エンジェルリングとダークリング(2)

(11)  〜月の子〜

 いいアイデアが浮かばない・・・
 こういうとき、どういう言葉がぴったりくる・・・?
 すっかりスランプ状態になってきたわたし。
 あ、年も明けたことだし、少し紹介しましょう。
 まず、わたしはパステル。おなじみの6人と1匹。
 そして、ベテラン冒険者のフェリアとエレン。
 彼女たちの元パーティだった、クレイのお兄さんのイムサイさん。
 最後に、わたしがトラップからもらった指輪、(実は、エンジェルリングっていう、
ものすごい力を持った指輪だった)を作った司教のエルティシカ(エリカ)さん。
 この総勢10人と1匹で、クレイのもう一人のお兄さん、アルテアさんの
ところに行く途中なのだ。
 でも、今わたしたちは船の上、つまり、まだロンザ国にもついていない。
 とりあえず、ご飯を食べて休憩中なんだけど、わたしはためていた小説を書いていたところだった。
 ちなみに、おきているのはシロちゃんと、エレンとわたし。
 残り二人のエルフと司教さんは酔いつぶれて寝ていた。
「パステルおねーしゃん、どうしたデシ?」
 わたしがウンウン唸ってるものだから、シロちゃんが心配して訊いてくれた。
「ちょっと、スランプになっちゃって・・・」
「そうデシか、休憩したほうがいいデシよ」
 くるっと小首をかしげる仕草があまりにもかわいくて健気。
わたしは思わずシロちゃんを抱き上げた。
「パステルって何してたのかと思ったら、小説かいてたの?」
 エレンが何気に訊いてきた。
「うん。冒険時代っていう雑誌に掲載させてもらってるの。
 それを、生活費の足しにしたりしてるんだけどね」
 照れて言うと、エレンはふ〜んっていう顔。
「最初のうちは苦労するわね。あたしも絵を書いて売ったりしたわ」
「どんな絵をかくの?」
 わたしが興味津々に訊くと、
「昔の話よ、フェリアたちと出会う前だから」
 エレンはぷいっと目をそらした。
 つまんないの。
 でも、みんな最初はいろいろなことするんだ・・・。
「気晴らしに甲板にでも出てみない? フェリアたちはどうせ起きないから」
 今度はエレンが誘ってきた。
「うん、行く。シロちゃんも行こう!」
「わかったデシ!」
 なりゆきって感じなんだけど、とにかくわたしたちは甲板に出た。
 うわぁ・・・夜の海って漆黒って感じで少し怖い。
 星は綺麗だけどね。
「今日、満月だったのね・・・。月っていえば、あの子どうしてるかしら?」
「あの子?」
 独り言のようにつぶやくエレンに相槌を打つ。
「ムーンドラゴンの子供よ。確か・・・ルティって言ったかしら?」
 ルティって、前にサラさんが飼ってたのと同じだ・・・。
「ねぇ、ルティをよんだの誰?」
 振り返ると本物のルティがいた。
「ルティしゃんデシ!」
 シロちゃんがルティに走りよっていく。やっぱりサラさんのルティなの?
「シロちゃん、それから、やっぱりエレン・・・。いつ生きかえったの?」
 いきかえるって・・・エレンって一度死んでるの?
 この旅ってわたし、知らないことばかりかも。
「あのねぇ・・・いるならいるって言いなさいよ!
 だいたい、あのとき会って以来なのに、『いつ生きかえったの?』
はないでしょうが!」
 さすがに今までおとなしくしてたぶん、エレンは今噴火した(笑)
「だって、口が悪いからだめって、それで天に昇ったんじゃなかったの?
 ラティと一緒だったんでしょ?」
 ルティの質問責めに、エレンは怒りを押さえているらしく、
握った拳がプルプルしてる。
「次々と質問されちゃ、答えられないじゃないの!
 それより、あんた、サラはどうしたのよ?」
 エレンが訊くとルティは爆弾発言をした。
「はぐれちゃったの。一緒に探して」
 それじゃ、サラさんもこの船にいるってことよね・・・。
「何であたしが・・・」
「エレンとサラって遠縁だったよね?」
 言いかけたエレンにルティがとどめの一発をさした。
「げっ、覚えてるし・・・」
 そういえば、リビングストン家ってロンザ国の国王と縁戚関係
っていうのは、クレイから聞いてたっけ・・・。
 さらにルティは目をうるうるさせてわたしたちに詰め寄った。
「お願い、ルティのサラを探して」


