第百四十一話〜第百五十話

第百四十一話「旅立ち」

  城の廊下を足音を立てずに歩く俺達。誰かに気付かれたらちょっと厄介だ。
  城の廊下は、以前に見た時より奇麗になっていた。廊下の所々には花が飾られて
いたり、掃除がされていてほこりも少なかった。そして、足元には絨毯が敷かれて
いて、以前とは大違いだ。汚かったトイレの近くを通っても、今では奇麗になって
いる。古い扉もあったが、今では新しい扉に変わっていた。全てが変わっていたん
だ。
  ここまで変わるとはねぇ……。
  俺はその変わりように驚きながら廊下を歩いていた。
  ディト爺は警戒しているのか、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いている。
偶に立ち止まっては後ろを振り返り、すぐに歩き始める。そんな事を繰り返してい
た。
  いつまでもそんな事を繰り返しているディト爺を見て、少しイラついて俺は、ディ
ト爺の肩をポンポンと叩いた。
「おい、そこまで警戒する事ねぇだろ?  見付かった時に不信に思われるだけだぜ」
  と注意したものの、ディト爺はまた後ろを見たりしていた。
  そんなディト爺を見て軽くため息をつくと、仕方無しにディト爺を無視して歩く。
  しばらく廊下を歩いていると、ようやく階段が見えて来た。その階段をコツコツ
と音を立てて下りて行くと、今度は左方向へと進む。
  そして、廊下を更に歩き続けると、ようやく城門近くまで来た。城門は奇麗に掃
除がされていて、古びた感じは一切しなかった。以前の状態を見たわけじゃねぇが、
ここもまた、掃除がされたんだろうな。
  城門近くには兵士が二人ほど立っていて、鎧を着て立っていた。だが、それほど
威圧感はなかった。顔の部分は仮面や兜は被ってはおらず、顔を確りと見せていた。
その為、少し親近感がわいてきそうな感じで、気軽に話し掛ける事が出来そうだっ
た。
  俺とディト爺は、その兵士に近付いて行くと軽く話し掛けた。
「ここを通してくれねぇか?  ちょっと世話になっていたんだが、急用が出来ちまっ
てな。急いで行くんだ」
  そう説明すると、兵士はすんなりと通してくれてた。そして、俺達が門を通り抜
けようとした時、一人の兵士が俺達に近付いて来て、何かの紙を見せた。
「地図を持っていますか?  持っていないのならこれを使って下さい。この辺りの
地図です」
  と親切にも地図を差し出してくれた。俺はその地図をありがたく受け取ると、キ
スキン国から遠ざかって行った。
  キスキン国から少しずつ遠ざかって行く、それは仲間との別れだった。もしかし
たらもう二度と会えなくなってしまうかもしれねぇ。でも、それでも行かねぇと。
今まで色々と助けてくれたディト爺を手伝うんだからな……。
  遠ざかって行くキスキン国……。城は少しずつ小さくなっていき、とうとう見え
なくなってしまった。
  ゆっくりと続ける俺は、隣にいるディト爺の顔の前に地図を近付けた。
「で、俺達は何処へ向かってんだ?」
  と尋ねると、ディト爺はにやりと笑い、近くにあった大きな石に座った。ディト
爺が座ったから、俺は近くで立ち止まる。
  ディト爺は俺から地図を受け取ると、地図をしばらく見た後、袋をゴソゴソと探
り始めた。そして、袋から地図を取り出して俺に見せた。その地図は、この大陸と
は別の大陸の地図だった。
「ここじゃ……。この大陸のカリムの森に奴の住家があるはずじゃ」
  地図に描かれたを見ると、アビス海より遙か北に位置する大陸だった。そして、
その森は大陸の中心部に位置する場所だった。
  こいつは時間の掛かる旅になりそうだな……。

