闇を知る者(21〜30)

(21)〜別れの言葉は〜

「どういう意味?セイン」
 長かった沈黙を私の一言が破った。でも、また沈黙が戻る。
次のセインの溜息にどのくらい時間がかかっただろうか。
 だからこの時、クリスの表情に変化があったのを気付いた人はいなかった。
「さっき医者から聞いたろう?もの凄い重傷だって」
「そりゃあそうだけど・・・」
「この魔法は、ものすごく体に負担がかかって、さらに精神にも影響を及ぼす。
全快するのは最低でも一ヶ月以上はかかっちまうんだ。パステルの誕生日はもう二十日後だろう」
そこでトラップが近くのテーブルに拳を打ちつける。
「だからって・・・、おまえは・・・・・・」
それ以上は言葉にならないみたいで、ものすごい音を立てながら病室を後にした。
「なぁ、あんたのフルネームってセイン・アランじゃないか?」
 クリスが周りの空気を一変させるためか、はたまたただ聞きたかっただけか、
おずおずときりだした。
「どうしてそれを!!」
「まさかあんた、俺の親父のことをを知ってるのか?」
「どうなんですか?」
「あっ・・・いや・・・・・・」
 まあまあ、とノルになだめられた私たちは、とたんに大人しくなった。
もちろん次のクリスの言葉に希望を持って、だけどね。
「ん、冒険者カードを知らない傭兵、って友人から聞いてたから」
 必死に笑いをこらえる私たち。
セインが憮然とした顔をしていたのは言うまでもない。
「それじゃあ本題に戻ろう」
 久々に見たクレイのまじめな顔。
なんかこう・・・・・・騎士の風格ってのが身に付いてきたみたい。
「んだな。じゃあ俺の意見は『早くドーマを発て』だ」
「なんでよ!!!」
セインは私たちをキッとにらみつけた。
「だからよ・・・・・・んまぁ、あんたらに何言ったってわかっちゃくれねぇーよな」
と言ってベットに横になった。
「でもよぉー、あんたらサードに誓われたんだろう?」
長い前髪がセインの目を隠す。
「仮に、だ。もしサードが生きていてあんたたちはここでのーのーと俺を待つ。
急いでいって、それで間に合わなかったならどうなる?サードはあんたらが死んだと
思って嘆くぜ?最悪自殺するかもな」
「自殺はしないな、あいつは」
と、クリスが完璧に断言した。
「まぁな、そこまで言うんだったらそうかもしれないけど・・・・・・。でも心の傷は深いと思うぜ」
 そこまで聞いてやっとセインの言いたいことがわかった。
自分は大丈夫だ。だけど傷つくかもしれない人を守ってくれ、と。
 そういえば彼は両親、一族を失い、ゼフという大親友までを失っているんだ。
その時だって二重人格になったり、しばらく生きる気力を失ったくらいなんだ。
 クリスが言ったとおり自殺はしないとしても、生きた屍なんてものに・・・!!?
悪い方向ばかりに考えていたとき、
「わかったよ・・・行く」
クレイが静かに呟いた。
「わかってくれりゃあいいんだよ、ばーか」
そう言って窓側、つまり私たちとは反対の方を向いてしまった。
「ちゃんとトラップにも伝えておくよ、おまえの気持ち」
そう言ってトラップに続き、クレイも部屋を出た。
「待って下さいよ、クレイ」
 キットンが続き、ノルも出ていく。ノルの背中で眠っていたルーミィーまで。
残ったのは私にクリス、そしてシロちゃん。
「パステルおねぇーしゃん?」
 シロちゃんに顔を見上げられて初めて気がついた。
自分が泣いていることを。
「パステル、泣くなよ」
いつの間にかこちらを向いていたセインが優しく声をかける。
「だって・・・だって・・・・・・」
「悪いなぁー、こんな大馬鹿野郎で」
 セインの優しいエメラルドグリーンの目。
私は・・・その目が何かを語りかけていたような気がした。


