「青き戦士の神話・至宝の寵児たち」(4)

正しき伝承 〜クレイ

・・・堕天使族は浅黒い肌に青い瞳、そして燃えるような紅い髪の種族だった・・・
彼らの方がよっぽど「至宝の神官」にふさわしいような気がする。
「・・・貴方様が青の至宝・・赤の至宝様の兄君ですね?」
彼らの先頭に立つ男がそう尋ねる。
「あんた達の中じゃそうなってるらしいな」
オレはかすかな痛みを感じながらつっけんどんに言い放った。
そう、オレはその至宝って事実にふりまわされて、ジュディを殺したんだ!!
あいつだって、父さんたちだって・・・
彼らはしばらくオレを見つめていたけど、急に膝を折った。
「・・・?」
「・・・青の至宝様、あなた様は人と至宝、どちらの道を選ばれるのですか?」
「は・・・?」
思ってもみなかった言葉だった。
そんなオレに彼らは話を続ける。
「我らとあの娘の一族は元々は同じ一族。なのに、彼らは我らを堕天使と忌み嫌ってる。その理由が至宝の神官の地位なのです」
「なんだって・・・!?」
「我らは炎と水、奴らは風と大地を象徴として生きております。それゆえ、赤と青の至宝の神官となったのです・・・ですが、奴らは赤の至宝が闇に堕ちたことから我らを堕天使と呼ぶようになったのです」
・・・それじゃあ、リリスさん達は嘘をついたってことなのか!?
オレの考えを見透かすように彼らは首を振った。
「あの娘は嘘は言っておりません。熾天使族の里を我らが襲っているのは事実です。
しかし、あなた様がどちらの生き方を望まれるのか、それを知りたくてこうして赴いたのです」
彼らの表情には答えによってはオレを殺すと言わんばかりの輝きに満ちている。
(・・・でも、天使族と堕天使族・・・・
元をただせば同じ種族なんだったら何故、彼らは天使族の里を襲ったんだ?)
そんな疑問が胸に浮かんだ。
「・・・その前に一つ聞かせてくれ。何故天使族の里を襲った?
元が同じ種族なら、争うこともないだろう?」
オレの疑問に彼らは表情を曇らせた。
「・・・それは言えません」
続いて出たのは拒否の言葉。
「ですが、あなた様方ご兄妹の事が起因している。それだけはお話しておきます・・・
して、こちらの答えは?」
・・・トラップがこの場にいたら間違えなく
「てめえ!!何寝言ほざいてんだ!!」って怒りそうだな・・・・この答え。
ま、とりあえず疑問はこっちにおいといて、オレが答えようとした・・・その時
『風よ!!闇に堕ちた天使を滅ぼせ!!』
リリスさんの声とともに風の刃が次々と飛んでくる。
「この方は誰にも渡さない!!」
彼女ははっきりと怒りを顔に表し、彼らをにらんでいた。


燃える想い 〜リリス

「この方は誰にも渡さない!!」
私はそう言ってクレイ様をかばうように立った。
・・・あいつらの魂胆はわかってる。
赤の至宝―クレイ様の妹君―が亡くなったから自分たちが青の神官になる、そうに決まっている。
だから、あんなこと聞いたんだ!!
大体、私たちと堕天使族が元は同族!?
そんなの嘘に決まっている!!
私、そんなこと長老から教わってないもの!!
私は堕天使族のリーダーに向かって、風の刃を次々とくりだした。
だけど彼は水のベールでことごとくかわす。
「くっ・・・」
「それが熾天使族の次期若長のすることですか?」
淡々と言ってのける堕天使。
だから、その熾天使って何なのよ!!
怒りが私の身体を焼いていく。
何のためにクレイ様を連中から引き離したと思ってるのよ!!
なのに役立たずの守護石は追いかけてくるし、
堕天使は寄ってくるし・・・!!
(あ・・・!!)
業火に焼かれ、私の心は一つの結論を見いだした。
(この方は私のものよ!!)
そう、堕天使族にも、あの女にも・・・同族にだって渡さない!!
想いの全てを風の力に換算する。
風は全てをなぎ払った。堕天使達さえも。
「・・・青の至宝様!!ご返事は熾天使族の里でお聞きします!!」
それだけ言うと堕天使達は遥か北の方へ飛び去った。