第百四十二話「男」

  それにしても、ここからかなり遠い大陸だな……。移動手段は船を使わねぇとい
けねぇだろうな。とるすと、まずはコーベニアに行かねぇ事には何も始まらないな。
「じゃ、早速行こ……」
  と、俺が言い掛けた刹那、背中に嫌な殺気を感じた。何か、普通じゃねぇ感じが
しやがる。
「久しぶり……だな、兄よ、いや、ディトルム……」
  素早く振り替えると、そこには全身黒いローブを着込んだ何者かが立っていた。
顔には不気味な仮面を付けていて、大きく口を開いている仮面を付けている。
  いつの間に!?
  その声からして、男に間違いはねぇ。だが、変なのは、ディト爺の弟というわり
には喋り方が老人臭くねぇ。俺ぐらいの声をして、発音も確りしていやがる。
  ディト爺は立ち上がると、その男を睨み付けた。
「ふむ……。お主に兄とは呼ばれたくはないわい。人の道を外れ、邪心に染まり、
自らの利益の為に生きる者に」
  すると、男は一歩だけ前に進んで俺達に近付く。
「ふ、老いて尚もそう言うか……。時の流れにより醜い姿へと変わる。それでも人
として生きるのか……」
  だが、ディト爺はその男に近付いて、杖に手を掛けて、あの剣技の構えをした。
「人はな、人であるからこそ価値があるのじゃ!  人が道を外れて化け物になって
しまったらお終いじゃ」
「ふふふ……。ははははは!!」
  すると、男は不気味に笑い始めた。
「お前ごときに私を殺せるとでも思ったか?  人間の力を超越し、並みではない力
を手に入れたこの私を!」
  男が大きく高笑いすると、男はその姿を消してしまった。それは、一歩後ろに下
がっただけだったというのに、それだけで姿は消えてしまった。
  人間じゃねぇ……。闇に溶ける様にして消えるんだったらわかるが、辺りはまだ
明るい。空間に姿を消しちまったのが一番言葉として当てはまるな……。
  不気味に消えてししまった男は、今ではその姿は何処にもない。
  ディト爺は平然とした様子で、袋を背負って、もう出発の準備は出来ている様だっ
た。
「さて、とっとと行くかいの」
  そう言うと、ディト爺は歩き始める。
  未だにその力に驚いていた俺だったが、仕方無しにディト爺の後を追いかける様
にして歩き出した。
  あいつは何者だ……。既に人間業じゃねぇしよ……。
  うつむいて考えていると、ディト爺が俺の背中を、バンッ、と強く叩いた。
「って!  何しやがるんだ!?」
  ディト爺を睨むと、ディト爺はにやりと笑った。
「ふむ、どうせ奴の事でも考えておったのじゃろう?」
「そ、それがどうかしたのかよ?」
  すると、ディト爺は袋をゴソゴソと探り始め、何かを取り出した。それは、ただ
の水晶玉にも見える。だが、ディト爺の事だから何かの発明品なんだろうな……。
「これはじゃな、『神速ダッシュ君……と思わせて、視角幻覚いや〜んいや〜ん』
なのじゃ」
「わざわざ変な言葉を付けるんじゃねぇ!」
  素早くディト爺の頭を殴る。だが、ディト爺は何事もなかったかの様にして俺を
見る。
「こいつを使えば、視角に対して幻覚を見せる事が出来るのじゃ。まあ、視角に頼
らぬ者に対しては無意味じゃがな。それを改良した物を奴は持っておるわい」
  そう言うと、ディト爺はその水晶玉を袋に入れた。
  そして、ディト爺は街道から外れた道を進み出した。そこは、道はあるものの、
雑草が生い茂っている道で、殆ど使われていない道の様だった。
「お、おい!  何処へ行く気だ!?」
  ディト爺は一瞬立ち止まると、俺の方を見た。
「儂の家じゃよ」
  再び歩き始めたディト爺を見て、止めても無駄だと思った俺は仕方なくディト爺
の後を追い掛けて行く。
  その道は、コーベニアと向かう道である西へと続く道ではなく、北へと続く道だっ
た。

