五十話突破記念特別編

  青々と晴れ渡った空の下、一つ城があった。
  その城の周りには何人者兵士達がいて、まるで何かを拒むようであった。
  その城に中のある部屋、一人の男が怪しげな機械の前に立っていた。
「そろそろ、こいつらは死んでしまうのかな?  今までよく頑張った様だが、最近
は進む速度が落ちてきているようだしな」
  その機械は、大きなスクリーンがあり、そのスクリーンには何処かの地図の様な
物が映し出されていた。その地図の中には、二つの青い点があり、今は止まってい
るようであった。
  男はその地図の青い点を見ながらにやにやと笑いながら、楽しそうに赤いワイン
を飲んでいた。
「さて、どうする?」
  男は青い点に向かってそう呟く。
  突然、部屋の扉がノックされ、ゆっくりと開かれた。
  部屋に入って来たのは一人の兵士だったが、男は全く気にする事なく機械の地図
を見ていた。
「メレンゲ様、報告いたします。現在、奴等は塔の前で尚も止まっています」
  兵士が口早に言うと、メレンゲは兵士の方を向いた。
「そうか。城の内部で変わった事は?」
「いえ……、あ、そういえば、王妃様の知り合いだという女が城から出て行きまし
た」
  その報告を聞いたメレンゲは、別に気にする事ではないと思い、再び機械の方を
向いた。
「それにしても、この機械、この地下迷路、そして罠、一体誰が作ったのだ?」
  そう呟くと、近くの机に置いてあった一冊の本を持った。
「この本によれば、五十年程前にある男が王の依頼を受けて、城に忍び込んだ者達
を捕らえる為に作った物としか書かれていないしな」
  すると、メレンゲはその本のページをゆっくりと捲りだした。
  キスキン国に作られた地下迷路、それは今から五十年前にさかのぼる。
  キスキン国の王が、城に勝手に忍び込んだ者達を簡単に捕らえ、そして、刑を処
す所として作らしたものであった。
「お〜い!  ここの床はどうするんだ?」
  一人の大きな男が、大きな声で叫んでいる。
  ここは、キスキン国の地下迷路、とは言っても今は制作中である。
  色々な所で何人もの男達が作業している。
  その中に、全く作業をしていない男がいた。
  彼は、一枚の大きな紙を持っていて、その紙には何かの地図が書かれていた。ど
うやら、この地下迷路の地図である。
  男に呼ばれた彼は、ゆっくりとした歩調で男に近付いて行く。
「ここの床ですが、今は取り外しが出来るようにしておいて下さい。後で色々と仕
掛けを作りますからね。私でないと、ここの仕掛けは作れませんから」
「それにしても、この大きな像、どうするんだ?」
  男が指差したのは、黒い布に覆われた一つの大きな像のような物であった。
「これはですね、後でわかりますよ。今は単なる像ですが、後で魔法使いの方に命
を吹き込んで貰うのですよ」
  そう言って彼は優しく微笑んだ。
  ここで唯一罠を作れるのは彼だけであった。後の男達は、この地下迷路を作る為
の作業員。罠作りは彼のみが行っていた。
  作業員の中には、彼が大盗賊と噂する者もいたが、彼の人の良さによってその噂
は広まらなかった。
  いつしか、誰よりも信頼出来る親しい同僚として皆から思われる程であった。
  この地下迷路を制作するのには四年という長い年月を要した。だからこそ、とて
も良い出来であったのだ。
  そして、いつしか彼は一人で地下迷路の罠を制作していた。
  罠の中には、魔法使いに依頼して魔法を掛けて貰った事もあった。
  ただ、彼が仕上げたには違いはない。
  膨大な罠を作り、いつしか疲れて地下で寝てしまう事も少なくはなかった。それ
でも、長い年月を掛けてこの地下迷路を作り上げていったのだった。
  いや、地下迷路というのは変である。罠ダンジョンというのが正しいのかもしれ
ない。
  そして、長い年月を掛けて作り上げたダンジョンの何処かの壁に、彼は自分の名
を刻み、ゆっくりと出て行ったそうだ。
  その後、彼がどうなったのかはわからない。彼が誰であったのかも不明である。
  そして、そのダンジョンで何人もの罪深き人々が死んで行った。
  今、彼の作ったダンジョンに挑む者達がいる。彼の罠が勝利するのか、それとも
トラップとディト爺と呼ばれる者達が見事に罠を切り抜け、ダンジョンを脱出する
事が出来るのか。それは、誰にもわからない。

 1998年6月21日(日)12時17分10秒投稿の、帝王殿の小説五十話突破記念特別編です。

「帝王作の小説の棚」に戻る

「冒険時代」に戻る

ホームに戻る