第九十一話〜第百話

第九十一話「モンスター」

  お茶を飲み終わった俺達は、通路を歩いていた。通路を少し歩いていると、左方
向の壁に扉が、そして、前方は壁があるだけ。
  どうやら、扉に入れって事だな。まあ、言われなくても入っているだろうがな。
「ん〜と、罠はねぇな」
  俺は、扉を調べ終わると、ゆっくりと扉を開ける。
  そこは、またしても部屋の様だった。だが、辺りは全く何もない様だった。左の
壁に扉の様な物が何とか見える。薄暗くて、ハッキリと見えねぇが、多分、あれは
扉だろうな。
「変な感じがするから、早くここは出た方がいいわい」
  ディト爺は少し警戒しながらそう言うと、俺は扉の方へと歩いて行った。
「進入者発見!  進入者発見!  ただちに排除する!  警戒システムレベル一を作
動させます」
  突然、変な声が聞こえて来たかと思うと、床から槍の様な物が飛び出して来た!
「うわっと!」
  素早く身を反らし、その槍らしき物を回避する。
「ぬお〜!」
  ディト爺の声があの扉の前から聞こえて来る。見ると、ディト爺も槍の様な物を
必死に避けている。
「ディト爺!  何とか持ちこたえろ!」
  そう言うと、俺は扉へと急いだ。
「警戒システムレベル二を作動させます」
  突然、顔に水の様な物が当たった。素早く上を見上げた刹那、大量の水が天井か
ら一気に放出され、部屋は水が物凄い勢いで溜まって行く。
「そうじゃ!  これがあったのじゃ!」
  突然、ディト爺は大声で叫ぶと、袋から何か小さなコップの様な物を取り出した。
「これは、『水吸い取り、いや〜ん、飲み過ぎちゃった〜!  でも、胃もたれはし
ないんじゃよ〜ん君』じゃ!」
「いいから、早くどうにかしろ!」
  水は、俺の腰の辺りまで溜まって来ていやがる。とにかく時間がねぇ!
「まかせんしゃい!」
  ディト爺は、そのコップを水の中へと投げ込んだ。その刹那、水は一気に減って
行く。しばらくすると、水は完全とは言わないが、殆どなくなってしまった。
「こ、これは凄いな」
  俺は驚いてコップを見た。
「警戒システムレベル三を作動させます」
  その言葉と同時に、部屋の中央から、何か変な生き物が現れた。いや、正確に言
えば、床に少し溜まっていた水から現れたってのが適切だな。
「む!  あれは、合成洗剤ザブ!」
「いきなり訳のわかんねぇ事を言ってんじゃねぇ!」
  素早く走り、ディト爺を思いっきり殴った。
「いや、そうではなくて……。あれは、ラディリウスというモンスターじゃ!」
「ラディリウス?」
  そんな呑気な事を言っていると、モンスター口から水の様な物を飛ばして来た。
寸前の所で避けてそこを見ると、壁には小さいながらも、かなりの穴が空いていた。
  よく目を凝らしてそいつの姿を見てみるが、いつの間にかいなくなっていた。
「な、なんだよ、こいつは……」
「奴は、口から強力な溶解液を出すのじゃ。身長は、約百六十センチ程じゃ。奴の
特徴は、水と同化する事が出来るのじゃ。つまり、水は奴の隠れ場所なのじゃ」
  辺りを必死に見まわして奴の姿を探すが、全く見付からない。
  一体何処に行ったんだ?