第百四十三話「襲い来る敵」

  生い茂る雑草。それは進み難い道だった。
  ディト爺の家に行くのはいいんだが、この雑草が生い茂る道は進み難いぜ……。
長い雑草だと、俺の肩より少し上ってのもある。こりゃぁ、行くのが大変だなぁ。
  雑草をかき分ける様にして先へと進むディト爺。それを追いかける様にして俺が
雑草をかき分けて進んでいた。
  しばらく雑草をかき分けて進んでいると、突然、ザワザワザワ……、と辺りが騒
がしくなって来た。少し前にいるディト爺が音を立てている様子はなかったが、そ
の音が聞こえて来ると、ディト爺はすぐに立ち止まった。そして、俺の方を見ると
袋からあの剣を取り出した。
「敵が迫って来ておる!  これを使うのじゃ!」
  そう言って、ディト爺が剣を投げた。それをキャッチすると、辺りの様子を伺っ
た。
  ザワザワザワ……。
  一瞬、音が止まったと思った刹那、ガサッ、と音がする。
「上じゃぁぁぁぁ!」
  ディト爺が大きく叫ぶと同時に、俺が剣を上に向かって振った。すると、剣先は
得体の知れないゴーレムの様なモンスターの腹を突き刺していた。
  体長は五十センチといったところだ。普通のゴーレムより高さが以上に小さいな。
後は殆ど同じだな。顔も、体も、前に見たゴーレムと殆ど変わりない。
  ザワザワザワザワ……。
  まだいやがる様だな……。
  剣先に突き刺さったゴーレムをゴミの様にして払い落とすと、何処から音が聞こ
えて来るかよく耳を澄ます。
  ザワザワザワザワ……。
  後ろから聞こえて来る……。それに、前からも聞こえるな……。右も、左も!?
囲まれているのか!
  剣を握る手に自然と力が入り、辺りを見る目は次第に鋭くなっていく。
  すぐ後ろに何かいやがる!
  咄嗟に後ろを向いて剣を振る。だが、雷光は雑草に邪魔されてかき消される。だ
が、それを気にする事なく雑草の向こうにいると思われる何かに向かって剣で刺し
た。
  手応えがあった!
  すぐに剣を引くと、その剣先には魂の抜けたゴーレムがあった。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
  俺がそのゴーレムを少しだけ見ていると、ディト爺が大きな声を上げて杖を振り
上げていた。そして、その杖を雑草に隠れた何かに向かって殴り付けると、大きな
爆発音が辺りに響いた。
  ドゴォォォォォォォォォン!!
  そこに生えていた雑草はその爆発と共に消えていった。それは、ディト爺が丁度
杖で叩いた場所だった。そこが爆発……、いや、ディト爺の持っていた杖が爆発さ
せたんだろうな。
「後ろじゃぁぁぁ!」
  ディト爺が大きく叫ぶと、俺はすぐに後ろを向いて剣を横に薙ぎ払う。すると、
偶々そこにいたゴーレムの胴が真っ二つに両断された。
  辺りから敵の気配は消え、さっきまでのザワザワとした音は聞こえなくなった。
  何だったんだ、あれは……。
「ふむ、予想より早く奴が敵を送り込んできおったの……。これから先が不安じゃ
の」
  ディト爺があの変わった杖を袋へと詰めて、大きくため息をついた。
「じゃあ、あれはあの謎の行商人……、いや、奴が作った物なのかよ!?」
  すると、ディト爺は首を縦に振った。
「その通りじゃ。儂が昔作った召喚装置を使い、人間を捨てて化け物になったのじゃ
よ。呼び出した化け物と一体化しおったのじゃ……」
  少しうつむていてたディト爺だったが、すぐに顔を上げると再び雑草をかき分け
て先を進み始めた。

第百四十四話「発明家の家」

  雑草を剣で斬り、何処までも進んで行く。空を上げれば、今や太陽は傾いていた。
  俺達が出発したのはまだ朝だったが、今では昼過ぎだな……。一番邪魔となって
いやがるのはこの生い茂った雑草だな。先が見えてこない上に、時々進行方向を間
違えてしまうって事もあった。
  だが、幸いな事にあのモンスターが現れる事はなかった。もし、また現れていた
ら余計に時間が掛かっていただろうな。それに、体力の消耗も激しい。休憩を何度
もとっていたら更に時間が掛かっちまうぜ。
  だが、それども何とか頑張って行った俺達だった。
  そして、日が沈み掛けた頃だった。ようやく前方に家らしき物が見えて来た。雑
草が多くて見え難かったが、近付けばそれがディト爺の家であるって事がわかった。
何しろ、家の近くには立て札があり、そこには『発明家爺チャンの家』と書かれて
いたからだ。
  ディト爺は家を見ると、すぐに扉に駆け寄って行き、その扉を三回ノックして、
それから扉を開けた。
  俺がそんなディト爺を不思議そうに見ていると、ディト爺はにやりと笑った。
「ふふ、これはじゃな、ノックを三回しないと泥棒除けの罠が発動するようになっ
ておるのじゃよ。罠の内容は、儂がこの家の地下に作ったダンジョンに落ちる仕組
みじゃよ」
  お、おいおい、何で自分の家の地下にまでダンジョンを作っていやがるんだ!?
ディト爺はダンジョン好きなのか?
  などと疑問に思いながら家の中へと入っていった。
  家の中は奇麗に掃除されていて埃は少なかった。しかも、廊下も奇麗に掃除され
ていて、汚れを知らないといった感じだった。だが、奥へと行くと妙に汚れていた
場所があった。それは、台所だった。壁には何かがぶつかった後があり、窓は割ら
れていた。
「ここは……?」
「ふむ、儂がキスキン国の者に連れ行かれそうになった時に戦った跡じゃよ。結局、
儂は連れて行かれたがの。後で掃除をせんといかんわい」
  そう言うと、ディト爺は大きくため息をついた。そして、家の中を歩き出す。
「ここに来た理由はの、発明品の補充と銃の修理じゃ。発明品もそろそろ少なくなっ
てきおったからの」
  そう言えば、銃は壊れたままだったんだよな。剣技を出来るだけ使わない為には
銃が必要だしな……。それに、今回はモンスターが多く出てきそうだしな。銃は重
宝するだろうな。
  ディト爺は更に家の奥へと進んで行くと、ある部屋の扉の前で止まり、袋から鍵
を取り出してそれを使って扉を開けた。そして、扉を開けたその先には……。
「な、何だこれは!?」
  その部屋の中には、ゴミの山の様になった発明品があった。一体何個あるのか検
討もつかねぇな。何百ってあるだろうな……。
  ディト爺はその部屋に入って行くと、部屋の隅にあった机の上に銃を置いて、そ
の机の下に置いてあった箱を開けて色々な工具を取り出した。
「さて、修理にはしばらく時間が掛かるわい。お主はそこにある発明品でも見てい
てくれ……」
  そう言うと、ディト爺は銃を分解してカチャチャと音を立てて修理を始める。
  この発明品をねぇ……。
  俺は部屋に山積みされた発明品を見てしばらく呆れていた。