(12)  〜いたずら?〜

「ちょっとルティ! あなたどうしてサラとはぐれたわけ?」
 妙にピリピリしているエレン。
 対照的にくるりと回れ右をするのはルティ。
「わからない…気がついたら、どこかの部屋にいたの。その部屋にサラいないの。
 だからルティ、こうやって探してるの」
「だったら、その部屋に行ったほうがいいわね。…なんであたしがこんなこと
しなきゃいけないのよ、全く!!」
 エレンはぶちぶち文句を言ってる割にはずいぶんと必死に探し回ってる。
 彼女なりの優しさっていうのがあるんだね。
「パステルおねーしゃん。クレイしゃんたちにも手伝ってもらうデシか?」
「でも…酔いつぶれて寝てないかなぁ…」
 とりあえず、サラさんを探すのは後回しでクレイたちの部屋に行った。
 結果的に行ったほうがよかったんだけど。
「おや? どうしましたパステル」
 ドアを開けるなり開口一番に言ってくれたのはキットン。
 トラップはもう寝てるらしい…
「ねぇ、サラを探すの手伝ってくれない?」
 エレンが言うと、寝ているトラップ以外が「なんで?」っていう顔。
 そりゃ…そうよね。いきなり言うんだもの。しかもいるなんて思わないしね。
「だから、ちょっと手伝って……何よ、いるならいるって言いなさいよ!」
 わたしの思いは裏切られた。
 なんと! その部屋にサラさんがいたから。
「サラ!!」
 ルティがサラさんに飛び込んでいった。
 案外簡単に見つかってよかった〜。
「ルティ、心配したよ? サラが部屋にいなかったから」
「ごめんね、ルティ。すぐ帰るつもりだったのよ」
 サラさんはぎゅっとルティをだきしめた。
「それじゃ、あたしは先に帰ってるから」
「あ、待ってシルミア」
 出て行こうとするエレンをサラさんが呼びとめた。
 ところで、シルミアってエレンの愛称? どこかで聞いたことあるような気も
するけど…
「サラ、本名禁止なんだけど。で、何の用?」
 エレンがぶっきらぼうに言う。本名だったんだ。へぇ〜…
「ごめんなさい。この手紙、貴女にって渡されたの。シーモアのお兄様からよ」
 ということは、アルテアさんだけど…
「どこでアルテアと会ったのよ?」
 そうそう、それが気になっていたんだ。
「送られてきたの。私も不思議だったのよ、別の大陸に滞在していたのに…」
 無言でエレンが手紙を開ける。
 中身は白紙が二枚入ってるだけ。
「……白紙…? いたずらにしては質が悪いわね。しかも、この筆跡アルテアの
ものじゃないわよ?」
 エレンが顔をしかめた。
「何かの時間稼ぎのつもりでしょうか…?」
 キットンも頭を寄せてその白紙をにらみつけた。
「あぶりだし…じゃないかな?」
 とノル。
「でも、火なんて…そうだ、フェリアに頼めば…」
 イムサイさんが言うとわたしたちはそのまま隣の、つまりわたしたちの部屋に
行こうとした。
 そのときだった。
 女の人の悲鳴らしきものと誰かが泣き叫ぶ声が聞こえたのは…
 急いで部屋を出ようとする。
「何してるんだ? 早くドアを開けろよ」
 クレイが急かすがなかなか開かないらしい。
「だめよ、開かないわ!!」
 嘘でしょー? だってドアが開かないなんて…
「そ…そうだ、トラップ! トラップちょっと起きてよ!!」
 わたしは寝ているトラップを無理やり起こしにかかった。
 もしかしたら、あの泣き叫んでるのはルーミィかもしれない。
 それにそれに…あああ、もうとにかく、早く起きてよー!
「トラップ!!!」
            *つづく*


