今宵もすてきな城へ(51〜60)

(51)
 国王の説得‥の前にわたしたちにはまだ壁があった。
 そう、花嫁候補たちの熾烈な戦いが。
 いったい何をやるのか分からない。
 だから不安なんだよねぇ。
「え〜 詳しく申し上げますと、15人の花嫁候補たちがいるのですから1人ずつ対戦して
 もらおうと思っております。課題はこちらで決めさせていただき、より上手くやった方が
 勝ちというわけです。一勝するごとに賞金が出ますので、是非がんばってください。
 その中でもし王子・国王の目にとまる方がいらっしゃれば花嫁になれるのです。
 ですから可能性としては、この15人の中から花嫁が出ない場合もあります。
 王子たちの目にとまるよう自分をアピールし、努力していただきたい。以上です。」
 じゃあ、この中で絶対に花嫁が決まるってわけじゃないんだ。
 それならセティも大丈夫かも。
 うーん でも14人の人と対戦かぁ。
 …ってことは、マリーナやシニアともなんだよね。
 えーん それじゃなかなか賞金貰うには苦労しそう…。
「では、対戦相手の書いた紙を張り出しますので前の方まできてください。」
 なになに えーと 最初のわたしの相手は…マーリン・カレド・ウォーリアさん。
 たしか海賊の人だったよねぇ。
 はははっ……手強そう。
 どんな課題かで決まるなぁ。
 体力勝負なんかできたら駄目かもしんない。
 とにかくがんばらなきゃね!
 パーティの生活がかかってるんだから。

(52)
「第一対戦は……『男装』で競っていただきます。」
 男装って…たしか男の格好するってことだよね。
 そんなぁ 無理だよぉ〜。
 
 女の子3人集まって話していた。
「女の子に男装しろってところから変わってるのよ!」
 なんだか気が立ってるわたし。
 そんなことするとは思わなかったんだもん。
「あら〜 こんなもんだと思ったわよ。最初でそんなに嘆いてると後はもっとすごいこと
 になるかもしれないわよ。」
「…シニア。それってちょっと脅しが入ってない?」
「うふふっ……でも本当のことよ。何が出されるか解らない。難しいのよねぇ。」
「パステルの最初の相手、誰だっけ?」
「マーリンさん。ほら海賊の頭をやってるって人。」
「…なるほど。手強そうね。」
「そうなのぉ…だってたしか足とか腕とかスラーッと伸びてたような気がする。それに顔
 だってかっこよかったもん! 明日、駄目かなぁ。」
「大丈夫!! わたしがとびっきりかっこいい服にメイクしてあげる。まかせて!」
 マリーナは自信たっぷり。
 でも…わたしに男装が似合うと思う?
 いくらなんでも不向きがあるよねぇ。
「対戦は明後日なんだし、それまでに服を用意しましょ。こんなとき3人いて良かったと
 思うわね。」
 そうだよね、たしかに。
 1人だったら絶対どうしたらいいか分かんないと思うし。
 明日も忙しそうだなぁ…。

(53)
「この服でいいでしょ。…あとメイクをすれば完璧よ、パステル。」
 明日のため衣装合わせをしてるところ。
 そういえば服は城の方で準備していたみたいで買いに行く必要はなかった。
「…やっぱりアロウに近づいていく気がする。」
 わたしとそっくりのアロウ王子。
 見たときわたしもびっくりしたもんね。
「どうせならアロウ王子を再現って感じにしない? 」
「それいいかも!」
「えぇっ!?」
 もう2人のおもちゃにされてて、いくつもの服を着ている。
「…ねぇ、もうそろそろ終わらない?」
「「だーめ!!」」
 2人のそろった声は楽しい! って感じがする。
 こりゃ まだ終わりそうにないなぁ。
 なんとか終わってわたしは城の中を探索してみた。
 大きな城だから迷わないようにね。
「 んっ!? 」
 何か外の方から声がする。
 ちょっと行ってみようかな。
「ですから頭、言ったでしょう。ここの国王は変わり者だって。それでも頭が行くって言った
からですよ! いまさら後には引けませんよ。」
「…男装だぞ! …まぁ普段から男の服を着てるようなものだが、そんなものを課題に出す
か?普通は出さないだろう。」
 覗いてみる。
 あれっ!?
 たしか…あれはマーリンさん。
 こんなとこで何やってんだろう。
「…誰だ! そこにいるのは!!」
 へっ!?
 気づかれた! 
「…すみません。聞くつもりはなかったんですけど。」
「おまえはたしか明日、わたしの相手ではなかったか?」
「えぇ そうです。」
「…なぁ おまえに聞きたい事がある。‥おまえは戻ってろ。」
 後ろにいた海賊の人は、頭を下げてどこかへ行ってしまった。
「な 何ですか?」
「ここの王子におまえはそっくりだが、何か関係があるのか?」
「えっ!? いえいえ何もありませんよ。ただそっくりなだけです。」
「…そうか。」
 あっ なーんか重い空気が漂ってる。
 どうにかしなきゃ。