第百四十五話「一時の安らぎ」

  見れば見るほど変な物ばかりだな……。よくもこんな変な発明品ばっか作ったも
んだぜ。
  ディト爺が作った発明品を山積みされた中から一個一個取り出してはそれを見て
いた。中には凄い発明品もあり、強力な武器もあった。だが、そういうのに限って
奥の方に埋もれている。多分、ディト爺が故意にそうしたんだろうな……。
  偶に変すぎて訳のわかんねぇ発明品があると、ディト爺に聞いてはその変なネー
ミングにツッコミを入れていた。
  一番驚いたのは、ディト爺は全ての発明品の名前を覚えている事だった。何百と
ある発明品の全て名前を覚えるなんて凄いぜ。まあ、一つ一つ変な形をしていて、
特徴があったが、それでも覚えるなんて到底不可能に近い。ディト爺にはつくづく
驚かされるぜ。
  ディト爺は、銃の修理をずっとしたままで、とうとう夜が訪れた。
  夜になると、ディト爺は銃の修理を一時止めて、料理を作るからと言って俺を連
れて台所へと向かった。
  材料はすべて庭で育てた野菜があるらしく、一度家の外に出て材料を取りに行っ
ていた。
  しばらく待てば、料理がどんどん運ばれて来た。流石何十年も一人暮らしをして
いるだけあって、材料が豊富だと色々な料理が出て来た。ダンジョンでは何度も食
べた事のあったディト爺の料理だったが、材料が今一つ少なかった為か、今日ほど
美味しそうな料理はなかった。
  野菜をフルに使った料理の数々。そして、肉料理もあった。肉は塩漬けにして長
期の保存が効くようにしている物だろう。そして、ディト爺が作った発明品に食べ
物を保存する為の物も部屋の奥の方にあった。大きな箱で、見たところとても頑丈
だな。
  そうこうしている内に、俺は出された料理をどんどん食べる。俺が食べ始めると
ディト爺も続いて食べ始めた。
  一つ一つの料理を味わいながら食べ、全ての料理を食べ終わると、満足げに俺は
笑った。
「ふむ、よく食べおったの。そんなに腹が減っておったのか?」
「違うぜ。美味いからに決まってんだろ。まあ、多少腹が減っていたのも当たって
はいるがな」
  すると、ディト爺はにやりと笑う。
「ふふふ、トラップもそろそろ決めた方がいいのではないかの……」
「何を決めろと言ってんだ!?」
  素早くディト爺の頭を殴ると、ディト爺はまた笑う。
「決まっておるじゃろう。結婚相手じゃよ……」
「おめぇは一度地に埋まれー!」
  ディト爺を激しく殴ると、食器の後片付けをしたのだった。俺も手伝おうとした
が、ディト爺は一人ですると言った。
「何、どうせすぐ終わる事じゃ。それより、お主は風呂に入る、もしくは寝ておれ。
儂はまだ銃の修理をせねばならんのでな。今夜中にでも作り終えて、明日の朝にで
も出発じゃ」
  こうして、仕方なく俺は寝る事にした。
  そして、ディト爺はあの部屋にこもって一人で銃の修理をするとの事で、俺は別
の部屋に案内されて、そこでフカフカのベッドで寝る事になった。
  ベッドの中で、少しだけこれからの事について考えていた。
  この旅が終わったら、まずはクレイ達を探さねぇとな。何処に行っちまったかわ
かんねぇが、必ず何処かで会える、そんな気がする……。
  そして、いつしか俺は深い眠りについていた。