(13)  〜魔法が使えない?〜

「なんだよ、うるせーなぁ」
 やっとこさ起きたトラップにわたしは急いで鍵開けを頼んだ。
「はぁ? こっちの鍵ぐらい開けれる・・・・あり?」
 最初ぶつぶつ言いながらも今度は目つきが真剣になってきてる。
「たぶん、魔法か何かかかってんだろうな」
 首をかしげながらトラップはそう言った。
「問答無用ね、ドアを押し開けるわ!」
 エレンはそういうとレイピアを抜き出した。
「おいおい、ドアを斬るつもりか?」
 さすがに見かねたイムサイさんが止めに入った。でも・・・
「当たり前でしょう? それに壊れたら修理させればいいじゃない!」
 簡単に言うけど、その修理代誰が払うのよ?
 でもエレンは思いっきりドアを斬った。まるで王女様っていうのを忘れてあげたいぐらいに。
 急いでみんな部屋を出る。
「大丈夫ですか?」
 外ではまだ誰かが戦っていた。
「ぱぁ―るぅ!!」
 聞きなれた声とともにルーミィが飛びこんできた。
「ルーミィ!! 大丈夫だった?」
「ぱぁーるぅ、るーみぃすっごくこわかったんらお。でもえりあがたすけてくれたんら」
 フェリアが? それじゃ、今戦ってるのって、フェリアなの?
 わたしは暗闇に目をこらして見た。
 何かすごいモンスターっていうか、海坊主みたいなかんじの気持ち悪いやつ。
 すぐにクレイとノルとイムサイさん、それからエレンが加勢に入った。
「ちょっと、フェリア! あんた、どうして魔法使わないのよ?」
 エレンが叫ぶ。いつものことだけど。
「うるさいな・・・後でわけは話すから。とにかく、何か炎とかでもかければ」
「ファイヤじゃ無理なのか?」
「だから、魔法が使えないのよ!」
 使えないってそれじゃ、ルーミィも?
「るーみぃ、魔法つかえうよ! でも、なんかでないんら」
 まぁ、このこの場合は失敗だけど。
「どぅるみぃるふぁいるぅん、えせんぱさん、がいらぁ・です・ます・ふぁいあ!!」
 しゅるるるっていつもなら出るんだよね・・・。失敗しても煙ぐらいは。

―――――し〜〜〜〜んんんん―――――静寂―――――

「本当に? 使えないの?」
「だよぉ。るーみぃばんがってるんだお! でもできないんら」
 うう、そんな〜。それじゃ、武器による攻撃しかできないじゃない。
「キットン、あれって何なの?」
「たぶん、海坊主ではないかと・・・でも直接攻撃は効きませんね。
 できるなら、魔法か炎です。しかし、魔法が封じられてるとしたら、もしかすると、
封印魔法でも使えるんでしょうか? 早速めもっておかなければ!」
 もう! そういうのは後っていつも言ってるのに。
「それじゃ、炎を持ってこればいいわね?」
「そうです、そうです」
 でも、炎なんてどこにあるのよ。
「召還するしかないわね」
 エレンが舌打ちしながら言った。いつのまにかそばにいるし。
「召還?」
「そうよ、精霊を召還するの。一応エレメンタラ―だったんだからね」
「でも、風のエレメンタラ―じゃなかったっけ? それとも何、火の精霊も召還
できたの?」
「まぁね、ただ・・・召還しても気が荒いが言うこときくかどうか・・・」
 危ないじゃない。でも、それしかないよね・・・
「炎の精霊よ、我の前に姿を見せよ、その力を我に与えよ。フレアアロー!!」
 