「リリスさん・・・・」
哀しい声に私は我に返った。
「クレイ様・・・」
「何故、あんなことを・・・?」
哀しそうな声で聞くクレイ様の瞳は、声に負けないくらい悲しみに満ちていた。
「オレは彼らと話していた。
ひょっとしたら戦いを回避できたかもしれない。
なのに君は・・・・」
クレイ様の声が私の心を切り刻む。
よかれと思ってした事なのに、彼を悲しませている・・
私は声もなくうつむいた。
「・・・すみません・・」
謝罪の言葉が口をついて出た。
クレイ様は表情を和らげると、再び翼をはためかせた。
「さあ、急ごう。このままじゃパステル達が追いついてくる。
怒られるのは終わってからで充分だ」
そう言った彼の顔には今度は優しい笑みが浮かんでいた。
再び炎が心を焼き尽くす。
私にはあんな笑顔見せたことがなかったのに・・・
嫉妬がさらに炎を燃え立たせる。
パステル!!あんたになんかクレイ様を渡さない!!
渡すもんですか!!
・・・私はある決意を胸に青の至宝の化身たる方の後を追った。


守護石の力 〜パステル

JBから手がかりを聞いた私たちは3日後、キスキン国へついた。
へ?シロちゃんに乗ってる割には早いじゃないかって?
それはとっさに考えた方法、ルーミィのフライをシロちゃんにかけるってのがうまくいったせい。
ルーミィのフライで安定させ、シロちゃんが前の方へ飛ぶ、その形でなんとか(でもないか・・・)当国へきたわけ。
で、何とかミモザ王女・・・じゃなく女王に会って事情を話して、ようやく王家の塔に入れることになった。
・・・にしても、女王まで「詳しいことは後でまとめて聞かせてもらう」だもの・・・
クレイが戻ったら色んなとこ回らなきゃ・・・

「・・・そう、リリスレアが・・・」
王家の塔の中、神官リリアさんに全てを話した後、彼女は大きくため息をついた。
「で、そのドラゴンは私が天使族の居所を知っていると言ったのですね?」
「あ、はい!!JB・・じゃないブラックドラゴンは貴女が天使族の血を引いてるからわかるだろうって言ったんです!!
リリアさん!!お願いです、天使族の里の場所を教えてください!!」
「お願いします!!」
「おねがいするおう!!」
「クレイの奴を早く見つけたいんだ!!
頼む!!教えてくれ!!」
私たちの懇願にリリアさんは難しい顔をした。
「・・・確かに私は天使族の里の場所を知っています」
「じゃあ・・・!」
「ですが、あなた方がそのままで行ってもあの青年を連れ戻すどころが、天使族の抗争で全滅しかねません。
それでは彼の意を無視した形になってしまいます」
・・淡々と言う、彼女の表情はまさに巫女そのままで私は青くなるのがわかった。
「じゃあ、どうしろっていうんだよ!?」
怒り心頭って感じのトラップに、彼女は一言、
「守護石の力をお出しなさい」
そう、言い切った。
「守護石の・・・力?」
いぶかしげな私たちに歌うように彼女は言う。
「・・・守護石は至宝を守る力。
その精神が闇に堕ちないよう、見守り、ささえ、前に進めていく力・・・」
リリアさんの言葉に私たちは顔を見合わせて
・・・笑った。
「・・どうしたの?」
「リリアさんよお、オレ達、はなっから守護石の力に目覚めていたみてえだぜ!!」
「まあ・・!?」
驚くリリアさんにキットンが説明する。
守護石と知る前から、みんなそうしていたこと。
それはクレイに、だけでなく、互いに支え合ってそうしてきたこと。
守護石は至宝の一部だから、力云々ではないんだということ。
リリアさんは小さく笑うと
「・・・リリスレアもそういうことに早く気づけばいいのに・・・」
その顔には姉が妹を気遣うそんな表情があった。
「リリアさん・・・リリスさんって貴女の血縁じゃないんですか?」
キットンの指摘に彼女は寂しげに笑った。
「・・・そうよ、あの子の妹」
えーーーーーーーー!?


