第七十一話〜第八十話

第七十一話「銃の謎」

  猫の大群をディト爺の活躍により見事に立ち退かせ、俺達は急いで通路を走り抜
ける事に成功した。通路の先には何と階段があり、この階ともここでオサラバとい
う事になった。
「ふ〜、ようやくその階ともここでオサラバだな。この階は前の階よりまだましだっ
たな」
  階段を眺めながらそう言った。
「ふむ、確かにそうじゃな。罠の数は少なかったからの。ただ、猫が辛かったの」
  確かにそうだ。あの猫達には困ったもんだぜ。まず、初めに出会った猫がゴーレ
ムでよ、そのゴーレムが強いのなんの。あの時、ディト爺の銃が無ければ俺は死ん
でしまっていただろうな。
  そういや、ディト爺はあんな強力な銃を持っていたんだよな。
「ディト爺、あの銃はかなり凄いよな。何しろ、あのゴーレムを吹っ飛ばす程の威
力を持ってんだしな」
  ディト爺は不思議そうに俺を見た。
「ん?  変じゃな。あの銃の威力は人間を吹き飛ばすぐらいの威力しかないはずじゃ
ぞ?」
  ディト爺は懐から例の銃を取り出すと、その銃を、じー、と見ていた。
  あの銃が人間を吹き飛ばすぐらいの威力しかねぇだと?  変だな、俺が使った時
はあの巨大なゴーレムを吹き飛ばす程の威力があったってのによ。
  ん?  そういや、あの時、銃の引き金を引いても何も起こらないからって色々と
いじったよな。その時、変なネジみたいな物を右に回したんだよな。もしかしたら
その影響なのか?
「ディト爺、その銃に付いている変なネジみたいな物があるだろ?  俺はそれを右
に回したんだが、もしかしてそれが影響して……」
  そう言うと、ディト爺はもう一度銃を確りと見た。
「ん?  何じゃこりゃ?  こんな物があるとは初めて気付いたわい」
  ディト爺が何とも不思議そうな顔をしている所を見ると、どうやら今まで全く知
らなかった様だな。
「多分、そのネジをいじった事により銃の威力が上がったんだじゃねぇのか?」
  俺はディト爺から銃を貸してもらうと、銃のネジを左に回し、壁に向かって撃っ
てみた。
  ドンッ!
  一瞬、小さな衝撃が銃から伝わって体を襲う。
  壁をよく見ると、少し壁が凹んでいるのがわかった。
  今度は銃のネジを大きく右に回すと、壁に向かって撃ってみた。その刹那、銃か
ら物凄い衝撃が体を襲う。その衝撃によって銃を落としてしまいそうになった。
  そして、壁に開けられた穴を見ると、その威力がどれ程のものなのか一目でわかっ
た。壁には大きな窪みがあり、その窪みからどれ程の威力なのかが見せつけられた。
その威力に、ディト爺も驚きのあまり猫の服を着て顔を洗っている程だ。
「関係無い事をしているのは誰かな〜!!」
  俺は思いっきりディト爺を殴り飛ばすと、銃を見た。
  この銃、一体どれ程の威力を持っているのだ?  ディト爺の家宝だとか言う物だ
が、物凄い家宝もある物だな。この銃、一体誰が作ったのだろうか?
  そんな事を考えながら、ゆっくりと階段を上がって行った。