第百四十六話「新たな仲間」

  暖かな光が俺の顔を照らし、美味しそうな匂いが何処からかする。その臭いにつ
られて俺は起きると、ベッドから出て部屋の扉を開けた。扉を開けると、その美味
しそうな匂いはいっそう濃くなった。
  ディト爺が飯でも作ったのか?  だとしたら、台所に行ってみるのが一番だな。
  そんな事を思いながら台所へと向かうと、そこには料理を作っているディト爺が
いた。その横には、見慣れない奴が立っていた。身長はそれほど高くはない。子供
か?
  ゆっくりと近付いていくと、俺に気付いたのか、ディト爺がこっちを振り返った。
「なんじゃ、起きておったのか」
  すると、その隣にいた奴もこっちを見た。
  緑色の髪の毛で、目は青い。年は十六ぐらいか?  顔も子供っぽく見えるな……。
「お爺チャン、この人は〜?」
  そいつは俺を指差してディト爺に尋ねる。
「ふむ、爺チャンの知り合いじゃよ」
  そして、ディト爺は俺に近付いて来た。俺の近くまで寄ってくると、あいつの方
を見て招きをした。
「ふむ、こっちへ来るのじゃ……。さて、紹介するかの。この者は、爺チャンの知
り合いである、スレイヴィス・バリアルじゃ。これでも二十じゃからの」
  に、二十だと!?  どう見ても十六だぜ!?
  俺が驚いた顔をしてあいつを見ていると、あいつは少し怒った様な顔をして俺を
見る。
「う〜、やっぱり僕の事をまだまだ子供だって思ってたでしょ〜!」
  と、あいつはポケットから素早く何かを取り出して俺に向けた。それは、ディト
爺が持っていたあの銃だった。だが、ディト爺はその銃口に手を当てた。
「まあまあ、落ち着くのじゃ……。この者は、スレイブと呼ぶといいわい。爺チャ
ンもそう呼んでおるからの」
  すると、あいつ、いや、スレイブは銃をポケットにしまって、近くにあった椅子
に座った。
「それにしてもよ、その銃は……」
  俺がいい終わる前に、ディト爺は自分のポケットからあの銃を取り出した。
  ふ、二つあるのか!?
「ふむ、これは爺チャンの家に代々伝わる銃じゃ。そして、スレイブが持っておる
のは、スレイブの父親が見付けた銃じゃ。爺チャンの銃は風の力と威力を変化させ
る事が出来たが、スレイブの持っておる『ヴィリスガン』は属性変化を可能とした
銃なのじゃ」
  色々と説明しながら、ディト爺は料理を机に運んで行く。全ての料理が机に運ば
れると、早速食べ始めた。
「でよ、飯を食い終わったらまずはコーベニアへと向かって、その森を目指そうぜ」
  ディト爺特製スープを飲みながら俺は言った。すると、ディト爺は首を横に振っ
た。
「いや、問題はまだ山積みじゃ。何しろ、奴がおる大陸は強いモンスターが沢山お
るのじゃ。今のお主では、すぐに殺られてしまうじゃろう。ろくな防具もなしに真っ
向から向かうのは危険じゃ」
「じゃあ、どうしろって言いたいんだ?」
  俺はスプーンを置いて尋ねると、ディト爺はにやりと笑った。
「ふふふ、それに関しては大丈夫じゃよ。策はちゃんとあるわい」
  策か……。果たして大丈夫なのか?  ちょっと心配だな。
  そんな事を思いながら再びスープを飲み始めた。
  そして食事が終わり、食器の片づけの終わったディト爺は一言呟いた。
「さて、戦闘開始じゃ!」
  その刹那、窓ガラスは割られてあのゴーレム達が家に侵入して来やがった。