リリアの素性 〜パステル

彼女の話は続いた。
「姉妹って言っても異母姉妹だけどね。年も120違うから、あの子は私のことは知らないしね。
私の母は人間なの。父が外界の修行の時、母に恋をして私が生まれた。
でも、母はすぐ亡くなって父は私を里へ連れていった、熾天使族の長にするためにね。
でも周りはそうは考えなかった。
せいぜい、至宝を探すコマ程度の認識しかなかったのね。
長老は至宝のこと、熾天使の歴史、そして、浄化の方法を教え、さっさと外に出された」
「ひどい・・・」
私のつぶやきにリリアさんは寂しげに笑った。
「彼らは血の純粋さを保ちたかったのよ。
それに至宝の浄化に私の魔力は適正があったし」
その時のリリアさんの笑顔はすごく幸せそうだった。
・・・どうして?どうしてそんな顔ができるの?
人間の血を引いてるからって、一族に体よく至宝浄化の道具にされて・・・?
私はある事実に気づき、尋ねた。
「リリアさん、貴女がまさか、至宝をクレイ・ジュダの血に封じた神官なんですか?」
彼女はうなずく。
「そうよ。私が彼の血に至宝を封じた」
「てめえのせいでクレイは・・・・!!」
トラップが襟首をつかみあげようとする。
リリアさんはそれをかわし、厳しい瞳でいってのけた。
「あれはクレイ・ジュダの意志よ。
私は最初、自分の血に至宝を封じるつもりだった。
だけど、神はそれをお許しにならず、彼は自分の意志で・・・!!」
さっきと同じ笑顔が悲しみにゆがむ。
まさか、リリアさん、クレイの曾おじいさまのこと・・・・?
誰も何も言えず、重苦しい沈黙が部屋に立ちこめる。
「・・・熾天使族の里はこの国の山脈をこえた向こう、白き神の峰と呼ばれる山に囲まれたところにあるわ」
しばらくして、そうリリアさんは言った。
「・・・!!」
「早くお行きなさい。彼が至宝となる前に。
・・・それと、貴女達が堕天使と呼んだあの一族は元はリリスレアや私の父と同じ熾天使族。炎と水の属性を持った者達が赤の神官となったためにそう呼ばれただけなの」
部屋を出ようとした私たちにそう、リリアさんは言う。
「どうしてそのようなことを・・?」
キットンの問いに彼女はうつむいた。
「いくら出されたって言っても、同族同士の争いには耐えられない。
それを止められるのは、今ある青の至宝とその守護石だけだって・・・そう思うの。
だから、それだけは知っててもらいたかったの」
彼女の声を後ろに私たちは再びクレイを追った。

”クレイ・・・・!!”
風の中、リリアさんの声を聞いたような気がした。


今はいない、あの人へ

私は北へ向かう守護石達を見送った。
(クレイ・・・まさか、また会えると思ってなかったわ・・・貴方の血に)
彼らを見ながら、心は100年前のことを思い出していた。
そう、至宝を封じたあの時のことを・・・。

