闇を知る者(1〜10)

(1)〜全ての始まり〜

「おい、何馬鹿なこと言ってるんだよ!!」
トラップがセインの胸ぐらをつかむ。
「だから噂だって」
トラップの手を振りほどき、セインは襟をなおした。
「でもそれって傭兵ギルドの方でえも認められているんでしょう?それじゃあ・・・」
私は言いながら泣き崩れた。
「絶対にない・・・・あの人に限って・・・・・」
クレイがテーブルに拳を叩き付ける。
「ぱすえるー」
 ルーミィーが私の顔を心配そうにのぞき込む。
でも・・・・・・それでも涙は止まらない。
「おい、その噂どっから流れたんだ!」
トラップはなおもくらいつく。
「どっから流れたかは知らない、が、依頼主が証言してるんだから確実な話だろうな」
さらに追い打ちをかけるセインの言葉。
「そんな・・・・嘘でしょう」
私は止めどなく流れてくる涙をふき取りながら叫んだ。
「サードが・・・・・・死んだなんて!!!!!」
 
            今思えば全てはここから始まった

 季節は一月。
ここ、砂漠都市エベリンはまだ正月の祭りの雰囲気が残っていて昼間なのに
酒を飲んでいる人が多々ある。
 私達はクエストの帰りがてら、エベリンに買い物に来ていた。
結構実入りのいいクエストでなんとか宝も手に入れることができたワケだ。
そう、最近では難しいクエストにも挑戦するようになってきた。
「ねぇ、こっちなんかいいんじゃない?」
 私達は今、時計屋のカウンターにかざってある懐中時計を見ている。
そう、遂に念願の時計を買うことになったのだ。
 あっ、そうそう、時計組は私、クレイ、トラップ。
そして生活用品組はノル、ルーミィー、キットン、そしてシロちゃんだ。
「こっちなんかいいなー、ってでも高いな」
「うん、やっぱりいいやつは高いわね」
 私もクレイが見ていたヤツを見に行ったが・・・・・・。
2の後ろに0が五つもついているもん。
「おい、外に出て来いよ」
トラップが面白そうな目でこちらにやってきた。
「何だ?」
「これ買いたいんだろう?だったらいい方法があるぜ」
 そう言うトラップの後に続き、店先に出てみる。
するとどうだろう、約二十メートル離れたところのちょうど角のところで人だかりが出来ている。
「何だ?あれは」
「小遣い稼ぎさ、クレイ、行って来いよ」
 トラップが無理矢理クレイの背中を押して人ごみの中に入っていく。
私もその後を追った。
「ほらほら、挑戦者だよ」
 そういって人ごみをかき分けるトラップ。
「よっ、頑張れよファイターの兄ちゃん」
「早くこいつの連勝を止めてくれ」
 観客からの冷やかしも気にせず、前に進み出るクレイ。
時計のために頑張るらしいな。
「おっと、なかなか強そうな兄ちゃんだな、俺に挑戦するのか?」
 そう言ったその男。
年はたぶん十八、九ぐらい。
 銀髪に、透き通るようなエメラルドグリーンの瞳を持った男。
美形だが、少々童顔なところが可愛い。
「えっとね、レベルが十以上だったら二百ゴールド、それ以下は百ゴールド
をそこの袋に入れてくれ」
 そう言われた袋には相当な量のお金が入っていた。
これが手に入ればあの時計以上のものも夢じゃない!!ってくらいの。
 それを見たクレイは目を輝かせながら二つの硬貨を袋に入れた。
そうなのよ!!クレイは今のレベル十三になってるの!!!
 サードと別れた後のクレイは猛烈に剣の修行をして、そしていろんなクエストに
挑戦し、そして今のようなレベルまで上がったのだ。
「それじゃあ始めよう。ルールは簡単だよ、どっちかが降参するまで、いいね」
 頷いて剣を抜くクレイ。
もちろん剣の手入れは欠かしていない。
「なかなかの武器だね。でもそれをどこまで操れるかな」
 そう言った彼の武器はサーベル、突剣だ。
           そして、闘いが始まった

