闇を知る者(11〜20)

(11)〜そのころ〜

「ほー、それは大変だったな」
 トラップのお父さんが私達を見回す。
私達五人は(クレイは自分の家にいるし、他の一人と一匹は夢の中)はコックリとうなづいた。
「まあ俺も詳しい話は聞いてなかったから・・・・・・でも、なぁー」
 セインは難しい顔をしている。
そうそう、サードが神獣と人間のハーフってことやサードの過去までは話していない。
 なんか・・・・・・やっぱ抵抗あるんだもん。
「でもむかつくよな、あのクリスって野郎は」
「そうよ、あそこまで言う必要ないのに・・・」
 また涙がこみ上げてきた。
でも、こんなことで泣くもんですか。
「でも私どうも納得いかないんですよねー」
キットンがボソッと言葉を漏らした。
「どういうことだよ」
 机に勢いよくジョッキをおいたトラップがキットンをにらむ。
こりゃあそうとう酔ってるぞ。
「まず一つはサードが彼を頼れって言ったこと。住所もあっていますよね。
私もトラップも確認したし」
「サードが間違えるわけもないから」
ノルが頷く。
「でも引っ越ししてきたって可能性は・・・」
「それはないでしょう。となりのおばさんが言ってたでしょう?「あの人は一ヶ月に
一回はどこかに行く」と。だからけっこう顔見知りだと思いますよ。少なくとも
一年ほどは」
「でもそれって推測じゃない。それに一年だったらその人が引っ越しした可能性だって」
「うーん、その辺が微妙ですけど、あの『神具』を創ったセイン・メグリアーザ
のことです。たぶん定住ですよ」
ここでお茶を一杯含み、
「だったら次の謎は「なぜサードはクリスを頼れ」と言ったのか、です」
「う−ん、何でだろう」
「わかったぞ」
 トラップのお父さんがトラップと同じくビールをドンと勢いよくおいた。
やっぱ父子だよなー。
「たぶん嘘をついたんだろう、おまえたちに」
「それ以外考えられないでしょうね」
と、二人だけなにかわかった顔をしている。
「おい、説明しろよ」
「そのへんは私にもわかりません。しかし。クリスさんは何らかの理由で
「サードは死んだ」または「私とあいつは関係ない」と嘘をついたのでしょう」
「なんで?」
「それがわかれば苦労はないだろう」
と、トラップのお父さんはそこで私達を促した。
「このまま考えたってラチはあかんだろう。とりあえず寝なさい」

            私達が夢の中にいたころ
  ドーマの遥か向こうでもの凄いスピードで走ってくるものがあり
    また『悪魔の渓谷』では何か強大なものが蠢いていた

(12)〜朝の風景〜

「おはよう、パステル。よく眠れたかー」
 セインが水に濡れた顔をこちらに向けている。
ここは井戸だから、どうやら顔を洗っていたところらしい。
「うん、まぁ・・・」
 正直言うと全然眠っていない。
昨日のあの人の態度がくやしくってくやしくって・・・・。思い出しただけで
涙がこみ上げてきたのだ。
 その後、サードとのことを思いだし、また涙が・・・・・・。
で、結局眠れなかった。
「別に嘘つく必要ないぜ。目の下に、ほら。くまができている」
「えっ!!?」
 慌てて目のところに手を当ててみる。
ってことやっても別にわかるわけじゃない。
「嘘だよ」
顔をタオルで拭きながらセインは笑った。
「でも図星らしいね。なんか考え事していたのかい?」
「・・・・・・うん」
 しばらく沈黙がつづく。
そしてセインがタオルを投げ渡して、
「べつに話す必要はないよ。じゃあな」
「ねぇ、セイン」
私は家の中に入ろうとするセインを呼び止めた。
「なんだい?」
「その・・・その自分の父親のてががりはみつかったの?」
しばらく虚空を見つめていたセインだが、
「いや・・・・・・全然わかってない」
でも全然残念じゃなさそう」
「まだ人生長いんだ。気長に探してみるさ」
そう言って家には行っていった。

