今、おまえがやることは、この子を助けることじゃないのか?」
今度は、こちらが笑う番だ。
「当たり前のことは言わないタチだ」
 そして、それを使った。
あいつの得意技である『飛び足』を。


(82)〜二つのプレゼント〜

・・・・・・・・・・ミネルバ・メグリアーザの視点で・・・・・・・・・・

 相手が、消えた。
一陣の風が髪をなびかせ、それは、スカーフを落とした後、後ろの方で、何かを起こした。
 振り返ると、そこには、先程、たしかに自分の目の前にいた男が後ろの部下─ヤツの赤ん坊を預けた─を斬り倒し、悠々と自分の赤ん坊を抱えているのだ。
 なにを、した?
「おぉ、よしよし。怖かったろうに・・・」
 それだけ言うと、いきなり座り込んだ。
それでも、赤ん坊は離さず、こちらを睨んでいる。
「どうした?さっきので終わりか?」
「あぁ、全身筋肉痛で、もう動けそうにないな」
どうやら、一撃必殺の技だったらしい。
「どうやら、命運尽きたようだな」
「あんたの素顔が見れたからね。けっこう 美人じゃん」
 そういえば、スカーフを落とされたんだった。
別に、慌てて隠そうともせずに、相手に近づく。
「皮肉にしか聞こえんな」
「男っぽい言葉遣いするんだね」
 いくら言おうが、あくまで悪態をつくらしい。
やれやれ、呆れた男だ。
「最後に、言い残すことはないか?」
「シー・キングは女だった」
 こっ、こいつは・・・・・・。
どうやら、文句を言うことしか思いつかないらしい。
「死ね・・・」
 槍先を相手の眉間に向ける。
そして、そのまま、一突き・・・・・・!!?
「どうして、目をつぶらない?」
 それどころか、目を逸らそうともしない。
体は赤ん坊をあやしていても、顔だけはこちらを向いている。
「別に、気分」
「そんなワケないだろう」
「言う必要はないな」
 あくまでも、こちらを向き続ける、目。
真っ直ぐで、なんの迷いもない、意志の強い目。
 なぜだろう。
意味もなく、動悸が高まっていく。
 その、深い緑の瞳に、吸い込まれていくような・・・・・・!!?
「船長!!!!撤退命令を!!!!!」
 その声で、目が覚めた。
悪い夢から逃れようとする、子供のように。
「どうした?」
「どうしたもこうも・・・・・・。沈んでるんですよ!!!!」
 初めて気がついた。
船が、斜めに傾いている。
 しかも、船首の方が。
「全員撤退を開始しろ!!!それと、第1部隊に、小舟を20隻下ろし、生きているモノは助けろ!!!!」
 すぐに命令を言い渡す。
不服があろうがなかろうが、私に逆らうモノはいない。
「へぇ、助けるの」
「たぶん、あんたと、私の船員のせいだからな」
 おそらく、先程落ちていったヤツ。
あれが、船底までぶち破ったんだろう。
「で、俺は助けるの?」
「さぁ、運次第だろうな。私は二度と会いたくないが」
 そう言って、去ろうとした瞬間。
そいつの子供が、泣き出した。
「あぁ、よしよし。今日はよく泣くなぁ・・・」
 その言葉、その行動を見て。
ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
 なんだか、無性に赤ん坊だけ助けたくなってきた。
もしかして、母性本能とかいうヤツだろうか。
「ったく」
 本能には逆らえない。
逆らえば、おそらく、一晩中うなされることになるだろう。
「お、おい」
 無理矢理、そいつから赤ん坊をひっぺがした。
それを、止めようと立ち上がり、そして、転ける男。
「ぜっ、全身が泣くほど痛い・・・・・・」
「無理するな。そのまま、海の藻屑になりやがれ」
 そのまま、今度こそ去ろうとするが、また足が止まった。
子供が、泣きやまない。
 おそらく、こいつがいない限り、泣きやまないだろう。
「ったく、たまには人助けやるか」
 ハルバードを船のほうに投げ、右手に赤ん坊、左手に男を抱える。
ぜっっったい、女のやることじゃないな、これ。
 すると、男が騒ぎ出した。
「おい、なんで助けるんだ!!?」
「子供が泣くからだ」
 それを言った後、爆発を起こす。
そのまま、空中で何度か爆発を起こし、そのまま、船の方に着地する。
「船長、そいつは・・・・・・」
 ジェームスが、まるで、悪い夢でも見たかのような顔をする。
それはそうだろう。
 生まれて自分は、一度も人助けたるものをやったことはない。
全部、部下任せなのである。
「しかたないだろう。赤ん坊は、なぜか、その・・・・・・ほっとけなかったんだ!!!」
「そういえば、あなたも女でしたね・・・・・・」
感心したように言う、この大バカ野郎を尻目に。
「おい、こいつを独房に放り込んでおけ」
部下に命じる。
「助けておいてそれはないだろう・・・・・・」
「うるさい!!!でなかったら、海に投げ捨てるぞ!!!!」
 吐き捨てるようにそう言う。
でも、たとえこれ以上なに言われたって、そうする気持ちになれなかったのは何でだろう。
 あの時、あの真っ直ぐな目を見たとき。
何かが、弾けたような気がした。
─な〜に考えてんだろ、私─
 そう思いながら、部屋を目指す。
赤ん坊を抱えたままに。
「お〜い、俺の子供に手ェだすなよ」
男の叫びを無視。
「ったく、プレゼント、拾えたかな?」
 爺への最後のプレゼント。
本当に、あったんだろうか・・・・・・。
 泣きやまない赤ん坊。
そして、ついでに拾ったワケのわからない男。
 これが、爺からの最後のプレゼントだった。