(2)〜セイン・サラン登場〜

 それは壮絶なものになった。
最初、相手がサーベルを前に出し、それをクレイが紙一重で避け剣が繰り出す。
 それも相手も避け、そして二人が繰り出した剣は中央で交差し、激しいつばぜり合いの後
相手が引き際にクレイの腹に蹴りを加え、怯んだところを狙おうとしたが
逆にクレイの剣が風を切り、肩に浅い傷を付けた。
 あれほど騒いでいた野次馬達も今はひっそりと静まり返っている。
「へぇ、なかなかやるねぇー。おいらに傷を付けたのはあんたが初めてだ」
男は感心したように飛び退いた。
「だったらこっちも手加減しない」
 そう言うとサーベルを鞘に納め、再び構えた。
あれは・・・・・・フェンシングの構え。
「成る程、俺を気遣ってそうゆうことをするのか」
そう言うクレイも剣を納める。
「じゃあ、お互い手加減なしの一本勝負・・・・・・」
「そうだな、それじゃあ・・・・・・」
 クレイもサードに教えられたという構えをした。
右手で剣を握り、左手は軽く柄に触れる程度。
 人間ってのは力を入れた瞬間が一番力が入っているって、だから左手は
リラックスした状態のまま、剣を降るときだけに力を入れれば強力になるそうだ。
 そしてお互い同時に間合いを詰め、剣を繰り出す。
鋭い突きがクレイを襲う、が、それを左手で受け止め、剣を傷のない方の
肩に切り込んだ。
 とはいっても別に血は吹き出てこない。当然だよね、鞘してるもん。
「俺の勝ちだな」
と言って袋に手を着けたクレイ、だがその手を男はピシッっと叩いた。
「何だよ、潔くねーぞ」
トラップが男を羽交い締めにする。
「だって卑怯じゃねーか、普通の剣だったらあんた俺の剣を受け止められなかったんだぞ」
「そうだろうね」
普通に受け流すクレイ。
「普通だったら確かにそうだけど、でも鞘同士で勝負をするって決めたんだから
俺はその勝負に合わせた戦法を選んだんだよ」
それを聞いた男、ポカンとした顔でクレイを見上げていたが、やがて
笑い始めた。
「ちげぇねぇーな。そりゃあ俺が悪い、あんたのの命気遣って鞘同士って
決めた俺が悪いんだから」
ひとしきり笑っていると野次馬達は何処と泣く消えて、そして最後には私達だけが残った。
「よーっし、決めた。あんたについていく。そしてまた勝負しようぜ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!?・・・・・・・・・・・・・・・・・』
その言葉に私達は同じ反応を示したのであった。
「俺の名前はセイン、セイン・サランだ。よろしくな」

(3)〜街道での話〜

「ねぇ、セインっていっつもあんな事やってるの?」
 私は街道を歩きながらセインに聞いてみる。
あの後クレイとトラップはマリーナの家に行ったみたいで、それで私達は
先に待ち合わせ場所であるメインクーン亭に行くことになった。
 童顔で、それでいて美形のセインの笑顔。
誰かに似ているような気がした。
「うん、俺はあれが三日目だな。普通はフリーの傭兵をやってる」
「えぇー、傭兵なの、セインって」
「あぁ」
短く答えたセイン。その瞳の奥にどこか自慢しているような輝きがあった。
「へぇー、それじゃあやっぱりレベル高いんでしょう?」
 それを言うとセイン、いきなり立ち止まり、そして私の顔を意地悪そうな顔で見た。
「へっへー、いくつだと思う?レベル」
「うーん」
 そりゃあクレイとほぼ互角で戦うくらいだから、最低でも十は行ってると思うけど、
やっぱちょっと高いだろうなー。
「うんとね、十四」
「ぶっぶー、不正解」
「じゃあ十三」
「不正解」
「まさか・・・・十五」
「それも違う」
「もしかして・・・十七?」
「ぜっんぜん違う」
「えぇー、わかんないよー」
そう私が言うと、セインは自分の冒険者カードを私に見せた。
「えっ、レベルいっ・・・いちーーー」
 そう、そこには冒険者を始めたら一度は絶対に見る『1』という文字が刻まれていた。
ついでに言えば経験値も0。
 セインは私の口をさっと塞ぐと、
「馬鹿!大声で言うなよ」
そして手を離した。
「実はな、俺・・・・・・ついこのあいだまで冒険者カードの存在なんて知らなかったんだよ」
「へっ!!?」
それは驚いたね。大概の傭兵はレベルによって相場が変わるって聞いてだから。
「そう、俺も最初の方は全然仕事とれなくってよー、久々に仕事が来れば
みんな胸元にこのカードをぶら下げていたからよー、聞いてみたら
みんな大笑い。まったく恥かいちまったよ」
「でも別にいいわよ。私だってあんまり良く知らなかったもん」
 私は六年前、冒険者を始めようとしていた自分を思いだして思わず吹き出した。
セインは不思議そうな顔をしていたがやがて気を取り直したように言った。
「だからここに来てすぐに試験を受けたんだよ。まぁ、すぐに受かったけど・・・・。
その間の滞在費として鎧を質屋にいれちまったから取り戻そう、あるいは
もっと新しいものを買おうって思ってあれやってたんだよ。そこにあいつがやってきて・・・」
「えぇー、でももうあのお金時計に変わったよ」
 そう、さっき欲しがっていた時計、あれをもう買っていたのだ。
ちなみに今はクレイのポケットの中で時を刻んでいる。
「おうよ、でも仕事をしようにもレベル一を雇うような物好きな貴族もいるわけないから
冒険してレベルあげようと思っているの。そこであんた達についていく。それだけだ」
「はぁー」
私は思わず溜息を吐くのであった。

