第十一話〜第二十話

第十一話「謎の人物」
  俺は、迫り来る巨大な玉を見て、素早く行動を開始した。
  まずは、逃げる!
  暗い通路を一気に走る俺は、床に罠が無いかをチェックしながら走った。
  罠は全く無く、何とも楽に行けそうだった。
だが、突然、俺の目の前に、爺が現れたのだ。
「ふ〜、お茶がうまいわい」
  何してやがるんだ、あの爺は!  しかも、のんきに座りながら茶まで飲んでやが
る。どうなっても知らねぇぞ。
  俺は、迫り来る巨大な玉を見て、一瞬、爺を助けようか迷った。何しろこんな罠
だらけの所にいる上に、俺の後ろには巨大な玉が迫って来ている。
  それに、こんな爺がいるって事は、メレンゲにとって何か都合の悪い奴だって事
になる。今こいつを助ければ何か有利な事があるかもしれねぇ。
  あれこれ考えていると、いつの間にか俺は爺の近くまで来ていた。
  すると爺は突然立ち上がって、俺を見た。
「追いかけっこか……。ふむ、懐かしいわい。若い頃はよくそうして遊んだものじゃ。
モンスターをからかって、そして追いかけられる。最後には半殺しにあったものじゃ」
  おいおい、爺、あんたの人生それでいいのかよ……。
「ふむ、儂もまぜてはくれぬか?」
「あんたも十分まざってるんだよ!」
  俺は、爺をおんぶすると、一気に走り出した。
  爺の喋りに付き合っていると、巨大な玉はすぐそこまで迫って来ていた。
「おい、あんたのせいだぞ。玉がそこまで来てるじゃねぇかよ。あんたが何者かは
後で聞く。なにしろあんたを背負っている御陰で思うように走れないんだからな」
  俺は爺にそう言うと、迫り来る玉を見た。
  どうやら、さっきより近付かれたな。この爺がいる為に、思うように走れない。
でも、この爺を置いて行くわけにはいかねぇし。
  俺が色々と考えながら走っていると、爺が俺の肩を軽く叩いた。
「ん?  なんだ?」
「お主、疲れている様じゃな。だったら儂をおろしなされ」
  この爺、正気か?  ここでおろしたら、死ぬに決まってやがるぜ。
「何言ってやがる。俺は平気だ。それより、あんたをここにおいて行く何てできねぇ
よ」
  俺は意地を張って平気そうに返事をする。
「何を言っておる。お主の額からは多量の汗が出ておるぞ。疲れている証拠じゃ。
心配するでない。儂は、こう見えても発明家じゃ」
  俺は爺のその言葉を聞いて、素早くおろすと爺を見た。爺は、背中の大きな袋か
ら、靴を取り出すとそれを履いた。
「これは魔法の力によって速く走れるのじゃ。まあ見ているがいいわい」
  そして、爺が、
「安心して行くがいい」
  と、言葉をかけて俺を先に進ませた。
  俺は爺の事を心配しながらも走っていると、突然、後ろから勢いよく走る爺の姿
が見えた。
  その速さは尋常ではなく、一気に俺を追い越したかと思うと、通路の先の方で、
ドシーン!  と音がした。
  おいおい、もしかして壁に激突したんじゃねぇだろうな。
  俺が、そんな事を考えながら走っていると、何処からか呻き声が聞えてきた。
「ぐむむむ〜……。誰か助けてくれ〜……」
  あの爺の声だな。
  俺は走りながらその声を聞くと、何気なく後ろを振り向いた。すると、巨大な玉
はすぐそこまで迫って来ていた。
  疲れている為スピードを上げるのは辛い。だが、このまま走っていたらいつかは
潰されちまうな。
  だが、こんな所で死んでたまるかよ。ぜってーに死ぬわけにはいかねぇ。このお
守りを渡すまでは、そして、メレンゲをボコボコにするまでは!
  俺は、残っている力の全て振り絞って、暗闇の通路を走った。

第十二話「走れ! 暗闇の通路を!」
  俺は残っている全ての力を振り絞って走った。何処までも続く闇の通路を走る事
は今何よりも辛い事だった。力も残っていない俺は、後ろから迫り来る巨大な玉か
ら逃げるのに精一杯だ。ここで罠があれば、避ける事は辛いだろうな。
  ふと後ろを振り返ると、巨大な玉まではある程度の距離があいていた。
  どうやら、何とか行けそうだな。こののまま走る事が出来たらいいが、あの爺が
心配だな。あの爺は、どうせこの先の壁に激突しているんだろうな。となれば、結
局爺をおんぶして走るんだろうな。
  色々と考えながら走っていると、また床に猫の絵が描かれている事がわかった。
  くそっ、ここも罠があるのかよ。注意して進まねぇとな、今罠が発動しちまった
らやべぇしな。体力も少なねぇ今は、逃げるのに精一杯だ。
  だが、罠の床を避けて進むなど無理に近い事だった。後ろから巨大な玉に追わ
れ、体力も少ない今では焦りが出ている。それによって、一瞬、床に注意をするの
を忘れる事もあった。
  猫の絵を踏んだその刹那、天井から槍が出てきたかと思うと、ゆっくのと下がっ
て来やがった。
  おいおい、また天井が下がって来るのかよ。もう、疲れたぜ。通路はまだまだ続
いているってのによ。これじゃ、この通路を抜ける事が出来るかどうか。いや、プ
ラスに考えると、いつかは天井があの巨大な玉によって止まるんじゃねぇか。とな
れば、ある程度走れば助かるんじゃねぇか。
  だが、ふと天井を見上げると、さっきよりも槍が長く伸びて来やがった。これじゃ
あの玉が槍を壊すのはいいが、いつかは槍が俺を串刺しする事もあるな。こうなりゃ
何が何でも逃げ切ってやる。
  俺は、暗闇の通路をじっと見詰めながら走り続けた。
  それにしても、あの爺、何処まで行ったんだ。ぜんぜん見当たらねぇな。となれ
ば、相当先に行ってやがるな。
  更に、またしても猫の絵を踏んでしまったその刹那、壁から矢が飛んで来やがっ
た。
  とっさに後退して矢を避けるが、右腕に一本の矢が、グサッ、と刺さった。
  走りながら、痛みをこらえて矢を引き抜くと傷口を見た。どうやら、傷は浅い様
だな。だが、毒が仕込んでいたらやべぇな。こんな所に傷薬があるわけでもねぇ。
くそ、キットンに薬草でも貰ってから来るんだったぜ。
  傷口を押さえながら走っている俺は、少しづつではあるが巨大な玉と天井がすぐ
そこまで迫っている事がわかった。天井の槍は、あと数十cmで俺の頭を突き刺す
程の高さまで来てやがる。玉は、天井の槍を破壊しながら進んでいる為か、少しは
速度が遅くなっているが、俺も速度が遅くなってきている為か、差はどんどん縮
まってきてやがる。
  通路の先の方を見ると、何とさっきの爺がのんきにお茶を飲んでいやがった。
  あの爺、復活が早いな。本当に人間か?
  が、俺にはそんな余裕のない事が判明した。体が少しづつではあるが痺れてきや
がった。どうやら、痺れ薬の塗られた矢だった様だな。
  更に、天井の槍と巨大な玉がすぐそこまで迫って来ていやがる。もう少しで通路
は、曲り道になっていやがる。そこまで俺の体がもつかどうかだ。
  もう、後には引けないな。
  俺は全身の力を振り絞って爺の所までたどり着くと、爺をおんぶして、何とか曲
り角を通り過ぎた。
  その刹那、後方で玉が壁に激突する音が聞えた。それは、本当に一瞬の出来事で
あった。
  だが、意識があったのそこまでで、俺の体は完全に麻痺して、その場に倒れてし
まった。
  最後に聞えた言葉は、
「安心せい。お主の体は必ず儂が葬ってやるからの」
  という爺の言葉だった。
  おい、俺はまだ死んでねぇんだ……。
  だが、俺の心の叫び声は届くわけもなかった……。