「おい、早く行くぞ」
 乗り合い馬車に片足を乗せ、トラップが振り返った。
セインは見送りに来ていない。
「パステル」
 ノルに背中を押されて一歩一歩、歩いていく。
その間に、全員は乗り込み、最後私が入ろうとした、その時。
 誰かが走ってくる足音、激しい息づかい。
私は期待を胸に振り返った、が。
 それはセインではなく、あの若い医者だった。
彼は私の前で息を整えながら、
「よかった・・・間に合った・・・・・・」
しばらくして、彼は顔を上げた。
「これ、彼からの手紙です」

『わがまま聞いてくれてありがとうな。
まあいろいろと嘘とかついてたけど、これだけは伝えておきたい。
 俺が、冒険者カードのこと知らなかったって事は本当だから。
二度と会えないかもしれないけど
        別れの言葉は書かないからな
                              セイン・アラン』

            私たちはこんなに悲しいのに
          空は涙一つ流してくれはしなかった

(22)〜ただいま〜

 それからは時の流れ、というものをひしひしと感じながらの生活だった。
あの後、クリスと別れたのだ。
 本人いわく。
「そこの馬鹿が勝手に私に責任を押しつけたからな。これから武器造りだ。
ちゃんとそこの嬢ちゃんの誕生日には帰ってくるから」
 だって。
「そこの馬鹿」ってのはもちろんトラップ。
 でも彼はその時はただピースでかえしただけだった。
ホントに、この人には「反省」って言葉を知らないのかねぇー。
 そして、それからはただ時を感じていた。
普段はもうドタバタでダンジョン行ったり、エベリンで迷ったり(未だになのよ、シクシク)
それでそんなときにセインに会って、クリスと会って。
 そして今、誓いを果たすべきための人を待っている。
やっぱり長いよ。
 ダンジョンの中では太陽の光が届かないから時間がどの位経っているとか、
全くわからないから「えぇ、もうこんな時間?」って出てきたときにいっつも思っちゃう。
 こうやってただじっとしてると逆に長く感じてしまう。
昔も、友達と遊んでいると、いつの間にか太陽が沈みかけていたりする。
 あぁ、神様っていじわるだなぁ。

「ハッピーバースデー、パステル!!!」
 猪鹿亭にみんなの声が響く。
もちろんこの場にはクリスの姿があった。
 でも彼は乾杯の後、トイレに入ってしまった。
「ほら、パステルももう成人したんですから。飲んで飲んで」
 すっかりできあがったキットンが私にお酒をすすめる。
でもなぁ・・・いきなり、いやいや。やっぱりお酒の魅力ってやつってあるからな。
「じゃぁ、ちょっとだけ・・・・・・」
「やめとけって。おまえのベロベロに酔った姿なんか見たらサード倒れるぜ」
もちろんこれはトラップ。
「なんですって」
「はっはっは、たしかにそうだな」
「クレイ!」
「パステル、やめておけ」
「そうだおぉー」
ううう、ルーミィーまで。
「ボクはパステルおねぇーちゃんの酔ってる姿みたいでし」
「シロ、目を大切にしような」
「トラップ!!!!!!」
この時、ドアベルが私の叫び声にかき消された。
「へん、しまいには太るぞ」
「だーかーらー」
「リタさん、ビールお願いね」
「はいはい」
「パステル」
「ノル、止めないで。これだけは・・・」
「やっちまえー、二人とも」
「クレイ!とめてくれよ」
「はっはっは。トラップ。自業自得ですよ。あなたも学習しませんね」
「あんだと!!?」
「サード、久しぶり」
『サード!!!!!?』
 私たち全員の目がテーブルの一番奥の席に向けられる。
そこにはビールを片手にあぐらをかいたあのサード、フェズクラインがいた。
 私たちはただ呆然とサードを凝視した。
「ただいま」
         猪鹿亭が狂喜の渦に巻き込まれた