第九十二話「見えない!?」

  辺りを見回し、気配を感じ取ろうとした。だが、辺りからは水音しか聞こえて来
ねぇ。
「気を付けるのじゃぞ。奴の体は水と同じ成分で出来ておる。更に、姿を変える事
が出来るのじゃ。巨大なゴーレムになる事もあれば、スライムになる事もある。一
番厄介なのが、近くにいる者の姿に変える事じゃ。そうなれば、同士討ちという事
もありえる」
  俺は、パチンコを取り出すと、なんとか残っていた石ころを取り出す。
  それを持って構えると、辺りを見回す。
「ディト爺、銃は修理出来そうなのか?」
  辺りを見回しながら、ディト爺に聞く。
「う〜む、少し調べたのじゃが、魔力装置が壊れておるわい。これをさっき見せた
靴の大気中に散らばる魔力を集める事が出来る装置を取り付ければいいのじゃが、
それを取り外して銃に付けるには、少し時間がかかるわい」
「なら、早くやってくれねぇか?」
  そう言うが、ディト爺は動こうとはしなかった。
「駄目じゃ。水などが魔力装置に直接触れると、水が魔力を通す水晶の代わりとな
り、水に魔力が注がれるのじゃ。この魔力装置は、魔力を集め、その力をある一点
に注ぐのじゃ。その魔力が再び大気中に戻れば問題はないのじゃが、もし、水の様
な物に魔力が注がれると、魔力は逃げ場がなくなり、巨大な爆発を起こすのじゃ」
「つまり、水があると、それに魔力が入って行き、逃げ場のなくなった魔力が暴走
するって事なのか」
  まったく、このここでは銃は治せないのか。それじゃ意味がねぇんだよな。あい
つをどうやって倒せばいいんだ?
  再び辺りを見回す。すると、部屋の奥の方で何かが動いているのが見えた。
「あれは……?」
  パシャッ!
  突然、水の音が何処からか聞こえて来る。それと同時に何かが目の前にやって来
る。
「ギャァァァァァ!」
  何かの叫び声が部屋中に響きわたったと同時に、俺の体は激しく壁に打ち付けら
れた。更に、みぞおちを何者かに激しく殴り付けられる。
「ぐはっ」
  更に、何者かに腹を殴られる。
  辺りにはディト爺以外には誰もいねぇはずだ。いるとしたらあのモンスターだけ
なんだが、姿が見えねぇ。何処にいるのか全くわからねぇ。
「ぐっ」
  また何者かに腹を激しく殴られる。そして、何もない所から、そう、丁度俺の目
の高さと同じ所から一瞬水が不自然に浮いているのが見えた。それを見て素早く体
を反らした刹那、宙から水が放出された。体を反らしていた御陰でなんとか避ける
事は出来たが、再び水が不自然に宙に浮いている。
「やっべぇ!」
  素早く走り出すと、ディト爺の元へと走った。

第九十三話「再び…」

  俺は必死になってディト爺の元へと走ったが、その途中、体が何故か止まってし
まった。更に、腹を激しく殴られる様な痛みが。
「ぐっ!」
  また殴られる。そして、また……。
「気を付けるのじゃ!  奴は姿を消す事も出来るのじゃぞ!」
  そんな事はわかってんだよ!  何か弱点を……。
「グギャァァァァァァ!」
  突然、近くからモンスターの叫び声が聞こえて来たかと思うと、次の瞬間、俺は
水の少し溜まっている床へと叩き付けられていた。
  体が重く、思うようには動かない。それに、頭がやけに痛い。怪我でもしたんだ
ろうな。もしかして、俺はこのまま死んじまうのか?  あのモンスターに殺られて
しまうのか?
「斗菟剣技・風陣!」
  突然、ディト爺が剣技を放った!
  パシャ……。
  辺りには水が跳ねる音が響く。
「ふむ、早く立ち上がるのじゃ!」
  ディト爺が急かす様に言う。俺は頭の痛みを堪えながら立ち上がる。立ち上がる
と、俺はディト爺を見た。
「いつつ……。ディト爺、やったな。これで、先に進め……うわっ!」
  再び体を激しく殴られる。
「くそっ!  陰険なやろーだぜ!」
「ごちゃごちゃと言っておらんで、早くこっちに来るのじゃ!」
  急いでディト爺の元へと駆け寄ると、俺は壁にもたれ掛かった。だが、ディト爺
はそんな俺をお構い無しで袋を探っていた。
「頼むから、薬をくれ……。頭が痛てぇんだ」
  だが、ディト爺は適当そうに薬を俺に渡すと、「早くその薬を頭に塗るのじゃ」
と言って、再び袋を探り出す。
  俺はその薬を頭に塗ると、再び辺りを見回す。
「ふむふむ、あったわい」
  そう言ってディト爺が取り出したのは、一冊の分厚い本だった。何の本なんだと
聞こうとしたら、本に『モンスター究極百貨店・作ディト爺』と書かれていた。
「ふむふむ、あったわい。あやつの弱点はじゃな、体の何処かにコアがあるはずな
んじゃ。姿が見えた時、奴のコアが見えるはずじゃ。もしくは、雷属性の魔法じゃ
な。コールドの魔法じゃと、奴は簡単にそれを防いでしまうそうじゃ。じゃから、
儂等に残された方法は、直接攻撃によってコアを破壊する事じゃな」
  ディト爺は、袋に本をしまうと、辺りを見回す。
「ところでよ、剣技が使えるんなら、それを使って倒せばいいじゃねぇか?」
「ところがじゃ。儂の剣技の中には、雷属性の攻撃がないのじゃ。風などはあるの
じゃがな」
  ディト爺は、ふうっ、と軽くため息をついた。
  まったく、役に立つやら立たないやら……。
「グジャァァァァ!」
  突然、目の前に巨大な犬が現れた!
「で、これはなんだ?」
「ふむ、可愛いワンちゃんじゃ」
  ドゴーン!
  その刹那、その巨大な犬は尻尾で俺達を叩き潰そうとした。素早く避けると、体
が少し変だった。いや、体が自由に動かないんだ。
「ふにゃ〜!」
  突然、俺は俺でなくなった。体は猫化し、全ては猫となる。しなやかな動きで巨
大な犬の攻撃を避け、そして、その犬を引っかく。
  一見すると、俺は単なるやばい人物だが、それは猫の呪いのせいだ。犬を見た事
により、敵対心を持ったのだろう。
「猫ちゃん!  ファイトじゃ〜!」
  ディト爺は、俺ではなく、猫に対してエールを送っていた。
  これでいいのか、俺の人生は……。