「遅いですよー、パステル」
 キットンの馬鹿でかい声が店内に響いた。
「ごめんごめん、ちょっと時計選びに手間取っちゃって」
「パステル、この人、誰?」
「あぁ、彼ね。セイン・アレンっていってね・・・・・・」
 私は彼と会った経緯、お互いの自己紹介そして今、クレイ達がマリーナの家に
行ってることを話した。
「せぇーん、よろしく」
ルーミィーの、少し大きくなったがまだぷよぷよの手を差し出した。
「おぉ、こちらこそ。えっとー・・・・・・」
「ルーミィーだおう」
「わかった、よろしくな、ルーミィー」
握手をしているルーミィーとセインを尻目に、私達は席に着いた。
「おや、またあんた達かい。その様子だと例のクエスト成功したみたいだね」
あのダイナマイトボディーのルイザがこちらに近寄ってくる。
「ええ、大成功よ」
私は胸を張って答えてやった。

(4)〜衝撃の事実〜

 その夜、私達はメインクーン亭で飲み明かしていた。
新しい仲間のために。
 今はクレイもトラップも帰ってきていてそれからマリーナもアンドラスさんもいる。
「こらっ、ルーミィー。お酒はダメよ」
「だってぇー、ぱすえるー。みんあのんでうんだもん。ルーミィーも飲みたいおう」
「おまえはまだだ。大人になってから好きなだけ飲んだらいいだろう」
トラップがお酒の入ったジョッキをルーミィーの前で踊らせる。
「ぶうぅぅーーー」
 しぶしぶジュースを一気飲みするルーミィー。
あっはっはー、酔っぱらったみたいにほっぺたが赤い。かわいいなー。
「そういえばセインは何で冒険者になったんですか?いや、よく親が許しましたねー」
 キットンが軽く言うと、セインの顔が一気に暗くなった。
これって・・・・・・ふれちゃあいけない話題だったんじゃあ?
「あの・・・どうかしたんですか?」
流石のキットンも何かを感じ取ったんだろう。気まずそうな顔をしている。
「それが・・・・・・おれが傭兵を始めた理由なんだ」
 そして淡々と話し始めた。
彼の話は非常に長かったので要約するとこんな感じだった。

 彼の生まれた町は人口約三千人といういたって平和な町だった。
そこで彼は生まれ、そして育っていった・・・・・・・・・と親から言われてきた。
 真実を知ったのは母親が死んだ日だった。
病床についた母をセインは一生懸命看病していた。父親は都会の医者を呼びに
エベリンまで行ったのだ。
 そしてその日。母は全てを話した。
「あなたは私達の息子じゃない」、と。
 両親は他にいる、そして母親の方は死んだが父親の方はまだ生きているはずだ。
そう言って息を引き取ったそうだ。
 数日後、家に帰ってきた父親は妻の死に嘆き、悲しんだ。
そして悲しみの少しおさまってきた一ヶ月後、セインは父親に聞いてみた。
「母の言っていたことは本当か」、と。
 そして父親は観念したように話し始めた。
「おまえの本当の両親は共に冒険者で、母親は私の姉だ。私の姉が死んだとき、
 義兄は悲しみに溺れて、私達夫婦におまえを託し、どこかに旅に出た。
何度かおまえに会いに来たことがあるが、つい五年前から音沙汰ナシだ。
 だが私は死んだとは思っていない。まだどこかで生きているはずだ」
 そして決心したという。自分の本当の父親を捜すことを。