”リリア、一緒に来てくれないか?”
黒曜石を思わせる瞳がまっすぐ私を見た。
クレイ・ジュダ、青の聖騎士と呼ばれた青年。
そして、私が初めて愛した人。
たとえ、それが深い意味がなくても・・・、嬉しかった。
一緒にいてほしいと言ってくれたこと。
でも、私にはこの国の王の血を護る義務がある。
私は首を横に振った。
”クレイ、わかるでしょ?
私には義務がある、ここの血を護ること。
貴方が至宝の浄化を使命としたように”
”わかってるさ、そんなこと。
でも、オレはそれを曲げて言ってるんだ。
リリア、君がいればどんなことがあっても耐えられる、そんな気がするんだ。
頼む、一緒にいてくれ!!
オレは・・・君を愛してるんだ!!”
”クレイ・・・!!”
かつてない至福の言葉。
それだけで私は生きていける。
・・・彼と私は寿命や種族が違う。
私の命はあと200年近くある。
それはつまり、彼のいない時が100年もあるってこと。
そんなの・・・・耐えられない!!
なら、想い出を抱えて、違う道を互いに歩んだ方がいい!!
私は想いを押し殺して、彼に微笑んだ。
”わがままは言わないで。
誇り高い聖騎士様らしくないわよ!!”
”リリア・・・”
”私には私の使命、貴方には貴方の使命がある。
情に負けて義務を果たせないようじゃ、何のために貴方に至宝を封じたのかわからないわ!!
天使の血は神官を、貴方の血は至宝を生む。
それが神託のハズよ!!”
クレイはしばらく黙ってたけれど、そっと私を抱きしめた、瞳に涙を浮かべて。
”君の事は永遠に忘れない”
それだけ言って、彼は私の元を去った・・・。

そうして100年が過ぎ、私は至宝の化身に会った、傷つき気を失っていたけれど。
彼は間違いなくあの人の子孫。
私でさえ、見間違えそうになった。
(でも・・・・)
彼の血を引いていても、同じ名前でも、面影が似ていても・・・・あの子はあの人じゃ・・・
私が愛したあの人じゃない!!
「クレイ・・・・・!!」
あの人のかすかな温もりを思いだし、
私は一人、泣いていた。


不協和音 〜キットン

・・・なんか変ですねぇ。
何がって、パーティの雰囲気ですよ。
パステルはずっと「クレイ、クレイ」ってうわごとみたいにクレイを探してるし、トラップは妙に明るいかと思ったら、急に考え込んでしまうし・・変ですよ、これ。
・・・・やはり、クレイがいないのが影響してるんでしょうかねぇ?
あの日以来、なんだかパーティ内に不協和音が起きてるようでして、ハイ。
「・・・・オレも、そう思う」
気になってノルに相談したんですが、彼の返事も私と同じでした。
「パステルとトラップ、クレイ、いなくなってから様子がおかしい」
「でしょう?」
「パステル、クレイを探す、それはいい。心配なのはトラップの方」
・・・・でしょうね。
今までの事件でパステルを巡る四角関係が発覚してますし、その一角のギアが不在、もう一角のクレイを我々は追いかけてる。
今、パステルと向き合っているトラップが極端に意識しても仕方ないんですが・・・
肝心のパステルはクレイのことしか目に入ってない状態ですからね・・・。
クレイに会ったとき、まずいことにならなきゃいいんですが・・・。
「おーい!!キットン!!」
「早く行くわよーーーーー!!」
問題の二人が呼んでますね・・・。
ま、その時はなんとかなるでしょ。
ぎゃーっはっはっはっはっはっは!!!!!!


天使の誘惑

”・・・パチ・・パチ”
薪のはぜる音がする。
たき火を挟んで、クレイとリリスは座っていた。
―ここは天使族の里を囲む山の山麓。
そこで、日が暮れてしまったために二人は野営することにした。
「・・・もう少しだね」
剣の手入れをしながら、クレイが言うのだが何故かリリスは黙ったまま、話そうとはしない。
だが、その表情は何かを決意した、そんな感じであった。
クレイはため息をつくと、再び剣の手入れに没頭した。