第七十二話「水の地下三階」

  しばらく階段を上って行くと、ようやく階段の終わりが見えてきた。階段を上り
終えると、近くの壁に文字が書かれていた。暗くて読み取り難いが、何とか見る事
が出来るな。
「何々、『水の地下三階』だと?」
  水の地下三階と言う事は、この階は水に関係した罠が多くあるって事だよな。
「ふ〜、ようやく着いたわい」
  ふと後ろを見ると、ディト爺が丁度階段を上り終えた所だった。
「ふむ、そろそろ恒例のあれをやるかの?」
  恒例のあれって言ったら、あれしかねぇよな。まあ、そろそろ一休みもしたい頃
だったしな。何しろ、あの猫の大群に追いかけられて必死になって走ったんだから
な。体も疲れている頃だしな。
  俺はその場に座り込むと、壁を背もたれとして利用した。
「そうだな。恒例のあれでもするか」
  ディト爺はにやりと笑うと、俺の近くまで歩いて来て、その場に座り込むと袋を
ゴソゴソとあさり出した。そして、ディト爺は袋からお茶とコップ二つを取り出す
と、コップにお茶を入れた。
「地下四階を無事に脱出出来た事を祝し、カンパーイ!」
  俺がそう言うと、ディト爺と俺は一気にお茶を飲み干した。
「ふー、思いっきり走った後はお茶が一番だぜ」
  俺はお茶をまた入れてもらうと、今度はゆっくりと飲んだ。
「そうじゃな、あの猫の大群から逃げ切れたのじゃからな。じゃが、あの猫は可愛
かったの〜」
  そういや、あの猫達を退けたのはディト爺の世にも恐ろしい行為の御陰だったん
だよな。あんな事をされたら、誰もが恐がるに違いはないよな。
  そんな事を考えていると、あの不気味な光景が一瞬目の前に広がった。
「ぶはっ!」
  あの光景を思い出した瞬間、俺は思いっきりお茶を吹き出してしまった。もう、
あの光景だけは絶対に見たくはねぇな。思い出しただけでも寒気がするぜ。
  そんな事を考えていると、突然ディト爺が俺の目を前に顔をもってきた。
「ん?  どうしたのじゃ?」
「近寄るな〜!  この変態魔神が〜!」
  俺は驚きのあまり、訳のわからない事を言ってディト爺を殴った。
「何じゃと!?  何故その名を知っているのじゃ!?」
「それがおめぇの名前か!」
  再びディト爺を殴ると、心を落ち着かせ、再びゆっくりとお茶を飲みだす。
「まあ、それはさて置き、どうやらこの階は水に関係した罠が多い様だ。十分に気
を付けるんだぞ。水を見付けたらすぐに俺に知らせるんだ。もしかしたら、何かの
罠って可能性もあるしな」
  ディト爺に十分に言い聞かせると、俺はお茶をまた入れてもらい、ゆっくりと飲
みだした。
  しばらくその場に休んでいると、隣にいたディト爺はいつの間にか寝ていた。そ
ろそろ俺も一休みするか。休息ってのは大事だしな。
  そう思っていると、いつの間にか俺のまぶたは重たくなってきやがった。
  どうやら、もう寝る時間の様だな。しばらく寝たら、またこの長いダンジョンを
進む事になるんだ。今の内に確りと休んでおかねぇとな。
  そうこう考えていると、いつの間にか俺は眠っていた。

第七十三話「水責め」

  誰かが呼ぶような気がして、はっとして目覚めた。
  いつまでもこんな所でのんびりと寝ている場合じゃなかったんだ!
  俺は重たいまぶたを大きく開けると、素早く立ち上がって隣でまだ寝ているディ
ト爺を叩き起こした。
「おらおら!  さっさと起きて、早く行こうぜ!」
  そう言うと、ディト爺はゆっくりと立ち上がり、いつもの大きな袋を背中に背負
うと、俺を見た。
「ふむ、準備はこれで良しじゃ。早く行こうではないか」
  俺達は早速歩き始めた。
  薄暗い通路を歩いていると、左折れになっていた。そこを曲がり、更に進んで行
くと、今度は右折れに。そこを曲がって更に進んで行くと、今度は正面に壁が見え
て来た。
  行き止まりまで歩いて行くと、右側の壁に扉がある事がわかった。扉に罠がない
かを調べ、無い事がわかると早速扉を開けた。
  ギギギギギギ……。
  古い扉が開く様な音を立てながら扉が開くと、俺達は早速中へと入って行った。
  そこは一つの部屋で、あまり大きな部屋とは言えなかった。部屋の中を見回すが
全く何もなかった。いや、正確に言えば、二つの扉しかなかった。
  俺達が今入って来た扉と、それとは別に、正面の壁の右側に扉が一つあった。
「ディト爺、部屋の何処に罠が仕掛けられているかわかんねぇから、絶対に俺の後
ろを歩くんだぞ」
  ディト爺にそう言い聞かせると、俺は注意しながら扉へと近付いて行った。
  扉の所まで無事に行くと、早速扉を調べた。
「う〜ん、こいつは見た事の無いタイプだな。爆弾が仕掛けているには変だしな」
  一体なんの罠だ?  こんなタイプの罠は見た事がねぇしよ。何か特別な罠が仕掛
けているには違いないが、見た所、この扉の罠は、どう見ても解除出来る様な代物
じゃねぇな。扉を開けようとすると絶対に作動する物だしな。更に、扉には鍵穴と
いった物が全く見当たらねぇ。
  どうやら、絶対にこの扉を開けるしかねぇ様だな。部屋の中に扉を開ける様な物
は全くねぇしな。
「ディト爺、今からその扉を開けるんだが、気を付けろよ。どうやら罠が仕掛けて
ある様だ。気を引き締めろよ!」
  隣で何故か猫の人形を寂しそうに抱きしめていたディト爺にそう言い聞かせると、
俺は素早く扉を……の前にディト爺を殴った。そして、俺は今度こそ扉を開けてみ
る事にした。
  ガチャガチャ、ガチャガチャ……。
「……どうやら、開かねぇ様だな」
  一体どうして開かないんだ?  変だな、扉を開ける様なスイッチでもあるのか?
  などと考えていると、突然上方から大量の水が流れ出てくる音が聞こえて来た。
  素早く後ろを振り返り、部屋の中を見回すと、既に部屋の中には水が少しではあ
るがたまってきていた。
  どうやら、水責めって所だな。何とかこの水を止めて、扉を開けねぇとな!
「ディト爺!  何処かに水を止めるスイッチか、扉を開けるスイッチがあるはずだ!
早く探すぞ!」
  隣で猫の人形とたわむれていたディト爺にそう言うと、俺は素早く部屋の中を調
べ……の前に、ディト爺を殴った。