「で、捜し出してどうするつもりだ」
 湿った空気を一掃するようにトラップが切りだす。
確かにそれは聞いてみたいものだ。
「最初に殴る。そして聞いてやるさ。何故おれを捨てたのかってね」
そう言って握り拳を作るセイン。
「俺もそうするだろうなー」
 ドルチェのフライを食べながらクレイがぼやく。
たぶん私もそうするな。
「さっ、何か話題変えようぜ。湿っぽいったらありゃしない」
トラップがそう言うとセインが思い出したようにクレイに聞いてみた。
「そういえばよ、クレイ。あんた一体誰から剣を教わった。あっ、ちなみに
俺は町の道場のおっちゃんからだ」
「俺か!?親父とか兄貴とか・・・・・・」
「それにもう一人!!傭兵のおまえだったら聞いたことがあるだろう?かのサード・フェズクラインからもだ」
 そのトラップの言葉に驚いたのがセイン。
当然だろうね。私達が自慢するものNO.10には入るもの。
「まさか!!んな会えるのにだって奇跡というのにその上剣を教えてもらうだなんて・・・。
道理で強いわけだよなー・・・・・・・・・俺も生きている内に合いたかったよ」
 立ち上がり、そして意気消沈と座るセイン。
あれっ、でもしゃべり方が過去形のような・・・・・・。
「でもいいよなー。実質的にサード・フェズクラインの後継者みたいなもんだから・・・」
「なーに言ってるんだよ。今度のパステルの誕生日にまた合う約束してるんだよ
何ならおめぇも一緒にその日までいればいいじゃん」
トラップがそう言うとセインはポケッっとした顔。
「おまえら・・・・・・もしかして知らないのか?」
私達は「何を言ってるんだ?」みたいな顔をすると、
「サード・フェズクラインは死んだんだぞ」

(5)〜賭け〜

 その話が傭兵界に広がったのは去年の十二月ほどの事。
噂は至って簡単。「サード・フェズクラインが死んだ」この一言だけだった。
 セインは暇だったので(このころも冒険者カードの存在はしらなかったそうだ)
この事について調査することにした。
 十一月の上旬、とある貴族が傭兵の募集をした。
内容はこんなもの『私の先祖の宝をとってきて欲しい。報酬はその宝の
中からそれなりの働きをしたものから順に出そう』だそうだ。
 そこに依頼を受けににサード他十数名がダンジョンに挑戦。
だがその貴族は以前盗賊団に自分の家を荒らされたためひどく盗賊嫌いになり、
盗賊だけは雇わなかった。
 案の定洞窟内には罠があり、それにかかった九人が死亡。
その中に、サードも入っていたと言われている・・・・・・。
 しかもその事は傭兵ギルドの本部の方でも正式に認められたと
・・・・・・。

「おい、何馬鹿なこと言ってるんだよ!!」
トラップがセインの胸ぐらをつかむ。
「だから噂だって」
トラップの手を振りほどき、セインは襟を直した。
「でもそれって傭兵ギルドの方でも認められているんでしょう?それじゃあ・・・」
私は言いながら泣き崩れた。
「絶対にない・・・・あの人に限って・・・・・」
クレイがテーブルに拳を叩き付ける。
「ぱすえるー」
 ルーミィーが私の顔を心配そうにのぞき込む。
でも・・・・・・それでも涙は止まらない。
「おい、その噂どっから流れたんだ!」
トラップはなおもくらいつく。
「どっから流れたかは知らない、が、依頼主が証言しているんだから確実な話だろうな」
さらに追い打ちをかけるセインの言葉。
「そんな・・・・嘘でしょう」
私は止めでなく流れる涙をふき取りながら叫んだ。
「サードが・・・・・・死んだなんて!!!!!」

 全員が沈黙の中、涙を流していた。
ルーミィーもようやく状況がわかったるんだろう。シロちゃんを抱えて泣いている。
「それって・・・本当の話なのか?」
この空気を一掃しようとノルがおずおずときりだす。
「あぁ・・・たぶんな・・・・・・」
「たぶんなんだろう、ほら、サードも言ってただろう」
「不可能じゃなければ賭ける価値はある、それが自分だったら尚更だ・・・」
ノルの言葉をクレイがつづける。
「そうだよな・・・まだ・・・・・・賭けることできるんだ」
自然と涙が引いてくる。
「だよな!あいつが死ぬなんて思えないからな」
ポンッと膝を叩き立ち上がるトラップ。
「よーっし、ギャンブラーとしてこれは価値のある賭だ。全額賭けてやろうじゃないか」
 すっかり元気を取り戻したトラップ。
クレイもそれに続いた。
「ばーか、おまえが賭けたら勝つ賭けも負けちまうだろう」
「そうですよ。トラップったら勝ったためしないですからねー」
笑い出すキットン。
「なにをー、てめぇーは」
トラップがキットンにズンズン近づくと、
「そうよ、昔はトラップのおかげでずいぶんと家計が苦しかったんだからね」
「くうしかったぁんだかあね」
「てめぇーら・・・・」
「そうデシ、トラップあんしゃんのせいデシ」
 シロちゃんにまで言われたらすっかり形無しのトラップ。
すっかり室内はなごんだ様子になった。

 よーっし、絶対にサードは生きている。
それを信じなきゃ、賭けることなんかできないもん。
 例えトラップが賭けようと負け続けの人が賭けようと。
この賭だけはぜっっっっっったいに外れないから。
 私の人生最初の賭は一番安全なものになった。