(83)〜そして明日も〜

 その日は朝から最悪だった。
あの後、独房に放り込まれることになるのだが、その間に、だいたいこの船の内部が、どうなってるかがわかった。
 甲板を一階とすると、二階と地下六階となっている。(つまり、合計で八階建てで、さらに横幅も大きい+強大なマストとなるわけだ)
今、自分がいる独房は、一番下の六階(ちなみに、それ以外の救助された人たちは、何故か、鉄格子ナシの大部屋らしいが)
 上の方は、おそらく、航海師が上から海を見る為のモノ。
それ以外の部屋は、船員たちの休憩室もあるらしい。
 地下一階は、大体下っ端の大部屋と、大砲が置いてある。
地下二階は、幹部クラスの個室(あいつもそこらしい)と、船医室。
 三階は強大な食堂と調理室+食料とワイン部屋。
四階と五階は、訓練場や娯楽室、そして、なにやら重大兵器の管理室、そして、火薬や大砲の玉などなど。
 そして、六階は、先程言ったとおり、独房や、捕らえられた人たちの大部屋。
そうそう、夕飯がいちおう運ばれてきた。
 メニューは、たぶん魚と野菜から作ったスープと、焼き魚塩味。
なかなか、食えないこともなく、すべてたいらげた。
 だいたい、この部屋の広さは六畳一間くらい。
そのうち、約一畳をベットが占め、他に、背もたれナシの椅子が一つある。
 典型的だが、なかなか広く、もしかすると、下手な貧乏暮らしよりはましかもしれない。
そんなこんなで、やることもなく、ベットに寝ころんでいると。
 あいつがやってきた。
監視口から、こちらを覗いていた。
「よぉ」
「あんたか・・・・・・」
 言葉をかける気もない。
だが、どうも娘の安否が気になる。
「おい、俺の子供は無事か!?」
「今、静かに眠っているよ」
 ウソかもしれない。
だけど、それに偽りがないと感じたのは、なんでだろうか。
「よかった・・・」
「どうだ?そっちは」
「なかなかいい部屋だね、わるくない」
「それはどうも」
 お互い、目線を合わせずに言う。
すると、あいつが、鍵を開け、入ってきた。
「なんのつもりだよ」
「別に」
そういうと、椅子の方にかけた。
「そういえば、お互い、自己紹介もまだだったな」
「やるきもねぇが・・・、あんたが早く去ってくれるなら、やっといたほうがいいだろう。俺の名前は、セイン・アランだ。よろしくな」
 目線を合わす気もない。
そうすれば、自分がなんだかおかしくなりそうだからだ。
 理由は、わからないが。
「へぇ、なかなかいい名前じゃん」
「そっちは?シー・キングはあくまで通り名だろう?」
「ミネルバ・メグリアーザ」
「以外に女らしい名前だな」
「以外とはなんだ、以外とは」
 相手が笑ったのがわかる。
ここで、笑えば、なぜだか負ける気がした。
「そういえば、いつ返してくれるんだ?俺の娘を」
「島の方についたら、返してやる。もっとも、あんたの命の有無は保証しないけどな」
 平気な顔でものすごい事を言う。
なぜだか、そっちに顔が向いてしまった。
「娘だけは助けてくれよ」
そこで、何故か首を傾げる。
「なぁ、さっきから娘娘って言ってるけどよ。名前は?」
 いっ、いたいところをつかれた。
それが、今のところの悩みの種の一つである。
「それが、ないんだ・・・」
「ない!!!?」
「あぁ、この子が生まれて、それと引き替えに、あの子が産まれたんだ。それがショックで、名前つけようにも、頭まわらなかったんだよ。だから、知らない土地に行って、頭落ち着かせてから、つけようと思ったら・・・・・・・船が襲われた」
「それはお気の毒に」
 おもいっきり笑われた。
ヤなヤツだな。
「なんなら、私がつけてやろうか?」
「却下だ」
 そう言った後、相手が立ち上がった。
そして、ドアから出て、御丁寧に鍵までかけている。
「明日にはつくだろうから。せいぜい覚悟しておけ」
 そういって、どこかに去っていった。

 その日は朝から最悪だった。
そして明日も、どうやらそのようになりそうだ。


(84)〜裁きの間〜

 その日も朝から最悪だった。

 朝起きて、なにもなかった。
いつもなら、赤ん坊をあやしているだろう。
 朝起きて、気がついた。
そうだ、そういえば、取られたんだ。
 そういえば、俺の荷物、沈んだのかな?
衣服も全部入れてたし、娘のおもちゃも・・・・・・。
 全部、空しかった。
「そっかそっか、な〜んにもねぇんだ」
 あまりにも、空しかった。
腹立たしいくらい。
「俺、おこっちゃおうかな」
 ドアに近づく。
ブチヤブッテヤル。
「ドアは、開いてるわけ・・・・・・あるんだな、これが」
 ドアノブを回し、初めて気がついた。
もしかしたら、最初から開いてたとか?
 あの時、あいつが鍵を開けてるようにやってたの。
全部、騙されたのか?
「ったく怒る気力もなくなった」
 そこから出られたのに。
なんでか、部屋に戻ってベットに寝ころんだ。
「ごきげんよう。脱獄しないの?」
 聞きたくもない声、もちろん顔は向けない。
だれってだって!?あいつだよ、あ・い・つ。
 なんだか、また、怒りがこみ上げてきた。
「ここは、脱出不可能の海の上だろう?」
「そう、海の上だ。でも、窓の外は?」
「あっ!!?」
首だけを窓の外に曲げた。
「窓の外は広がる大地」
歌うような口調で言うあいつ。
「海賊には似合わない詩だな」
「とうぜん」
また、怒る気力がなくなった。