 すれ違いに来たのがクレイ。
彼はこちらに歩み寄ってきた。
「あっ、パステル。おはよう」
「あっ、クレイ」
お互いに顔を見合わす。
「どうだった?昨日。眠れた?」
「うん・・・まぁね」
 また嘘をついてしまった。
クレイも気付いてるみたいだけどそれ以上は聞いてこない。
 セインとサードのそれぞれの『優しさ』ってやつかもね。
「まぁいいや。そうそう、昨日クリスさんと話をしたんだ」
「えっ!!?」
 これは正直信じられない話だった。
怒ってなかったのかな?クレイは。
「話してみるとけっこういい人だよ。で、ある新事実を発見したんだ」
「どんなこと!!?」
もう昨日泣いて徹夜した疲れが吹っ飛んでしまった。
「あのクリスさんも継承された名前で、実は三代目なんだよ」
「それって・・・・・・クリスさんも神獣ってこと!!?」
「そうだと思うぜ。だってサードと知り合いでさらに継承された名前ってなると」
「あぁ、だからあんなに若かったんですね」
いつの間にか私のとなりにキットンがいた。
「おぉ、キットン。おはよう」
「クレイおはようございます。まあ私もその推理には大いに賛成ですね。
ただそれだけで決めつけるのもなんだとは思いますけど・・・・・・」
「おーい、おまえら。そろそろメシだってかあちゃん言ってるぞ」
裏口からトラップが顔を出した。
「あぁ、わかった」
 そして私達は家の中に入った。
五時間後におこる『事件』も知る由もなく。

(13)〜追う者〜

「で、これからどうする?」
後ろを振り向いたトラップが誰に言うでもなく聞いた。
「どうするって・・・・・・どうしようか」
クレイはキットンに目線を送った。
「どうしましょうかねぇー」
と、キットンはおとぼけモードに入っているし・・・・・・。
「ったく、骨折り損のくたびれもうけだ。あのクリスってやろうのおかげでよ」
トラップが悪態をついたが、
「そんな人のことを悪く言うほどおまえっていい人なのか?」
セインがいらぬつっこみをいれる。
「あんだとー」
「やめとけって」
 クレイはトラップの首根っこをつかんだ。
これじゃあまるで猫だ。
「そうですねぇー。このまま帰ってパステルの誕生日まで待っておきますか?」
「それしかないのかなぁー」
私がボソッと呟くと、
「しかたないよなぁー、手掛かりの一つもないし・・・・・・」
「なあ、あの山ってテラソン山だろう?」
セインが聞くと、
「そうだけど」
クレイがこたえて
「俺一回行ってみたかったんだよ。いやぁー、ホワイトドラゴンにはあえるかな?」
 あっ、そうか。
彼はシロちゃんの正体をまだ知らなかったんだっけ?
 うっかりしてたな。
「あの、それなんだけど」
「ん?大丈夫だって。とりあえず近くで拝みたいだけだ。ふもとまで連れていってくれ、な?」
「わかった」
それ以外言葉のないクレイだった。

 じっと、手を合わせてそのまま頭を下げたまま動かないセイン。
その表情は何故か真剣そのものだった。
 でも・・・・・・さっきから十分以上頭下げてるんだよ!?
いくらなんでも長い。
 で、やっぱり始めにしびれをきらしたのはこの人。
「あのなー、いったいいつまで待たせるつもりだよ。早く行くぞ」
トラップである。
「あぁ、わるい。どうもなんつーか、威圧感ちゅうか、ありがたみってもんを感じちまって」
「おまえはそんなこと思うほど長生きしてるのかよ」
さっきのおかえしとばかりトラップが言うと、
「なんだって!!?」
「ぱすえる、ルーミィーおなかぺっこぺこだおう」
「みんな、あれ、なんだ?」
「へっ、おめぇーはじいさんかって聞いたんだ」
「はいはい、いまチョコをあげるからね」
「おや、たしかに」
「やめとけって、二人とも」
「てめぇは黙ってろ」
「そうだそうだ」
「ほら、みなさん、あれなんだと思いますか?」
「てめぇーら、やめろって」
「あれっ!!?」
 ・・・・・・非常にわかりにくい会話ですみません。
とりあえず私もキットンたちの指す方向を見てみると・・・・・・。
 ありゃりゃ!!?
なんか地平線の遥か向こうで(これはオオゲサ)土煙がたっているじゃないか。
 しかもどんどん大きく・・・いや、近づいている。
流石にわたしたちが騒いでることに気付いたんだろう。
「あれって・・・なんだ」
「さぁ、なんかが近づいているんだろうけど・・・・・・」
「あれは・・・・・・」
 トラップが目を細めて土煙がたっているほうを見ている。
そして視力がいい二人が同時に叫んだ。
「あれは・・・・・・エレキテルパンサーだ!!!」
「エレキテルパンサーだ。しかも十匹以上はいる」
『エレキテルパンサー十匹以上!!?』
 わたしたちは同時に叫び、そしてある人物を思い浮かべた。
無論ヒュー・オーシーである。
 彼もたしか何台も持っていたもんな。
そうそう、ヒポちゃんと初めて会ったときに見たんだ。
「あれは・・・・・・」
 セインも目を細め、じっと見据える。
すると、とんでもないことを言った。
「あれは、この前エベリンであったやつだ。まわりにいるのは・・・・・・。
俺と一緒に仕事をしたことがあるやつらばっかりだよ」