(6)〜手掛かり〜

「で、どこをどうやって調べるか、だな、問題は」
座り直しながらトラップが言う。
「そうですねぇー。セイン、あなたはどうやって調べたんですか?」
キットンはセインに聞いた。
「えっとなー・・・まず傭兵ギルドで死亡を確認した後にその依頼主の貴族に会った。
 それから実際に死んだところを見た冒険者達に聞いてみたが間違いないだとさ」
「そっかー・・・」
「調べるところ調べてるんだなー」
 クレイ!!感心している場合じゃないでしょう!!!
でもなー、ここまで徹底的に調べられたら調べようがない・・・・・・。
「サードの住んでいるところは?」
ノルが言うと、
「ダメよ、定住してないって言ってたじゃない」
 私は答えた。
と、その時!!!!
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
 キットンの馬鹿でかい声が響く。
いつもよりいっそう大きく響いておりまーす、って感じだ。
「そうですよ、ジェームスさんに聞けば・・・・・・」
「ジェームスってどこに住んでるんだよ。パステル、知ってるか?」
「うん、知らない」
 一気に引く室内の空気。
はぁぁーー、どうすればいいんだろう。
「まさか世界中探し回るわけにもいかないからなー」
「そうよねぇー」
「せめてサードが前に住んでいたという町さえわかればいいんですけど・・・・」
 そのキットンの声を聞いたとき、はてな?と思った。
何か・・・・・・大事なことを忘れているような・・・・・・・・・。
「このままパステルの誕生日まで待つか?」
「いいや、それじゃあ気がすまねぇ」
トラップがすぐにその意見を払いのける。
「そうねぇ、せめてジェームスさんの住んでいる住所・・・・・・あぁぁぁぁぁーー!!!!!」
 私もキットンに負けず劣らずの声で叫んだ。
みんなビックリして椅子からずり落ちているけど・・・・・・。
 そうよ、大事なことを忘れていた。
「パステル・・・どうしたんだよ・・・・・・」
クレイが椅子に座り直しながら言った。
「ったく、こまくが破けるかと思ったぜ」
トラップも耳をほじくりながら立ち上がる。
「パステル、本当にビックリしましたよ、そんな大きな声が出せたなんて」
「キットン、あなたには言われたくはないわ」
「いいからパステル、何か思い出したのか?」
 そうよ、さすがはノル。
私はリュックの中に入っているメモ帳を出した。
「これよ、サードに『何か困ったことがあったらここに行け』って言われたでしょう?
今困っているんだからこの人のところにいかなきゃ」
 私はメモ帳を広げ、テーブルの中央に置く。
そこには、エベリンのとある住所が書いてあった。
「ここに行けば・・・・・・サードが生きているかどうかがわかるのか?」
「確信はありませんねー、でも不可能じゃないんですから行ってみましょう」
「よし、今日はもう遅い、明日の朝、早くに行こう」
リーダークレイの意見はその場の全員をなっとくさせた。

     翌朝、私達は一路、その家に向かった

(7)〜イヤな再会〜

 その家はエベリンのほぼ中央にあった。
玄関のすぐそばにはレクチャーチャイムが美しい音を奏でて、全体的に
青い家がどことなく海を想像させた。
「じゃあ、クレイ。ノックしてみたら」
ドアの前で立ち往生しているクレイにおずおずと言ってみる。
「あぁ・・・・・・」
そしてノックしようとしたその時、
「あんたらクリスさんを訪ねに来たのかねー」
 いきなりとなりの家の玄関から声をかけられ、ドアノブにすがりつくクレイと
ずっこけるその他一同。
声をかけてきたのは奥さん風の四十代の女性。
「えぇ・・・ってここの家の人クリスって名前なんですか?」
「あぁ、クリス・メグリアーザって名前だよ。ちょっと変わってるけどいい人だよ」
かわってていい人・・・ねぇ。
「で、おばちゃん、そのクリスさんもしかしていねぇーのか?」
「あぁ、昨日またいっちまったよ」
トラップの言葉にちょっとむっとしながらおばさんがこたえた。
「昨日?」
「また?」
私とキットンがそれぞれ別の反応を示すと、
「あぁ、あの人はいろいろ忙しいみたいだから。一ヶ月に一回はどっか行ってるのさ」
「どこに行ったか知ってますか?」
いままで口を閉じていたセインも聞いてみる。
「あぁ、たしかドーマの・・・・・・そうそう、アンダーソンさんってところに行くから
誰か訪ねてきたら言ってくれって・・・・・・」
『ドーマのアンダーソン!!!!!!!』
私達はそれぞれ叫びながらもちろんクレイを見た。