                   *つづく*


(14)  〜召還魔法〜

 エレンが召還呪文を詠唱し終えると、空から赤いものが降ってきた。
「赤い炎の矢・・・?」
 サラさんがつぶやく。
 そ、そうだ!
「サラさん、船員さん呼んできてください!」
 わたしが早口に言うと、サラさんはすぐに了解してくれて、ルティと共に
呼びに行ってくれた。
 炎の矢は海坊主に命中した。しかし、海坊主はそんなの平気という感じで
さらに襲い掛かってきた。
「げほっけほっ。やっぱり、はぁはぁ、だめだったわね・・・」
 肩で呼吸しながらエレンが言った。
「魔力を相当放出しましたね? 早く手当てをしないと・・・」
 でも、エリカさんの申し出をエレンはきっぱり断った。
「それどころ・・じゃ、ないわよ!! 召還モンスターよ? けほっけほっ」
 なんか咳き込んでるんだけど大丈夫かなぁ?
「肺にはいりましたね? 早く処置をしないと死んでしまいますよ? エレンさん!
 聞いてますか。・・・・・・エレンさん!!」
「えれん!! だぁじょうぶかぁ?」
 エレンは胸を押さえて倒れた。わたしとエリカさんとルーミィでエレンを部屋に
戻した。一体、どうなってるのよ?
「パステルおねーしゃん。クレイしゃんが呼んでるデシ!」
 シロちゃんがわたしを呼んだ。
「ええ、えっと、それじゃルーミィ。あなたはエリカさんとここにいるのよ?」
「わかったおう!」
 わたしはシロちゃんと一緒にクレイのところに行った。
「どうしたの? クレイ!」
「パステル。クロスボウであいつを撃てないか?」
 クレイもさすがに近づけないと悟ったのだろう。
「わかったわ」
 わたしは、背中の荷物からクロスボウを取り出して組みたてた。
 その間にクレイは一般客の人たちに向かって冒険者を探した。
 落ち着け、パステル。
 とりあえず、的は大きいんだし、落ち着けばあたるよね。
 わたしは少し深呼吸をして矢を放った。
ぼよぉ〜〜ん!!!
 情けない音とともに矢が海坊主めがけて飛んでいく。
 しかし、もう少しというところで矢の飛距離は衰えて外れた。
 こんなんだったらもう少し練習しとくんだったぁ・・・と自分を悔やんだが
過ぎてしまったことは仕方ない。
 わたしはもう一度クロスボウに矢を添える。
 放とうとした瞬間、わたしの矢じゃないのが飛び交った。
 すばやく後ろを振り返ると、どこかの冒険者らしい。
「解呪の魔法は・・・なんだっけ。ええと・・・・ブツブツ」
 フェリアも魔法の書を開いて封じられている魔法を使える魔法を探している。
「ちょっと、エレンさん。無茶をすると・・・」
「うるさいわね、自分の身体ぐらい、自分でわかってるわよ!!」
 青ざめた表情でエレンが出てきて、エリカさんの手を振り払った。
「パステル? いいもの持ってるじゃない、それ貸して頂戴」
「え、いいけど・・・」
 エレンはわたしのクロスボウを受け取ると、何やらまた呪文を唱え出した。
「ああ、エレンさん。召還魔法は使わないって約束したのに・・・」
「あの。何かあったの? エレンに」
 わたしがうなだれているエリカさんに訊くと、彼女は深いため息をついた。
「召還魔法はかなり魔力を使うんです。それに、今のエレンさん。ほとんど魔力
のない状態なんです。
 その状態で何度も魔法を使ったら・・・」
 うう、魔力のないわたしにはよくわからないことだけど、とにかく、
無理してるエレンをとめなきゃいけないんだよね。
 でも、エレンを止めるってわたしにはできない・・・そうだ。
「フェリア!」
 彼女ならなんとかしてくれるはず。
「どうしたの? パステル。ああ、これじゃない・・・」
「あの・・・検索中悪いんだけど・・・」
「ごめんね・・・後にして。今ちょっと取り込み中」
 なんてマイペースな人なの? あ、エルフか。
 そんなのはどうでもいいのよ。
「お願い。エレンを止めてよ!」
「エレン? どうして?」
「だから・・・」
「魔力のない状態で戦ってるんです。フェリアさん、エレンさんを止めてくれませんか?」
 わたしが言うより先にエリカさんが言った。
「そういうことは、あたしじゃなくてイムサイに言って。絶対あたしじゃ無理」
 何故にイムサイさん・・・。
「わかりました。パステルさん、私、イムサイさんに知らせてきますね」
 エリカさんはそう言うと、すぐにイムサイさんのいるところに行った。
 そういえば、ルーミィは?
 わたしが部屋を覗くと、ルーミィはシロちゃんと一緒にいた。
「よかったぁ。シロちゃん、ちょっとの間だけルーミィを見ててね」
「わかったデシ!」
 シロちゃんの返事を聞いてわたしはクロスボウを・・・ってそういえば、
クロスボウがない!!
 あ、そうだそうだ。エレンに貸してるんだった。
 わたしにできることってなんだろう? う〜ん・・・
 ひとまずわたしはクレイのところに向かった。
 彼なら何かいい案でも浮かぶかもしれない。
 サラさんの呼んでくれた船員さんたちも外に出てきてくれたみたいで、
数的には有利なのだが・・・相手は召還モンスター。
 この前、コーベニアに渡るときのようにはいかないだろう・・・