第九十四話「剣」

  体は猫の呪いによって猫の動きをしている。犬の形をしたモンスターを引っかき、
そして蹴り。攻撃を食らいそうになっても素早い動きで難なく避ける。
  犬の姿をしたモンスターの姿を見るが、コアらしき物が全く見えねぇ。奴の体は
透けてはいない。水のモンスターだから、体は透けているものだと思っていたが、
俺の勘違いなのか?
  俺はそんな事を考える。そして、体は勝手に巨大な犬を攻撃する。
「駄目じゃ!  全く効果がないわい!  コアを狙わん限り、奴は倒せんわい!」
  でもよ、コアなんて全く見えねぇじゃねぇか。一体どうすればいいんだよ!?
「グギャァァァ!」
  突然、モンスターが叫ぶ。その刹那、モンスターの姿は水に溶けて消えていく。
  それと同時に、俺の体は猫の呪いから解放された。やっと体の自由になったとこ
ろで、俺はディト爺の元へと向かった。
「ディト爺!  なんとかならねぇのか!?  これ以上奴を暴れさせていたら、俺達が
死ぬのはわかりきった事じゃねぇか!」
  俺がディト爺に必死にそう言っていると、背中を激しく殴られた様な痛みが襲う。
「ぐっ!」
  更にまた殴られる様な激しい痛みが……。
「……仕方ないわい。こいつだけは使いたくなかったのじゃが……」
  俺が殴られ続けている間、ディト爺は袋を探り出す。そして、ディト爺は袋を探
る手を止めると、ゆっくりと何かを取り出す。それは、雷光の様な輝きを放つ、不
思議な剣だった。刀身がゆっくりと袋から出てくると、その剣を上に向かって軽く
振った。それと同時に、剣から雷光の様な物が天井に向かって流れ出る。
  すると、背中を殴りつけていたモンスターの動きが止まった。いや、正確にはわ
からねぇが、動きが止まったというより、逃げたのかもしんねぇな。
  俺はかなりの痛みのある背中をさすりながら、ディト爺に近寄る。
「こいつは……?」
「これは、儂の作った発明品の中で最高の出来にして、最悪の物じゃ」
  ディト爺は珍しく暗い表情をしていた。
「この剣の名は、『エレキテル・ソード』と呼ばれているのじゃ。そして、正式名
は『ブレイヴァス・ブレイド』じゃ。雷の力が込められていて、振るだけでもその
力は発揮される。この剣を使えば、奴を倒す事は出来るじゃろう……」
  ディト爺はゆっくりとその剣を俺に渡した。
「人殺しの道具を作るというのは、大きな責任が必要じゃ。じゃから、この剣を作っ
た後、儂は人殺しの道具を二度と作らんと誓ったのじゃ。もし、作ってしまう事が
あれば、死を持って償うと……」
  それは、いつものディト爺じゃなかった。真面目で、本当に偉い人物だっただろ
うと思わせる程だった。
「問題は一つじゃ。儂等の足元には少量ながらも水が溜まっている。もし、剣を使
い、奴を倒す事が出来たとしても、奴が床の水に接していた場合は儂等も確実に死
ぬ事となるじゃろう。剣の威力は計り知れない物じゃ。十分に気を付けて使うのじゃ
ぞ」
  ディト爺はいつになく真剣な表情だった。俺はディト爺の肩を軽く叩くと、にや
りと笑った。
「なーに、心配すんなって!  大丈夫だって。ディト爺は、あの吸盤を使って上の
方に逃げておいてくれ。俺には吸盤を一つだけ渡しておいてくれ」
  そう言うと、ディト爺は吸盤を三つ取り出すと、一つを俺に、そして、残りの二
つはディト爺が手に付けた。
「失敗するでないぞ……」
「大丈夫だって言ってんだろ」
  俺は、吸盤を左手に付けると、部屋を見回した。見たところ、奴の姿はまだ見え
ねぇな。さあ、何処からでもかかって来やがれ!
  剣を持って構えると、耳をすました。

