フェリアの日記(3)

(21)

 彼はずっと黙ってあたしの話を聞いてくれた。
 こんな話、誰にもしたことないのに・・・。
「あたし、王女って言っても第三後継者で、上に兄が二人いるのよ。
 万が一のことがないかぎり、あたしが後継者になるはずないって、
でも、女一人でしょ? それが逆に籠の中の鳥になって、逃げたわ。
 それに、あたしが逃げ出すなんて思わなかったんだろうね。
 だから、大掛かりな捜索なんてしたら大国ロンザといえど、やっぱり、
危ないじゃない。
 あたしとしては、いいんだけど・・・」
 そうよ、それであたしはあの嫌な国に帰らなくてすむんだから。
「二度と戻らないのか?」
「戻らないんじゃなくて、戻れないのよ」
 あたしが言うと、イムサイは「はぁ?」っていう顔。
「城下町に出入りするとき、必ず身分証明なるものを見せなきゃいけないのよ。
 で、王族は十五歳になると、独り立ちってことでその証明書を、もらう
んだけど・・・あたしは、十二のときに、出ちゃったから」
 もともと、戻るなんて考えもしなかったけど。
「出るときもだったら、どうやって出たんだ?」
「・・・・眠り込んだ隙に出たのよ」
 いびきまでかいてたんだから! 出てくださいって言ってるようなもんじゃない!
「それで、どうしたわけ?」
「冒険者になっただけ。それで、メアリーたちとパーティ組んだのよ。
 それで、メアリーとリュートとあたし以外死んだわけじゃない?
それが、ひとりだけ生きてたのよ!!」
 なぜか怒りが沸いてくる。
「死んだんだろ?」
「復活の神様によって生きかえってた。
 そう、あのむかつくアレンティーよ!」
「エレンをかばって死んだ人?」
 そうよ、そうよ! ちょっと変わりものなやつ。
 あたしがうなずくとイムサイも驚いている。
 そりゃそうよ。だいたい、本当に復活の神様がいるかどうかすら
怪しいのに。
「そいつと、さっき会ったのよ。それで、アルテアとフェリアの病気
のことなんだけど、空間病っていう病気で伝染はないって」
「何それ?」
「ここが周りより温帯でしょ? それで、ここだけ時間が止まってるんだって。
 空間のゆがみで生じるんですって」
 あたしがいやみったらしく言うとイムサイは首をかしげて訊いてきた。
「僕たちもかかるのか?」
「鈍感な人にはわからないのよ!」
 あたしは鈍感っていうところを強調すると、彼はむっとした顔。
「そんな顔されても仕方ないじゃない。フェリアは種族が違うからとにかく、
 ・・・・何よ?」
「エレンもかかってないってことは、鈍感?」
 はっきり言わないでよ!!
 あたしは無言でイムサイをたたいた。
「ってぇぇ。んで、今回二人だけでクエスト?」
 たたいたところをさすりながらイムサイが訊いてくる。
「とりあえずはね。ただ、アレンティーを誘ったけど、来るかどうか」
「ふ〜ん。それじゃ、そのアレンティーも鈍感なのか」
「・・・・そうね。でも本人の目の前で言ったらだめよ?
 意外とはっきり言うのね、イムサイって」
 あたしが言うと、彼は、
「エレンには劣るけどね」
 と、付け足した。
 もちろん、あたしは再びたたいてやったけど。
「それで、涙の理由は?」
 二度もたたいてるからすっかり眠気がなくなったのだろう。
 彼は興味津々という感じで訊いてくる。
「・・・・アレンティーが生きてたのが信じられなかったのよ。
 何よ! 笑わなくてもいいじゃない!!」
 正直に言ってやったのに、イムサイはぷっと吹き出して笑い出す。
 ったく、失礼なやつ!
「ご、ごめ・・・悪かったって」
 必死に謝ってるけど、まだ、目が笑ってるわよ?
「悪かったって。なぁ、エレン? 機嫌直せって」
「なんで笑ったのよ?」
 まだ憮然とした顔で答えると、
「いや、まだまだガキだと思ってさ」
 むっかぁ〜〜。
「あんただってあたしとさほど変わんないじゃない!」
「そうだけど。普通じゃん、怒ったり、笑ったり、悲しんだりしてさ。
 身分の違いはあっても、同じ感情持ってるしさ。
 それに、エレンの泣き顔見たのってはじめてだしな」
 ??? 普通? あたしが普通って言ったの?
 いつも、あたしは特別扱いされてたけど。そういえば、この子達って
あたしと年も変わんないし、タメ口きいてたわね。
「あの二人には言わないでよ? あたしが泣いたこと」
 今日のあたしは何か変よ。
「言わないよ。それに、泣いたじゃなくて泣いてることだろ?」
 イムサイが訂正する。もちろん、そのとおりよ。
 きっと明日の朝は目が赤くなってるはずね。
 