(14)〜シー・キングの秘宝〜

「もうこれ以上は逃げ切れませんよ。観念したらどうです?そんな危ないモノはなおして」
 スワンソンは私達を諭すように、しかし怒りを込めながら言った。
今はテラソン山の中腹。あの後走って走って走って・・・・・・。
 とにかく走って頂上を目指した。
何故ドーマの町に逃げ込まなかったのか?
 クレイが言うには「これは俺たちの問題だ。ドーマの人たちまで巻き添いにしたくない」だって。
やっぱりクレイってすごいと思う。
 でもこれが結果的によくなったんだけど・・・・・・。
ってそんな悠長に過去のことを思っている場合じゃない!!!!
 そうよ、彼らは今、エレキテルパンサーに乗って私たちを取り囲んでいるのよ。
上空には何羽ものエレキテルコンドルが何か重たそうなモノを持っている。
 なんか円筒のでっかいやつ。
それに知らないような人もいればあのヒル・ウォーカーもいるしゲイルって人もいる。
 どう見たって多勢に無勢だ。
「ったくよー、おたくらも相当執念深いな。そこまでして俺たちから借金とりかえしたいのか?」
「それは七百万の大口を逃すわけにはいけませんからねぇー」
『ごっ・・・七百万!!!!?』
 全員の声が山彦となって木霊する。
ちょっとまってよ!!?なにそれ。
「いいですか?あなたがたは三十万と五十万を借りた。そのうち三十万は返したから
五十万。今まで返さなかったぶんの利子が積もりに積もってこれだけの額になったってわけです」
 たぶんデタラメだろうね、これは。
本当はもうちょっと低いと思うんだ。
 でもこちらが計算とか出来ないのを知ってこんな暴利をかけているんだと思う。
「それに詐欺罪っていう切り札もあるんですよ。そちらが返さなければ
こっちは裁判所に控訴しますよ」
 ニヤリと笑うスワンソン。
どっちに転んだっておまえたちは不幸な人生を送ることになるんだ、と顔がいっている。
「うるせーな。こっちは詐欺なんかやっちゃいねぇーぜ。それに証拠あるのか?」
「そうですよ。私の借金だってそこにいるノルが払ってくれたんですからね」
 でもスワンソンは余裕の笑みを浮かべている。
なんなのよ、その笑い方は。
「そうだ、こうしましょう。あなた方には選択する権利をあげます。
一、黙って借金を返済する
二、詐欺罪を認めてエベリンの監獄にでも入る
三、このまま抵抗して我々に殺される
四、奴隷として人買に売られる
この四つです。どれにしますか?」
「おっと、一つ忘れてるぜ」
セインがピッと人差し指を立ててスワンソンに言った。
「五、全員無事に帰還する。俺たちはこれを選択するぜ」
 そこでスワンソンはパチンと指をならした。
と、同時に上空を飛んでいたエレキテルコンドルたちが地上に舞い降りてきた。
 あの、おおきい円筒を下ろしながら。
「どうやらあくまで抵抗するつもりらしいですね」
スワンソンがにらむと、
「当然」
トラップも負けじとにらみ返す。
「だったらしかたありませんね。この場で死んでもらいます」
 そして下りてきたモノ、それは・・・・・・・・・どう見たって大砲じゃない!!!!!?
でもセインは信じられないという顔で私たちのまったく知らない名を口から漏らした。
「・・・・・・アームストロング砲・・・・・・・・・・!!?」
それを聞いたスワンソン、ちょっと驚いたような顔をして、
「ほう、ご存じでしたか。ひょっとしてシー・キングの秘宝について何か知っているのでは?」
「シー・キングの秘宝だって!!?」
 秘宝と聞いて黙っていないのがトラップ。
しかしその目は真剣な眼差しだった。
「そう、かつて海を統べたシー・キング。その彼の航海術、測量術、兵器
戦術、大型戦艦の動力。その全ては彼の死と共に闇に葬られたんだ。そして今は
その全てを『シー・キングの秘宝』と言われ全世界の国々、貴族、海賊に至るまで、
それを追い求め続けている。私は奇遇にもその一つ、この『アームストロング砲』
を手に入れたのです」
スワンソンは高々と笑った。
「まさかその威力を知らないわけはないでしょう?」
「あぁ。シー・キング秘宝の内では下の上ぐらいのレベルだが、だが・・・・・・
俺たちを殺すには十分すぎるくらいの威力だろうな」
 トラップったらマジ顔でそんなことを言うんだもん。
でも・・・・・それって絶望的ってことじゃない!!?
「克服しておいた方が身のためでしたね、まあ仕方ないでしょう・・・・・・。
せめてこの伝説の秘宝によって殺してあげますよ」
 次の瞬間、テラソン山中に轟音が響いた。