(23)〜落とし物〜

「うーん、悪いな、なんか心配かけたみたいで」
「そんなことどうだっていい。あんたが帰ってきたんだからよ」
 トラップは上機嫌でサードの肩を叩く。
その時に、クリスがトイレから出てきた。
「あぁ、クリス・・・」
 と、そこで私は言葉を飲み込んだ。
なんか・・・・・・いつもとクリスの様子が違う。
「久しぶり」
「あぁ」
 と、これだけ。
これ以上の会話は彼らに必要はないらしい。
「で、何でおまえは死んでたんだ?」
早速本題に入った。
「いやぁー、俺も驚いたよ。いきなり、俺が死んだ、だもんな。いろいろ調べたら
俺の名を使って一儲けしようって企んだ奴がいて、そいつが死んだ。
だから俺が世間的に死んでいたわけだ。大変だったぜ。傭兵協会の支部やら
おとくいに様をまわりにまわってよ。で、気がついたらもう二月だ」
「でもサードも仕事してたんでしょう?だったら・・・」
「あぁ」
そこでちょっとどこか遠くを見ながら、
「うーんとな、『過去の落とし物』を探しに行ってた」
「過去の落とし物!?」
だけどそれ以上サードは何も言おうとはしなかった。

「俺たち、先に寝る」
といって両脇と背中にすっかり酔った三人をかかえてノルは部屋に向かった。
「サードはどうするの?」
私を見た後、クリスに目を向け、
「俺はこいつと飲み直してくる。朝には帰るから」
「あっ・・・朝って・・・・・・」
でも私が止めるまもなく、サードはクリスとどこかに行ってしまった。
「まったく・・・・・・」
「ぱーるぅー、はあくねおうよー」
「はいはい」
「寝るデシ」
私はサードの後ろ姿を認めた後、部屋に入った。

「で、どうだったんだ?」
「まだだよ、結局みつかんなかった。だいたい名前だけがヒントじゃねぇー」
男は溜息をつく。
「そうか・・・・・・」
「そっちは?」
「見つけたぞ、おまえの『過去の落とし物』を」

(24)〜質問〜

 それからはまったく変化がなかった。
ただ強いて言えばクレイの修行が再開されたこと。
 夜、いつのまにか姿を消して、朝、疲れ果てて帰ってくる。
こんな日々がつづいていた。
 そういえば、私はサードに会って何をするつもりだったんだろう?
別に無意味に会いたかっただけじゃない。何かを聞こうと思っていたんだ。
 なんだろう、私が思い続けた二年前の質問は。

「あっ、くそ。また行きやがったか」
 お風呂から上がったばかりのトラップが地団駄を踏む。
そう、この日もあの二人はどこかに消えていた。
「そんなに悔しいんだったら探しに行ったらどうだ?」
椅子に腰掛け、本を読んでいるクリスが言った。
「やだね。外、寒すぎ」
そうよねー。今、季節は冬。だから当然夜は寒い。
「でなかったら明日から見張ってろ」
 といってページをめくった。
で、ついでにドアも開いた。
「あれっ、クレイ、サード。どうしたの?」
「客が来たから帰ってきた、しかも俺待望のな」
サードが親指で後ろを指す。
「あっ、ジェームスさん」
そう、あの小太りで、ちょっと頭の寂しいおじさん、ジェームスの姿がそこにあった。