         エレンvon.  〜終〜


(22)

(フェリアVON)
――回想――

 どうしてなんだろう?
 小さい誰かが、ずっと口にしていた。
「おじいちゃん・・・。ねぇ、パパとママはどこにいるの?」
 あれは・・・あたし? そうだ・・・あたしだ。
 決まっておじいちゃんは言うの。
「ここにいるよ」
 そう言って、十字架のあるところにつれていってくれた。
 眠っているんだって・・・
 あたしは、親の顔をしらない。
「どうして眠っているの?」
 その問いにはいつも答えてくれなかった。
 それからしばらくしてから、あたしは成人したんだ・・・
 ひとり立ちってことで。
 でも・・・あたしはエルフの森にいるのが嫌だった。
「冒険者になるじゃと? だめじゃ、絶対だめじゃ!」
 頑固なおじいちゃんは一番反対した。
「でも、冒険者になったエルフもいるよ?」
 抵抗しても反対された。
 あたしが一番嫌いだったのは・・・あたし自身だ。
 みんな親がいるのよ? あたしだけいない・・・すごく惨めだった。
「どうしてなんだろう?」
 問いかけても問いかけてもわからなくて。あきらめた。
 あたし・・・どうして生きてるんだろうって・・・・・・
「フェリア・・・。そんなに知りたいの?」
 顔見知りのおばさんが言う。
 彼女はあたしのママの友人だったんだって聞いた。
 あたしは思い切って聞いたんだ。
「あんたの父親も母親も冒険者だったよ。ここにきて、しばらく落ち着いて
いたけど、またすぐ冒険に出たんだ。
 その先で亡くなったって」
 だから、おじいちゃんは行かせたくないんだ。
 あたしが両親の二の舞になることを恐れて・・・
「それで、これをあんたにって」
 渡されたのが日記だった。
 ママの日記・・・その最後につづったところに書いてあった。
「いつか、この日記を託す日がくるでしょう。そのときは生きていないけれど。
 ここにあなたの冒険記をつづりなさい。
 困ったことがあったら、あたしの書いたところを読みなさい。
 そして、自分の存在を否定しないで、あなたはあなたの生きる道がすぐ目の前
に広がっているのだから・・・」
 そのあと、おじいちゃんは許してくれた。
 そして、あたしは旅立ったんだ・・・

「試験があるんですか??」
 あたしはエベリンの冒険者窓口で素っ頓狂な声をあげた。
「はぁ、知らなかったんですか? とにかくそれを受けてもらってからですので。 それと、最初のペーパーテストは○×の二択ですので・・・」
 とりあえず、あたしは試験を受けた。
 二択というテストはぎりぎりでクリアした。
 あとは、実技試験・・・
 一応、魔法使いになろうと思ってたから、魔法はフライだけ使えた。
 それもぎりぎりで受かったけど。
 そして、面接。
「どうして冒険者になろうとおもったんですか?」
「あたしの親も冒険者だったから・・・」
 面接官が聞きそうな内容は十分承知していたからこれは簡単にクリア。 
 それで・・・ラックの方なんだけど。
「魔法使いでヒーラーとしての職業ですね」
 回復役っていうか・・・とりあえず、魔法使いだからいいか。
 案外、簡単に考えすぎてた。
 やっぱり回復魔法は覚えなきゃいけないわけで・・・
「素質が低いから覚えれるとしてもキュアーぐらいですね」
 はっきりと言われて結構ショックだった。
 とりあえず、そのキュアーってのを習得したけど。
 そのあと、攻撃魔法を覚えに行ったのよね。
 でも・・・そっちもあんまりうまくいかなかったっけ。

「フェリア?」
 誰かに呼ばれてあたしは目がさめた。
 夢?
 振り向くと客室の一室らしい。すぐそばにアルテアがいた。
「あたし・・・何してたんだろう?」
「さぁな。俺もあんまり覚えてないな」
 なんか頭がまだぼーっとする。
「そういえば、イムサイとエレンは?」
「知らん」
 ぶっきらぼうにアルテアが言う。
 この人、すっごく寝起き悪いんだ・・・いつもより冷たいもん。
「あのさ。おまえひょっとして・・・」
 アルテアがつぶやいた。