「なぁ、ここ、どこだ?」
「私の島。ちなみに、地価はないよ」
「違うって、地図上でだ」
「地図上では、ストーンリバーからだいたい北に一海里行ったところ。セラフィム大陸もパントリア大陸にもほど近いし、今、抗争真っ最中のレムトリ島にも近いところ」
「軍事拠点としては申し分ないな。なんでどこの国も狙ってこないんだ?ルカ島も、二大陸に狙われっぱなしだろう」
「狙ったバカは全部沈んだ」
 なっ、なるほど。
そーゆー意味ね。
 っにしても、この島・・・・・・。
それなりに繁栄しているらしい。
 だいたい、典型的な島で、海があり、遠くには山も見える。
港町のように、石造りの家が建ち並んでいる。
 港に近いところは、五番目上に水路が広がり、ゴンドラが時折、さまざまな物を運んで行き交っている。
どうやら、山に近い方ではそれが陸路に変わっているらしい。
 全然、治安は悪くなさそうだし、そんなにガラの悪い連中も見かけない。
町行く人々は、みんな笑顔を浮かべていて。
 全然、海賊に見えない人たち。
どう考えたって、そこらじゅうにいるような人たちだ。
 この町は、ほんとうに・・・・・・。
「本当に海賊の町なんだろうな、って思ってるだろう?」
いきなり、後ろから声をかけられた。
「脅かすなよ」
「無理もない。最初は、みんなそうだ」
 あいつが笑っている。
それは、いつもと違っていた。
 会ってたった2日なのに、そう感じてしまう。
船にあったときの笑顔とは、全然違う。
 あぁ、そうか。
あの時は、シー・キングの笑顔。
 そして、島に戻った彼女。
ミネルバ・メグリアーザの笑顔なんだ、これは。
「な〜にニヤニヤしてんのよ」
あいつの顔が、目の前にあった。
「だから、脅かすな」
「うるさいな、おまえ、捕らえられてるの忘れたか?」
 そうだった・・・・・・。
だけど、そんな俺も、一つだけいいことがあった。
 俺の娘が、俺の手に戻ってきたのだ。
「ったく、その子のおかげで、一睡もできなかったよ」
「おろっ!!?シー・キングも女だな」
「刺すぞ」
「ご冗談を」
 まるで、子供みたいだ。
シー・キングは、本当は、どんなやつだろう。
 全然、わからなくなってきた。
「おかえりなさいませ」
「おう、今帰った」
 そいつが、シー・キングの顔に戻った。
目の前に立っている男のせいか!?
「留守中・・・」
「変わったこと知らせております」
先手を取っている。
「おまえは・・・」
「この年で性格の矯正はいきませんよ」
また、先手。
「そういうところは・・・」
「一人前ですよ、ありがとう」
 またまた、先手。
それだけ言うと、去っていった。
「あいつは?」
「うちの参謀長のショウだよ」
「へぇ・・・」
「疑わしそうだな。あいつは、魔法のプロだよ」
「ほえ・・・」
「ただ、性格に難があってな」
「ほぉ・・・」
「あいつに口げんかでいっつも負けてるんだ」
「おぉ・・・」
「まぁ、留守を任すには、一番適任だけどな」
「ふわぁ・・・」
「だけど、おまえも気にくわねぇ」
「へっ・・・」
ここで、槍がどんどん接近していたことに気がつく。
「落ち着け、冗談だよ、冗談」
「ったく。まっ、頑張れよ」
そいつが、離れていく。
「おい、どこ・・・・・・」
「なぁになれなれしく口聞いてんだよ、あぁ!!!?」
 見ると、引率者らしき、スキンヘッドのにいちゃん。
これは、抵抗しない方が身のためだな。
「これから、裁きの間に向かう。野郎ども、ついてこいや」
スキンヘッドのにいちゃんが、大声で行った。
「裁きの間、ね。ヤナ予感するよ」
 目の前には、白い石造りの家とは全く違う、黒い家があった。
そして、おもいっきり呪いの文字で書かれてある、裁きの間。