第七十四話「スイッチ」

「どうやら、早くも水が腰の辺りまで溜まって来た様だな」
「う〜む、やはり、早くスイッチを見付けん事にはどうしようにもならんわい」
  俺達は、途方に暮れていた。何故なら、親切にも壁にあるヒントが書かれていた
のだが、そのヒントというのが、『スイッチは床にあり』と書かれていたのだ。つ
まり、この水で一杯になった床を調べて、スイッチを探せというのだ。それは、物
凄く確立の低い話だった。
「ディト爺、どうする?  さっきから、かなり調べてはいるんだがよ、どうにも、
暗くてよく見えねぇ」
  ディト爺も困り果てた様子で、「どうにもならないわい」と言った。
  ディト爺の力でもどうにもならないか……。ん?  力?  ディト爺の力!  そう
だ!  その手があったじゃねぇか!
「ディト爺!  おめぇ、そろそろ力が回復して剣技を使えるんじゃねぇのか?  そ
うしたら、あの扉を破壊出来るだろ」
  だが、ディト爺は首を横に振った。
「いや、それが駄目なんじゃ。儂がさっき、扉を調べたところ、強力な魔法が掛け
られていたのじゃよ。その魔法は厄介な事に、何か魔法的な攻撃を加えるとその魔
法がそのまま跳ね返ってくるのじゃよ」
  何とも申し訳なさそうに言うと、ディト爺は再び床を調べ始めた。
  どうやら、俺達にはスイッチを見付けるしかねぇ様だな。こうなったら、意地で
も見付けてやるぜ!
  俺は水の中に手を突っ込むと、手探りで床を調べ始めた。一体どの辺りにあるか
は全く見当がつかねぇが、絶対に見付けてやるぜ!
「ディト爺!  そっちは見付かったか!?」
  だが、首を横に振るだけだ。
  再び床を手探りで調べていると、水が、もう胸の辺りまで迫って来ていやがる。
床を調べるのにも、水の中に顔を突っ込まねぇと調べる事は出来ねぇ。
「ん?」
  と、部屋の左隅の方に居たディト爺が、突然声を上げた。
「どうした!?」
「スイッチじゃ!」
  俺はその言葉を聞くと、素早くそこまで走って行こうとしたが、どうも進み難い
ので、泳いで行く事にした。
  ディト爺の居る所まで行くと、立ち上がって水面を見た。
「で、何処だ?」
  ディト爺は真下を指差した。俺は水の中に潜ると、暗い水の中に、何かほのかに
光り輝くスイッチを見付けた。それを手で押すと、素早く立ち上がった。
「扉へ急ぐぞ!」
  そう言うと、俺とディト爺は扉へと向かった。泳ごうかと思ったが、少し余裕と
いうものを持つのも大切だと思い、歩きながら扉へと向かった。
  扉の前に着くと、俺は扉の押して開けようとした。だが、まったく開く気配は無
かった。
  多分、引いて開けるのだろうな、と思いながら今度は引いて見た。が、扉は全く
開こうとはしなかった。
「ちょ、ちょっと待てよ。あのヒントにはスイッチを押せば、扉が開くって書いて
いたよな?」
  ディト爺に確かめる様に聞くと、ディト爺は「そうじゃよ」と、言った。
  一体どうなってんだ!?  これも一つの罠なのか!?