第九十五話「雷光」

  辺りを見回し、奴の姿を探す。だが、全く姿が見えねぇ。
「奴が姿を現すという事は少ないわい。耳をすまし、奴の動きを水の音で聞き取る
のじゃ!」
  ディト爺が天井からアドバイスを言う。
  確かにそうかもしんねぇが、全く水の音が聞こえねぇんだよな。
  突然、ピチャッ、と水の音が辺りに響く。更に、ピチャピチャと聞こえて来る。
「右じゃ!」
  素早く右を向いて、水面を見ると、そこから波紋が広がっている。
「死にやがれ!」
  素早く後退して壁に近付いて、剣をその方向に向かって剣を振る。その刹那、剣
から輝く雷光が出てくる。その輝きは、一瞬のものだったが、確実に奴に当たった
事がわかった。何故なら、奴の姿が一瞬だけだが見えたからだ。不気味な牛の頭に、
体は何か変な牙の様な物がいくつもある。そして、その体の中央辺りにある牙の一
つは、ほのかに青白く輝いていた。
素早くジャンプして壁に手の吸盤をはり付けた。そして、奴がいる
と思われる所を見た。だが、既に姿は見えなくなっていた。
「グギャァァァァァァ!」
  突然、奴の叫び声が聞こえて来た。その刹那、俺の背中を何者かに激しく殴られ
た。更にまた……。
「くそっ!」
  俺は壁から吸盤を外すと、床に着地する。
「む!  そうか、奴のコアは直接狙わん限り、破壊する事は出来んのじゃったわい!
奴のコアは、ガラスの様に凍らせようとも熱しようとも全く効果はないのじゃ。そ
して、魔法は全く効かんのじゃ。奴のコアは、直接攻撃のみしか効かんのじゃ!」
「なんでそんな大切な事を今頃言うんだよ!」
  俺は思いっきりディト爺を怒るが、ディト爺は「すまんすまん」と言っている。
「実はじゃな、ついさっき思い出したところなのじゃよ。爺チャンとの結婚権利を
上げるから許して欲しいの〜」
「そんな物いるかよ!」
  俺は素早く剣を振り、雷光がディト爺を襲う。だが、ディト爺は驚異的な速度で
移動して雷光を避ける。そして、雷光はディト爺が数秒前までいた所を破壊する。
いや、一瞬だったな。あの移動速度は尋常じゃねぇ。
「何をするのじゃ!  儂でなければ死んでいるところじゃぞ!」
  ディト爺、お前は人間を超越している……。
  そんな事を思いながらディト爺を見ると、素早く辺りを見回した。
「奴のコアだけを狙えって言われても、奴の姿が見えねぇってのがどうもな……」
  いつまで経っても奴の姿は見えねぇ。一体どうしたら……。
「さっきの様にすれば、奴の姿が見えるはずじゃ」
  つまり、剣で奴に雷光を浴びせれば、姿が見えるって事か。
  俺は素早く辺りを見回し、耳をすました。