第十二話「老人の語り」
  何処だ、ここは……。俺は、メレンゲのヤローによって城の地下に落とされた。
それから、罠を必死に避けながら先に進んでいると、通路で一人の爺に出会った。
そして、爺を助ける為におんぶして走っていると、爺が変な靴をはいて先に進みや
がった。俺が罠と戦いながら進んでいると、疲れていたせいか、誤って罠を発動さ
せちまった。そんで、一本の矢が右腕に刺さったんだっけな。その矢には、痺れ薬
が塗ってあって俺の体は徐々に動かなくなってきやがった。それでも力を振り絞っ
て爺を救出して、曲がり角を進んだのはいいが、安心した為か、体が完全に痺れて
きやがって俺はその場で倒れたんだよな。それから、爺が俺の体を葬ってやるって
言ってやがった。へ、中々いい爺じゃねぇかよ……。
「って、違うだろーが!」
  突然、自分に突っ込みを入れて起き上がると、俺の隣には爺がいた。
  爺は、俺の似顔絵を描いた絵の前に線香と蝋燭を立てて、拝んでいた。
  爺は俺の顔を見て、一言いった。
「ふむ、火葬がいいかの?」
「お前が焼かれろ!」
  俺は爺の頭を思いっきり殴ると、線香と絵を踏み潰した。
  ここはどうやら始め来た所の四角い部屋だな。
「大体、何でこんな物があるんだよ!?」
「いや、いつ必要になるかはわからないのでな」
  はぁ、とため息をついて、俺は爺から事情を聞く事にした。
  何しろこんな爺が罠だらけの地下に住んでいるわけがないからだ。
「で、爺、まずは名前から聞こうか?」
「儂の名は、ディトルム・エルタジェム。発明家じゃよ」
「じゃあ、ディトルム爺さんよ、何でこんな所にいるか事情を聞かせてもらおう
か」
  爺は、ゆっくと立ち上がると、何処までも続いている様に果てしない天井を見つ
めた。
「ふむ、その前にじゃが、儂の事はディト爺(じい)で結構じゃ。では、語ろう
か……」
  ディト爺の話しによると、自分は発明家であり色々なヘッポコな物を作っては、
各地で商売をしていたそうだ。だが、そのヘッポコ商品を作っていれば、いつかは
良品が出来るものだ。その良品とは、残念ながら教えてはくれなかった。
  そして、その物に目を付けた者が、ゾラ大臣であった。奴は、ディト爺のそれを
何としてでも手に入れようとして、金を沢山出したそうだ。だが、ディト爺は決し
て譲ろうとはしなかった。
  金で無理だと悟ったゾラは、兵士をディト爺の家へと送り込んだ。だが、ディト
爺の作った発明品によって簡単に追い返された。
  その報告を聞いたゾラは、新たな手段を考えた。その手段というのが、部下を多
く出撃させ、ディト爺の家を取り囲んで逃げ場の無い様にしてから、窓や裏口とい
った所から攻め、不意打ちを仕掛けて来たのだ。ディト爺は、発明品で攻撃をした
ものの、何しろ敵は多数。幾ら攻撃しても勝ち目のある戦いではなかった。
  結局、ディト爺は捕まってしまい、ゾラの元へと連れて行かれたのだった。
「んで、それからどうなったんだよ?」
「ふむ、儂は、ある程度の発明品を持って城に連れて行かれ、奴が欲しがっている
その物をここに出せと言われたのじゃ。じゃが、儂はここには持ってきておらんと
言ったのじゃ。すると奴は猫の像を触り、何かのボタンを押したのじゃ。そして、
この様じゃ。落とし穴に落ちた儂はここに出た。まあ、後は適当に歩いていると、
疲れたのでお茶を飲んでいると、お主と出会ったわけじゃ」
  それにしても、疲れたからと言って、普通、のんきにお茶を飲むか?
  俺は、思い出した様に右腕の傷を見た。だが、傷は完全とは言えないが、治って
いて体の麻痺も回復している事に気付いた。
「ディト爺、あんた俺の傷を治癒してくれたのか?」
  ディト爺はゆっくりとうなずいた。
「まあ、改造もしてやったから安心せい……」
「改造だとー!」
  俺はディト爺の首を強く絞めると、苦しそうに何かを言った。
「冗談じゃよ、冗談」
  それを聞いた俺は、素早く開放してやった。
  まったく、ディト爺といる疲れるぜ。
「じゃが、ちょっとは改造してやったがな……」
  再びディト爺の首を締め上げた。
「改造と言うよりも、毒をぬいてやっただけじゃよ」
  あ、そうか。それで麻痺が治っていたのか。
  ディト爺を開放してやると、今度は真面目な顔つきで俺を見た。
「さて、儂らが今いるのは、地下五階じゃ。今からここをすぐにでも脱出しようと
してもまず無理じゃ。じゃが、ゆっくりとしている暇も無い。その証拠に、儂は食
料を持っていないのじゃ」
  おいおい、ディト爺も食料を持っていないのかよ。となると、また腹が減るな。
くそ、せめてちょっとした食料さえ持ってくるんだったぜ。
「で、ディト爺よ。これからどうするんだよ?」
「それは、お前さんに任せるよ」
「へ、そうか。じゃあ、俺がまだ行っていない通路にでも行くか……、の前にだ、
俺の名はトラップ。俺だけで通路を行く。次の階への階段を見つけて、罠が無いか
を確認してからディト爺を呼びに来る。それでいいな?」
  ディト爺はゆっくりと首を縦にふった。
  こうして残された扉へと進む事になった。