第七十五話「閉ざされた部屋」

  スイッチを押したというのに、扉は閉ざされたままで、一向に開く気配は無かっ
た。
  どう考えても、あのスイッチが扉を開ける物としか考え様がないんだよな。もし、
あのスイッチが別の罠だとしたら、既に罠が発動しているはずなのに、そういった
罠が全く無いしな。それに、水を止めるスイッチでもなかった。
  ふと水の事を思い出して、水位を見ると、何ともう首の所まで来ていやがった。
「う〜む、もしこの扉が引くタイプだったとしたらどうする?  それとも、扉の向
こうは水で満杯だとしたら?」
  ディト爺は意地悪そうに、にやにやと笑いながらそう言った。
  この扉が引くタイプだとしたら、水の力で扉が開け難くなるんだよな。それと、
向こうも水で一杯だとしたら、押すタイプの扉だとしたら、水の力によって扉は開
かない!
  俺は、はっとしてディト爺を見た。
「お、おい!  それじゃ、この扉は押すタイプの扉で、この向こうは水で一杯だっ
ていう事か!」
「じゃが、それは単なる推測にすぎん。それが正しいという証拠は何処にも無いの
じゃからな」
  ディト爺はあくまでも冷静であった。
  もし、そうでないのなら、早くスイッチを探さねぇとな。
「ディト爺、またスイッチを探してくれ。もしかしたら、別のスイッチがあるかも
しんねぇ」
「じゃが、上を見てみい」
  ディト爺の言葉を聞いて、俺は上を見た。すると、天井は低く、すぐにでも天井
に水が到達する様になっていた。
「くそっ、なんでこんなに天井が低いんだ!?」
  そう嘆きながら、俺はまた水位を見た。水はもう口の辺りまで来そうだ。
「ディト爺、そろそろ泳ぐ体勢にはいれよ!  もう水位は辛い状況まで来ていやが
るしな」
  だが、ディト爺は苦笑いをした。
「こらこら、儂はお主より背が低いのじゃぞ。もうとっくの昔に泳いでおるわい」
  よく見ると、ディト爺は立ち泳ぎをしていた。
「ははは、すまねぇな。まあ、この状況をどうするかを考えないとな」
  少し口を開けていると、突然水が口の中に入って来やがった。ペッ、と口の中に
入った水を吐き出すと、水の中を泳ぎ始めた。
  それにしても……。
  辺りを見回すと、俺達の入って来た扉が目にはいる。
「そうだ!  何であの扉の事を忘れていたんだよ!」
  大きく叫ぶと、俺は急いでその扉へと泳いで向かった。
  扉の前に来ると、その扉を押して開けようとした。が、扉は全く開こうとはしな
かった。今度は引いて開けようとした。が、それもまた開こうとはしなかった。
「その扉は、儂が初めに調べておいたのじゃが、開かなかったわい。スイッチを押
した後も調べたのじゃが、結局開かずじゃ……」
  ディト爺は何とも悲しそうに言った。
  どうやら、逃げ道は無い様だな。
  天井を見て、まずは後どれくらい持つかを見た。すると、天井は俺が手を伸ばせ
ば届くぐらいの所にあり、部屋が水で満たされるのは時間の問題だった。