第九十六話「闇を斬る」

  辺りを見回し、そして耳をすまし、奴の動きを掴もうとする。だが、奴の動く気
配は全くない。
  一体どうすれば奴に雷光を浴びさせられるんだ?  奴が動くのを待っていたら、
いつになるかわかんねぇ。かといって、俺が下手に動けば奴の餌食となっちまう。
「下を見るのじゃ!  そうすれば、奴を見付けられるはずじゃ!」
  下だって!?  どういう事だ?
  俺は下を見る。だが、そこには水が広がっているだけだ。奴が動かなければ波紋
は広がらねぇしな。いや、待てよ……。
「そうか……」
  俺は腕に付けている吸盤を確認すると、壁による。そして、剣を上に向けて構え
る。
「さあ、とっとと姿を現しな!」
  その剣を床に溜まっている水に向かって振り付けた刹那、俺は素早くジャンプを
して吸盤を壁に付けて足が水と接しない様に張りついた。
「グアァァァァァァ!」
  突然、部屋中にモンスターの叫び声が響き渡る。部屋の中を見回すと、俺から数
メートルぐらい離れた壁の近くで雷光に打たれて奴の姿の見えている。少しすと、
その姿は闇へと消えていく。
「そこか!」
  奴に向かって剣を振り、雷光が奴に襲い掛かる。そして、奴はまた姿を現す。場
所とコアを確認すると、俺は壁に張りついている吸盤を壁から外して一気に走り出
す。
  奴の場所を再度確認する為、床の水に向かって剣を振って、素早く壁に張りつく。
「グギャァァァァ!」
  またも叫び声が部屋中に響き渡る。場所は、俺の殆ど目の前だ。
  壁から吸盤を外すと、姿の消えかかった奴のコアを睨み付けると、剣を奴のコア
に向かって振り落とす。
「死にやがれ!」
  思いっきり力を込め、剣を奴のコアに向かって振り落とすと、既に姿が消えてい
た。一瞬、外れたかと思ったが、剣は何もない闇で止まっていた。そして、剣は確
実に奴のコアを捕らえていた。
  少しづつ奴の姿が見えてくる。剣は闇に溶けていたコアを確実に破壊していた。
牙の形をしてコアは、今や欠けていた。奴はその欠けてしまったコア見て、絶叫し
ながら倒れ、姿は闇の中へと消えていった。
「やったな……」
  俺は安心した様に呟いた。
「そうじゃな。奴も死んだ事じゃし、早くこの部屋から出るかの」
  俺とディト爺は、ようやくこの部屋から出る事となった。そして、俺達は扉の前
に来ると、俺がいつものように罠がないかを調べる。罠がない事を確認すると、そ
の扉を開けて先に進む事となった。