          *つづく* 


(15)  〜王女VS騎士〜

 数的有利とはいえ、相手は大きいし、水の中を自由に動き回ってる。
 それに、この船を沈めることだっていとも簡単にこなすよね…。
「パステルさん! イムサイさん呼んできましたわ。エレンさんは?」
 エリカさんがイムサイさんを引っ張ってきてきた。
「エレンが無茶してるんだって?」
「そうです。あの人、魔力を使い果たすおつもりですよ。あなたに止めていただき
たいからお連れしたんです」
 エリカさんって、すごい行動力のある人だなぁ。
「で、エレンは?」
「あそこです」
 わたしはエレン指差して答えた。
 わたしのクロスボウを持ったままなんだよね…。
「ったく、仕方ないなぁ……」
 イムサイさんは何かぼやきながらエレンのそばに行って、無理矢理彼女を
わたしとエリカさんがいるところまで引っ張ってきた。
「痛いって言ってるじゃない! 何すんのよ!?」
 相変わらず、口だけは負けてない。この分だとエレンVSイムサイさんのバトル
が始まりそう……いや、まさに始まったというべきか。
「離しなさいよ! いったい何だって言うわけ?」
 なおも強く言うエレンに、イムサイさんが彼女の頬を思い切り引っ叩いた。
 うわ…痛そう……。
 エレンの左頬は真っ赤にはれていた。
「よくもあたしをぶったわね?」
 エレンが怒って逆にイムサイさんを叩こうと手をあげると、その手をイムサイ
さんがつかんだ。
「離しなさい!」
 完璧に頭にきてるエレンは今にも頭から湯気がでそう。一方イムサイさんは冷静
な顔でエレンを見て微笑んだ。
 しかし、次の瞬間、わたしはもっと驚いた。
パシッ!!
「いい加減にしろよ。必死になるのもわかるが、今お前が死んだらどうするんだ?
 国王陛下に皇后を苦しめるだけじゃないか! 全員が助かる手段を選べよ」
 再び叩いたイムサイは掴んだままのエレンの手を離して、クレイたちのいるとこ
ろへ向かって走っていった。
 わたしはすぐにエレンに「大丈夫?」と言えなかった。
 なんだか、言いづらくて放心状態のエレンをただ見るだけしかできなかった。
「エレンどうしたの? 頬が真っ赤だよ?」
 ルティがエレンを呼ぶと、やっと気がついたかのようによろよろと立ち上がった。
 そして何かぶつぶつ呟きながら少し歩いて立ち止まり、わたしに振り返った。
「パステル、それからルティ、ちょっときてちょうだい」
 わたしは素直にうなずいた。だって、目の色が青色だったから……
「どこ行くの?」
 素朴な疑問をルティが尋ねると、
「船長室。無線機使ってロンザに救援を頼むのよ」
 それだけなのにどうしてわたしとルティがいるのか、まだわからなかった。
 エレンはそれ以上言おうとしなかったのでわたしたちもそれ以上は深く聞かなかった。
 でも、まさかとんでもないことに使われるとは思ってもみなかった。


 2000年1月4日(火)16時22分〜2000年2月21日(月)17時14分投稿の、有希さんの小説「エンジェルリングとダークリング」(2)です。継続中。

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