第七十六話「賭け」

  水は、天井のすぐそこまでたまっていた。俺達が呼吸をする為のギリギリのスペー
スぐらいしかない。ディト爺も、俺も、辛い状況だった。もう、スイッチを探して
いる暇なんて全く無かった。呼吸を必死にするのがやっとの状況だからだ。
  隣で何とか立ち泳ぎをしているディト爺は、まだ冷静に立ち泳ぎをしていた。
「なあ、もう、他に方法はねぇのかな」
  だが、ディト爺は返事をせず、ただ黙ったままだった。
  それにしても……。
  俺は天井を見た。天井までは、後もう少しだった。もう、この部屋が水で満たさ
れるのは時間の問題だな。
「ディト爺、もう、時間がねぇ様だな。一体どうするつもりだ?」
  それでも、ディト爺は黙ったままだった。
「ディト爺、聞いてんのか?」
  そう言うと、ディト爺はやっと俺の方を見た。
「ふむ、賭けに出てはみんか?」
  突然、ディト爺はそんな事を言い出した。
「賭け?」
  この状況で賭けとは一体どういう事だ?
  俺はディト爺の方を確りと見ると、ディト爺はにやりと笑った。
「ふむ、そうじゃ。儂等に残された手段は、賭けに出るしかないのじゃ」
  確かにそうだな。俺達に残された手段は賭けに出るって事したねぇよな。
「そこでじゃ、もし、儂の言ったように、この扉の向こうが水で一杯なら、開ける
事は不可能じゃ。じゃが、もし、あのスイッチが、儂等が初めに入って来た扉を開
ける物だとしたら、あの時、扉が開かなかったのは水圧によるものだと推測される。
そこでじゃ……」
  そう言うと、ディト爺は懐を探り、あの銃を取り出した。
「この銃で、周りの水を一気に退けさすのじゃ」
「何でそんな事がわかっていながら、早めに言わなかったんだよ!  もう少し早かっ
たら、今の様な状況にはなっていなかったはずだぜ!」
  俺は思いっきりディト爺に向かって怒ると、ディト爺はすまなさそうな顔をした。
「儂とて、そんな事を早く思い付いていたら言っていたわい。じゃが、つい先程、
思い付いたのじゃ」
「仕方ねぇな」
  俺がそう言うと、ディト爺は突然抱きついて来た。
「嬉しい〜」
「こんな状況で、抱きつくのは何処の誰かな〜!?」
  俺は思いっきりディト爺を殴ると、ディト爺は銃を俺に渡した。
「で、これでどうしろと?」
  俺が聞くと、ディト爺は「こっちに来い」と言いながら俺を手招きして、俺達が
初めに入って来た扉の前まで泳いで行った。
  扉の前まで来ると、ディト爺は俺を見た。
「一つ言っておこう。その銃は今、威力を最大値にしておる。その為、もしかした
ら儂等はその衝撃で壁に叩き付けられてしまう可能性がある。何しろ、この銃は風
の力が封じられているのじゃからな」
  そう言うと、ディト爺はいつもの笑い顔を止め、真剣な顔をした。
「もしかしたら、これが儂等の最後になるかもしれん。それでもいいのか?」
「な〜に言ってんだよ!  俺達がこんな所でくたばるか!  大丈夫だ。心配する事
じゃねぇって!」
  そう言うと、確りと俺の手に握られた銃を見た。

第七十七話「仕事」

  俺は、手に握られた銃を見ると、照準を扉の前の水に合わせる。
「ディト爺、下がってな。銃を撃って水が退いたら、俺はすぐに扉を開ける。ディ
ト爺は後ろの方で待っていろ。これは、俺の仕事だ……」
  そう言うと、ディト爺は部屋の奥の隅へと向かった。
  水が天井まで達するまであと少し。俺達が息をするのも辛い。何とかこの状況を
切り抜けなくてはなんねぇな。
「こいつで、決める!」
  ディト爺が隅へと非難したのを確認すると、俺は銃のボタンを押し、引き金を引
いた。すると、銃から物凄く強力な何かが出て来ようと、もがき始めた。その激し
い動きに、俺は銃を手放しそうになったが、ここで手を放してしまったら、銃が暴
発しちまう!  そうならないように、俺は必死に銃を持っていた。
  ドゴーーーーーーーーーン!
  突然、銃から強力な風の力が発射された。その威力は、俺の周囲の全ての水が吹
き飛ばされる程だった。だが、その激しい衝撃は、俺の体をも吹き飛ばす程で、俺
は壁に激しく叩きつけられた。
  だが、そんな事ぐらいで気絶をする訳にはいかなかった。チャンスは今しかねぇ
んだ!  俺しか出来ねぇ事なんだ!
  俺は壁に叩き付けられた衝撃で血が頭から流れている事も気にせず、ただ、扉へ
と向かった。
  下を見ると、水で一杯で見る事が出来なかった床までもが見える程だ。後ろを見
ると、水が津波の様に俺に襲いかかって来ているのが見えた。
  急いで扉の前に来ると、扉を引いて開けてみるた。すると、扉はすんなりとはい
かなったが、何とか開いてくれた。
  俺は部屋から出ると、扉を全開にして通路で水が来るのを待った。
  ザザザザザザザ……。
  物凄い量の水が部屋から出て来たかと思うと、その水は何かに導かれる様に通路
の隅へと向かい、そこから水は流れていった。どうやら、あそこに排水溝があるら
しいな。
  水が流れていくのを見ていると、突然、水と一緒に猫の人形を抱いた、猫スーツ
を着たディト爺が流されて来た。
「ふにゃ〜ん!」
  ディト爺は猫の鳴き真似をすると、排水溝へと流されて行く。
「そのまま流されてどうすんだよ!」
  俺はダッシュでディト爺に近付くと、ディト爺を殴った。
「まあ、何はともあれ、助かったの」
  ディト爺は猫スーツを着ながらそう言った。しかも、何故か猫の顔を洗う真似を
していた。
「う〜む、明日は雨!」
「おんどれは、本物の猫のつもりか!」
  ディト爺の頭を思いっきり殴ると、俺はさっさと部屋へと向かった。