第九十七話「宿敵」

  扉を開け、進んだ先にはまたしても通路があった。そこで、ディト爺は銃の修理
をする事にした。俺は、あの剣を鞘におさめ、通路の端に方で寝転がっていた。
「ディト爺、いつ頃に修理が終わりそうだ?」
  隣でディト爺が銃の修理をしている。ディト爺の表情は別にいつもと変わりはな
い。この分だと、すぐにでも終わるだろうな。
「ふむ、そうじゃな。これぐらいじゃと、すぐにでも終わるわい。何、一時間もあ
れば直るわい」
  一時間か……。しばらく寝させてもらうか。
「ディト爺、修理が終わったら起こしてくれ。俺はしばらく寝ているからよ」
  そう言って、俺はゆっくりと目を閉じた。そして、いつの間にか眠っていた。
「ほれ!  早く起きんか!  修理が終わったぞ!」
  ディト爺の声が辺りに響く。どうやら修理が終わった様だな。でもよ、まだ少し
眠いんだが……。
「早く起きんと『爺チャンすぺしゃるむにゅむにゅいや〜んいや〜ん』をやるぞ」
「止めんか!」
  その言葉に反応して、素早く起き上がると、ディト爺を殴り倒した。
  だが、ディト爺はにやりと笑っているだけだった。
「ふふふ、そんなに照れんでもいいわい。ここでは爺チャンと二人っきり……」
「気色が悪るいんだよー!」
  思いっきり殴り飛ばすと、俺は大きくため息をついた。辺りを見回すと、通路の
奥の方には扉がある。その扉に向かって歩き出すと、ディト爺も続いて歩き出した。
  扉の前に来ると、その扉を調べた。扉に罠がない事がわかると、扉をゆっくりと
開けた。中に入ると、そこは、また何も無い部屋だった。その部屋の中央辺りには
人影が見えた。
「誰だ!?」
  俺はその人影に向かって大きく叫ぶ。すると、その人影は少し動いた。
「ようやく来た様だな。随分待たされたよ。トラップ君、ディトルム君」
  その声には、少しながら覚えがあった。そう、こんかいの事件に関わっているあ
いつの声に。そして、俺がこんな所に来る事となった原因を作った奴。
「メレンゲ!  てめーだって事はわかってんだよ!」
  メレンゲに向かって叫ぶと、奴は少しづつ俺達に近付いて来る。そして、何とか
奴の姿が確認出来る程までに近付いて来ると、奴は歩みを止めた。
「たいした物だ。まさかここまで来るとは思ってもいなかったよ。まあ、それこれ
も、
ディトルムがいたからだろうがな……」
  奴はディト爺の方へと視線を向けると、にやりと笑う。
「さあ、剣を渡して貰おうか。あの剣は私達の手元にあってこそ力が発揮されると
いう物だ」
「嫌だと言ったらどうするつもりじゃ?」
  ディト爺は真剣な表情で奴を睨んでいる。
「それは、君達の死を意味する」
  奴は笑いを消すと、剣を抜き放った。そして、その剣の先を俺達に向けた。
「さあ、どうする?  大人しく剣を渡してくれるか?」
  だが、ディト爺はそんな奴を見て、にやりと笑った。まるで、馬鹿にするかの様
に。
「ふふふ、爺チャンの力、みくびっては困るわい!」
  そう言うと、ディト爺は一気に杖に手を掛け、構える。
「斗菟剣技・水陣!」
  その刹那、床から大量の水が噴き出して、奴に襲い掛かった。

第九十八話「対決」

  ディト爺の放った剣技が、床から大量の水を呼び、それがメレンゲに襲い掛かっ
た。だが、奴は素早く避けてみせた。そして、にやりと笑う。
「ふう、馬鹿な真似は止めてさっさと剣を渡せというのがわからないのか?」
  奴は余裕の表情を浮かべている。更にはにやにやと笑っていやがる。
「だから、渡す気はねぇってんだよ!」
  そう言って、素早く後退すると、あの剣を鞘から抜き放ち、少しは慣れた所に広
がる水に向かって振り落とす。その刹那、剣から雷光が飛び出る。そして、その雷
光は床に広がる水に命中する。そして、その水に立っていた奴は素早く反応して既
にそこにはいなかった。
  辺りを見回すと、奴は床に水の広がっていない場所に立っていた。
「ほお、雷光の出る速度は悪くはないな。飛び道具として使え、また直接攻撃にも
向いている。これぐらいだと、我が兵の二十人分の力はあるな。まあ、使いこなし
ていればだがな……」
  奴は俺の持っている剣に視線を合わせる。
「君にはまだ使いこなせていない様だな。それに、剣を振るのに時間がかかってい
る。それでは剣の力が十分に引き出せないな」
  すると、奴はまたにやりと笑うと、持っていた剣を鞘から抜き放ち、俺にゆっく
りと迫って来る。
「重いのは苦手でねぇ。剣ってのはどうしてこうも重いのやら」
  俺はにやりと笑うと、剣を奴に向かって振る。その刹那、雷光が剣から飛び出た。
だが、既に奴は俺の目の前にはいなかった。
「遅い……」
  その異様な殺気を後方で感じ、素早く後ろに振り向いた。そこには、奴が立って
いた。
「ほれほれ!  爺チャンスペャルいや〜んなパンチ!」
  突然、ディト爺が変な事を言い出したかと思うと、後方から手が飛んで来る。素
早くそれを避けると、それは奴に見事に命中する。だが、奴にはあまり効いていな
い様子で、にやにやと笑っている。
「それだけか?」
  挑発するかの様にそう言うと、ディト爺が再び怪しげに動き出す。
「こいつでとどめじゃ〜!  爺チャン足臭カッター!」
  今度は、足の形をした物に刃が付いた物が物凄い勢いで飛んで来る。それを避け
ると、奴もまた軽く避けてみせる。
「ふふふ、爺チャンを本気で怒らせた様じゃな。爺チャンスペシャル!  猫猫スペ
シャルふにゅ〜んふにゅ〜ん!  これ以上は絶えれらない〜ん!」
「いい加減、変な事をするのを止めねぇか!」
  思いっきりディト爺を殴り付けると、ディト爺に剣を預けてさっき修理が終わっ
たばかりの銃を受け取った。そして、奴の方を見る。
「ふん、剣を扱い難いから銃に武器を代えたか。まあ、それでも結果は決まってい
るがな」
「ああ、そうだな。俺達の勝だって結果がな!」
  そう言うと、俺は素早く銃を構える。