(54)
 きっと大人の中で育っただろう‥彼女。
 なんかオーラからしてそこら辺の人とは違うような気がする。
「…なぁ、何故おまえはココへ来たのだ?」
 いきなり重い空気の中で彼女が聞いてきた。
「そ そうですねぇ…。……ホントは賞金目当てで最初は来たんですけどこんな事になると
 は思ってませんでしたから。」
「…そうか賞金目当てでか。……ふははっ…ははははっ……。」
 えっ!?
 なんか笑ってる!
 おかしな事言ったっけ?
「いや、すまない。笑ってしまって…変だったから笑ったという訳ではないから。」
 彼女はそう謝ると一枚の紙を取り出した。
「これ。」
 その紙を渡されて見ていると…この真ん中にいるのがマーリンさんかな。
 …あれ!? このとなりにいるの…アロウじゃない!? それにシニアも!!
「あの これ何年前のですか?」
「たしか3年と半年前かな。たまたま船に乗せたのがそいつらだったんだ。」
 そういえば聞いたっけ。
 昔にシニアと冒険に出ていた頃があったって。
「たまたま食料を調達してたときに花嫁募集のチラシを見てさ。それに載ってるのがこの紙
 に写ってる奴と同じだと分かったら急に会いたくなって、ココへ来たんだ。…あっちの方は
 覚えていないみたいだったけどな。」
「でも 何で顔覚えてなかったんだろう、アロウは。」
「しょうがないさ。その頃のあたしは人見知りでね。知らない奴の側にあまり近づかなか
 なかったから。あっちは顔を見てないような気がする。」
 そんなつながりがあったんだぁ。
 でも、きっとそこでマーリンさんだってアロウに気づいて欲しかったんじゃないかな。
「…言わないんですか? 昔、会った事があるって。」
「いいさ。なかなか人に会うことのない、あたしの思い出だけでさ。」
 そう言うと彼女は歩きだした。
 すると近くに咲いている綺麗な花をわたしに投げた。
「ありがとな、聞いてくれて。」
 そしてそのまま帰ってしまった。
 誰かに聞いてもらいたかったんだ。
 男ばかりの中にいる彼女には聞いてくれる人がいなかったんだね。
 でも これで少し彼女に近づけたかな… きっと。
 あした…彼女と『男装』で対決。
 上手くいくかなぁー…‥・・。

(55)
「ひゃあ〜 2人共かっこいい!!」
 男装をしたマリーナとシニアを見てため息が出ちゃう。
「何言ってるのよ、パステル。あなたの方が真に迫ってるわよ。」
「そうそうクレイたちに見せるのが楽しみだもん!」
 そうわたしも男装してるんだけど…これがまたアロウにそっくりになってしまった。
 髪は後ろに束ねて見えないようにしてあって、背も高く見えるように底の高い靴を履いて
 るからトラップくらいの身長になってるはず。
 コンコン
「はぁい 入ってもいいわよ。」
「どうだいみんな。支度できた?」
 最初に入ってきたのはクレイ。
 でもわたしを見るなり目を点にしてる。
「おい クレイ。そんなとこ突っ立ってるなよな……おい おめぇパステルだよな?」
 わたしを指さして言ってる。
「えぇ もちろん パステルよ。」
 トラップも目を点にした。
「…王子そっくりじゃねぇか。」
 後ろから入ってきたルーミィやノル・キットン・シロちゃん・ギアとみんな入ってくるなり
 目が点になってる。(ルーミィとシロちゃんはなってなかったけど)
「いやぁ ここまで似てると双子ですよねぇ。」
 キットンのこの一言でシニアが言い出した。
「それ使えるかもしれないわね!」
「 えっ!? どうゆうこと?」
「まっ 後で教えてあげるわ。もうそろそろ会場にいきましょ。」
 みんなぞろぞろと歩きだすとクレイに止められた。
「何? クレイ。」
「なんかさ オレよりかっこよくなってるなって思ってさ。」
「そんなこと無いよ。いつものクレイの方がかっこいいって!」
「そ そうかなぁ…。」
 照れてるクレイ。
 なんか誉めたっけ?
 正直にいっただけなのに。
 