「で、行くんだろう、結局」
トラップが前を向いたまま言った。
「うん、とりあえずお金も持ってきているし大丈夫よ」
私はポケットに入っている財布を握りしめた。
「じゃあ早速行くか、ドーマ行きのチケット買ってそれで行けばすれ違いって
ことはないだろう?」
「はぁぁぁぁぁーーー」
セインの言葉とクレイの溜息。
「いったい何のようですかねぇ、そのクリスさんは」
キットンが腕を組みながら言う。
「やっぱ傭兵かなぁー」
「おいらはそんな名前しらないぞ」
傭兵のセインが言うから間違いないだろう。もしかしたら無名かもしれないけどね。
「でもねぇー、どっかで聞いた覚えがあるんですよ、クリス・メグリアーザって」
「だろう?俺もそう思った」
博学のキットンが知ってて、クレイも知ってるって・・・・やっぱ戦士系統だろうな。
「おい、なんだありゃあ」
 トラップが指した前方、しかも大通りの真ん中で人だかりが出来ている。
その中心からは「おねぇげぇーしますだ」とか「いいや、すぐにだ」などの声が聞こえる。
「なんだー」
「一体なんでしょうかねぇー」
野次馬根性丸だし私達は早速その中心まで行こうとする。
「おっと、ごめんよー」
 やっぱりトラップが一番最初に中心まで辿り着いた。
後につづいて私達、だがすぐにトラップが緊張した顔をしてこちらを振り返る。
「おい、すぐに逃げるぞ」
小声で私達に、しかも焦った顔で言う。
「どうしたん・・・・・・」
「あっ・・・・」
長身のクレイとノルにはわかるんだろう、その光景を見て絶句した。
「とにかくすぐにここから離れよう、早く!!」
 クレイに促されるまま後ろに引き返そうとする。
だが後ろから後ろから来る人ごみに押されて私とトラップが円の中心に押し出された。
「あったった」
「げっ!」
そして私が見たもの・・・・・それは・・・・・・。
「おっ・・・おまえらは!!!!」
 二年前キットンが借金をした、ストロベリーハウスの社長、マグ・スワンソンだった。

(8)〜空からの追跡者〜

 冬の冷ややかな風が路地裏を走り去っていく。
その風がいっそう涼しげに感じるのは汗のせいだろうか。
「なんとか振り切ったみたいだな・・・」
 赤髪が汗で額にこびりついてるのを気にしながらも周囲を見回すトラップ。
かくいう私は座ったまま地面に根を生やしていた。
「ホント・・・・・・ビックリしたー」
 私は根っこから引きちぎりながら立ち上がる。
 あの後、スワンソンの部下たちにおわれていた私達は途中二手に分かれた。
(その時にクレイに『後で乗り合い馬車乗り場で会おう』って言われたけどね)
 で、その後さらに別れた私達。今はトラップとふたりっきりとなっている。
「それじゃあ行きますかー、あいつらに見つからないように」
 トラップはさっさと大通りに入ろうとした。
私はその後姿をみながら追いかけた。
 でもびっくりしたよなー。
まさかこんな町中でスワンソンたちと・・・・あれっ?
 私の頭の中に一つの疑問がよぎった。
「ねぇ、トラップ」
「あんだよ」
「どうして私達って追いかけられたんだと思う?いや、たしかに追いかけられる
ようなことをしたけどそれでも何で気付かれたんだろう?」
「あの後、あの社長のこった、ちゃんとミモザ姫のところに行ったんだろうな。
 でも知らぬ存ぜぬでおながしにされちまったんだろうな、あの嘘の話は」
まぁねぇー、けっきょく私達がつくった嘘だったんだし(正確に言えばマリーナだけど)
「だけどあのおやじのこった。すぐに騙されたって気付いたんだろう。
そしてミモザ姫の顔を見て思ったんだろうな。「あの時来た小娘に似てる」ってな。
 で、今日の今日まで覚えていたんだろうな。執念深そうだもんな、あのおやじは」
「はぁーー」
 思わず溜息をつく私であった。
やっぱ・・・・・・このままじゃあ終わらないだろうな。

 乗り合い馬車乗り場にはすでに全員がいた。
共通することは一つ、全員が疲れ切った顔をしていたこと。
「おい、もうチケットかっといたぜ」
「あぁ、ごくろうさん」
クレイの言葉を簡単に受け流すトラップ。
「でもまさかあの人たちにまたあうとはおもいませんでしたねぇー、因縁でしょうかもしれませんね」
 大声で笑うキットン。
そもそもの根元ってキットンにあるんじゃなかったっけ?
「おい、なんで追われなきゃならないんだよ、いったい何があったんだ?」
 セインがさしも怒った顔でわたしたちにつめよる。
あっ、そうか。セインは知らないんだよね。
「馬車の中で話すよ、おれたちの不幸な話をね」
 たぶん疲れてるからだろう、話したくないのは。
でもこんな大勢の人がいるのに話すってのもいやだからね。

