八十話突破記念特別編

  今は昔、キスキン国には、多くの賊が城の周囲に縄張りを張り、昼夜を問わず、
賊同士の互いは終わる事は無かった。更に、その賊達は食料が少なくなると、キス
キン国へ忍び込み、食料を盗み、自分達の物とした。
  その頃、キスキン国は兵士というものが殆どいなかった。元は、平和な所であっ
た為、他国との友好条約を結んでいたから。そんな平和ボケをした城に、ある日突
然、多くの賊達が城の周りに縄張りを張ったのである。勿論、その事に対して対処
は試みた。だが、軍事国家でもないこの国が、賊を全て追い払う事の出来るような
兵力を持っていた訳ではなかった為、賊達にはあっさりと負けて、結局、今のよう
な状況である。
  その城の近くに来ていた、とある男。一見、とぼけた様に見えたが、何やら怪し
げであった。
  もうすぐ城に着く。そして、城の門が見えて来た時だった。
  ガサガサ……。
  と、男の後方から草むらの揺れる音が聞こえて来たと思うと、次の瞬間、突然、
二人の賊が男に襲いかかって来た。賊は剣を持っており、どうやら、男を殺そうと
している様だった。
  だが、男は全く怯む事無く、さっと小さな何かを取り出すと、それで賊の持って
いた剣を叩き落とす。
「な、何!?」
  それを見た賊は驚いた。何故なら、男が持っていたのは、その辺りに落ちている
様な短い木の枝だったのだから。
「どうした?  掛かって来な」
  男は挑発する様に賊達に言うと、賊は地面に落とした剣を素早く拾い上げると、
一気に間合いを詰め、剣で男の腹を刺そうとした。更に、右方向からも同じく賊が
剣を持って襲い掛かって来る。
  男は、持っていた木の枝で正面から迫って来る賊の頭を殴ると、賊はその場に倒
れ込んでしまった。
  それを見た賊は、ようやく自分の力では倒せない相手だと知り、尻尾を巻いて逃
げ出した。
「やれやれ……。どうやら、その辺りは危険の様だ。何とかこいつらを追い払う手
はないか?」
  苦笑いしながら、呟いていると、それを見ていてた城の二人の兵士達が、彼の元
へとやって来た。
  どうやら、この城の兵士達は皆、臆病の様だな。
  男はそう思いながら兵士を見ていると、兵士は男に向かって深く礼をした。
「お待ちしていました。王が城でお待ちでございます」
  兵士がゆっくりと顔を上げると、一人の兵士が「こちらでございます」と言い、
少し早く歩き出す。もう一人の兵士は、城門の警備をしている様だ。
  こんな兵士が城門の警備をしていても、全く何の役にも立たないというのに……。
  男は内心、少し腹立たしい気持ちになっていた。彼が腹立たしい気持ちになって
当然だった。ここに来るまで、何人かの賊と戦った。その時、何度かこの国の兵士
達が近くにいた。だが、絶対兵士達は彼を助けようとはせず、無視していた。それ
は、見るからに弱々しく、この国がどれ程軍事的な面が進んでいないかを思い知ら
された。
  彼は、キスキン国の王から、この城を助けて欲しい、という手紙を貰った。話に
よれば、城の周りには多くの賊が縄張りを張り、日夜問わず城に入り込んでは、城
の食料を盗んで行くのだという。
  元々、彼は正義感の強い者で、そういった事を聞くと、すぐに助けに行ってしま
う性分だった。
  その為、彼はその事を聞いて、すぐに城へと向かったのだが、その途中、キスキ
ン国の兵士はというと……。
  まったく、この国は何処まで平和ボケをしているのだ。いい加減、目を覚まさな
いと、この城が賊に乗っ取られてしまうというに……。
  そう思いながら、彼は兵士の後をついて行く。
  城の中に入ると、長い通路真っ直ぐ進み、二回目の角を右に曲がる。そして、三
回目の角を左に曲がると、今度は正面に見えてくる階段を上り、そのまま真っ直ぐ
進と、今度は角が見えるとすぐに左に曲がる。そして、今度もまた、角が見えると