第十三話「地獄への通路」
  俺は、最後に残った扉を見た。「地獄行き」と書かれた文字を見て、あまり臆す
る事無く扉を調べた。
  どうやら、罠は特にない様だな。
  ゆっくりと扉を開けると、暗い通路が続いていた。
  突然、通路へと入ろうとした俺の肩をとんとんと、誰かが叩いた。
「ちょっと待つのじゃ。これを持って行きなされ」
  と、ディト爺が出した物は、あの早く走れる靴だった。
「こいつは、単にはいて歩くだけで効果が現れるのじゃ」
  ディト爺が試しにはいて、俺を見た。
「ただし……」
「ただし?」
  ディト爺の言葉を問うと、ディト爺は突然、部屋の中を走り出した。
  だが、すぐに壁に激突した。
  慌てて俺が近寄ると、ディト爺はふらふらになっていた。
「ただし、急には止まれん」
「いるか!」
「更に、体が速さについていけなくて、死ぬ事も……」
「絶対にいらん!」
  ディト爺を殴ると、俺は通路へと入っていった。
  通路をしばらく歩いていると、右へと続く曲がり道になっていた。
  その通路を曲がって行ったが、全く罠が出る気配が無かった。いや、本当は罠が
あるのかもしれない。だが、床にも壁にも何もないのである。となると、もしかし
たら、あの扉に書かれていた文字は、単なる脅しだったのかもしれないな。とゆう
事はだ、俺は、まんまと騙されていたのかよ。
  俺は、少し立ち止まって考えていたが、再びゆっくりと歩き出した。
  何しろ、罠が無いという確信は出来ない。それに、今まであの大量の罠があった
のに、ここだけ罠が無いというのはおかしい。やはりここも罠があるのだろうか。
  などと考えていると、前方の壁が変な事に気付いた。
  近付きながらその壁を見ると、行き止まりだという事が判明した。
  おいおい、まさか、完全に行く所無しで、閉じ込められてしまったんじゃねぇだ
ろうな。
  だが、その心配もつかの間、突然、足元が無くなった、つまり、落とし穴に落ち
たのだ。
  素早く体制を整えて受け身をとったその刹那、激しい衝撃が……、じゃなくて、
プニョーン、という何ともいやなものだった。
  こいつは、もしかして……。
  俺は、ゆっくりと立ち上がろうとしたが、中々立つのが難しい。何しろ、地面が
プニュプニュしてやがる。
  という事はだ、これは、スライムプールって事だな。
  俺は何とか立ち上がるとスライムプールから逃れる為、まずは状況を確認した。
  今いるのは、地下六階。そして、俺の後ろには壁がある。前方には通路が続いて
いて、そこから左に通路が折れている。
  俺は、ここで長居をするわけにもいかないので先に進む事にした。
  スライムに足をとられながらも、ゆっくと進んでいると、突然、床のスライムが
無くなって、いや、正確には落ちて行っている。後ろの方から落ちているが、あの
ペースじゃ、すぐにでも追い付かれちまうな。
  更に、後ろの方の壁から、炎が出ている。
  素早く壁を調べると、壁に何かの穴が空いていることが判明した。
  どうやら、この穴から炎が出て来ている様だな。
  考えている時間はない。俺は、一刻も早く、このスライムプールから抜け出さな
くてはいけないのだ。
  歩き難いながらも、何とか進んでいるが、依然、スライムプールの終わりは見え
てこない。
  ふと振り替えると、すぐそこまで炎は迫って来ていた。
  どうやら、順番に炎が出てくる様だな。
  スライムの方は、同じ程の進み具合だった。
  このままじゃ、炎で焼かれながら落ちていくはめになっちまう。そうならない内
に、早く進まねぇとな。
  やっとの事で、曲がり角まで来た俺は、その先を見て少し安心した。
  それは、後少しでスライムプールが終わりだからであった。
  そして、もう少しで普通の地面というその時だった。
  突然、炎が服の背中を焦がしやがった。それだけじゃない。ふと、足元を見た俺
は驚いた。何しろ、すぐ後ろが足場もなかったのだから。
  急いで走るが、すでに時は遅く、足場が消えていった。
  そして、俺は足場が消えた事により、下へと落ちていった。