「まさか・・・・・・この音をこんな片田舎で聞くとはな・・・・・」
そう言って、テラソン山に向かって歩いていく人がいた。

(15)〜眠れる者〜

 誰もが先程までの光景に唖然としていた。
スワンソンも、その部下たちも私たちも、それをやってのけたクレイまでが。
「なっ・・・なんなんだ、その剣は・・・・・・」
 スワンソンは信じられないといった顔でうめくだけが関の山だった。
その彼の指さす先には青白く光るシドの剣があった。

 スワンソンの合図と共に放たれたアームストロング砲の砲丸。
それは真っ二つに別れて私たちの遥か後方で爆発した。
 そう、斬ったのだ、砲丸を、クレイが。
持ち主の生命の危機の時にのみその威力を発揮する。
 たしかアルメシアンさんはそう言っていたはずだ。
「なにをやっている!!!アームストロング砲二弾目準備!!!」
 正気に戻ったスワンソンがとっさに部下に命令を下す。
でも同じく正気に戻った人物がそれを防いだ。
「バンザイ!!」
 そう、おなじみキットンの『バンザイ魔法』だ。
結果は知ってのとおり、全員がバンザイする有様。
「キットン、そのまま援護頼む。ルーミィーはストップの魔法を」
クレイはそう言った後
「セイン、斬鉄はできるか?」
「もち」
 と、二人が言ったか言わないか。走り出した。
スワンソンはというと、「早くしないか」と言うが「それが・・・なんでこうなるのか、わっ!!」
 などと何とも間抜けなことをやっている。
「はぁぁぁぁ!!!!」
「てゃぁぁぁ!!!!」
 と、その間にクレイとセインが剣を振り下ろす。
するとどうだろう、二人が振り下ろした剣は互いに交差し、砲を二等分にした。
「なぁ!!?」
「嘘だろう・・・」
 スワンソンの驚愕の叫びとトラップの呆れた声が重なった。
あぁ、でもでもまわりの人たちが武器を構えている!!!
 アームストロング砲を壊した恨みと言わんばかりの勢いでクレイとセインを囲む。
でもそれどころじゃなくなるんだよね。
 いきなり地震が起きた。
「わわわっ!」
「おおぉ!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!!」
 私たちはもちろん大混乱。もう敵味方関係なく寄り添っている。
「カピオカさんデシ」
「シロちゃん!!」
思わずシロちゃんの口を塞いだけど・・・・・・だれも気付いてないらしいね。
「どうしたのよ」
「カピオカさんデシよ」
「えっ!!?」
 あらまぁー、ほんと。一匹のカピオカがこちらに向かってくる。
私を警戒しながらシロちゃんに近づき、そしてあの「クチャクチャ」言葉で何か喋った。
「何て言ったの?」
私が聞くと、シロちゃんはとんでもないことを言った。
「この前の大トカゲが来たって言ってるデシ」