第九十九話「消えた?」

  俺が銃を持って構えた刹那、ディト爺が杖に手を掛けて構える。
「さあ、かかってきな!」
  すると、メレンゲは薄く笑む。
「馬鹿が、素直に剣を渡せばいいものを」
「けっ!  馬鹿はてめーの方だぜ、素直にそのままくたばれ!」
  素早く銃の上のボタンを押そうとしたが、そこにはボタンがない。多分、ディト
爺がボタンを取り外したんだろうな。このまま引き金を引けばいいって事だろうな。
そして、銃の引き金を素早く引く。その刹那、銃から物凄い膨大な力が発せされる。
  それは、肉眼でも見る事が出来た。青白いイナズマの様に見える。それは、奴に
向かって一直進に飛んで行く。それは、一瞬の出来事だった。
  ゴゴゴゴゴゴ……。
  その力が、何処かにぶつかった様で、床が音を立てて揺れる。
  奴のいた場所を見るが、奴の姿は何処にもなかった。
  どうやら、外れたらしいな。当たっていたら、血が辺りに飛び散っているはずだ
が、全く見当たらねぇ。
  ディト爺は、まだあの構えをしたままで制止している。
「無能者が……。そんなに死に急ぎたいというのか」
  辺りに奴の声が響いた刹那、床が微かに揺れる。もしかして、こいつは……。
「ディト爺!  何処でもいいから逃げろ!」
  俺が大きく叫ぶと、ディト爺が、少し状況がわからないながらも走り出す。続い
て俺も走り出す。その刹那、俺達がさっきまでいた床から、勢いよく水の様な物が
飛び出す。
「ほお、よくわかったな。それに当たっていれば、今頃体は溶け出しているだろう
な」
  奴は、いつの間にか俺より少し離れた壁際にいやがった。
「こんな簡単な罠で俺様を殺そうなんて馬鹿な話だぜ。右足からは振動が伝わった
が、左足からは振動は伝わらなかった。そして、その時、右足は少しずらして遠く
の方にあった。体の中心となる位置よりずれていたという事になる。そして、それ
からわかる事は、罠は俺の体の中心を目掛けて攻撃するタイプの物であるって事だ」
  すると、またしても床が微かに揺れる。
「ディト爺!  逃げろ!」
  またしても床の罠が作動した。だが、寸前のところでディト爺と俺は避ける。
「いい加減、姿を現してはどうじゃ?」
  ディト爺は、奴の目の前まで行くと、そう言った。
  どういう事なんだ?  奴はあそこにいるじゃねぇか。
  そんな事を思っていると、突然、奴の姿が一瞬にして消えてしまった。それは、
まるで消えたというより、闇に隠れたという方がいいかもしれねぇ。俺の目の前で
奴は消えたんだ。何処にも逃げ場はなかったはずなのに……。
「ふっ、少しは頭が良いな」
  何処からか声が響き渡る。一体何処から聞こえて来るんだこの声は?  もしかし
て、逃げたのか?  それなら早く捕まえねぇと。こんな所で奴を逃がす訳にはいか
ねぇんだ。
  素早く走り、ディト爺に近寄る。
「ディト爺、奴は何処に行ったんだ!?」
「ふむ、逃げられた……。と言うより、元からここにおらんかったという方が正し
いの」
  ここにいなかった?  どういう事だ?
  俺は、色々と考えるが、答えは見付からなかった。
「どういう事だ?」
「つまり、自分に似せた何かを作り出し、ここに送ったのじゃ。多分、この水じゃ
ろうな。奴が消える時、水が床に広がって行ったからの」
  水を自分に似せて、ここに送り込んだだと!?  つまり、あいつの暇潰しの為に、
俺達は戦っていたって事なのか?
  だが、これ以上ここにいても仕方がねぇな。今はあいつの事を考えるより、先に
進むのが先決だな。
  俺は少しイライラしながらも、辺りを見回し、扉を捜した。