第十四話「一難去ってまた一難」
  俺は落し穴によってまたしても下へ……。と言う事ではない。誰かがロープを投
げてくれた御陰で、寸前の所で助かったのだ。
  まあ、大よそわかっている。何しろ、このダンジョンには、俺とディト爺しかい
ねぇんだからな。まあ、仮に誰かが落ちてきていたとしてもだ、俺を助ける訳が無
い。となると、ディト爺って事だな。
  俺は、ロープを確りと握り、上を見た。
「お〜い、ディト爺!  早く上げてくれよ!」
「何!?  早く揚げてとな!  ふむ、今夜はテンプラで決定じゃな」
  おいおい、ディト爺、もしかして、また何か間違ってんじゃねぇだろうな。
  俺はまだ疲れているせいか、あまり腕に力が入らねぇ。つまり、この状況は長く
は続かないって事だ。
  しばらく待ってみたものの、中々動きが無いので心配になってきた。
「お〜い、ディト爺!  俺、今、疲れていて腕に力が入らねぇんだ。早くロープを
引っ張ってくれよ!」
「ん?  ああ、ロープを引っ張って欲しいのか。それならそうと早く言ってくれん
とな。儂はテンプラの用意で忙しかったのじゃからな」
  ディト爺、頼むからもっとしっかりしてくれ……。
  ようやく、ロープが引っ張られて、俺はようやく助かったのだった。
  それにしても、ディト爺、確か待っとけって言ったのにな。まあ、このさい文句
は言えねぇがな。
  だが、俺が聞こうとしようとしたが、ディト爺が先に答えた。
「実はじゃな、お主が先に行った後、儂があそこでしばらく待っていたんじゃが、
その時に、こんな物が落ちて来よったのじゃ」
  ディト爺が懐から出した物は、一枚の手紙だった。
  どうやら、またメレンゲからの物らしいな。
「では、読むぞ。『これを読んでいるという事は、どうやらお前達はまだ死んでは
いない様だな。お前達がどんな頭脳の持ち主かはわからないが、ここを出る事が出
来たのなら、誉めてやろう。まあ到底無理であろうな。貴様等の様な愚者にはまず
無理な事だ。まあ、その程度の愚者と思ってこの手紙にヒントを書いてやろう。鍵
は絶対に捨てるな、それだけだ。まあ、これを読む前に捨てていたのなら完全な愚
者だな。では、健闘を祈る。せいぜい悪あがきでもしているんだな
                                                    メレンゲ』
じゃとさ……」
  くそ、完全になめてやがるなメレンゲのヤロー。会ったら絶対にぶっ殺す。
  だが、鍵を捨てるなとはいいヒントじゃねぇか。今の所、拾った鍵は二個。その
内の一つが、丁度二十個という数が把になって付いてやがる。もしかしたら、この
鍵のせいで、また何かよくない事が起きそうだな。
「んじゃ、ディト爺、行くか?」
「ふむ、行くかの」
  俺が先頭を歩き、ディト爺は後ろを歩いた。何しろ、俺が罠を発見しねぇとディ
ト爺が危険な目にあってしまうからな。
  通路は、長い一本道となっていて、特に罠がある様には見えなかった。だが、こ
のダンジョンで嫌という程罠を見てきた俺は、決して油断はしなかった。
  歩きながら床と壁を見て、罠が無いかをチェックしていた。だが、罠が全く見付
からなかった。
  どう考えてもおかしい。今まであんなに罠があったというのに、今じゃ全く無い
とは。さっきのスライムプールだけで終わりとは思えない。運良く、俺みたいに助
かった奴がいると計算はされているはずだ。となれば、この通路は完全には安全と
言いきれない。
  しばらく歩いていると、注意して歩いていたというのに、突然後方で、ゴンッ、
と大きな音がした。
  おいおい、まさか、またあれって事はねぇよな……。
  俺が素早く振り向くと、ディト爺の顔がそこにあった。
「だー!  ディト爺の顔はいらん!」
「そんな近くで儂を見ないで……」
  ディト爺が、突然顔を赤らめた。
「いらん!!  それより、邪魔だ!」
  ディト爺の顔をどけると、通路の後方を見た。
  すると、そこにはあの巨大な玉がまた来ていた。
  もう、玉はこりごりだぜ。だが、どうせワンパターンだな。逃げればいつかは逃
げ道が見付かる。何て事ないぜ。
  自分を励ます様に考えていたが、それはディト爺の言葉によって焦りへと変わっ
た。
「ふむ、前後から玉で挟撃とはな、こりゃ爺さん一本とられたわい」
「のんきな事を言ってる場合かよ!」
「では、また来週!」
「勝手に終わらすな!」
  はっとして、ここで考えた。漫才も悪くないな。
  じゃねぇ!
  俺は、自分に突っ込みを入れると、すぐに逃げる体制に入った。ディト爺をおん
ぶして、何とか後ろの玉から逃げる事にした。
  だが、前方からも迫る玉を思い出して、少し考えようとした。
  いや、まずは行動第一だ!
  素早く走り出す俺を、まるで追っかけの様なこの玉。
  俺は玉に好かれたかねぇ!
  だが、幾ら走ったとしても、いつかは終わりが来る。つまり、玉に前方から来る
玉に邪魔されて、進みようがないのだ。
  一瞬立ち止まると、ディト爺をおろして考えた。
  良く考えろ、トラップ。これまで辛いながらも、何とか脱出できる逃げ道があっ
たんだ。ここも絶対にあるはずだ。
  まずは、何故あの玉が勢いよく転がってくるかだ。それは、落ちて来た時に既に
加速していたからだ。だが、今回も、かなりの距離があった。となれば、傾斜があ
るはずだ。だが、片方によった傾斜なら、一方の玉は止まって別の方向へと向かっ
ているはずだ。
  このダンジョンは、ぎりぎりの所で逃げ道が絶対にあった。となると、この二つ
の事を元に、逃げ道を探すと……。
  俺は、急いで床を見た。
  すると、微妙に傾斜がある事がわかった。さらに、丁度、俺が立っている所で、
傾斜が右左に違いがあるのだ。つまり、大体ここで玉がぶつかるって事だな。
  とすると、逃げ道は……。
「早くせんか!  もう時間が無いぞ!」
「うっせー!  今、逃げ道を探してんだよ……。あった!」
  その逃げ道とは、一目見ただけではわからない様に壁と同化した扉だった。
  扉に罠があるかを調べていたその刹那、ディト爺が突然叫んだ。
「もうぶつかってしまうわい!」
  ふと、ディト爺の方を見ると、すぐそこまで玉が迫って来ていた。
  もう一方の玉は、まだ少し距離があった。
  間に合わないか……。
  そう思ったその刹那、ディト爺が袋から一本の杖を取り出して、トン、と床をつ
いた。
  そして、ゆっくり目を閉じた。
  ディト爺の目の前にはもうすぐそこまで巨大な玉が迫って来ているというのに。
「ディト爺!」
  ディト爺は、俺の声が聞えていないかの様に、じっと目を閉じていた。