第七十八話「薬」

  さっきまで水で一杯だった部屋は、今はもう、雨上がりの地面の様に、床に水が
所々にあるだけだ。
「どうやら、これでもう進めるらしいな」
  俺が何とも嬉しそうにそう言ってディト爺を見ると、ディト爺は何とも驚いた顔
をした。
「どうしたのじゃ!?  その血は!」
  ん?  血?
  俺は額を手で触ると、その手を見た。すると、手にはべっとりと血がついていた。
「げっ、あの時、銃を撃った衝撃で壁に叩きつけられた時に、気絶しそうな程、頭
を強打したからな。多分、その時に血が出たんだろーな」
  すると、ディト爺は急いで袋をゴソゴソと調べ始め、何か薬草の様な物を取り出
した。それを、袋から更に取り出した皿の上に置いて、その薬草らしき物を棒で磨
り潰し、パラパラの粉状にした。
「ほれ、頭をよく見せるのじゃ」
  俺はしゃがみ込んで、帽子を手に持つと、頭をディト爺に向けた。
「う〜む、どうやら、頭の少し後ろの方が切れている様じゃな。多分、壁が少し出っ
張っていたか、もしくは、壁が偶々少しだけ尖っていたのじゃろうな」
  ディト爺は俺の頭に何か粉末状の何かを傷口に擦り付けているんだろうな。時々
激しい痛みが俺を襲う。何とかその痛みを堪えていると、ディト爺は突然、傷口を
何度も殴っりやがった。
「何しやがるだよ!  いってぇじゃねぇか!」
  俺は思いっきり叫ぶと、ディト爺は「ほい、お終いじゃ」と言った。
「何がお終いなんだよ?  本当に治ったんだろうな?」
  俺が怒りながらディト爺を睨み付けると、ディト爺はにやりと笑った。
「疑うより、行動してみてはどうじゃ?」
  行動?  つまり、頭を叩いてみろって言いたいのか?
  俺は、恐る恐る頭に手を伸ばすと、頭をゆっくりと、そして、静に叩いてみた。
だが、何度叩いても痛くはなかった。
  一体どうなっていやがるんだ?  さっきまで頭を叩かれたら痛かったのによ。
  不思議そうにディト爺を見ると、ディト爺は「ほれ、なんともないじゃろ?」と
言って笑った。
「おいおい、一体何をしたんだよ?」
「な〜に、強烈に効く薬草をお主に塗ってやったまでじゃよ」
  俺は感心した様にディト爺を見た。
  へ〜、まだ良い物はあったんだな。それにしても……。
「おい、ディト爺。なんであの薬草は乾燥してたんだ?」
  そう聞くと、ディト爺は当たり前の様な顔をした。
「元々そういう薬草なんじゃよ」
「いや、そうじゃなくて、なんであの薬草は濡れてなかったんだって、聞いてんだ
よ。さっき、あの大量の水に浸かってたんだぜ?  どう考えても、その袋は濡れて
いるはずだぜ?」
  そう言うと、ディト爺は、チッチッチッ、と言った。
「甘いの。儂の特製袋は、強力防水加工がなされているのじゃよ。その為、どんな
に水に浸かろうがお構い無しなのじゃ!」
  ディト爺は袋を高々と持ち上げて俺に見せた。
「所でよ、さっきの薬草は、ディト爺が作った物とは言ねぇよな?」
  そう言うと、ディト爺はにやりと笑った。
「ふふふ、儂が一々店などで薬草を購入するとでも思ったかの?」
  なんだって!?  つまり、俺の頭に塗られたのは、ディト爺特製、愛を込めて作っ
た爺チャンスペシャル塗り塗り薬だというのか!
  俺が訳のわからないネーミングを付けていると、突然、体が勝手に動き始めた。
「な、なんだよ!?」
  体は、俺がいくら止めようとしても全く止まらず、それ所か、変なポーズをしだ
した。そのポーズというのは、まるで猫のポーズだった。猫の様に手をなめて顔を
洗い始めた。
「ディト爺!  これは一体どういう事だ!」
  ディト爺は、にやにやとしながら、俺を見た。
「それはじゃな、別名、ディト爺特製、愛を込めて作った爺チャンスペシャル塗り
塗り薬、と言ってな、その薬は良く効くのじゃが、どうやら猫の呪いによって、体
が勝手に猫の動きをしてしまうようになるのじゃよ。まあ、すぐに治るわい」
  ちょっと待て!  なんで俺が勝手に付けた名前がそのまま当たってんだ!?  更に、
猫の呪いって一体なんなんだ!?
  俺は心の奥で叫び続けていた。だが、それでも猫の動きは止まらなかった。
  ディト爺は何を思ったか、突然、袋から一つの玉を取り出して、俺に向かって投
げた。
「何してんだよ!  誰がそんなもんに反応するかよ!」
  口ではそう言ったものの、悲しい事に、体はその玉で遊んでいやがる。
  なんで俺がこんな事をしなくちゃいけねぇんだよ!  これは、クレイがやるべき
仕事だろ!
  俺は、そんな事を心で叫び続けていた。