「・・・・・・・・・ってなわけ」
クレイが大体のいきさつを言うと
「・・・・・・・・・つくづく不幸だな、あんたらは」
 セインはさっきとはうってかわって同情のまなざしを私達に向けている。
ちなみに馬車は私達パーティーが占拠していた。
「だけど追っ手はいなかったようですね。これでドーマへの旅は安心でしょう」
「だけどよー、本当に知ってると思うか?そのクリスって野郎は」
「でも・・・それ以外に手掛かりがないんだから」
私達は藁をもすがる思いでドーマに向かう。

     この時彼らの乗っている乗り合い馬車の遥か上空を
     追跡用のエレキテルコンドルが飛んでいるなどとは
              知る由もなかった

(9)〜神具〜

「おぉ、おまえらか、久しぶりだな」
 乗り合い馬車から降りるなりいきなりトラップのお父さんから声をかけられた。
顔をしかめたのはもちろんトラップ。
「なんだ、親父か。悪いが今回はそっちに用はねぇーんだよ」
感動の再会!とはいかずに(トラップだからね)とっととどっかに行こうとするトラップ。
「なんだ、どうしたんだ」
トラップは話にならないと感じたんだろう、クレイに聞いてみる。
「それが・・・その・・・・・・いろいろと込み入った事情があるんで・・・」
「なんだ、トラップがカジノですって借金でもしたのか?」
「えっと・・・あっ、おれのうちに行ってから、その後に事情話に行きます」
「そうか・・・・・・わかった。ちゃんと後でうちにこいよ」
といって帰ろうとしたトラップのお父さん、だが、ふと思い出したようにこちらを向いた。
「おお、そういえば誰かが来ていたぞ、おまえのうちに」
「えっ!?」
「どっかのおえらいさんかどうかは知らないけどな、家中総出で出迎えてたぞ」
「家中総出で?」
私がすっとんきょんな声を出すと、
「よくは知らないが、まぁ行ってみればわかることだな」
といって今度こそどこかに行ってしまった。
「でもねぇー、考えられるってのはそのクリスって人以外考えられないんですよね」
キットンが当然のことを再確認するように呟いた。

「まぁ、クレイじゃないの」
 と、今度はクレイのお母さん。
前会ったときとは違ってきちんとしたドレスを着飾っている。
 やっぱ気品とかそういうのがにじみ出ている。
「母さん、ここにクリス・メグリアーザって人来てませんか?」
この二人が並ぶと・・・・・・なんか絵になる。
「えぇ、来ているには来ているけど・・・・・・なんでそのことを知っているの?」
「理由は後で話すから、話すからその人に会わせてくれ」
「お願いします」
「おねがいだおう」
「えぇ、いいわよ他ならぬクレイたちの頼みだから・・・でもねぇ」
「どうしたんですか?」
セインが聞いてみると、
「いやねぇ、いまアルテアとイムサイが会っているのよ」
「兄さんたちが?」
「えぇ、だからそれまで待っていて、待合室で」

「あー、なんかむしゃくしゃするなー。ここまで出かかってるんですよ、その名前の事が」
キットンがボサボサの髪をボリボリかきながら必死に考えてる。
「クリス・メグリアーザか。俺もどっかで聞いた覚えが・・・・・・」
「そうなんだよなー、俺もなんかこう、ひっかかってるんだよ」
 キットン、クレイに続き、セインも首を傾げている。
やっぱり戦士系だろうなー。
「なんだろう、兄さんたちに会いに来るんだから、騎士、傭兵、武器商人、
鍛冶屋・・・・・・あぁぁぁーーーーー!!!!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
「そうだぁぁぁぁーー!!思い出したーーーー!!!!!!」
 三人の叫び声が部屋の中を木霊する。
わたしたちは必死に耳を覆いながら三人に聞いてみる。
「思い出した?」
「そうだよ、そう」
「えぇ、まさか会えるとは思いませんでしたよ」
「もう、だからなにを思い出したっていうの?」
キンキンなる耳を気にしながらも私は聞いてみる。
「鍛冶屋だよ、クリス・メグリアーザって」
「鍛冶屋!!?」
「そう、あの『神具』を創りだした人の一人だよ」
「『神具』だと!!?」
トラップが立ち上がり、そしてノルもが驚いた顔。
「『神具』!!!・・・・・・ってそれなに!!?」
ガクッ
室内にいたほとんどの人間(ルーミィーとシロちゃん以外)がづっこけた。
「おめぇ・・・・・・『神具』をしらねぇのか!?」
 今の今まで気付いてなかったトラップでさえ驚いてる。
そんなに有名なものなのかなぁー?
「いいですか、パステル。『神具』っていうのはまさに神が創ったと言われるほど
すぐれた武器、防具のことを言うんですよ。シドの剣も『神具』の一つと
言われています。その一つ『星屑の弓』を創ったのがクリス・メグリアーザなんです」
 最初はおとぼけ口調、最後は興奮した口調で言うキットン。
まあどれほどすごいものかはわかったけど・・・・・・。
「じゃあそんなすごい人がくるなんてすごいじゃない!!」
「でもよー、それ創ったのって二十年前だろう?相当の高齢じゃあ・・・・・」
バタンッ
 その時、ドアが開けられた。
最初にはいってきたのはクレイのお母さん、そして後ろから入ってきた男は・・・・・。
              若い男だった