 その日も朝から最悪だった。


(85)〜爺の後継者〜

・・・・・・・・・・ミネルバ・メグリアーザの視点で・・・・・・・・・・

「ふぅ・・・」
 安楽椅子に腰掛け、溜息をついた。
あの後、まず、爺の遺体を確認。
 ショウの魔法によって凍らされていた爺。
いつものような皮肉はそこになく、ただ、安らぎの笑顔があった。
「爺、笑って逝ったんだな」
「船長、これが、最後の一打ちです」
 爺の助手として働いていた青年。
彼が手にしていた武器、それは小振りの短剣だった。
「これが、最後の?」
「えぇ。お師匠、最後に言ってました『これが砕けたら、ミネルバは、新たな路をみつけるだろう』って」
「どういう意味だろうな」
「わかりませんけど・・・・・・」
「そう、だな」
 爺らしいといえば、そうだ。
いつも、意味ありげなことを言っておいて、結局、それを解いてみれば全然簡単なことばかり。
「火葬場に、行くか」
「はいっ・・・」
 流れる涙をかみしめながら。
私は、火葬場を目指していった。
 そこで、自分が作りだした炎で、焼く。
「明日の晩、葬儀を行うから、全員にそう伝えてくれ」
「・・・・・・」
 返事をせず、ただ、頷いただけでその場を立ち去った。
彼としても辛いんだろう。
 たしか、彼がこの島に流れ着いたときから、世話になったと聞いている。
「別れに、涙を見せたらいけないな」
 溢れる物がこぼれ落ちる前に。
私は、その場を去った。

「で、この町では?」
「今のところ、手の空いてる者はいません。子供を鍛冶屋にするように指導しても、時間が・・・・・・」
「それに、指導する者もいないしな」
「はい」
 今、ジェームスと話し合っていること。
今後、武器を製造する方はどうするか、だ。
 爺以外、武器を造れる者はなく、それに、指導する者もいない。
─やっぱ、無理にでも指導させておくべきだったな─
 彼は、後継者を造ることを嫌い、跡取りを決めなかった。
唯一、彼に信頼されていたさっきの青年も、身の回りの世話などだけで、剣を打つ指導はされていなかった。
 その結果が、これ。
「それじゃあ、今回の船は?」
 今回の船とは、あのバカが乗っていた船だ。
あの、バカ。
 見ただけで、なんだかドキドキしてきて、離れていてばなぜか会いたくなり、会ったら会ったで、さっきのように。
話せば、なんだか焦ってくるし、目が合えば、顔が赤くなるのがわかる。
 どう考えたって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌いだ。
この、表情の変化に、ジェームスは不思議そうな顔をしているが。
「今、調査中です」
と、まともにこたえた。
「それと、何度でも言うようだが」
「はい?」
すっとぼけやがって。
「何度も言うように、裁きの間のあの模様、やめてくれないか?ただ捕らえられた人間の身の上調査、そして、この町にとどまるかどうかを聞くだけだろう?それなのに、なんであんな模様になるんだ」
「決めたのは、ショウ参謀長です」
 あの男か・・・・・・。
どうせ、変えろと言ってもダメだろう。
「まぁ、今回、鍛冶屋があの船に乗ってれば大きな収穫だ」
「それだけですか?」
 ジェームスが意味ありげなことを言う。
「どういう意味だ?」
「いえいえ」
そういうと、窓の外に目を向ける。
「どうやら、一人、運ばれてきてますよ、こっちに」
「そうか、見つかったか」
 部下に命じてある。
鍛冶屋が見つかれば、連れてくるように。
「それじゃあ、私は自分の家に戻りますので」
「あぁ」
 ジェームスが去った後、今度は、応接の椅子に座る。
その時、ノックの音が響いた。
「入れ」
 そして、入ってきた。
最初に、部下のスキンヘッドの男。
 そして、続いて入ってきたのは・・・・・・。
「げっ!!」
「なんで、おまえが・・・・・・」
 そこに立っていたのは。
あの男、セイン・アランだった。


(86)〜言葉の意味〜

「なんで、おまえが・・・・・・」
 赤ん坊を抱えたまま、立ちつくすあいつ。
たしか、あの船に乗っていた、鍛冶屋がここに来るハズだったんだが・・・・・・。
「なんでって、こっちが聞かせてもらいたいよ。あの、裁きの間だっけ!?見かけ倒しの。あの部屋で、身の上調査をされたと思ったらここに連行されたんだよ。で、なんなんだ?」
 そこで、スキンヘッドの男が出ていく。
まてよ、もしかして・・・・・・。
「おまえ、職業なんだ?」
「また身の上調査か?」
「いいから言え!!!!」
 と、その時。
たぶん、私の声に驚いた赤ん坊が、泣き出した。
「バカ、あんまり大声出すから・・・」
 それから約10分、彼は父親になる。
その間も、「まさかな、まさかな」と、心の内で、そのイヤな予感をかき消そうと必死に努力する。
 だが、その努力は報われなかった。
「で、職業は?」
赤ん坊が落ち着き、今度は普通の声で言う。
「鍛冶屋だよ、武器専門でやってる」
そのまま、机に突っ伏すしかなかった。