(16)〜危機〜

「うわぁぁぁーー!!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁーー!!!!!!」
 テラソン山に無数の叫び声が木霊する。
それに超重量の大トカゲが暴れ回っているのだからさらに音が増す。
「なんでいきなり出て来るんだよ。冬眠してるだろう、普通」
トラップが逃げまといながら叫ぶ。
「たぶんさっきのアームストロング砲の轟音。あれで起きたんだろうよ」
 セインが落ち着きを払って言い返した。
そんなになんで冷静になれるのよ!!
「剣がつうじる相手じゃないですね。クレイのおじいさまのランスもはね除けましたからね」
と、これまた冷静なキットン。
「ああぁぁぁーー、もう。だいたいおまえらがアームストロング砲を壊すからだ」
 今はお互い追われる身。スワンソンが当事者二人をにらむ。
でも二人はとぼけた顔で、
「そういわれても」
「なぁ」
だってさ。
「いまさらいちいち言ったってどーしよーもねーんだ。今は打開策を考えよう」
「走りながらか!!?」
「そう」
と、セイン。
「知能だったらキットン、おまえだ。なんかおもいつくだろう?」
「へっ、いきなり言われても」
 あぁぁーー、もう。なんでこんなことになるのよ。
大トカゲはすぐそばまで近づいているしー。
「ボク、大きく・・・」
「ダメ!!絶対ダメ!!!!」
 シロちゃんが言おうとしたのをすぐに却下した。
だって、スワンソン達がいるんだもん。
 正体を見せられるワケがない。
「ったく・・・・・・仕方がないか」
 セインが軽く溜息をつく。
そしてあの大ムカデと向き合った。
「何考えてるんだよ!!」
 トラップがセインの手をつかむが、すぐに離した。
あまりにも冷たいセインの目。
 それをトラップ目の当たりにし、トラップは手を離したのだ。
そしてその目をそのまま大トカゲに向け、右手を前に向ける。
『母なる大地よ、その全てを育んだ大いなる力よ』
 あまりにも澄みきった声。
まるで天使が語っているがごとく。
『今、我はあなたに願う。その大いなる力を持って邪悪なる魂を封じたまえ』
 あのエメラルドグリーンの目が不気味な光を放つ。
その微妙な色合いのせいか、髪と同じく目が銀色に見えたのは気のせいか。
『アース・メルフィーズ』
 眩い光が大地から一筋、二筋と天に射られた。
それは大トカゲを囲み、次第に光を強くしていった。
 そして、光が消えたとき、そこに大トカゲの姿はなかった。

(17)〜一つの疑問〜

 ドーマの屈強の男達が来たのはそれから五分ほどたってからだった。
アームストロング砲の轟音と大ムカデが暴れた音で以上を感じたクレイの
おじいちゃんが連れてきたのだ。
 結局アームストロング砲は押収、セインは病院に運ばれると言う結果に終わった。
そう、セインは、倒れた。
 あの光が全て静まったとき、セインがいきなり口から血を吐き、その場に倒れ込んだのだ。
キットンが言うことには「おそらく無理のしすぎでしょう。あれだけの魔法・・・・・
いや、魔法でないとしてもあれだけ強力なモノを使ったのですから」だって。
 その時、村に戻ろうとした私たちを一人の人が呼び止めた。
クリスさんだ。
「一体何が起こったんだ?よかったら教えてくれないかな」
「言う必要はねぇーぞ」
といって先に走っていったトラップ。
「あなたがサードの本当のことを言ってくれればいいですよ」
 クレイが笑って言い返す。
しかし彼も微笑んで、
「前に言ったとおりだよ」
「本当のことを言ってくれないと俺たちにも考えがありますよ。例えば
あなたの正体をドーマ中に言いふらすとか・・・・・・」
「なんだよ、本当にあいつと知り合いなのか!!!」
と、いきなり大声を出した。
「と、いいますと」
と、キットンが聞き返す。
「あいつの名と私の名が代々関係があるっていうことはだれでも知っていることなんだ。
だから時々それを逆手にとって私に武器の製造を頼んでくるやつがいるんだよ。
だから対外は追い返してやるんだ。本当の知り合いには合い言葉
教えておけって言ったんだが・・・・・・またあいつ忘れてたな」
「また、っていうと・・・」
私が言うと
「前に何回か同じ事をやっている」
 だとさ。
と、今度はキットンが声のトーンをぐっと低くして
「じゃあやっぱり、あなたも神獣なんですね」
と、キットンは言ってみたんだけど、
「いいや、違う」
と、否定された
「じゃあ人間なんだな」
クレイがホッと息を吐くと、
「人間・・・といえば人間だが少し違う」
「えっ!!?」
私はクリスの顔を見上げた。
「人間が生きていく上での義務を果たせない人間・・・ってところだ」
     