 もう止められないとこまで来ちゃったんだから後はがんばるしかない。
 賞金をゲットするためにも。

(56)
「えー では次の対戦へといきます。お次はマーリン・カレド・ウォーリアさんVSパステル・
 G・キングさんです。では先にマーリンさんどうぞ!」
 もう対戦が始まっていて、とうとうわたしたちの番になってしまった。
 緊張しちゃって体が固まってる。
 そんなわたしにマーリンがポンッと肩を叩いてくれた。
「じゃ 行ってくるよ!」
 そして公の場へとマーリンは行った。
 出番がくるまでなかよく舞台裏で話してたんだ!
 けっこう信じられないほどたくさんの話していたから、舞台へと上がる頃にはすっかり
 仲良くなってしまっていた。
「うわぁー!!」
 観客の声が聞こえる。
 かっこいいとか綺麗だっとかの言葉がここまで聞こえる。
 マーリンは本当に似合っているの。
 だって最初見たとき見とれちゃいそうだったもん。
「マーリンさんかっこいい!!」
「えっ!? そうかなぁ…。」
「うん! 美形で足とか腕とか長いからうらやましいよ。」
「…何言ってんのさ。そっちの方があたしは驚きだけどね。ここまでいくら何でも似てる
 とは考えないよ。見間違えそうなぐらい。」
「そうかなぁ。でも良かったかなー 王子の格好して。」
「大丈夫だろ。逆に評価が高くなるんじゃないか?」
「そうだと嬉しいんだけど。なんせパーティの生活がかかってるから。」
「生活?」
「賞金は全部パーティの生活費に足さなきゃ。…貧乏だから。」
「…そっかだからココへ来たんだよな。」
「あははっ ちょっと恥ずかしいなぁ。」
「そんなことないさ。十分な理由だと思う。」
「…そうだね。胸張ってもいいよね。」
「あぁ そう思う。」
「ありがとう マーリンさん。」
「マーリンでいいよ。」
「じゃ わたしもパステルって呼んで!」
「分かった。これからよろしくな、パステル。」
「うん! こちらこそ マーリン。」
 と、いうふうにさっきまで話してたんだ。
 でも舞台に立っているマーリンを見るととても嬉しそうな顔。
 なんかこっちまで舞台に早く立ちたくなってくる。
 でも急がなくても次はわたしなんだから心を落ち着かせなきゃね。
 マーリンは舞台の後ろへと下がった。
 さてと 舞台へと上がらなきゃ。
 みんな どんな反応をするんだろうか。
 そんなことを考えながらわたしは舞台へと上がって行った。

(57)
「お次はパステルさんです。」
 ドキドキ…ドキドキ。
 心臓が鳴り始めてる。
 ‥よーし行くぞ!
 わたしは舞台へと上っていった。
「…………。」
 観客からの声がしない。
 やっぱ駄目だったのかなぁ。
「 うわぁー!!!」
 沈黙の後にいきなりの歓声。
「あれってアロウ王子!?」
「違うだろ。だって王子はあそこに座ってるんだぜ。」
「そうだよ、すっげー似てる!」
 いろんなところから似てるっていう声が聞こえる。
 良かったぁなんとか成功したみたい。
「では審査員からコメントがございます。」
 審査員の中にいたアロウが席を立った。
「2人共素晴らしいです。マーリンさんはスマートな体型を活かした服がとてもよく似合って
 普通の男性が着れないような…そんな感じがしました。パステルは‥と違った。
 パステルさんは…ちょっと照れましたね。まさか僕そっくりでくるとは思っていませんでし
 たから。でも嬉しいですよ。なかなか人の出来ないことですからね。2人ともいい勝負
 だったと思います。」
 アロウの顔が微笑む。
 本当に喜んでるみたいで良かった。
「では審査の結果を発表します。勝者は…パステル・G・キングさんです!」
 うそー 勝っちゃった!!
 夢じゃないよね。
 ほっぺたを摘むと痛い。
 あー 夢じゃないんだ。
「パステルおめでとう。」
 隣にいるマーリンが言ってくれた。
「…ありがとう。マーリンと勝負できて嬉しかった。」
「‥あたしもさ!」
 わたしたち2人はぎっちりと握手をした。
 第1・男装はこれで終わり。
 次の第2は何がくるんだろう?
 マーリンみたいにみんなと仲良くなれるのかな。