・・・夜の闇も深くなりだした、そんな頃。
クレイは柔らかい何かが自分のそばにいることを感じた。
「・・・・リリスさん?」
その感触の主はリリスであった。
いつもより薄い服をまとい、クレイを抱きしめるように寄り添っていたのだ。
たちまちクレイの顔が赤く染まる。
「り・・・・リリスさん・・・?」
「クレイ様・・・私を抱いてください」
よりいっそう抱きついてくる感触と言葉にクレイは狼狽した。
「あ・・あのさ・・・・」
「たった一夜でいいんです!!お願い・・・・」
潤んだ瞳で見つめられ、クレイの意識が一層混乱する。
(・・・・なんだ!?この気持ち!!)
心のどこかで誰かが彼女を抱けと話しかける。
それは情欲。
自分にはあり得ないと思っていた感情。
それがこんなに荒々しいものだったとは・・・
クレイの手がリリスの腰に回りそうになる。
しかし。
(クレイ・・・!!)
突然、クレイの脳裏に一人の少女の面影が浮かび上がる。
金色に近い栗色の髪を一つにまとめたはしばみ色の瞳の少女。
(パステル・・・・!!)
彼女への想いがクレイを引き留めた。
優しくリリスの肩をつかみ、引き剥がす。
「クレイ様・・・!?」
「ごめん、オレに君は抱けない。
オレ・・・・好きな子がいるから・・・・
彼女にふさわしい男でいたいから・・・・」
「そんな・・・・!!」
泣きじゃくるリリスにクレイは一言、
「ごめんな・・・・」
そう言って背を向けた。
リリスの声とたき火の音がいやにクレイの耳に響いていた。


戸惑う心 〜パステル

私たちはひたすら北へ向かって飛んでいた。
「これなら、早く追いつけそうですね!!」
キットンの大声が全員の耳に届く。
「てめえ、それ何回言った!?」
すっかりイライラしているトラップが返すけど、声に覇気がない。
・・・多分、疲れてるんだろうな。
シロちゃんが安定して飛んでるからって、長時間はきついもの。
「・・そろそろ、やすみましょう。シロちゃん、降りてくれる?」
「はいデシ!!」
シロちゃんがうなずくとゆっくりと地面が近づいてきた。

夕食後、すでに全員が眠りについていた。
起きてるのは私とトラップだけ。
たき火の音だけが大きく響いている。
「・・・・・なあ、パステル」
突然、トラップが話しかけてきた。
「な・・・に?」
その顔はすっごく真剣で、私は何かただならぬものを感じた。
「お前・・・クレイのこと、好きなのか?一人の男として」
「え・・・・?」
な・・何言ってるのよ!!トラップってば!!
私は顔が赤くなっていくのを感じた。
そんな私の様子に、トラップの顔に哀しげなものが浮かび上がってくる。
「そうか・・・・」
たき火に照らされて、表情が一層哀しそうになる。
「トラップ・・・・貴方・・」
「いや・・・わかってたさ、お前が誰を好きなのか、
・・・・だけど、これだけは言っておきたかった」
彼の顔がゆっくりと私の方を向いて・・・
「お前が、好きだ」
「・・・・・!!」
初めて聞いたトラップからの言葉。
でも・・・・・私・・・・クレイが・・
「・・・どうすれば、いいのよ・・・・
私、貴方の気持ちには答えられない・・・・」
「・・・・すまねぇ。混乱させることいっちまって・・・・」
重い沈黙があたりを支配していた。