       その言葉の意味は誰にもわからなかった

(18)〜意外な事実〜

 次の日、私たちはそれぞれの行動をとっていた。
トラップとクリスは(呼び捨てでよいと言われた)スワンソンとの交渉。
 やっぱり五百万ゴールドなんて払えないからね。でもクリスがなんとかしてくれるだろうって。
クレイはドーマの町役場に行っている。
 事の次第をちゃんと町長(ちなみにまだあのエイブス町長だ)に報告しに行ったらしい。
ノルとルーミィーとシロちゃんは近くの公園に遊びに行っている。
 私とキットンはセインの眠る病院へと向かっていた。

「で、どうなんですか?容態は」
 キットンがおずおずと切りだす。
ちなみにまだ若い、茶色の髪の先生だ。
「まったく、いったい何をやったんですか?彼は」
といってカルテを開く。
「まず一ヶ月間休みなく重労働をしたように体中がガタガタです。それに
冒険者の魔法使いによくある症状で、精神を使い果たしているようですね。
先程冒険者カードを見てみましたが少々魔力があります、が。よっぽど大きな
魔法を使ったんでしょうね・・・。いったいなにを使ったんですか?」
「それが・・・私たちにもわからないんです」
わたしがまぬけな返事をすると
「きっ君ねぇ。パーティーでしょう?」
 そう言われたら本当に困る。
確かにセインからはいろいろ聞いたけど・・・・・・魔法とかつかえるとは聞かなかったから。
「まあいいよ。そうそう、彼の意識はまだ戻っていないからね」
と、言ったか言わないかのところで、看護婦が現れて、
「先生、例の患者、意識が戻りましたよ」
と言って去っていった。

「よぉ、見舞いが二人だけとは俺って嫌われてるのか?」
開口一番これだ。トラップといい勝負かも。
「でもビックリしたぁ。あんな大魔法の後にいきなり倒れるんだもん」
「そうですよ。あなた魔法が使えるなんて聞いてなかったですからね」
と、ここでセインの顔色が変わった。
「わからないんだよ・・・自分でも」
「えっ!!?」
「なんでこんな魔法が使えるのか。なんで自分はこんなになったのか」
「魔法が使える理由がわからない?」
「そう」
「だったら・・・どうやって」
「おかしい話だけどな。きゅうに頭の中に浮かんだんだよ、あの魔法が」
「あの時にですか?」
「いいや、子供の頃にだ。幼心はその言葉をおぼろげながらも呟いたんだ。
その次の瞬間、俺は倒れたよ。今でさえこうなるんだ。瀕死の重傷だって義父が言ってたよ。
俺は覚えてないけどね。旅に出る前に義父に聞いたんだが・・・・・。
本当の親父の影響だってよ」
「だったら・・・。魔法使いだったってワケ?」
「さあな。でも今のところそれが一番の有力候補だ。でも、もう一つ・・・・」
「もう一つ?」
そこで軽く溜息をつき、
「俺は・・・・・・人間じゃないらしい」
「えぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!!」
「なんですってぇーーーー!!!!!!!!」
と、ここが病院だと言うことに気がつく。
「すみません、つい・・・・」
まわりに必死に謝る私。
「それは・・・・何故」
「俺が生まれたのは今からだいたい百四十年前なんだよ」
「うそ・・・」
「うそいったってどうしようもねぇよ。俺も不思議に思ったんだ。だから
義父から本当のことを言われたとき思った。俺の親父は人間じゃない、ってね」
「そんな・・・」
「今日は疲れた。寝させてくれ」
私たちはその言葉にただ従うしかなかった。

(19)〜死ぬわけには〜

「トラップ、そっちの方はどうでしたか?」
 キットンがトラップに駆け寄る。
後ろからはクリスも歩いてきていた。
「あぁ、バッチシだ。だから言っただろう?俺に交渉を任せとけって」
「とか何とか言って結局一番損してるのは私だろう?」
「だからそれは感謝してるって」
「もう。二人ともじらさないでよ」
「だから成功だって。こいつが造った武器を十売った」
「武器を十!?」
「たしか五百万ゴールドでしたよね」
 やっぱその『神具』を造っただけのことあるわ。
キットンはそこをついてきた。
「いくらなんでも一つ五十万は高すぎるでしょう」
「いいや、実際は私の友人がかけてくれた魔法のおかげだよ」
「魔法!!?」
「あぁ。ファイヤー系の得意なやつでな。今頃どこにいるんだか」
そういって左手の包帯に手をかけた。