第七十九話「猫の呪いの恐怖」

  俺は、何とかあの猫の呪いが解けたので、まずはディト爺を三回程殴り、部屋の
扉へと向かい、その扉を開けようと手を掛けた時、突然、ディト爺が叫んだ。
「にりゃゃゃ!」
「何が『にりゃゃゃ!』だ!」
  素早くディト爺を殴ると、俺は再び扉を開けようと扉に手を掛けた刹那、またし
てもディト爺が叫んだ。
「にらぁぁぁ!」
「何が『にらぁぁぁ!』なんだよ!」
  思いっきりディト爺を殴ると、ディト爺が真剣に俺を見ているのに気が付いた。
  どうやら、マジで何かある様だな。まあ、ここはディト爺の意見を聞くとするか。
  俺は扉から離れ、ディト爺と向かい合った。すると、ディト爺はにやりと笑い、
突然、懐からさっきの玉を取り出した。
「ほ〜れ、儂の可愛い猫ちゃん。遊ぼうかの〜?」
  ディト爺は、その玉を俺に向かった投げた。
  馬鹿が。もう呪いの効果は無くなってんだよ。誰がそんな玉なんかに反応するかよ。
  が、心ではそう思っていたが、体は勝手に動く。
  猫の様に、玉で遊び、ディト爺が更に取り出した猫じゃらしにじゃれつき……。
「だー!  呪いはまだ解けてなかったのかよ!」
  口では嫌と言わんばかりだったが、体は楽しい楽しいと言っている。
「ふふふふ、儂の可愛い猫ちゃ〜ん」
「気色悪いわー!」
  体が言う事をきかない。だが、ディト爺を殴らなくては、このまま、ディト爺に
変な事を言わせ続けるなんて、俺には出来ねぇ!
  と、一瞬にして、俺の突っ込み精神が猫の呪いに打ち勝ち、体が言う事を聞いた。
そして、俺は素早くディト爺を殴った。
  その様子を見て、ディト爺は唖然とした。
「な、何故じゃ!?  あの、地球防衛軍猫々団首領チャーの呪いがたっぷりとかかっ
た呪いの、ディト爺特製、愛を込めて作った爺チャンスペシャル塗り塗り薬を無効
化する者など、見た事がないぞ!」
「長々と、変な異名ばっか付けてんじゃねぇよ!」
  思いっきりディト爺を殴ると、今度こそ真面目に話をする事にした。
「んで、なんであの扉を開けてはいけねぇんだ?」
  ディト爺は待っていましたと言わんばかりに目を輝かせると、ゴホンと咳払いし
た。
「それについてじゃが、実はじゃな、儂の予想では、この扉は引いて開ける扉なん
じゃよ。そして、この扉が先程開かなかったのは、水圧の関係でもない。ただ、こ
の部屋に水があるだけで、この扉は閉まってしまう様な作りになっているのじゃよ。
問題は、この扉を開ける事についてじゃが、儂の考えによると、絶対に罠があると
思うのじゃ。何しろ……」
  そこまで言うと、ディト爺は部屋の中を見渡した。
「ここの階は、水の階。罠は水に関係したものじゃ。じゃから、多分、この扉を開
けるには十分注意しなくてはならない。したがって、この扉を開けるのは、勿論、
お主という事になるが、儂は一時この部屋から出て、非難をしておくわい」
  そう言うと、ディト爺は素早く部屋から出て行ってしまった。去り際に「頑張る
のじゃぞー」と一言残して行った。
  まったく、面倒な事を俺にやらすな。
  俺はゆっくりと扉へと手を伸ばした。
  ふと、部屋の中を見回すと、ディト爺が忘れて行った、あの玉があった。
  仕方ないな。ディト爺に持って行ってやるか。
  そう思い、その玉を持った刹那、突然、俺の体は猫のようになり、玉で遊び始め
た。
  玉で楽しそうに遊ぶ俺の体。だが俺の心は楽しくもなく、ただ悲しかった……。

