第百八十一話〜

第百八十一話「激戦」

  俺の体は勝手に動く。今や、もう一つの意識によって完全に支配されていた。
「……愚かな。……私が死を与えよう!」
  刹那、大きく跳躍すると同時に剣を振り上げた。そして、そのまま甲板に着地す
ると、猫の大群に囲まれていた。
  何してんだよ!  馬鹿か、こいつは!?
『五月蝿い……。黙っていろ』
  偉そうな声が聞えて来ると、剣を軽く振って光の刃を発生させた。そして、それ
が一匹の猫の直撃したと同時に、一斉に周りを囲んでいた猫達が襲い掛かって来た。
  上から跳んで来た猫を剣で薙ぎ払うと、左腕のひじで背中にくっ付こうとしてい
た猫にエルボーを食らわした。その後も、素早い動きで猫をどんどん薙ぎ倒して行
く。
  襲い掛かって来る猫など物ともせず、まるで風を斬るかのようにして戦っていた。
  こいつ、完全に戦い慣れしていやがるぜ……。
  何度も何度も剣を振り、その度に猫を斬る。時折、左手で銃を使い、遠くの方に
居る猫を倒していた。
  全く疲れないまま戦っているが、まだまだ猫は船内から出て来やがる。
  これじゃきりがねぇぜ。船内からどんどん出て来やがる。
「そろそろとどめといくか……」
  もう一つの意識がそう呟くと、視線を船内から猫が出て来る出入り口に向けた。
その直線状には猫は殆どいない。
  剣を軽く振ると光の刃が発生した。それは迷う事無く一直線に出入り口に向かっ
て飛んで行く。それを止めようと猫が飛び掛かって行くが、その速さ故に止める事
は出来なかった。そして、すぐに出入り口付近に光の刃が直撃し、そこは破壊がさ
れた。
「出入り口を一つしか作っていなかったのが敗因、という事だ……」
  すると、何十という猫達が一斉に襲い掛かって来た。だが、焦る事無く銃の威力
を調節する個所に触ると、すぐに上に向かって銃を構えた。
「失せろ!」
  刹那、銃の引き金を引いたと同時に物凄い風が放出された。飛び掛かって来た猫
達はその風に吹き飛ばされて、海に投げ飛ばされた猫もいれば、空高く舞い上がっ
た猫もいた。
  んな事が出来るんだったら始めっからしろよな……。
『銃の威力を高めると、銃に大きな負担が掛かる。それによって銃が壊れる可能性
がある。それは、君が体験した事だろう?』
  だから、わざわざ後々になって壊れても大丈夫な状況になってから使ったって事
か。
  辺りにはまだ数十匹の猫が残っていたが、既に猫達からは戦意は感じられなかっ
た。むしろ、脅えている様に見えた。
  状況が悪くなったのをわかってか、猫に近付いて行くとすぐに遠くに逃げて行き
やがる。
「撤退だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
  あの猫の声が聞えて来ると、船は突如として大きく揺れた。
  どうやら、逃げる様だな。早くこの船から逃げねぇとな。
  俺は体が勝手に動くのを待っていると、ふと変な感覚に襲われた。一瞬、ふっと
空に浮くような感じがした。それと同時に、体が自由に動く様になった。
「……最後ぐらい、帰ってくれよな!」
  すぐに走り始めると、船の舳先に向かった。そして、まだ俺が乗っていた船と隣
接しているのを見ると、一気に加速を増して大きくジャンプをして向こうの船に飛
び移った。
  転がる様にして船に乗り移ると、立ち上がって猫の船を見た。猫の船はどんどん
離れて行って、次第にその姿を小さくして行く。
  とにかく、助かったって事だな……。
  大きくため息を吐くと、その場にしゃがみ込んだ。