             *つづく*


(23)

「あのさ、おまえ・・・ファーナ・リステンっていうエルフ知ってるか?」
 アルテアがふと思い出したように言った。
「ファーナ・リステン? 誰それ?」
「エルフの神様。知らなかったのか?」
 知るわけないじゃない!! 守護霊様しか知らないもん。
「まぁ、神様っていうか冒険者だったんだけどさ。すごい魔法使いなんだよな」
 得意そうにアルテアが言った。
「ふ〜ん、それでそのエルフの神様がなんなの?」
 あたしと何の関係があるっていうんだろう?
「だから、その人のサインかなんかじゃないか、その日記帳」
「はぁ?」
 あたしは拍子抜けした感じで日記帳を手にとった。
 そんなわけないでしょう!!
「・・・読めない・・・」
 くやしいけど、あたし人間の使ってる文字ってよくわからない。
 少ししかわからないし、だいたいサインなんて使わないもん。
「それ、誰からもらったんだよ?」
「えっと・・・、誰だろう」
「おい!」
「えへへ〜、嘘だって。なんかね、死んだ母親からもらったの」
 あれ。でもそうすると、ファーナ・リステンってあたしの母親なわけ?
 でも、まさかねぇ。
「ファーナ・リステンが亡くなったのはつい最近だってな。もっとも十年ぐらいだが。
 それじゃ、フェリアってファーナ・リステンの血縁者じゃないか!!」
 叫ばれても、あたしはよくわからないもん。
「知らない。あたし、両親の顔とか見たことないし。それより、もうすぐ朝じゃん。
 イムサイとエレンを探してくるね!」
 あたしは、アルテアを残して部屋を出た。
 自分の親が何なのか知らないけど、あたしはあたしだもん。関係ない。
「えっとぉ・・・外にでもいるのかなぁ?」
 あたしは、そのまま外に出た。
 そういえば、ここって妙に暖かくない? だって、ここに来るときものすごく
寒かったこと覚えてる。
「あら? フェリア、あなたもう全快したの?」
 振り返るとやっぱりエレンとイムサイがいた。二人とも何故か目が赤いけど。
「うん、おはよう! イムサイ、エレン。二人ともどうしたの? 目、腫れてる
し・・・しかも、手まで繋いでて・・・」
「別に、いいでしょう。秘密よ、秘密。アルテアは?」
「もうすぐ起きてくるんじゃないかな?」
 あたしは今日も元気。いろいろあるけど、今を大切にしなきゃね。
「あいつ、寝起き悪いからなぁ」
「あはははは、そうだね、言えてる。さっきもすんごい顔してたから」
 これから先、あたしたちは旅を重ねて成長する。
 きっと、いろんなトラブルやレベルアップなんかしていくんだ。
 まだ、これは最初のステップ。
 あたしは冒険者という道を選んで良かったと思う。
「あ、起きてきたね」
「なんだ? おまえら、手なんか繋いで・・・」
「秘密よ。ね、イムサイ」
「ああ、エレン」
 すんごく妖しい・・・。
 あたしとアルテアはお互い顔を見合わせた。
 笑い声が飛ぶ・・・あたしの冒険はまだ始まったばかり・・・
 いつか、この日記帳がいっぱいの冒険談でつまることを夢見る。
「それじゃ、さっさとクエストすまして、エベリンに帰るわよ?」
 三重人格のエレンはやがて転職して、途中で異国の王子と結婚する。
「簡単に言うなよなぁ」
「何よ、ドラゴンなんて弱いわよ」
「ドラゴン!?」
「言わなかったかしら?」
「聞いてないぞ!!」
 年子のアルテアとイムサイはあこがれの騎士になる・・・
「何笑ってんだよ? ほら行くぞ」
「待ってよぅ〜!!」
 そして、あたしは魔法使いの道を極める。
『早くフェリア!!』
 あたしを必要としてくれる人があたしを呼んでます。
 だから、あたしは彼らと同じ道を歩むことができるのだ。 

 そのことは、すべて日記におさめられています。
 あたしは、この日記を名づけました。
 あたしの日記・・・「フェリアの日記」と。

             *終わり*


 2000年1月5日(水)12時45分〜2000年1月15日(土)21時22分投稿の、有希さんの小説「フェリアの日記」(21〜23)です。これで完結。

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