第八十話「また猫の呪い」

  ディト爺が置いて行った玉の呪縛からようやく逃れた俺は、結局その玉はそのま
ま置いておく事にした。何しろ、下手に触れば猫の呪いで体が暴走しちまうしな。
  そうして、俺は扉の前に立つと、ゆっくりと扉を引いて開けた刹那、突然、開い
た扉から、大量の水が流れ出て来た。
「どわ〜!」
  その激しい水の流れに、俺は足元を滑らせ、水が流れるままに俺は流されて行く。
「ディト爺〜!」
  思いっきり叫ぶが、俺の声は水の激しく流れる音によってかき消されしまった。
  どうにかなんねぇのか?
  流されながら、考えていると、水は部屋を出て、あの排水溝に流れようとしてい
た。そのまま流れに身を任していると、排水溝の所で俺の体は止まった。それは当
たり前だ。排水溝はとても狭い為、水が流れる程度の隙間しかねぇ。当然、俺は止
まるって事だ。
  俺は水が全て流れるのを待って、ゆっくりと立ち上がった。扉の方を見ると、ディ
ト爺がいつの間に着たのか、猫スーツを着て立っていた。しかも、いつの間にか、
あの玉を持っていやがった。普通、あの激しい流れの中から玉を取るなど不可能に
近い。更に、流れ着いた所を取ったとしたら、俺の近くに来ているはずだ。だが、
玉どころか、ディト爺すら俺の近くには来ていなかった。つまり、どう考えても変
だという事になる。
  不思議そうにディト爺を見ていると、ディト爺はにやりと笑った。
「ふふふ……。そんなに不思議か?  この玉が儂の手元にあるという事が」
「な、何故わかったんだ!?」
  ディト爺は、またにやりと笑う。そして、その玉を俺の方に向かってほうの投げ
た。
「その手は、もう通用しねぇぜ!」
  俺は素早く走り出し、玉を回避する。と、ディト爺は俺の隣まで走って来ると、
懐から猫じゃらしを取り出した。
「効かねぇってんだよ!」
  素早く目を閉じると、俺は心を落ち着けた。
  ふっ、見えなければ、体は反応する事はねぇのさ!
  だが、突然、頬の辺りに何かを当ててきた。何度も、それを当てている。多分、
ディト爺が、猫じゃらしを頬に当てているんだろうな。だが、絶対に反応はしねぇ
さ。
  だが、俺の自信を消し去る様に、体はその猫じゃらしに手を伸ばす。更に、強制
的に目が開かれ、完全に体は俺の支配下から、猫の呪いの支配下へと落ちていった。
  ああ、違うんだ。俺はそんな事がしたいんじゃねぇんだ。こんな所で猫じゃらし
にじゃれついている場合じゃねぇんだ。
  だが、そんな心の叫びはお構い無しに、体は猫じゃらしにじゃれている。
「ほ〜れほれ。もっと遊ぼうか〜?」
  ディト爺は何とも楽しそう俺で遊んでいやがる。くそ〜!  絶対に殴り飛ばす!
「ディト爺!  覚悟しやがれ!」
  俺が思いっきり叫ぶと同時に、突然、体が俺の意志で動くようになった。
  俺はにやりと笑い、ディト爺を思いっきり殴り飛ばした。すると、ディト爺は見
事に壁に激突した。
「し、しどい……。儂はただ、おちゃっぴ〜な遊び心だというのに……」
「訳のわかんねぇ事を言ってんじゃねぇよ!」
  更に、壁にぶつかったディト爺を殴ると、さっさと部屋の中へと入って行った。

 1998年7月19日(日)21時32分41秒〜7月24日(金)18時57分26秒投稿の、帝王さんの小説第七十一話〜第八十話です。トラップに呪いに、大ピンチの連続なのに、ギャグは欠かさないディト爺に脱帽。

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