(58)
 次の日、今度の対戦相手になる人の名前が発表された。
 えーっと…わたしの相手はアイレンスさん…。
 たしか宿屋をやってる人だったよね。
 それでいてトラップとマリーナと同じ盗賊だったって言ってた。
 んっ!?
 下の方に書いてある。
 何々…今回競っていただく競技は『パーティーマナー』です。王家の仲間入りするには
 まずこれが大事! 皆さんのマナー度はどれほどかを教えてください。
 ……パーティーマナー…。
 そんなのわたしが知ってわけないじゃない!
 どーしよう、今からでも誰かに教えてもらわなきゃ。
 
「今度はパーティーマナーときたわね。」
 おいしい紅茶を飲みながらわたしはパーティーマナーをシニアから教えてもらっている
 んだけれど…どうもこうゆうのは苦手。
「こんなことやったことないもの。」
 わたしがシニアに基本的なことを教えてもらってるけどなかなか上手くならない。
「大丈夫 あせらずにやらないと。こんなときにあせっちゃうと失敗するのよ。」
「そうそう …それにアス…あっ アスじゃ分かんないか。アスってアイレンスのこと
 なんだけど…そのアスもけっこうこんな堅っ苦しいのは苦手だったもの。
 手先は器用だったんだけどね。」
 そっかー ならチャンスはあるかもしれないんだ。
 でも覚えられるかな明後日までに。
 マナーがこんなにもあるなんて思いもしなかったわたし…。
 その後シニアに厳しく教えられ…その晩はぐっすりと寝てしまった。

(58)
 カチャーン
「あちゃー、またやっちゃった!」
 テーブルに置いていたスプーンを手に当ててしまい落としてしまった。
 今、わたしは「テーブルマナー」の練習中。
 これがけっこう難しくて悪戦苦闘しているわたし。
 マリーナにシニアもできるのになぁ。
 『落ち着いてやらなきゃ、失敗しちゃうわよ』
 そうシニアに言われたので1人でこっそり練習してるんだけど…
「はぁ〜っ。」
 なかなか上手くできない。
「何、ため息ついてんのさ。」
 後ろから声がする。
「あっ、たしかあなたは…。」
 そう、次の対戦相手のアイレンスさん。
「こんな夜中までやってるなんて…根性あるのね。」
 根性…なのかな? 人並みにやっていたいのかも。
「でも、いくら若くても睡眠は取らなきゃ。」
 そういってわたしの隣に座った。
 細い体。身軽そうで、盗賊をやっていたのが分かるかも。
「あんたトラップの近くにいたわよね。たしかマリーナも。知り合いかい?」
「えぇ、知り合いっていうよりもパーティの仲間なんです、トラップは。」
「へぇー、あの子も冒険者になったのかい。どう、迷惑かけてない?」
 心配そうに聞いてくる。
 なんか顔は母親みたいになってる。
「そんな迷惑なんて…まぁ、金遣いがあらいですけど。」
「…ギャンブルだね。まだあの子はやってんのかい。こりゃ会って叱らなきゃ!」
「そうですね、お願いします。わたしが言ってもやめてくれなくて。ガツーンっと!!」
 初めて話すのにあまり違和感がない。
 話しやすいからどんどんしゃべっちゃう。
「そういえば、アイレンスさん、昔トラップたちの盗賊団にいたって聞きましたけど。」
「あぁ、小さい頃のあの子達も知ってるし、仕事(盗賊)でも『沈着冷静のアス』って呼ばれ
てたりしたんだよ。あの頃はまだ若かったしね。」
「トラップからは、結婚したから盗賊をやめたって聞いたんですけど。」
「そうよ。…あぁ、何でここに来たかって事?」
「…はい。」
「話してもいいけど。きっとトラップ達も聞くと思うし、明日みんな集まってるときに話そうか
な。」
「じゃ、明日聞けるんですね。」
「まっ、明日のお楽しみね。みんなをここに連れてきてね。」
「はい、分かりました。」
 そう言って片づけようとすると
「もう、おやすみ。後はわたしがやるから。」
「そんな!」
「いいの、いいの。ほら行った、行った。」
「…それじゃ、おやすみなさい。アイレンスさん。」
 一礼してわたしは部屋へと行った。
「いい娘じゃないかい、トラップ。」
 このアイレンスさんの言った一言は聞けずにわたしは深い眠りへとついていた。