第百話「水」

  辺りを見回し、扉が何処にあるかを調べる。すると、扉は部屋の隅の方にあった。
  俺とディト爺は、早速その扉へと向かう。扉の前に来ると、その扉に罠がないか
を調べる。すると、罠じゃねぇんだが、扉の下方に、何かの通り道みたいなのがあ
る。それは、押せば簡単に開く。怪しいが、別に罠という訳ではねぇしな。
  それを気にする事なく、また扉を調べる。そして、扉に罠がない事がわかると、
すぐに扉を開けた。扉を開けて先に進んで行くと、そこは通路だった。
  真っ直ぐと伸びた通路をしばらく進んで行くと、前方に扉が見えて来た。その扉
に罠がないかを確認し、そして、罠がなし事がわかると、すぐに開けた。
  だが、少し気がかりだったのは、その扉にもあの謎の通り道があった事だ。もし
かしたら、何かの罠があるんじゃねぇだろうな……。
「ふふふ、深刻な顔をしている時には『いや〜ん、深刻な顔なんていや〜ん、だか
ら、一生ばか笑いな顔になっちゃえ〜ん、五百二十五号ちゃん』じゃ!」
「その前の五百二十四作品はどうしたんだ〜!」
  ディト爺を思いっきり殴り飛ばすと、俺は先へと進もうとした。だが、一歩踏み
出した瞬間、足元がなかった。
  落とし穴だったのか!?
  そう思いながら、下を見ようとしたが……。
  バシャーーン!
  俺は水でずぶ濡れになった。辺りを見回すと、水があるだけだ。どうやら、落し
穴じゃなくて、このまま水のある所を進ん行くしかねぇ様だな。
  ディト爺も水の中へと飛び込み、先へと進む事となった。
  しばらく泳いでいると、前方に床らしき物が見えてくる。どうやら、あそこに行
けって事だな。
  そして、泳いでその床まで辿り着くと、その床に乗った。その床は、まるで区切
る様になっていて、左右の壁まで続いている。よく見ると、この床から先は、水が
全くない所がある。そこは、ここから約十メートルの高さはあるな。まるで、巨大
な穴だな。ここから先の侵入は一切許さない様に作られた様だな。ここに水が入っ
ていったら、先に進めるんじゃねぇか?
  そんな事を思いながら下の方を見いると、突然、そこの壁から水が出てくる。
「ふむ、どうやら、これが水を出すスイッチの様じゃな」
  右方向で、ディト爺が壁に向かってそう言っている。多分、そこにスイッチがあっ
たんだろうな。
  何気なく後ろを見ると、後ろ側にあったはずの水がどんどん無くなっていく。
「どうやら、スイッチを押せばある所の水が入り、そして、ある所の水はなくなっ
ていく様だな」
  そう呟きながら、俺はその様子を見ていた。
  しばらくすると、後方の所は水はが完全になくなり、前方の所には水で一杯になっ
ていた。
「これで先に進めるな」
  そして、勢いよく水の中へと飛び込んだ。続いて、ディト爺も飛び込む。
「さてと、行くか」
  俺は、ディト爺がちゃんとついて来ているのを確認すると、ゆっくり泳ぎ始めた。

 1998年8月03日(月)18時15分42秒〜8月14日(金)10時52分38秒投稿の、帝王殿の小説第九十一話〜第百話です。

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