「マジか!?」
「マジだ!!!」
 この押し問答、何回繰り返したことか。
まず、こちらが、用件を言う。
 つまり、武器を作るヤツががいない、その変わりをやってくれ、だ。
もちろん、むこうも納得はしない。
「海賊相手に武器を造れるか!!!」
 だと。
その後、いくらか交渉したが、相手は一歩も退かない。
「いいだろう、別に・・・・・・」
「いんや、イヤだ」
強情なヤツだ・・・。
「こっちも、爺が死ぬとは思わなかったからな」
「爺って!?」
「前、私たちの武器を造っていた人だ」
ふぅん、と感心したような顔になったが、すぐに真顔になる。
「とにかく、この件は絶対に受けない、以上だ」
 そう言って、立ち上がり、ドアに向かう。
─仕方がないな─
 指を弾く。
いつものように、炎を出すために弾くのではない。
 そいつを捕らえろ、という合図。
「うわっ、ちょっと・・・・・・なにしやがんだ!!!!」
 不意に現れた二人に取り押さえられるあいつ。
赤ん坊は、こちらが預かることに。
「しばらく、独房に放り込んでおけ」
「なんだよ、この、ろくでなし!!!!」
 わめきちらしながら。
あいつは、町の中に消えていった。
「やれやれだ・・・」
その時、ジェームスが戻ってきた。
「本当に、困った方ですね」
「だろう?いざとなったら、拷問にでもかけるか」
「いえいえ、あなたですよ」
「はぁ?」
 さっきと同じように、意味ありげな言葉を言うジェームス。
こいつ、何が言いたいんだ?」
「いやぁ、やはりシー・キングも女ですな」
「おい」
 ちょっとした脅しに、喉に槍先を向ける。
両手を挙げ、そうそうという顔になる。
「葬儀の用意は、誰に任せますか?」
「爺の助手をやっていたヤツがいただろう。あいつにもう、任せた」
「それはよろしいことで」
 そう言って。
ジェームスも出ていく。
「ったく、なんだ?」
 静かな部屋の中で。
爺の遺言と、さっきのジェームスの言葉の真意を探り続けるのであった。


(87)〜葬儀〜

 そして、次の日の夜、爺の葬儀が行われた。
島の住民が集まり、中央の教会から、爺の遺骨が運び出される。
 海までの一本道、その両端には、途切れることなく灯がともされそれは人の手に握られている。
そして、爺の遺骨を抱えた一団が通り過ぎると同時に、その灯を消していく。
 次々と灯は消えていき、海に行き着く頃には、そのほとんどが消えていた。
それでも、人々は、その場を一歩も動かず、ただただ立ちつくしていた。
 最後に待ち受けるのは、船の幹部と、シー・キング、ミネルバ・メグリアーザだ。
ミネルバは白い神官のような服で身を包み、来るべき棺桶を待っていた。
「海に生き、戦った戦士よ、安らかに眠れ。そなたが生き続けた海に還らん」
 そう言った後、その一団に加わり、海に歩いていく。
海に生きた者が海に還ること、それが最高の名誉だろう。
 それが、この海賊団の考えだった。
そのまま、なんのためらいもなしに海に入っていく。
 人が歩くのに限界の所まで歩み、そこから骨を流す。
骨は、夜の闇に飲まれた海に流れていく。
 誰一人涙を流さない。
武人の死に、涙は不必要。
 それも、この海賊団の考えだった。

・・・・・・・・・・セイン・アランの視点で・・・・・・・・・・

 その日も朝から最悪だった。
まさか、独房に入れられるとは思わなかった・・・・・・。
 また、娘を話された孤独感。
ほとんどが、船の中の独房と同じ構造。
 ただ一つ違うのは、鍵が開いてないことだけだ。
「ホント、ヒマだな」
 やることがない。
船は木製だが、これは石で造られている。
 窓ナシの鉄格子から、潮風が吹き抜けていく。
ここは、海からほど遠い山の上だが、潮風は届くらしい。
「あれっ!?なんだ?」
 やることもなく、暗い海を眺めていると、いきなり、灯がともった。
それは、どうやら一本の道路添いにやっているらしい。
「お隣さん、新人だね?」
いきなり、壁越しに声をかけられた。
「はっ、はぁ・・・」
「あれ、なんだと思う?」
 いまいちピンとこない。
あの光から言うと、たぶん祭りだと思う。
 だけど、歓喜の声とか、そういうのは聞こえない。
それほど遠いとは思わないがなぁ。
「わからないだだろう?ありゃ葬式だ」
「葬式!?あれが!!?」
 とても信じられない。
そういえば、あいつ、鍛冶屋のオヤジが死んだって言ってたな。
 だからって、あんな葬式、あるか?
「重役だから、ひいきってワケか」
「そうじゃない」
隣の男が語りだした。
「あの葬式は、自由参加になっているんだ。参加するしないは、本人が決めること。だから、もし、まったく、島の人間にどうとも思われていない人間は、あの灯が少なくなるんだ。逆に、尊敬されてたり、偉業を達成した戦士には、多くの灯が集まる」
「へぇ、でも、上からの強制ってことはないの?」
「虚勢を張る理由がどこにある?現に、前の腰抜け軍師の葬儀には、幹部級の男たちしか来ていなかったがなぁ」
 この町は、少し何かが違う。
そう、感じ始めたのは、今ではないが、改めて実感した。
「すると、死んだ人は、よっぽど人々に慕われていたんだろうな」
「男の価値は、死んだときに出るモノだ。なぁ」
 たぶん、あいつの以来を断った理由。
海賊、ただ、それだけの事だったんだと思う。
「灯が、消えていく・・・・・・」
「遺骨が通っていった後だよ」
 しばらくして、その灯は全て消えた。
だけど、人が動いている様子はない。
 この時、一つの疑問が浮かんだ。
「ところで、あんた誰だ?」
「俺は、依然、反乱を起こした元副船長だ」
今、なんて?
「もいっかい、言ってくれないか?」
「反乱を起こした副船長だよ」
「反乱起こした人間が、なんで生きてるんだよ!!?」
「この島には、死刑がないからだ」
 死刑が、ない。
いや、死刑のない国は、いくらか聞いている。
 だけど、海賊の町が、そうだとは・・・・・・。
「この島は自由だ、だから、人はここに安静を求めている」
「あんたは、そんな島でなんで反乱を起こしたんだ?」
「男の野望だ」
 なんとなく、好感をもてるこの台詞。
おたがい、笑い始めた。
「ずいぶんと、楽しそうだな」
 と、横からは言ったイヤな言葉と声。
どっからどう聞いても、あいつ以外に考えられない。
「船長・・・・・・」
 隣の、元副船長が言葉をこぼす。
そして、俺はおもいっきり皮肉を込めていった。
「来たか、性悪女」
「来たか、性悪女」