(10)〜失望〜

 あまりにも美しく、そして神秘的な紫水晶の瞳と波のようにうねる髪。
その髪を緑のバンダナで額のところからとめている。
 エルフのように整った顔立ちと白い肌。
とても鍛冶屋とは思えないような細い腕。
 しかし左手にはたいそうな包帯が手首から肩までまかれてある。
ついつい私が見入っていると、
「クレイ、この人がクリス・メグリアーザさんですよ」
クレイのお母さんがその男の人を指しながら言う。
「あぁ、どうも・・・・・・はっ初めまして・・・クレイ・S・アンダーソンです」
クレイがしどろもどろに自己紹介をした。
「どうも、一応紹介はうけたが私がクリス・メグリアーザだ。なんの用件かな?」
「それが・・・・・・」
 と、困ったようにお母さんを見るクレイ。
それを察したクレイのお母さんは
「私は他の二人を見てくるわ」
といって部屋から出ていった。
「クリスさん」
「何だい?」
「あなたは、サード・フェズクラインのことを知っていますね?」
「あぁ、最強の傭兵のことだろう?それが?」
何か冷たい感じがする言葉だった。
「そこのお嬢ちゃん」
と、いきなり私の方を見た。
「これがそんなに珍しいかい?」
と、そこでまた左手に見入っているのに気がついた。
「あぁ、えっと・・・その・・・。どうなさったのかと思って・・・・・・」
 そっそんなに綺麗な瞳で見つめられるとこっ困っちゃうなー。
やっぱりしどろもどろにこたえる私であった。
「これは昔あやまって高炉の中に手を突っ込んだときの火傷の後だ。
まあ別に不自由は感じてないよ、このとおりちゃんと機能している。見るかい?」
 といって包帯に手をかけたが私はブンブンと首を振った。
それを見て再びクレイと向き合った。
「で、それが?」
「おれらはなぁー、何か困ったことがあったらあんたに会えって言われたんだよ」
「何か困ったこと?」
何かこの態度がすっごくむしゃくしゃしてきた。
「えぇ、実はサードが死んでいるって噂がたって・・・・・・それであなたなら
本当の事を知っているのだろうと・・・・・・」
「死んだよ、サードは」
きっぱり答えるクリスさん。
「俺も少々驚いて私立探偵を雇って調べてもらったんだが・・・・・・どうも絶望的らしいな」
 私はこの言葉がどうしても許せなかった。
なんか・・・・・・楽しんでいるようだもの、わたしたちを相手にすることを。
 同情することもなく、ただ楽しそうに。
べつに同情を求めているわけじゃないけど、けど・・・・・・・許せなかった。
「なによ、その言い方は。あなたサードの友達じゃないの!!?あの人は私達に
あなたを頼れって言ってるのよ。それを・・・・それを・・・・・・」
 ついに私はクリスさんにくってかかった。
驚いて立ったところをドンドンとドアの方に追いつめていく。
「おい、パステル、やめろ」
 トラップのすっごく怒った声。
つづいてクレイも
「そうだよ、こんなやつを頼りにした俺たちが馬鹿だったんだ」
 そしてドアの方に向かった。
私はその場に座り込み、ただ泣きじゃくるだけだった。
 なんか・・・くやしい、くやしくって、くやしくって・・・・・・。
最後にドアを出ようとしたノルがそっと手をさしのべた。
「ありがと・・・・・・」
私は手を借りて、立ち上がり、そしてドアに向かった。
「すまなかったな・・・・・・せっかく頼ってきたのに・・・力になれなくって・・・」
 こちらも向かずにクリスが最後に出ようとした私に言った。
その時は、ただの皮肉にしか聞こえず、また涙がこみあげてきた。

 1999年5月14日(金)18時21分34秒〜5月23日(日)09時20分21秒投稿の、PIECEさんの長編「闇を知る者」(1〜10)です。

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