第百四十七話「落ち着く暇はない」

  窓を割って入って来たゴーレム。だが、ゴーレムが床に着地した刹那、一体のゴー
レムが凍りつきやがった。凍りついたゴーレムは完全に動きが止まっていやがる。
すぐに近付いて剣を叩き割る。
  パキィィィィィィン!  と、音を立ててゴーレムは粉々に砕け散った。
「ほれほれ!  食らえ!」
  ディト爺は修理した銃で窓際で様子をうかがっていたゴーレムに向かって撃った。
すると、銃口から力強い風が、ビュンッ!  と音を立てて発射される。それと同時
に窓際にいたゴーレムは風の力で壁に叩き付けられて、そのまま動かなくなってし
まった。
  辺りを見回し、もうゴーレムがいない事を確認すると、ようやく大きくため息を
した。
「ふー……。ゆっくり休んでいる暇はねぇって事か」
  椅子に座ろうと思ったが、どうせすぐに出発する事になるだろうから、座るのを
止めて、家から出る為に歩き出した。
「休んでいる暇はないわい。もう出発しようではないか」
  ディト爺も続いて部屋を出て行く。そして、スレイブも部屋から出て行った。最
後に、ゴーレムが動かなくなった確認してから、俺は部屋を最後に出て行こうとし
た。だが、何故か引き止められる様な感じがした。
  何か変だ……。
  少し部屋を見回したが、別に変わった所はない。でも、何か変だな……。
  そして、何気なく窓際にいた動かなくなったゴーレムに目が行った。そのゴーレ
ムに近付いて、よーく見てみる。すると、ゴーレムの目が一瞬青く光った。
「ギガガガガガ……」
  すると、ゴーレムは再び動き始め、不気味な声を発した。
  ガサガサガサ……。
  な、何だ!?
  突然、上の方で、ガサッ、と音がした。すぐに上を見ると、そこにはびっしりと
猫が……いや、猫型ゴーレムがいやがった!  あのダンジョンにいた猫とまるっき
り同じ猫だ!
  くそっ!  ダンジョンから出ても、また猫と戦う事になるなんて!
  剣を握る手に力が入り、天井に張りついた猫の大群を睨み付ける。その数は、三
十匹はいやがる。
「何をしているんですか〜!  早く逃げないと殺られちゃいますよ〜!」
  いつまでも部屋から出てこない俺を見に来たのか、スレイブが家の外から俺に向
かって叫んだ。
「どうなってもしんねぇぞ!」
  猫の大群に向かって剣を一降りする。すると、剣先から雷光が走り出る。目にも
止まらねぇその速さで、一瞬の内に一匹の猫が雷をまともに受けて床に落ちて行く。
すると、それと同時に他の猫達が俺に向かって襲い掛かって来やがった。天井に張
り付いていた猫達は、一斉に床に着地して、俺目掛けて走ってきやがる。
「しゃがんで〜!」
  スレイブの声が聞こえて来たと同時に、すぐにその場しゃがんだ刹那、激しい音
を立てて何かが破壊され、強力な風が俺の頭上をかすめたのがわかった。
  立ち上がって辺りを見回すと、壁は破壊されていて、すぐに外へと出られる様に
なっていた。更に好都合な事に、猫達は驚いているのか、動きが止まっていた。
  今がチャンスだ!
  そう思うと、一気に走って家から脱出した。家から出ると、そこにはディト爺と
スレイブがいて、ディト爺は何か怪しげな鉄球の様な物を持っていた。
「さて、こいつの出番じゃな。『ザ!  修復君!  三分間クッキングより簡単野郎
だべ』じゃ〜!」
  それを破壊した壁に向かって投げつけると、壁のあった辺りで止まり、突然眩く
光り始めた。
  その輝きに目を開けていられなくなり、しばらく目を閉じていた。そして、その
光が止んだので目を開けると、さっき破壊したはずの壁が既に修復されていて、奇
麗に元どおりになっていた。
「さて、先を急ぐかの!」
  ディト爺はすぐに走り出し、俺とスレイブもディト爺の後に続いた。