第百八十二話「暇」

  あの猫の船が去った後、俺達は船長からのご馳走を食わせてもらった。あの猫の
船を撤退させたのは俺達だから当然と言えば当然だな。出来る事なら金も少し欲し
かったが、今はこれだけで十分だった。
  その日の騒動と言えばそれぐらいで、夕食もまた豪華な食事だった。
  船長と話をしながら食事をしていた時の話によると良い風が吹いているそうだか
ら予定より早く着く事になるだろうって言っていた。
  退屈で揺れのある船上から開放されたいから、俺にとっては嬉しい事だった。
  そして、豪華な食事と共にその日は終わった。つまり、飯を食ったらすぐに寝ち
まったって事だ。ま、猫との戦いで疲れていたし、仕方ねぇだろ。

  退屈な日々、毎日同じ様な風景、嫌な揺れ……。唯一の楽しみと言えば、豪華な
飯ぐらいだった。
  ベッドに寝転がりながら天井を見る。
  昨日は猫の船が襲って来やがったから忙しい日だったが、今日はまた暇な日が戻っ
て来やがった。
  ディト爺は毎日の様に発明品のチェックや整備、それに新たな発明品の開発をし
ていて忙しそうで、俺が目の前に居ても相手にもしねぇ。
  ディルクはスレイブの遊び相手をしている様で、偶に暇が見付かればキットンの
様に薬草の調合をしたり、剣を振り回していたりした。
  スレイブはと言えば、ディルクと遊んでいたり、船内に潜り込んでいたネズミを
見付けては追い掛けたり、何かの魔法書を読んだりとしていた。
  そして、俺は……。
  偶にスレイブの遊び相手をしてやったり、ディルクの冗談に付き合わされたりし
ていた。その他には、ポシェットに入っている道具を見て、痛んだりしていねぇか
チェックをしたり……。だが、それでも時間は有り余る程あった。
  ……しかし、スレイブって本当に何歳なんだ?  今まで歳を聞いた事はなかった
が、どう考えても、頭の中はルーミィと同レベルだよな。
  ゴロゴロと転がってうつ伏せになると、ふと考えた。
  子供扱いされるのを嫌っている所から見て、年齢は高い事は違いねぇよな。でも、
背もそんなに高くねぇし、言葉づかいも精神年齢も低いな……。
  背の事を言っていたら、キットンは低いよな……。精神年齢も、ルーミィの本当
に年齢はわかんねぇし……。
  暇潰しに、スレイブに聞きに行ってみるか……。
  起き上がると、ベッドを降りて部屋を出た。
  廊下に出ると、キョロキョロと周囲を見回した。廊下にひとけはなく、誰も歩い
ていねぇ。偶に廊下でスレイブの声が聞えるが、今は聞えねぇ様だな。
  まあ、その辺りをぶらぶらと歩いていたらその内会うよな?
  そう自分の問い掛けると、右方向に向かって歩き始めた。
  ディト爺達の部屋は俺のすぐ隣だが、あのスレイブが部屋にいるって事は滅多に
ない。船旅に出てからというもの、寝る時と食事の時以外は、殆ど部屋にいねぇ奴
だからな。すぐに船内をチョロチョロと歩き回っては無邪気にはしゃいで遊んでい
るからな……。
  落ち着きがないって言えばそうなるが、単に精神年齢が低いだけじゃねぇかな?
いや、本当に年齢が低いのかもしんねぇな……。
  俺はそんな事を思いながら廊下を歩いていた。