天使族の里

あの夜から二日後。
クレイとリリスは天使族の里にたどり着いた。
「おお!!リリスレア!!青の至宝様をお連れいたしたか!!」
壮年に近い年の天使が彼女に問いかける。
リリスは小さくうなずいた。
「今長老をお連れいたします!!」
男はクレイに深々と頭を下げると、奥の方へ入っていった。
彼だけではない。周りを取り囲む天使達全てがクレイに尊敬のまなざしを送っている。
クレイは居心地悪そうに頭をかいた。
「なあ・・・リリスさん、これって
ちょっと大げさなんじゃあ・・・?」
「そんなことはありません!!」
至宝の言葉にムキになって反論するリリス。
「クレイ様は私たちがあがめる至宝の化身。
ちっとも大げさなんかじゃありません」
「でもなぁ・・・・」
自分は至宝じゃなく、一冒険者として来たのに。
そう思い、クレイは天使達を見た。
それと同時に奥から一人の老天使がお付きの者を連れて現れる。
老人はリリスと同じ虹色の瞳に理知的な光を浮かべ、クレイの前に立った。
「・・・あなた様が青の至宝の化身であらせられますか・・・?」
クレイは渋々うなずく。
「一応はそうなってますが、オレ・・・いや私は人間として生きるつもりです。
ですから今回も一冒険者としてこちらに来ました」
”ザワッ!!”
天使達からどよめきが聞こえる。
老人はそれを手で制止し、改めて、クレイを見つめた。
その瞳には全てを了解したような、そんな輝きがうかがえる。
「では・・・どうお呼びすればよろしいですかな?」
「クレイと、そう呼んでください。
リリスさんにもそう言っていますから」
クレイの言葉に老人はうなずく。
「わかりました。
して、クレイ様、貴方の守護石・・・いやお仲間とお呼びした方がよろしいでしょうな。彼らはいずこに・・・」
「守護石は見つかりませんでした!!」
叫ぶように老人の言葉をリリスは遮った。
老人の目が細くなる。
「リリスレア!!長老の前でそのような・・・!!」
「よい。・・・・しかし、リリスレア。
守護石は至宝のそばにある、わしはそう言ったはずだが?」
長老の言葉に詰まるリリス。
彼女の胸にはまだクレイへの想いと、守護石への嫉妬がある。
おそらくそれがそんなことを言わせたのであろう。
代わりにクレイが答えた。
「守護石・・・私の仲間は後から来ます」
その言葉に長老は満足そうにうなずいた。
「ではこちらへ」
長老はそう言うと、クレイの前に立って歩き出した。


老天使との対話 〜クレイ

オレは長老達に連れられて、強制的に着替えさせられた。
白いチュニックに青のマント・・・なんだか神話の人物になったみたいだ。
マントの留め金に例の魔晶石をしたんだけど・・・その時、リリスさんが泣きそうな顔をしたのが妙に印象的だった。

「・・・はあ・・・」
歓迎の儀式とかが済んで、オレは小高い丘で夕日を見ていた。
(・・あいつら、どうしてるかな・・?)
考えていたのは仲間のこと。
追いかけてきていることはわかるんだけど、今どこでどうしているやら・・・・
トラップがパステルに何かしてないかとか、とんでもない事件に巻き込まれてやしないかとか・・・考えるだけで、落ち込んでくる。
しかも夕日の赤は、ジュディの髪を思わせてますます落ち込み街道を行ってしまう。
(至宝であることがみんなを不幸にしてしまう・・)
そう思うとつらくやりきれなかった。
オレは普通に生きたいのに・・・
オレはオレでいたいのに・・
「クレイ様、いかがなされた?」
後ろから急に声がかかる。
慌てて後ろを振り向くと、天使族の長老が立っていた。
「長老・・」
「ユリウスとお呼びください」
長老・・いやユリウスさんはそう言うとオレの隣に座った。
「・・・何を悩まれているのですかな?」
唐突な言葉にオレは彼を見た。
ユリウスさんは静かな目で見返す。
「至宝の心を神官が知らずして何の神官でしょう。
・・・あなた様の心には至宝としての自分を否定なさる心、妹御への負い目、お仲間への想いが存在なさっている・・・そうではないですかな?」
・・・その通りだ。
オレは言葉を失って、ユリウスさんの次の言葉を待った。
それを知るかのごとく、言葉は続いた。
「人間でありたいと願うクレイ様のお心はお察しします。
・・しかし、クレイ様は人間であり至宝でもあるのです。片方を否定なさるのは自分を否定なさるのと同じと思います」
言葉は次々とオレを打ちのめした。
オレはどこまでいっても至宝という存在からのがれられないのか!!?
なら、オレはどうすればいいんだ!!??
うつむくオレにユリウスさんは極めつけの言葉を発した。
「クレイ様が至宝としての生き方を否定なさるのは妹御の生き方を否定なさるのと同じですぞ」
「・・・・・!!」
・・・極めつけの言葉だよ・・・
そう、あいつは至宝として生き、そして死んだ。
オレが至宝として生きるのを拒否するのはあいつの生き方を否定するのと同じなんだ・・・!!
オレは歯を食いしばり叫びたくなるのを必死の思いでこらえた。
「・・・」
「答えは守護石様方が導いてくださる。至宝の道しるべ、それが守護石なのですから」