(88)〜だけど明日は〜

 その日も朝から最悪だった。
「元気にやってるか?」
「てめぇ・・・・」
 鍵を開け、入ってきたこいつに、くってかかろうとしたが、思わず息をのんだ。
こいつの格好─船の時のような男っぽい格好ではなく、神官のような服を着ていた─はともかく、服の上。
 顔は、化粧をしており、髪も、船の時のようにポニーテールではなく、髪を全て下ろしていた。
なんか、一気に色気ってのが出てきたような・・・・・・。
「なんだ?どうした?」
 穴が開くくらい、顔をじっと見つめていたため、不信の声を上げるあいつ。
いや、言ったら言ったで、狂ってしまいそうだ。
「いや、あっ、別に・・・・・・」
 まずいっ!!
妙にうろたえた言葉だったので、案の定、そこをつかれた。
「なぁ〜んだ?怪しいな」
 思わず目線を反らす。
それでも、疑いの視線が痛いほど突き刺さっているのだ。
「まっ、いいや」
よかった・・・。
「で、私たちの鍛冶屋になる決心、ついたか?」
よくない!!!
「つかないね」
「へぇ、さっきまで感心した様子で葬儀を見ていたヤツだとは思えない台詞だな」
「だぁっ、余計なことを!!!!」
「レン、相変わらずだな」
 焦りつつ、へぇ、レンって言うのか。
でも、反乱した男と、それを阻止した女。
 やっぱ、逆だよなぁ。
「相変わらずと言えば、船長だって。相変わらず、ショウにからかわれているんじゃないですか?」
そこを、間髪入れず。
「へぇ、日常茶飯事なことなんだ」
「うるさいよ」
 あれっ!?
もしかして、泣いてる?
「おっ、おい。いったい・・・」
「私が泣いちゃだめか?」
 そのまま、俺のベットをぶんどり、涙だけを流す。
しゃっくりとか、そんなものをせず、ただ、涙だけを。
 俺、そんな悪いこと言ったか?
心配そうに見ていると、
「爺が死んだこと、よっぽど寂しいんだろうな」
隣の元副船長、レンが言った。
「余計なこと・・・」
それだけしか言えない様子だ。
「昔っから、世話になってたからな。まだ、先代が生きていた頃なんか、武器を折りまくって、よく爺に叱られていたし。それに、先代から引き継いだ後も、不平勢力を説得したしなぁ」
「へぇ・・・」
「ヨケイなことを、喋るなと言ってるだろ」
 ありゃ、こりゃそうとう怒ってるよ。
その殺気に気付いたのか、レンも口を閉じたらしい。
「あぁ、ったく、オカシナ話だよ。部下の前では泣けないからな。ここに泣きに来たんだよ」
「そりゃあそうだよ、トップに立つ者、常に毅然とした態度で部下に望まなきゃな」
 レンが言った。
あれっ、だけど、一つ疑問。
「俺がいるのに?」
思わず、そう聞くと、
「そういや、なんでだろ・・・」
 はっ!!?
いや、なんでって言われたって・・・・・・。
「くっ・・・はっっはっはははっはははは!!!!!!!」
 いきなり、隣が笑い出した。
えっえっえっ!!!!?なんだなんだなんだ!?
「どうした?レン。死刑に刑を変えてもいいんだぞ」
「いやいや、シー・キングも女なんだなって」
 あっ、俺と同じ事言ってる。
しかし、どうも意味が違うよな。
「どういう意味だよ」
「あっ・・・ひょっとして・・・・・・」
 しばらくの沈黙。
そのうち、また爆笑が聞こえてきた。
 そんなに、おかしいことか?
「いやぁ、これじゃあ、ジェームスもさぞかし困ってるだろうな」
「はぁ!?」
 ジェームスって、誰だっけ?
ショウだったら知ってるけどなぁ。
「この、爺の命日にぃ〜」
 かなり怒っている。
そして、指を弾く。
 すると、炎が出てきて・・・・・・。
「ちょっとまて、まさか・・・」
予想通り、そのまま、ドアから火を尾にひきつつ、出て、隣に向かってる。
「おい、ちょっとまて、早まるな、なぁ」
レンの焦った声。
「おい、マジで火ィ点けるつもりか!!?よせ、娘残して死ねるワケねぇだろう?俺を出してからにしやがれ、なぁ」
「うるさい、だったら、黙って私たちの武器を造れ」
「それとこれとは話が別だろ?」
「いいや、なっちまえ。そうすれば、俺が助かる」
「あっ、殺そうか?」
「まて、冗談だ、冗談」
「大丈夫だ。一人で行かせないよ。セインというおまけがつけてやるからな」
「だ〜か〜ら〜。まだ死ねないって」
 その日も朝から最悪だった。
だけど、明日はなにかが変わりそうな気がした。