第十五話「ディト爺への疑い」
  ディト爺は、目の前に迫り来る巨大な玉を全く無視するかの様に、じっと目を閉
じていた。
  おいおい、まさか、またボケようって事じゃねぇだろうな。とすると、命懸けだ
な。だが、もうこの状況じゃもう何もできねぇな。もう少し時間があれば……。
  俺は、それでも諦めようとはせずに、重い扉を必死に開けようとした。
  その刹那、ディト爺がすぐ目の前に来ている巨大な玉を睨み付けて、杖を強く握
り締めた。
「斗菟(とう)剣技・無陣!」
  それは、一瞬の事だった。
  ディト爺が、杖で巨大な玉を斬った、いや、正確には刃が杖の中に仕込んであっ
たんだ。
  あまりに一瞬の事だったので、何も起こった様には見えなかった。だが、本当は
玉が見事に一刀両断されていたのだ。
  ズシーン……、と音がして、玉は真っ二つになった。
  一瞬見とれていたが、思い出したかの様に再び扉を開け出した。
  だが、どう考えても扉は重すぎだった。
  俺が扉と戦っていると、ディト爺が近寄って来た。
「下がっておれ……」
  ディト爺は俺を下がらすと、杖を強く握り締めた。
「斗菟剣技・鋼陣!」
  ディト爺は、仕込み杖の刃によって扉を神速とも言える速さで扉を斬った。する
と、俺の目の前で扉が簡単に壊された。
「ディト爺……、あんた一体何者だ?」
「……後にするんじゃ」
  ディト爺は、静かに言い放つと、部屋の中へと入って行った。
  聞くのは後にすっか。しかし、ディト爺、一体何者なんだ?
  俺は、疑問に思いつつ素早く部屋の中へと入って行った。
  部屋の中は、階段があるだけで特に何も無かった。
  一通り部屋の中を調べてみたが、どうやら罠も無い様だな。
「ディト爺、あんた一体何者なんだ?」
  俺は、疑問をぶつけてみるが、ディト爺は、いつの間に出したのか、布団でぐっ
すり眠っていた。
「寝るな!!」
  思いっきり、ディト爺の頭を殴るが、全く起きようとはしなかった。
「け、いい気なもんだぜ」
  ここで、俺はディト爺の事を考えた。
  ディト爺は、発明家で、色々な所でその発明品を売っているんだな。まあ、行商
人みたいなものだな。
  そういや、行商人と言えば、あのギャミラ像を思い出すな。あれも確か、行商人
から買った物だったんだよな……。
  待てよ、ディト爺の発明品は確かに変な物があったが、もしかしたら、あれは、
ディト爺だったって事はねぇだろうな。ディト爺は確かに怪しいが、命の恩人だ。
疑うのはよくねぇが、どう考えてもあの謎の行商人に何かからんでいる様な気がす
るんだよな。
  俺は、ディト爺を見た。
  いつの間にかディト爺は、お茶を飲んでゆっくりと寛いでいた。しかも、本まで
読んでいやがった。
「お茶を飲みながら本を読んでんじゃねぇよ!」
  再び、ディト爺の頭を殴った。
「まったく、お主は何をするのじゃ。老人は板割るのじゃぞ!!」
「間違った事を大声で力んで言ってんじゃねぇ!!」
  素早くディト爺を殴った。
  全く、なんでそうなるんだよ。
  ディト爺が目覚めた所で俺は、ディト爺に謎の行商人の話をする事にした。
「ディト爺、一つ聞きたい事があるんだ」
「ん?  何じゃ?」
「人の欲望を増幅する像とか知らねぇか?」
  ディト爺は、その事を聞いて驚いた顔をした。
  どうやら、何か知っている様だな。
  ディト爺は、ゆっくりとお茶を飲んで俺を見た。
「何処でその物を見たのじゃ?」
「俺の仲間がな、その像に関わった事件があったんだよ」
  俺はギャミラ像の話を軽く説明して、あと、城の種の事も軽く話をした。
  その話を聞いたディト爺は、真剣な顔付きになった。
「……。今はまだ話せぬが、いつかは話す時が来るだろうな……」
  ディト爺は、どうやら謎の行商人について知っている様だな。
  俺は、ディト爺と謎の行商人との関係を深く考えるのは後回しにして、先に進む
事にした。

第十六話「階段での語り…」
  俺は、五階へと続く階段を上る事にした。
  俺のすぐ後ろにはディト爺が確りと付いて来ている。
  ディト爺、一体何者なんだ?
  階段は、長くて先が見えない程だった。だが、罠がある気配は無かった為か、少
しは安心して歩く事が出来た。
  何処までも続く様な階段を歩いていった。
  まあ、罠が無いとは確信出来ない。何しろ今までがそうだったからだ。
こんな罠が無い通路は、いつもは安心出来るがここではかえって怪しいんだよな。
罠が無い様に思わしておいて、突然罠が発動するとかな。知らない間に罠が発動し
ていたとかよくある話だ。
  注意しながら、階段を進んでいく途中、ディト爺にあの技について聞いてみる事
にした。
「なあ、ディト爺。あの技、何処で覚えたんだ?」
「あの技か……。あれは、儂が若い頃に受け継いだ我が家の技じゃ」
「ディト爺の家に伝わる技ねぇ。そのわりには発明家なんだな」
「ふむ、まあ、発明は儂の趣味の一つじゃよ。それに、あの技じゃがな、ちょっと
した欠点があるのじゃよ」
「欠点?」
  デイト爺は、杖を強く握って、杖の中から刃を出した。
  杖の長さは六十センチ程で、その杖をディト爺が引き抜く事によって、刃が姿を
現す様になっている。刃の長さは十センチ程だった。
  杖の中に刃が仕込んである。つまり、この杖はカモフラージュといった所だな。
つまり、この杖は鞘といった所だな。
  どうやって、あの玉を両断したんだ?  こんな刃じゃ普通は、まず無理だぜ。
  ディト爺は、杖の刃が付いている方を右手で持ち、鞘代りである方の杖を左手で
持った。
「あれは、この刃を見てもわかる様に、普通の者が使える技では無い。それは、あ
る条件があるからなのじゃ。その条件とは、強力な魔力を持った者である事がなの
じゃよ」
「強力な魔力だって!?」
「そう、あれは、この刃より発せられた強力な魔力が、目には見えない無限とも言
える程の射程を持つ刃と化す事により敵を斬るのじゃよ。例え、強力な魔力を持っ
てしてでも、この魔法の刃には勝つ事は出来ないじゃろうな。まあ、この技を相殺
する事は出来なくとも、耐える事は出来るじゃろうがな」
  ディト爺は話が終わると杖の刃を鞘におさめて、一つの杖にした。
  それにしても、この通路、何処まで続くんだ?  もう、かなりの時間は歩いてい
るんだぜ。そろそろ着いてもいい頃じゃねぇかな。
  俺がそんな事を考えていると、ディト爺の足音が突然聞えなくなってしまった。
いや、ディト爺は突然立ち止まったんだ。
「どうしたんだ?  ディト爺?」
  俺はディト爺を見たが、ディト爺は前方をじっと見ていた。
  突然、ディト爺は前方を指差した。
「何かあるのか?」
  ディト爺が指差した方向を見たが、そこには暗い通路が続いているだけだった。
「何にもねぇじゃんか。何か見えたのかよ?」
  俺がそう言いながら振り向くと、いつの間にか、ディト爺が寝袋で寝ていやがっ
た。
  俺が目を離した一瞬の隙をついて、寝袋で寝るとはな。正に神業としか言い様が
ねぇな。ディト爺、あんたはとことん人間離れしてやがるな。
「階段で寝袋に入って寝てんじゃねぇよ!」
  俺がディト爺の入った寝袋を思いっきり蹴ると、何と、階段を転がって落ちて行
きやがった。
  おいおい、冗談だろ?
「ぬおぉぉ……」
  ディト爺の断末魔の叫び声が聞えて来たが、それは次第に聞えなくなっていきや
がった。
「ディト爺。安らかに眠れよ……」
  俺は、ディト爺の冥福を祈ると、何も無かったかの様に階段を上りはじめた。
「……て、違うだろ!」
  自分に突っ込みを入れると、ディト爺を探そうと、階段を下りる事にした。
  だがその刹那、階段の上の方から何かが転がる様な音と共に、何かの叫び声も一
緒に聞えて来た。
「……ぉぉぉぉおおお!!」
  その声は、間違いなくディト爺の声だった。
  しかも、段々近付いて来るのが解った。
「嘘だろ!!」
  ディト爺は、寝袋から頭を出して、にやりと笑いながら上から転がって来たもの
だから、俺は驚いて立ちすくんでしまった。
「ぬおぉぉぉぉ…………」
  立ちすくんでいる俺の目の前を通り過ぎ、ディト爺は転がり続けて、また、下の
方へと行った。
「……人間技じゃねぇ……」
  俺は転がり続けるディト爺を見て一言呟いた……。