 そのあとみんなと合流。
クリスからサードの生死について聞くことにした。
「通説では死んだってことになってるよな」
全員がいっせいに頷く。
「で、だ。生きてるかどうか、だよな。おまえらが知りたいのは」
「さっきから何回も言ってるだろう」
ボソッと不平を言うトラップ。
「じゃあ言うぞ」
一息おいて、
「実際のところは私にはわからない」
ドテッ
これは全員がずっこけたあと。
「なんだよ、それは。あんた知ってるんじゃないのかよ!!」
「そうですよ。あぁー、もう。期待させたりさせなかったりー!!あなたって人わぁーー!!!!」
 キットン、混乱しすぎ。
でもでもでもでも。そりゃないよ。クリスさん。
「ただ、これだけは言えるな」
と、いっせいに静まる私たち。
「あいつは、そう簡単に死ぬヤツじゃないさ。『誓い果たすまで俺は死ぬわけにはいかねぇんだ』
これがあいつの口癖だったからな」
 その一言は今の私たちには十分過ぎるほどであった。

   そして、翌日。私たち全員はセインの眠る病院に向かった。

(20)〜明日には〜

「・・・ってワケだ」
 セインがだいたいわたしとキットンに言ったことを全員に告げた。
ベットに寝たまま、天井を見上げたままで。
 やっぱりみんなは(約一名はワケが解ってないようす)驚いた顔をしている。
「でも・・・本当だとしたら・・・セインって種族はなんなんだ?」
クレイが聞いてみると、
「わからねぇ。でもよっぽど長生きの種族らしいな」
「セイン・・・だと?」
この時はセインの大きい声に重なってクリスの声は私たちの耳には届かなかった。
「有力候補は・・・・・・ハーフエルフかな?魔力もあるし」
「それは違いますね、トラップ。ハーフエルフだったらここまで人間に似るモノじゃありません」
 と、キットンが断定。
なんかこの会話にデジャブ感じるんだけどなぁー・・・。
 昔にも・・・こんな会話があったような。
「なぁ、あんたのフルネームセイン・アランじゃないか?」
 いきなりのクリスの質問。
それを聞いてセインは急いで半身を起こした、が。すぐにベットに倒れ込んだ。
「もしかして・・・セインの過去の事を知っているんですか?」
「どうなんだよ!!」
「教えて下さい!!!」
「あのー」
 いきなり聞き慣れぬ女性の声。
見ると看護婦さんがいた。
「ここは病院ですので、他の患者さんの迷惑になりますのでお静かにお願いいたします」
「はっ、はぁ」
 気のない返事をするクレイ。
看護婦さんは何か心配そうな目でこちらを身ながら去っていった。
「で、話の続きですが・・・」
「知っているよ、こいつのことは」
「それで!!!」
セインと私たちの目が希望に満ちあふれた、だが。次の言葉で失望へと変わった。
「冒険者カードを知らなかった。マヌケな傭兵、ってな」
「なぁーんだ」
「そんなことかよ」
ガタガタと床に座り始めるトラップ。
「ったく・・・変なことで有名になっちまったぜ」
「気にするな。こいつの方がもっと不幸だから」
「トラップ!」
トラップの首根っこをつかむクレイ。
「おっと、ここは病院だから暴れないで下さいね、クレイちゃん」
 と、甘えるようなトラップの声。
礼儀正しいクレイにこの言葉は硬貨抜群、すぐに手を離した。
「まぁ・・・いろいろ嘘ついててすまなかったな」
セインがいきなり謝ってきた。
「そんな・・・気にしてないよ・・・」
「まぁいい。どうせ明日にはここを発つことになるだろう?」
『えっ・・・!!?』
こう答えるしかなかった私たちだった。

 1999年5月28日(金)22時06分01秒〜6月16日(水)22時11分12秒投稿の、PIECEさんの長編「闇を知る者」(11〜20)です。

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