第百八十三話「お騒がせな奴等」

  廊下をしばらく歩いていると、先の方に小さな何かが見えた。足を止めて目を凝
らす。それは、ちょこちょこと廊下を走りまわると、すぐに姿を消してしまった。
「ネズミ……か?」
  今のはネズミ以外は考えられないな。
  ……まあ、別にいいか。今はスレイブを探さないとな。
  再び歩き始めると、廊下を走るスレイブの姿が見えた。スレイブは廊下の奥の方
から走って来ると、さっきのネズミが姿を消した所と同じ場所で姿を消してしまっ
た。
  曲がり角でもあるのか?
  駆け足で廊下を進むと、スレイブの声が小さく聞えて来た。更に進むと、それに
比例して声が大きく聞えて来る。そして、さっきスレイブが姿を消した場所と思わ
れる所まで行くと、そこは船の倉庫だった。地下へと階段が伸びていて、奥の方は
暗くてよく見えねぇ。
  確か水と食料を貯えている所で、乗客の立ち入りが禁止されていたな……。
  ……にしても、見張りがいないな。昨日ここに来た時は二人も見張りがいたって
のによ……。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!  モンスターですー!」
  スレイブの声が倉庫の方から響き渡って来る。
  な!?  モンスターだと!?
  すぐに地下へと伸びる階段を駆け降りて行くと、スレイブの声が更に大きく聞え
て来る。更に階段を駆け降りて行くと、ようやく階段がなくなった。
  暗闇の中、目を凝らして辺りを見回す。次第に目が暗闇に慣れてきて、辺りの様
子がはっきりと見え出して来た。
  倉庫にはごちゃごちゃと物が置かれていて、スレイブの姿は何処にも見当たらねぇ
な。沢山置かれている荷物は、多分食料だろうな。
「おーい!  スレイブー!  何処にいるんだー!?」
  俺は大声を上げて暗闇の中を歩いて行く。足元に気を付けて一歩一歩慎重に歩い
て行く。
「あう〜!  ここです〜!」
  再びスレイブの声が聞えて来て、俺はスレイブの声が聞えて来た方向を向こうと
したが、全くわからねぇ。
  こんな暗闇でスレイブがいる場所なんでわかりはしねぇな……。
「スレイブ!  銃を持ってんなら、一発でも撃ってくれよ!」
  俺は落ち着いた口調で声を上げた。
  まあ、こんな船にモンスターなんている訳ねぇだろうな。スレイブの事だ、大き
なネズミをモンスターと勘違いしたんだろうな。
  そんな事を考えていると、右方向からガサガサと音が聞えて来た。すぐにその方
向を見るが、変な形をした像の様な物があっただけだった。大きさは三メートルぐ
らいだった。
  俺は気にする事無く、倉庫の中を歩き始めた。すると、さっきの像があった方向
から、ドンッ!  と音が聞えた。すぐに振り向くと、青白い閃光が辺りを照らし、
その像を闇の中から照らし出した。それを見た俺は、思わず体を震わした。
「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
  スレイブが何処かで叫び声を上げた。
  それもそのはずだった。その像と言うのが、あまりにも本物の様に精巧に作られ
た物だったからだ。
  『悪魔』と言う言葉が良く似合う像で、背中から翼が生えていたのが見えた。
  すぐに閃光は止み、暗闇の中からスレイブが俺に飛び付いて来た。
  スレイブは涙を目にためていて、今にも泣き出しそうだった。
「うううう……。モンスターですぅ……」
  スレイブの頭を軽く撫でてやると、スレイブを連れて倉庫の出口に向かって歩き
始めた。
「ったく、泣くなよ。あれはモンスターじゃなく、単なる像だ。誰かがこの倉庫に
持って来て、人が入って来なねぇ様にしたんじゃねぇか?」
  ポンポンとスレイブの頭を軽く叩いてやると、スレイブは目にたまった涙を手の
甲で拭い、明るい表情をして俺を見た。
「う〜、なんだか、ディルクみたいです〜」
  と、スレイブが言った刹那、倉庫の階段の上の方から、人の足音が聞えて来た。
その足音は早く、一気に階段を駆け降りてくるのがわかった。
「スレイブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!  無事かぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
  その声を聞いた俺は、呆れて物が言えなかった。それは、声の主はディルクだっ
たからだ。
  物凄い速さで階段を駆け降りて来たディルクは、はぁはぁと息を切らせながらス
レイブに駆け寄ると、倉庫の奥の方に目をやり、背中の大きな剣を抜き放った。
  ……なにしてんだよ、こいつは……。
  俺はあまりにも馬鹿らしい事をしているディルクを見て苦笑いをしていた。
  その後スレイブが事情を簡単に説明して事無きを得た。スレイブが止めていなけ
れば、あの像は破壊されていた事は言うまでもないだろう……。

 1999年4月11日(日)01時06分09秒〜5月06日(木)23時08分20秒投稿の、帝王殿の小説第百八十一話〜第百八十三話です。継続中……のはずですが……。

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