(60)
 花嫁候補の対戦も2戦目に入ろうとしている。
 課題はテーブルマナー。
 もちろん、わたしは初めてで、シニアとマリーナに教えてもらっているんだけど…。
 なかなか上手くならないんだぁ。
 だから、こっそり夜中、1人で練習していたの。
 そこへ今度の対戦相手、アイレンスさんが現れた。
 彼女はトラップのお父さんの子分的存在だった人。まぁ、盗賊団の一人だったの。
 小さい頃のトラップとマリーナも知っている。
 マリーナに聞いたら、結婚をして盗賊を辞めたと聞いたんだけど…ならどうして花嫁候補
の場所にいるんだろう? …そんなことを彼女に聞いたら、彼女の答えは
『明日、トラップ達もいるときに話してあげるわよ。』
 と、言った。
 しっかり者で盗賊団の中でも頼りにされていた彼女。
 なんとなく分かる様な気がする。
 でも、そんな人と今度は対戦なんだよね。しっかりしなくちゃ!!

「へぇ〜、アイレンスがそんな事、言ったんだ。」
 みんなと一緒に食事をしながら、昨晩アイレンスさんと会ったことをマリーナに話して
いた。マリーナも会いたかったみたいで、今日会えるのを楽しみにしていたみたい。
 トラップとマリーナにとっては頼りになるお姉さん的存在だったらしくて、暇なときは
いつも遊んでくれたんだって。
 そんなことを楽しそうにマリーナは話してくれる。
 男の多い中でマリーナにとってはとても頼りになるお姉さんだったんだろうなぁ。
 わたしもお姉さんがいたらいいと思った事があったもん。
 2人で話していると、いきなりマリーナが驚いた声を出した。
「きゃっ!?」
 振り返るとそこには黒いスリムなドレスを着込んでいたアイレンスさんが立っていた。
「アイレンス!!」
「ひさしぶりだね、マリーナ。トラップにクレイもひさしぶり! 見ないうちにみんな大人っぽ
くなったわね。」
「アイレンスは、前よりもシワが増えてねーか?」
「あら、分かる!? そうなの、このごろ……って、何言わせるのよ、トラップ!! 口の
悪さは昔と全然変わっちゃいないじゃない! そんなことだから親父さんが心配するのよ。
…はぁ、うちの子はトラップみたいな子供にはさせないように気をつけなきゃ。」
 そう言って、みんなをぐるりと見渡すと、シロしゃんと遊んでいたルーミィが目についた
みたいで、トラップをバンバン叩いて聞きはじめている。
「ねぇねぇ、あの子誰?」
「あん? ルーミィのことか?」
「へぇ、ルーミィちゃんっていうの! 綺麗な髪の色してるわね。」
「エルフだしな。そういや、アイレンスのとこの子供はどうしたんだよ?」
「あぁ、あの子はもちろん旦那に預けてきたわよ。あっ、そういえば今年で3歳になるのよ。
もう、世話が大変なのよぉ。男の子だから余計に手がかかって、その上、宿屋も経営して
るから大変さが2倍よ、2倍! 暇だったら手伝いに来てよ、トラップ。」
 なんかみんなアイレンスさんを呆然と見ていた。
 それに気づいたらしく
「あらら〜…ごめんなさいね、一人でペラペラ喋っちゃって。」
 と、『いけない癖なのよ』と笑いながら開いていた席に座った。
 わたしの隣に座ったんだけど、まるっきり身長は彼女の方が高いのに座高は一緒なの
がよく分かる。
 …うっ、だからアイレンスさんは足がそうとう長いんだろう。
 別にわたしは短足ってわけじゃないもん!
 なんてことを考えていると、マリーナがさっそうとアイレンスさんに聞いている。
「ねぇ、どうしてココにアイレンスが来てるの? それも花嫁候補の1人として。」
「えっ? あぁ、そのことね。話さないとならないわね。実は……。」
 アイレンスさんが話し始めた内容はとても彼女らしい答えだった。

 1998年7月22日(水)22時33分40秒〜11月02日(月)18時09分07秒投稿の、51〜60話です。コメントはなし。58話が2つあるような気がするのは、気のせいです(笑)

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