(89)〜親友と兄弟〜

「で、なんでおまえはここにいるんだ?」
 隣から、不信の声が上がった。
なんでって、言われても、ねぇ。
「そりゃあ、あいつの依頼、断ったから」
「だ・か・ら。なんで断ったんだ!!!!」
 レンの怒鳴り声が響く。
って言ってもねぇ。
 あいつの依頼が、自分たちに武器を造れだ。
やっぱ、海賊相手に武器造るつもりないし。
 その事を言うと、
「おまえ、なにをこだわってるんだ?そんなに」
 俺がこだわる理由。
あると言えば、ある。
「いちおう、約束のため、かな?」
「約束!?」
「そう、約束」
 そう、あいつとの約束が。
海賊相手に武器を造るのを拒むんだろう。
「それほど、大事か?」
「まぁ、ね」
 でも、このままでは、約束が果たせなくなる。
このままでは。
 だけど、どのみち。
果たせそうにない約束だ。
「で、どんな約束したんだ?」
 あいつからは、話すなとは言われていないし。
いいや、丁度いい暇つぶしになる。
「だいたい、あいつと結婚するまえだから・・・・・・。ちょうど、二年くらい前になるかな?」
 そうして話し始めた。
考えてみれば、他人に話すのは初めての。
 親友であり、兄姉である、あいつの話を。

 まず、俺の家族の話からしなきゃな。
あっ!?なんでだって?
 黙って聞いてろよ。
父は、騎士のエリート。
 黒の長い髪に黒い目、黒い髭だった。
母は、貴族出の箱入り娘。
 緑の髪に、緑の目をしていた。
そして、間に生まれた子供が二人。
 長男は、母によく似て、次男は、父に似ていた。
ちょうど年子だったな。
 3歳の時だったかな?両親が離婚したんだ。
小さかったけど、よく覚えてる。
 弟が泣きながら、父に抱えられていたのを。
そう、俺は母、で、弟は父に引き取られたんだ。
 14の時に、母が死んだよ。
それで、調べたところ、弟の存在が明らかになったんだ。
 それから、俺が16の時。
そん時には、もう、駆け出しの鍛冶屋として、有名なお師匠の弟子入りしていた。
 自慢じゃねぇが、俺はお師匠のお気に入りだったんだ。
そんで独立。
 お師匠のコネもあって、それなりに客が来てたよ。
それで、17ん時。
 あいつと、会ったんだ。
ちょうど、良質の素材が見つかったって情報が入ってきたんだ。
 そこが、ちょっとした都会でオークションに賭けられるって聞いたんでよぉ。
まっ、競り落とせるとは思ってなかったけど、一目見たかったんだ、イチ鍛冶屋として。
 そんときに、馬車が襲われた。
ゴブリンが5,6匹いたかな?不運にも、冒険者は一人だけ。
 だけど、その一人が一瞬で全部片付けられたんだよ。
ほんと、一瞬。
 黒の髪に、黒の目。
髭があれば、完璧にオヤジとダブってたんだよ。
 それで、一目だああって思った。
こいつは、弟だってね。
 だけど、結局話さなかった。
なんでって言われてもなぁ。
 命の恩人に「弟よ!!」な〜んて言えるわけねぇだろ?
それがきっかけで、あいつとちょくちょく会うようになった。
 兄弟としてではなく、親友として。
いろいろと武器も造ってやった。
 そして、最後に造ったのが刀だったな。
それで、しばらく会わないようにって言ったんだ。
 次会うときは、お互い、世界に名前を轟かそうって。
そして、最高の武器を造ってくれって、頼まれたんだ。
 最初は笑ってやったよ。
だけど、あいつの目をみて確信した。
 マジだって。
それで、OKしたよ。
 その時に、もう一つ約束したんだ。 あいつは、決して無意味な殺し合いをやめること。
 そして、俺には。
人を斬るための剣を造るなって。
 人を守るための剣を造れ。
それを、守るため。

「なるほど。海賊が使う剣は、殺人剣だからな・・・・・・」
レンは、納得したようだ。
「そう、だから、剣を造らない」
「でも、このまま死んだら、元も子もないぜ」
「いいぜ。約束を破るより、果たせない方がマシだ」
 ちょっと心は痛むけどな。
続けるべき言葉を飲み込んで。
「いい心がけだ」
レンも、そこで黙った、かに見えた。
「で、その、おまえの弟の名前は?」
「親友だよ」
すると、笑ったみたいだ。
「じゃ、言い直す。その、親友の名前は」
 そして、言葉を発した。
その、名前を。
「ゼフ・ラグランジュ。もしかしたら、シー・キングの討伐隊に加わってるかもな」
 笑いながらそう言った。
だけど、これは冗談じゃないんだよな。
「俺が大陸に渡ったとき、探してやろうか?」
「えっ!!?」
 ちーっとまて。
どういう意味だ!?
「1年の拘束、そして、大陸送り。それが、俺の刑だ」
「んじゃあ、いつ、大陸に?」
「あと、一週間だ」
 そっか。
なんか、先に出所する、仲間を見送る気分だな。
「今日は喋りすぎたな。おやすみ」
「あぁ」
 レンにも黙っていることがある。
あいつの依頼を断るたびに、胸が痛むことを。
 それが、何を意味しているのか。
それを知っているから、なおさら困っているのだ。