第百四十八話「猫との死闘」

  生い茂る雑草をかきわけ、俺達は必死に走っていた。後方からはガサガサと騒が
しいぐらいの音が聞こえて来やがる。
  くそっ!  ディト爺の家に閉じ込めたが、結局無駄だった様だな。
「ディト爺!  何処かで殺らねぇとこっちが殺られちまうぜ!」
「ふむ、ここを右に行くのじゃ!  そうすれば、雑草が奇麗に刈られている湖の近
くに行けるはずじゃ!」
  その言葉通り、俺達はすぐに右方向に走り出す。後方の猫達もちゃんとついて来
ていやがる。
  しばらく走っていると、突然雑草がなくなって、目の前に大きな湖が広がってい
た。雑草が生えていないのは湖まで約五メートルぐらいだ。戦うには十分なスペー
スがある。
  素早く向きを変えて、猫達を迎え撃つ体勢に入った。
  ディト爺は銃の威力を上げると、銃を構えた。スレイブは、同じく銃を構える。
そして、俺は剣を強く握り締めた。
  どの武器も単体のみに有効なやつばかりだな……。大群を相手にするにはかなり
不利だぜ。
  すると、前方の雑草が激しくガサガサと音を立て始める。そして、その音が一層
大きくなった刹那、四匹の猫が同時に草むらから飛び出して来やがった。
  すぐにディト爺が銃で一番右の猫を撃つ。そして、スレイブが銃で炎の玉を発射
した。続いて俺が剣を振って雷光を放つ。三匹は倒したものの、残った一匹がディ
ト爺に向かって襲い掛かって行った。
  や、やべぇ!  猫が悲惨な目に!
  そう思った刹那、ディト爺は目の前に飛んで来た猫を捕まえると、いきなり強く
抱きしめ始めた。
「ふふふふふ、爺チャンが可愛がってあげるわい……」
  哀れな猫は、そのまま気を失ってしまった。そして、すぐにディト爺はその猫を
地面に置いた。
  すぐに前方の草むらから五匹の猫が飛び出して来やがった。
「ちょ、ちょっと待って〜!  魔力チャージがまだ終わってないよ〜!」
  スレイブが隣でそんな事を言っていたが、今は気にしている暇はねぇ。とにかく
来る猫を全て殺るしかない!
  ディト爺が銃で一匹を撃つと、残りの四匹は俺に向かって来やがった。
「へっ、ふざんけんじゃねぇぞ!」
  素早く剣を振って雷光を一匹に命中させた。そして、まだ距離がある為にもう一
度剣を振ってもう一匹倒した。残りの二匹は近付いて来た瞬間、剣で薙ぎ払って寸
前の所で倒した。
「また来るわい!」
  すぐに草むらから猫が四匹出て来やがる。
  ディト爺が銃で一匹を撃つと、続いてスレイブも炎の玉で一匹を撃つ。そして、
すぐに剣を振って俺が三匹目を倒す。残った一匹は、またしてもディト爺の餌食と
なってしまった……。
  しかし、何度見ても嫌だな。ディト爺の猫抱きは……。
  そんな事を思っていると、草むらから一気に六匹も出て来やがった。
  素早く剣を振って一匹を倒す。続いてディト爺が銃で一匹を撃つ。だが、またし
てもスレイブが撃たなかった。
「だ、駄目だよ〜!  こんなに早く敵が出て来たらチャージする時間がないよ〜」
  スレイブの方を少し見ると、銃口に何か青い粒子が集まってきているのが見えた。
それが一体何なのかわからねぇ。事情は後で聞くしかねぇな。
  すると、残った四匹がディト爺に向かって行きやがった。
  哀れな猫だぜ……。
  四匹の猫は、ディト爺の近くまで行くと、見事に捕まえられて四匹とも抱きしめ
られて気を失ってしまった。
  それにしても、いつになったらこいつらはいなくなるんだよ……。

第百四十九話「大剣使い」

  一匹、また一匹と俺達の方へと飛び掛かって来やがる。
  一体何匹やって来やがるんだ!?  くそっ、きりがないぜ!
  何匹倒してもどんどんやって来やがる猫は、もう六十匹は倒していた。それでも
猫達は絶える事はねぇ。
「わわっ!?」
  突然スレイブが大きな声を上げた。スレイブの方を見ると、猫に鋭い爪で顔面を
引っ掻かれていた。すぐにスレイブの顔面にくっ付いて引っ掻いている猫を引き剥
がすと、ディト爺にその猫を手渡した。そして、ディト爺の抱き……。
  絶妙なコンビネーションで、次々に襲い掛かって来る猫達を倒し続けていた。
  だが、それでも一向に猫が絶える事はない。いつまで経っても猫が絶えはしねぇ。
「ディト爺!  何処かに逃げねぇと、きりがねぇぜ!」
「じゃが、後ろは湖じゃ!  背水の陣といったところじゃ。もう、逃げ場はないわ
い!」
「うわ〜ん!  どうしてこうなっちゃうんだよ〜!」
  もう何が何だかわからない状況だった。
  スレイブは泣きそうな声を上げて叫び、ディト爺は逃げ道がないって言う。
「くそっ!  とにかく、今はこの猫を倒し続けるぜ!」
  そうは言ったものの、このままこれが続いていたら俺の体力は確実に持ちはしねぇ
な。
  猫は更に数を増して襲い掛かって来やがる。一度に七匹も来やがる。それでも何
とか倒していく。剣を振って雷光を放って倒す。そして、ディト爺とスレイブの銃
による攻撃。最後に、ディト爺の抱き……。
  何よりも強力なのはディト爺の抱きだと思うが……。
「おらおらおらー!  いつまでもそんな所で止まっていたらバテちまうぜー!」
  突然何処からか聞こえて来るその声は、聞く者を圧倒する様な感じがしやがる。
  すると、草むらから一人の男が勢いよく飛び出て来た。
「後ろだ!」
  男の後ろから飛び掛かって来た猫を見て、咄嗟に俺が叫ぶと、男は背中に背負っ
ていた大きな剣を鞘から抜き放つと、剣を盾代わりにしてその猫達を防いだ。猫は
ぶつかった衝撃で地面で気絶していやがる。
「ディ、ディルク〜!」
  スレイブは男の方を見てそう言った。すると、男はにっと笑って大きな剣を地面
に突き付けた。
「へへっ、ディルク・ラマイゼント、只今参上!」