第十七話「無限の階段」
  転がるディト爺を何とか止めると、真面目に考える事にした。
  どうやら、俺達は無限階段の罠にはまっちまった様だな。しかも、下へ行こうが
上へ行こうが、全く無意味だって事がディト爺の行動で解った。何とかしねぇと、
俺達はここで飢え死にしちまうぜ。そういえば、俺、腹へってたんだよな。食料と
か、ディト爺も持っていねぇ様だしな。いや、確か、お茶だけは持っていたな。後
で貰っとくか。
  俺は、だんだん考える事がずれてきている事に気が付いて、素早く修正ようとし
たが、どうも、腹減り具合がやばくて考えが食う事に移っちまう。
「ディト爺、お茶、飲ませてくれねぇか?」
「ふむ、そうじゃな。ここいらで一服でもするかの。じゃが、食料が無いと言うの
は正直言って辛いわい」
  ディト爺は、袋からコップを二個出すと、大きなポットを袋から出して、お茶を
入れてくれた。
「お茶にふくまれているカテキンは、体に良いのじゃぞ。しっかり飲むと良い」
  ディト爺、あんたは何処でその知識を手に入れたんだ?
  まあ、考えるよりも、今はお茶を飲んで疲れを癒す事だな。何しろ、今までは、
トラップの連続だったから休む暇も無かったからな。
  ゆっくりお茶を飲んでいると、ディト爺が一冊の本を袋から取り出して読んでい
た。
  ようやく一息つけた俺達は、この無限階段を抜け出す方法を考える事にした。
  まず、今までの罠は、必ず逃げ道があったという事だ。つまり、今回もこの無限
階段を抜ける方法があるって事だ。
  ディト爺が言うには、この無限階段には特殊な魔法がかかっているらしい。その
為、ループし続けるという事らしい。
  俺達はまず手分けして階段を調べる事にした。
  調べた階段には、ディト爺が持っていたナイフで印を付けていった。俺は階段を
下へと向かいながら調べて、ディト爺は上へと向かいながら調べる事にした。
  丹念に階段の一つ一つを調べて行くが、何処をどう見ても小さな鍵穴も見つかり
はしなかった。

  しばらく調べていると、突然何かに、ドン、と当たった。
  どうやら、ループしてディト爺にぶつかっちまった様だな。
「お主も積極的じゃな……」
  ディト爺は突然顔を赤らめた。
「照れるなー!」
  思いっきりディト爺の頭を殴ると、階段を転がって行く様に落ちて行った。
「ディト爺よ、永遠に死んどけ……」
  などと言っていると、ディト爺がループして来て、俺に不意打ちタックル!
  思わず倒れそうになった時、ディト爺の手を掴んで助かったと同時にディト爺を
再び階段で転がした。
  ディト爺は、転がる途中で止まって、ゆっくりと立ち上がるとこっちに向かって
来た。
「ふ〜、良い運動じゃった!」
「何処が良い運動だ!」
  ディト爺を殴ると、真面目に考えた。
  ディト爺とぶつかったって事は、全部調べたって事だ。つまり、何も無いって事
になる。だが、もしかしたら、ディト爺が何か怪しい物でも見付けたたもしんねぇ
な。
「なあ、ディト爺。何か見付かったか?」
  だが、ディト爺は暗い表情だった。
「いや、全く見付からんよ。どうやら、逃げ道は無いのかもしれぬな……」
「何言ってんだよ!  ぜってーにある!  んなに簡単に諦めんじゃねーよ!」
「じゃが、これだけ探しても見付からんと言う事は、無いのかもしれんな」
「……」
  俺は、何としてでもここから出る為に、何か良い案を必死に考えた。
  しばらくして、ある事を閃いた。
「ディト爺!  確か、魔法の力でループしてんだよな?」
「そうじゃよ」
「だったらよ、ディト爺の技で相殺できなじゃねぇか?  ディト爺の技は、魔力を
使った物なんだろ?  だったら相殺出来るはずじゃ!」
  だが、ディト爺は首を横に振った。
「いや、確かに普通の魔法は相殺出来る。じゃが、この無限階段は、何処に魔法が
かけられているかも解らないのじゃ。まして、儂の技を我武者羅に連続して使った
とすれば、ここは間違いなく破壊され、儂らは崩れた壁によって生き埋めにされて
しまうじゃろうな」
「くそ、じゃあ、どうすればいいんだよ!」
  完全に出る事が出来ない訳は無い。何処かに出口があるはずだ。
  俺は、自分にそう言い聞かせると、再び階段を調べはじめた……。