「そっか・・・・・・」
 ちょうど、そのころ。
壁越しに、一人の女が。
 泣いていた。


(90)〜一つの決断〜

・・・・・・・・・・ミネルバ・メグリアーザの視点で・・・・・・・・・・

 その日は、一日中悩み続けた。
あいつの、過去を聞いて。
「どうすりゃ、いいんだろうな・・・・・・」
 爺がいない今、どうしても武器を造る人間がいる。
しかし、あいつは、決して武器を造らない。
 それが、友人との約束であるから、尚更だろう。
どうすれば、この二つの悩みを解決できるのだろうか?
 そもそも、なんであいつの事で悩むのだろう?
鍛冶屋が必要、でも、あいつの私情で悩むことはないハズだ。
 拷問にでもかけて、従わせればいい。
何度も、そんな衝動にかられて、でも、後一歩でとどまった。
 人を傷つけることなんか、どうとも思ってなかったハズなのに。
「珍しい、悩み事か?」
「ノックぐらいしろよ。女の私室だぞ?」
 入ってきたのは、ショウ。
やれやれ、こんな時に、なんでこいつの相手なんか・・・・・・。
 とにかく、ベットに寝ている。
あいつの娘を起こさないようにしようか。
「頭をつかうのは、いつも戦術か、兵器開発の時だけだからな」
 たしかに、そうだ。
まだ、シー・キングのあだ名がつく前は、小舟を使った陽動作戦、大きな船には、船底を破る戦法などをやっていた。
 兵器開発は、空気抵抗を少なくする大砲の玉の開発。
さらには、回転式連発銃の開発もやった。
「性分だ、しかたないだろ?」
「それに、少しくらい女らしい格好でもすればどうだ?素でいれば、それなりにルックスいいだろうに」
おもわず飛び退いた。
「なんだよ・・・・・・」
「いや、おまえの口からそんな台詞が飛び出すとは思わなかったから・・・・・・」
 ほっとけ、みたいな顔をする。
だけど、そんなこいつを見るのも楽しい気がする。
「ちっ、せっかく、人が名案を持ってきたのによ」
「あっ、わるかった。あやまるよ」
 こういうときのこいつが、一番頼りになる。
伊達に参謀長じゃない。
「あいつを、大陸に行かせたいんだろ?」
「なっ、何言ってるんだよ!!!!」
 おもわず、声がうわずる。
そう、したいのか?私は。
「しかし、せっかく手に入れた鍛冶屋を手放すのは、もったいないしなぁ」
「それが、悩みだ」
「だったら、その技を伝承させればいいだろ?」
しばらく、その言葉を頭の中で反芻する。
「あっ!!そうか!!!」
「長時間滞在ができないなら、一冊の本にまとめさせる、な!?」
「ショウ、おまえ、偉い!!!」
思わず抱きしめると、
「とっとと行って来い!」
 と、押し返された。
ったく、人の好意を・・・・・・。

・・・・・・・・・・セイン・アランの視点で・・・・・・・・・・

「ホント、どうなっちゃうんだろうな・・・・・・」
 このまま、この島で死ぬのだろうか?
仮に、脱走をはかっても、この島の地理もロクにわからないんだ。
 それに、海岸までついて、船が手には入っても、航海術のこも知らないんだ、漂流するのがオチだ。
「なぁ、レン」
「なんだ?」
「普通、俺みたいなヤツの末路は?」
「たいがいが、拷問にかけられるな。だけど、おまえさんはそうはならないだろう」
「どうして?」
「自分の胸に聞いてみろ」
 悪いことをしているワケじゃないよなぁ(いや、向こうから見れば悪いことか)
だったら、いいことしたから、拷問ナシか?
 でも、いいことした覚え、ナシ。
「ねぇな」
「鈍感が」
 いや、鈍感って、あんた。
やっぱ、悪いこと、したのかな?
「っと、大将の登場だ」
レンの声と同時に、あいつが登場。
「なんだ?今日は」
 そういえば、珍しく昨日は来なかったな。
もし、この言葉を言ったら、なんだか、あいつが壊れそうな気がした。
「最後の選択だ」
「運命の決断、ってところかな?」
 からかうように言った。
だけど、相手はマジだ。
「一つ、武器を造ることにする。二つ、誰かに武器を造る技術を伝授する。三つ、技術を本に記す。四つ、死ぬ。どれか選べ」
 さて、どうしたものか。
こんな選択、最初からやらせろよ。
「一つ質問。二と三の場合、島を出れるのか?」
「もちろんだ」
しかたがないか・・・・・・。
「三だ」
「へぇ」
 相手の感心したような声。
まぁ、一番これが賢いだろう。
「とにかく、そうするから。紙をいっぱい持ってきてくれや」
 返事もなにもせずに。
ヤツは去っていった。
「ったく、二人揃って鈍感だな」
「はっ!?」
 まったく、さっきから何を言っているのだろう?
とにかく、島を出れるならそれでいい。
その夜、俺は徹夜で書きまくった。


 1999年9月20日(月)21時33分〜10月6日(水)20時27分投稿の、PIECEさんの長編「闇を知る者」(81〜90)です。

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