第百五十話「稲妻」

  突然現れた男は、男の身長とは大して変わりのない大きな剣を地面に突き立てて
こっちを見た。
「へっ、なに馬鹿な事をしてんだ。早くここを抜けるぜ」
  そして、男は地面に突き立てた大きな剣を引き抜くと、再び後方から飛び出て来
た猫を剣でガードした。分厚い剣にぶつかった猫は、またしても気絶した。
「ディルク〜!  どうして遅かったんだよ〜」
「すまないな。ちょっと用事があってな……。爺チャンにこいつを返す為の物を宿
に忘れちまったんだ。いちいち言うのも面倒だから一人で行って来たってわけだ」
  そして、男はポケットから何か小さなボートを取り出した。それを湖に投げると、
その手のひらサイズのボートはみるみる大きくなって、人が五人は乗れるような大
きさになりやがった。
「さっ、とっととこれに乗りな!」
「おい、ボートに乗ったらこっちが不利になるんじゃねぇか!?  逃げ場がなくなっ
ちまうんだぜ?」
「へっ、心配するな。スレイブの力があれば大丈夫だ」
  そんな事を言って、俺の背中を押してボートへと押し乗せると、ディト爺とスレ
イブも続いて乗り込んで来た。
  俺達が乗り終わると、ディルクは最後にボートに飛び乗った。そして、ボートの
横に付いていた櫂を二本手に取って、一本を俺に渡した。
「スレイブと爺チャンはは力がないから頼んだぜ」
  そう言うと、男は櫂を漕ぎ始めた。俺もすぐに櫂を漕ぎ始める。が、草むらから
猫達が何十匹も出て来ていやがった。そして、猫達は躊躇う事無く湖に入って来て、
顔を出して泳いでこっちに向かって来やがる。その速度はそれ程早くはなかったが、
数が尋常じゃねぇぜ。何十という数で俺達のボートに直進して来やがる。
「で、あんたは?」
  俺は、隣で必死に櫂を漕いでいる男に尋ねた。
「ああ、正式な自己紹介がまだだったな。俺の名は、ディルク・ラマイゼント。こ
の大剣が武器だ。全長百六十センチで、俺の身長とは大して変わりはない。そして、
スレイブの保護者ってやつさ」
「う〜、僕は子供じゃないよ〜!」
  すぐにスレイブが男を……いや、ディルクを睨み付けた。
「はは、冗談だって。そんなに怒るなよ。ま、それはさて置き……。そろそろ時間
だな」
  ディルクは湖を泳ぐ猫達の方を見ると、スレイブの肩をポンと叩いた。
「スレイブ、銃の属性を雷にして、奴らの近くの水面を撃て」
「は〜い!」
  すぐにスレイブが銃を持って構えた。すると、ディルクは櫂を漕ぐ手を止めて、
俺の方を見る。
「おい、お前。櫂を漕ぐ手を止めろ。狙い易い様にする為だ」
「けっ、『お前』じゃねぇよ。トラップだ」
  俺が少し不機嫌そうな顔をすると、ディルクはふっと笑った。
「わかったよ、トラップ」
  するとスレイブが銃の引き金を引き、銃口に光の粒子が集まり始める。
「ディト爺、あれは?」
  俺が後ろで辺りを見回していたディト爺に尋ねると、にやりと笑った。
「ふふふ、爺チャンとお主の愛の結晶……」
「んなわけねぇだろうが!」
  素早くディト爺の頭を殴ると、再びディト爺に尋ねた。すると、今度は真面目な
顔つきになった。
「ふむ、あれは、大気中の魔力を集めておるのじゃよ。その為、チャージ時間が必
要となっておる。爺チャンが持っておる銃は、魔力チャージをする個所があの銃よ
り優れた物が使われておるのじゃ。何しろ、あの銃は遥か昔に作られた銃じゃから
の……」
  そんな事を話している間にも、銃口には光の粒子が更に集まって行く。
「いっけぇぇぇぇ!」
  刹那、銃から稲妻が走り出て行く。神速とも言える速度で、一瞬の内に猫達が泳
いでいる近くの水面に!
「……やったか?」
  俺が思わず声を漏らした。
  さっきまで泳いでいた全ての猫達の動きは、既に止まっていた。
  どうやら、難を逃れた様だな……。
  俺は全身の力を抜いて、ボートの上で仰向けに倒れ込んだ。

 1998年12月30日(水)16時01分15秒〜1999年1月09日(土)21時06分17秒投稿の、帝王殿の小説第百四十一話〜第百五十話です。

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