第十八話「謎のメッセージ」
「どうやら、逃げ道はまだ見付からん様じゃな」
  遠くからディト爺の声が聞えて来た。
  俺が何かの逃げ道を探していたが、かなりの時間がたっていた。
「あれから、一体何時間てんだ?」
「ふむ、今は夜の八時じゃから、探した始めた時間は7時。まあ、一時間じゃな」
  おいおい、もうそんな時間になってやがったのかよ。明日の昼には、メレンゲ達
が王家の塔に行くっていうのによ。
  でもよ、まずはここから出るのが先だな。
  しかし、何か眠いんだよな。さっきからずっとあくびの連発だぜ。
  ディト爺はさっきから寝袋に入って寝てやがる。たまに起きては俺に逃げ道が見
付かったか聞く。
  俺も寝たい。でもよ、ここで寝てたらここを出るのが遅れちまうぜ。
  必死に探していると、突然、階段の上の方から何かが転がって来る音が聞えて来
た。
  何の音だ?  もしかして、またローリングストーンじゃねぇだろうな。
  素早く上を見ると、そこには転がる何かがこっちに向かって来ている事がわかっ
た。暗くてよく見えねぇが、さほど大きい物じゃねぇな。
  いや、もしかしてあれは!
「助けてくれ〜!」
  ディト爺だ!  多分、寝返りでもしたんだろうな。まあ気にする事じゃねぇな。
何しろ、これで五回目だからな。
  気にする事無く探していると、運悪く、ディト爺が俺にぶつかって来やがった。
そして、俺はディト爺と共に階段を転がり落ちていった。

「くっ、くそ……。何でこんな目にあうんだよ」
  俺の上に乗っかっているディト爺をのけると、突然の睡魔に襲われた。
  だが、自分の顔を殴って目を覚ますと再び探し始めた。
  が、見付かるわけも無かった。何処をどう探しても見付からなかった。
「もう、駄目な様じゃな。そうそう、さっき調べていた時、壁に小さな文字が書か
れていたわい」
「何だって!?  何処に書かれていたんだ!」
  俺はディト爺に素早く近付いた。
「お主も好きじゃな……」
「誰が何を好きだって!!」
  思いっきりディト爺を殴ると、再び聞き直した。
「で、何処なんだ?」
「それじゃな、ここから十二段上に登った階段の何処かに書かれていたはずじゃ」
  素早く階段を駆け登ると、階段を丹念に調べた。
  すると、階段の隅に小さく何かが書かれていた。
  暗くて見えにくいが、何とかわかるな。
  そこには、『果報は寝て待て』と書かれていた。
「どういう事だ?  寝れば何かがあるって言うのか?」
「じゃから、儂はさっきから寝ているのじゃよ」
「あ、そっか。それで寝ていたのか!  で、何か変わった事はあったか?」
「いや、全く無しじゃ」
  じゃあ、一体どうしろって言うんだ?  寝れば、この階段にかかっている魔法が
消えるって事なのか?  くそ、どういう事なんだ……。
  しばらく考えていたが、結局何もわからなかった。
「ディト爺、もう賭けに出ないか?」
「賭けじゃと?」
「そ、ディト爺の技で、ここにかかっている魔法に当てて、相殺するんだ」
「な、何を言っておる!  そんな事をして、もし当たらなかったらどうなると思っ
ておるのじゃ!  ここの階段は巨大な力によって完全に破壊され、儂らは死ぬ事に
なるんじゃぞ!」
  俺は、にやりと笑うと、ディト爺を見た。
「どうせ、ここで飢え死にするより、賭けに出た方がいいだろ。それによ、じわじ
わ死ぬより、一気に死んだ方がいいだろ?」
「全く、面白い事を言うの。中々良い根性してるわい。じゃが、どうやらここまで
の様じゃな」
  ディト爺は、あの技を使った時の様に、真剣な顔付きになって、俺の後方、つま
り、下方向の階段を見た。
  素早く振り替えると、下の方から階段が崩れ始めていた。
「おいおい、嘘だろ!」

第十九話「逃げ道は何処に?」
  くそ、下の方の階段が崩れ出していやがる。このままじゃ、死んじまう。
  俺は、崩れていく階段を避ける為、ディト爺と共に上の方へと上がって行ってい
た。
  果報は寝て待てか、確か意味は、幸運は人力を越えたものだから、あせらず時期
が来るのを待て、だったな。
  ちょっと待てよ、確か、ディト爺は寝ていたな……。全く違う行動をしてるじゃ
ねぇかよ!
「本当に寝てどうすんだ!」
  俺は、ディト爺の頭を思いっきり殴った。
「ぬおぉぉ!  それは、伝説の奥義・時間差突っ込みー!!」
「んなの知るかー!」
  再びディト爺を殴ると、ディト爺は体制を崩し、階段を転がり落ちていった。
「ぬおぉぉぉぉぉぉ……」
  ディト爺は、階段を転がり落ちて、階段が崩れている所まで行ってしまった。
「ディト爺!」
  だが、心配する必要なかった。
  ディト爺は、素早く立ち上がると、急いで階段を駆け上がって来た。
「そういう激しい貴方が好き……」
「いっぺん死んでこい!」
  階段を上がって来たディト爺を再び突き落とした。
  ため息をして、真面目に考えた。
  まず、果報は寝て待てと書かれていたからこうして待っているものの、何も起こ
りやしない。それどころか、階段が崩れて来やがった。一体いつまで待てばいいん
だ。これ以上待っていたら、死んじまう。
「それにしても、眠たいわい……」
  ディト爺は、いつの間にか俺の隣にいやがった。
  確かに眠たいな。
  いや、ちょっと待てよ。俺はともかく、ディト爺はさっきまで寝ていやがった。
どう考えてもおかしい。それに、ディト爺はギャグ王道の道という本を読んでいや
がる。これもおかしい。何故、そんなにギャグにこだわるんだ。絶対におかしい。
「いや、絶対に裏がある……」
  ……駄目だ。眠たくて、変な事まで考える様になってきやがった。
  崩れていく階段を見ると、かなり近くまで迫って来ている事がわかった。
  もう、時間がねぇな。こうなりゃ……。
  いや、何か、手があるはずだ。
  そうだ、初めに階段が崩れ出した所って事は、そこが起点の可能性が高い!  こ
うなりゃ、賭けに出るか。俺の予想が当たっているか。
「ディト爺!  初めに階段が崩れ出した大体の場所はわかってるか?」
「ふむ、覚えているわい」
「じゃ、そこに向かって技を使ってくれ」
「なんじゃと!?」
「だから、そこを狙えって言ってんの」
「確かに、ループの魔法は起点と終点の二つにかけられている可能性が高い。じゃ
が、もし違ったのなら、儂とお主は死ぬ事になるのじゃぞ?」
  ディト爺は、暗い表情で俺を見たが、俺は逆に明るい表情をした。
「なぁに、気にすんなって!  そん時は仕方なねぇ。でもよ、そんな簡単に希望を
捨てるなんて俺には出来なねぇ。例え、それが1%の確率だとしてもだ!」
  ディト爺は、にやりと笑うと、崩れ行く階段の方へと歩き出した。
「確かにそうじゃな。それがどんな事であろうともな。それに、お主はまだ若い。
ここで死ぬにはもったいないわい」
  しばらくすると、ディト爺は歩みを止めた。
  そしてディト爺はゆっくりと目を閉じると、杖を強く握った。
「斗菟剣技・破陣!」
  神速とも言える速さで、ディト爺が何処かを斬った。
  その刹那、階段の下の方で、剣と剣がぶつかる音がした。
  ガキィィィン……。
  しばらく見てれていると、ディト爺が大きな声を出した。
「成功じゃ!  じゃが、とんでもない奴等の目を覚ます事をしてしまったわい」
  とんでもない奴等?  素早く階段を下りて、階段の起点を見た。
  そこには、壁に一つの扉があった。だが、周りには床が無く、扉お開ける事すら
出来ない状況だった。
  だが、それ以上に恐ろしい事が待っていた。
  何しろ、その扉の周りにはレイスが五匹もいたのだから……。