ユリウスさんが去った後、オレは必死に祈った。
早く・・早くみんな来てくれ。
みんなの笑顔を見ればきっと答えも出るはずだから。


天使族の里で 〜パステル

「うわーーーーーーーー!!」
「きゃあーーーーーーーー!!」
―クレイが私たちを待って悩んでる頃。
私たちは乱気流に巻き込まれていた。
山を囲むように風が吹いていて、今にも飛ばされそう・・・
「しっかりつかまってるデシ!!」
シロちゃんの言葉だけを聞きながら、私はしっかり誰かの服の裾とシロちゃんの毛をつかんでいた。

「抜けたデシ!!」
シロちゃんの声で私は目を開けた。
「うわあ・・・・!!」
目の前に広がる光景はすっごく綺麗でつい見とれてしまった。
「おい、手ぇ放せよ」
ぶっきらぼうなトラップの言葉に私はようやく彼の服の裾を握りしめていたことに気づいた。
あわてて裾から手を離す。
「・・・ったく、裾がしわになったらどうすんだよ・・」
そう言いながらトラップの顔はなんだか嬉しそうだった。

「ここは天使族の里ですかねえ・・・?」
整備された道を歩きながら、キットンがつぶやいた。
「でも、あの気流、シロでなければ、飛ばされていた」
山を見ながら言ったノルの言葉に私はうなずいた。
確かにあの気流のすごさじゃ、ドラゴンの羽でなきゃここまで来られない。
・・多分、天使族は風を従えてるから平気なんだろうな・・
そう思った途端、クレイと彼に寄り添うリリスさんの姿が脳裏に浮かんできた。
急に胸が苦しくて、頭がかっかしてくる。
(クレイ・・・!!)
クレイのそばに誰かがいるのがこんなに頭にくることだったなんて・・!!
(早く会いたい!!)
早くクレイの隣に行きたい!!
そして、色んな事を話したい!!
・・・気がつくと私はみんなをずっと引き離して歩いていた。

”くすくすっ”
銀の鈴が震えるような、そんな笑いが耳に飛び込んできた。
あわててその方向をむくと、ルーミィより小さな天使の子供が木の影から私たちを見ていた。
それも一人じゃなくって5人・・・いや6人かな?
みんな好奇心いっぱいの顔でこっちを見ている。
「・・・子供・・・ですね?」
キットンの声に全員がうなずく。
「いくらガキだからって、天使族だぜ。どんな力もってやがるんだか・・・」
いつになく慎重なトラップを私は変な気持ちで見た。
いつもならもっとそっけないのに・・・
クレイがいないのが影響してるのかな?
そう思った矢先・・・ルーミィがシロちゃんとその子達の方へ歩いていった!!
「ルーミィ!!シロちゃん!!」
「みんなぁ、あしょぼう!!」
「遊ぶデシ!!」
・・子供の無邪気さっていえばそれまでなんだろうけど・・・なんて大胆な・・・
でもそう言った途端、影に隠れていた子どもたちがワッと歓声をあげてこちらに走ってきた。


 1998年7月27日(月)21時16分25秒〜8月15日(土)22時38分45秒投稿の、冬木来奈さんの小説です。

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