すぐに右に曲がる。
  複雑な道のりだったが、今までの通路には全く賊の為に仕掛けられている罠とい
うものが全く見当たらないな。それにしても、無駄な部屋が多い。これまで見てき
た扉が開きっぱなしなになっていて、部屋の中が丸見えだっ部屋は、大体、二十は
あった。そして、そこから見えた様子から、空き部屋はその四分の三、つまり、十
五部屋は空き部屋だったという事だ。あの部屋を無駄無く利用する為には、部屋に
入ったら罠が作動する様にするのが一番だな。
  賊の侵入を許さない城というのは難しい。だが、侵入した賊を捕らえる事は簡単
なものだ。罠が多く存在するとすれば、動物ですら引っ掛かるものだ。
「さあ、着きました。この部屋に王がいらっしゃいます」
  兵士は男に向かって大きく礼をすると、兵士は部屋の前でキチンと立った。
  男は扉を軽く二度ノックすると、部屋の中から「誰かね?」という少し若い人の
声が聞こえて来た。
  すると兵士が、
「王様、彼がいらっしゃいました」
  と、扉に向かって言う。
「入って来たまえ」
  部屋から王の声が聞こえて来ると、男は扉をゆっくりと開け、
「失礼します」
  と、礼をした。
「いやいや、そんな事はしなくていい」
  王は苦笑いしなから言った。
  男は静かに扉を閉めると、王の方を見た。王は、大きな椅子にゆったりと腰を掛
けており、ここに座りたまえ、と王は自分の前にある椅子を指差した。その椅子も
王と並ぶ程の豪華さであった。
  男はその椅子に座ると、顔をしかめた。
「まず、王様、はっきり申し上げますと、私は今、少し腹立たしい気分でございま
す」
  王は、そんな彼を見て驚きはしなかった。
「ああ、そうであろう。兵士達は皆、弱々しい。更に、この城は賊による被害の為、
金品が持ち去られるという事が多発している。このままでは、この城は……」
  困り果てている王を見て、彼は決して同情をしようとは思わなかった。何故なら、
ここで王に同情をして、簡単に助けになろうものなら、この王は、今より更に頼り
ない人物となってしまうからだ。
「王様、あなたは、このままでいいのですか?  城には弱々しい兵士ばかりで、そ
んな兵士がいる為に、この国の金品は賊に持っていかれてしまうのです。今、本当
に必要な事は何なのか、それは、御自分が一番知っているはず」
  男はそう言うと、王の目を確りと見た。
「私が……」
  王は、何か考える様に、頭を抱え込んでしまった。
  今はまだ、この王は若い。だが、若いからといって、そんな王をただ見ていると
いうのは少し辛い。少しでも彼の力になるべきなのか?  彼は迷った。
「王様、あなたがもう少し、この国を変える事が出来たのなら、その時には私は協
力しましょう。ですが、今の状況では協力出来ません。もう少し、この国が変わっ
たその時にまた会いましょう」
  男はそう言うと、王の部屋からゆっくりと出て行った。そんな彼を王は止めよう
はしなかった。それよりもまずもこの国を変えるという重大な事があるのだから。
  その後、キスキン国は、見事に軍事的な面という大きな問題を解決した。だが、
賊は完全に居なくなる事はなかった。そんな時、あの男が現われ、城に賊の為の巨
大な地下ダンジョンを作る事となったのであった。そのかいあってか、城に侵入す
る賊はいなくなり、更に調子付いたキスキン国は、大掛かりな賊排除作戦をする。
そして、賊を見事に全て排除する事が出来たのであった。
  キスキン国の巨大な地下ダンジョン。それは、賊退治の為に作られた物であった。

 1998年7月25日(土)10時56分50秒投稿の、帝王殿の小説八十話突破記念特別編です。

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