第二十話「探せ! 逃げ道!」 
  俺は下の方にいるレイスを見て、一瞬体が硬直してしまった。
  何しろ、あのレイスだぜ!?  俺がまともに戦える様な相手じゃねぇ。それに、
階段が崩れているんだぜ。もう、逃げるしかねぇだろ。
  ディト爺は、いつの間にか俺の隣まで来ていた。
「トラップ、お主は一刻も早く逃げ道を探すんじゃ。儂はあのレイス共の相手をす
る。わかったな?」
「ディト爺、いいのかよ?  一歩間違えれば死ぬんだぜ?」
「その時はその時じゃ。じゃがな、あのレイス共は、とてもかわいそうなのじゃよ」
「かわいそうだと?」
「そうじゃ……」
  俺は前にアンデッドと戦った事はある。更に、クレイのお人好しによってそのア
ンデッド達と手を組んだ事もある。だからこそ、何となくだが、それもわかる気が
する。死ねない体か……。
  俺は再びあの言葉を考えた。『果報は寝て待て』か、言葉通り待てばいいのかも
しんねぇが、このダンジョンはそんなに甘くはねぇな。それは、俺が一番知ってい
るはずだ。とすると、この言葉は、意味から考えるのでは無くて、そのまま考える
のか。じゃあ、ディト爺がやった行動が正しい事になるな。だが、何故寝るんだ?
  俺が色々と考えていると、ディト爺の声が聞えて来た。
「トラップ!  早くするのじゃ!  時間が無い!」
  はっとして、階段を見るともう半分程が崩れていた。
  時間がねぇな……。
  だが、見付かんねぇんだよ。どうしても。一体何処にあるんだよ。
  次第に、俺は焦り出していた。時間に追われている、それに、早くしねぇとディ
ト爺も死んじまう。
  俺は、落ち着く為に、深呼吸を二回すると、再び考えた。
  まず、何故寝なければいけねぇっ所だな。寝れば何か起こるわけでも無かった。
あの所で寝ると階段が出てくるわけでもねぇしな。
  色々と考えていると、再びディト爺の声が聞えて来た。
「かわいそうに……。お主達は疲れているのじゃな……。永久の時を生きなければ
ならないのじゃな……」
  俺は我が目を疑った。暗闇の中、ディト爺がレイスに向かって喋っていた。
  確かに俺も似たような事をした事はあるがよ、あのレイスは完全に敵だぜ。もし
かしたら攻撃されちまうんだぜ。
「ディト爺!  逃げろ!」
  俺が呼びかけるがディト爺は決して離れようとはしなかった。崩れる階段はディ
ト爺のすぐそこまで迫って来ているっていうのによ。
  もう、時間がねぇ!
  そう思ったその刹那、壁から煙が出てきた。
「これは……」
  その煙を吸った俺は、急に眠たくなってきた。
「くそ……。眠たいが…、寝るわけにはいかねぇんだ!」
  俺は自分の顔を思いっきり殴った。
  その痛みによって目が覚めた俺は、再び考えた。
  寝る事によって階段か通路が出てくるんだろうな。でも、何故寝るんだ?  例え
ば、寝る事によってスイッチを押す事が出来るとか……。それともか……!
「そうか!  何だ!  簡単じゃねぇかよ!」
  俺は、急いで天井を見た。
  もう少し上の方で、穴が空いている事がわかった。
  そう、寝るって事は単に上を見ろって事だったんだ。
  あのガスは、さっきから少しづつ出ていて、眠くさせておいて、思考能力を低下
させていたと考えるのが妥当だな。
  急いでその天井の穴の下に行った。すると、そこの壁にはとても小さなボタンが
あった。普通、気付くのは珍しい程だった。
  俺は迷わずボタンを押すと、一息ついた。
  やっと抜けれるな。もう二度とここには来たくねぇな。
  だが、穴に何の変化は無かった。何度も押してはみるが、何も起こらねぇ。
  どうやら、古くて潰れてしまっている様だな。仕方ねぇ。
  俺は、ポシェットからフック付きのロープを取り出した。
「よっと!」
  フック付きのロープを天井の穴に投げると、くいっと引っ張った。
  どうやら、見事に引っかかった様だな。
  何気なく階段を見ると、すぐそこまで迫って来ていた。
  だが、ディト爺の姿が見えない。ついさっきまでいた所は完全に崩れ去っている
しよ、レイスまでいない。
「ディトじいぃぃぃぃ!」
  だが、返事は無かった。
  俺は、しばらく待っていたが、ディト爺の姿が見える事はなかった。
  そして、あきらめてロープで上っていった。
  ディト爺、一体何処に行っちまったんだよ……。

 1998年4月06日(月)20時36分09秒〜4月14日(火)10時39分13秒投稿の、帝王さんの小説11〜20話です。
 ここで爺チャンが登場。ギャグとシリアスが混在する謎の世界が出来つつあります。この人は、いまだに謎の人物です。

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