(25)〜そして全てが始まった〜

「おやおや、みなさん。お久しぶりですね」
 この陽気な声。
何歳かはしらないけど、サードに関わっている以上おそらく百年は生きているはず。
「久しぶりだな」
読みかけの本をしおりも挟まずに閉じたクリスがジェームスに目を向けた。
「お・・・・・・いや、クリスさん。あなたも久しいですな」
 最初の「お」ってなんだろう。
と、私が思ったら、すかさずキットンが質問した。
「ジェームスさん。最初の「お」ってなんですか?」
「い、いや・・・」
「早速本題に入ってくれ、ジェームス」
 と、まるでフォローするかのごとく、サードが口を挟む。
キットンはブチブチなにか言いながら椅子に座った。
「はいはい。わかりましたよ」
 といって、荷物の中から分厚いメモ帳を取り出した。
何のかざりっけもない、黒のメモ帳。しかし紙は古く見えた。
 それを慣れた手つきでめくり、そしてあるページで指を止めた。
「えっとですね。まず悪魔を呼び出す方法ですが・・・」
『あっ・・・悪魔ーー!!!!!?』
「そっ」
私たちの驚きを一言で返すサード。
「ついに動き出したか・・・」
 と言ってクリスが椅子に座り直す。
たぶんあいつのことだ。
 サードの親友、ゼフを死に追いやり、二年前の悪魔を殺した張本人。
おそらく調べがついたのだろう。
 そいつを呼び出す方法を。
「まず一番よく知られている方法。『契約』ですが・・・これは何をとっても
サードさんは許してくれませんね」
「他にあるから来たんだろう?」
 ニッっと笑うジェームス。
うーん、なんか頼もしい笑みだ。
「悪魔と関わり深いのはまず神様、しかし実際に見るなどした人は、ほんの偶然ですし、
第一関わりが薄いですからこれはボツです」
「次は?」
「つぎはドラゴンですね。一番いいのはブラックドラゴンです。でもいくらなんでも
戦って悪魔を呼び出させるとそれなりの傷を負いますからこれも・・・・・・」
「ちょっとまった!!」
 と、トラップが言葉を遮った。
そうよ。みんなもたぶん止めたくてウズウズしてたに違いない。
「こっちには知り合いがいるっぜ。ブラックドラゴンのな」
「んだって!!?」
サードが立ち上がる。
「えぇ、ホーキンス山に住むブラックドラゴン、知ってますよね」
「はい」
と、真顔で言うキットンとジェームス。
「そのブラックドラゴンと俺らが知り合いなわけよ」
ドーンと胸を張るトラップ。
「じゃあ決まりだ。早速・・・」
「待って下さい!」
と、これをキットンが止める。
「そういう事はゼンばあさんにも聞いた方がいい、そう言いたいんだろう、キットン」
ウンウンと頷くキットン。
「そうでう。彼女ならきっと何か知っているはずです」
「そうとわかりゃあ早速行こう!!!」
と、立ち上がり、サードが同じ台詞を繰り返した後に、
「で、どっちから行く?」
意気消沈した。
「かまうこったねぇ。二手に分かれて行くこった」
トラップが言うと、
「そうだ、それで行こう」
サードも乗り気。
「ちょっと、そんな・・・」
「おいおい」
でも勢いに乗ったトラップと自分のことに夢中なサードを止められるわけがない。
で、こういう組み合わせになった。

ゼン組 クレイ キットン ノル クリス

JB組  サード トラップ 私 ルーミィー シロちゃん ジェームス

 まずゼンばあさんに会いたいというキットンの要望でゼン組。
サードは本命であるブラックドラゴンに会いたいって言ったし。
 何故かJBと気が合うトラップもJB組。
クレイとノルはゼン組の護衛。
 クリスはドラゴンなんか興味がないとゼン組。
私たち(私とルーミィーとシロちゃん)は離れられないし、人数場の都合でJB組。
 ジェームスはドラゴンを見たい!!って張り切ってたからJB組。
人数ではゼン組が少ないけど、でも、もし
「ゲームをして勝ったら教えてやる」
 なんて言われたら頭数多い方がいいからよしとした。

「じゃあな」
「また会えるかな?」
「ちゃんと生きて帰って来いよ」
「じゃあーねえー、くりぇー」
 これがパーティー同士の別れの言葉か、と疑うようなほどの会話。
そして私たちはそれぞれ旅だった。


           そして全てが始まった

(26)〜ホーキンス山へ〜

 シルバーリーフから乗り合い馬車でエベリンへ。
その後は徒歩でホーキンス山に向かった。
 ヒポちゃんはというと、お互いに譲らず、結局両方とも連れていかないって事になった。
まぁ結局それが結果オーライになったんだけどね。
 
「ねぇ、休憩しない?」
「ぱーすーてーるー」
トラップのものすっごく怒った声。
「いったい何回休めば気が済むんだよ」
「だってー」
「ったくよぉー、てめーも、もう大人なんだからしっかりしろよ」
ふぇーん
そんなこといったって・・・疲れたものは疲れたんだから。
 エンチラーダが町として復興してるけど、乗り合い馬車の車道はまだ工事中。
むこうも頑張ってるって聞いてるけど、どうやら本当みたいね。
「ホーキンス山まで後どれくらいだ?」
私にサードが聞いてきた。
「うーん、普通に歩いて一時間ぐらいかな?」
「だったらみんな俺につかまれよ」
「まっ、まさか・・・」
「あえかぁー!?」
 トラップの焦りの声とルーミィーの喜びの声が重なる。
そしてジェームスが印を押す。
「ダッシュの魔法、ですか」
その顔はあきらかにイヤそうな顔だった。
「そんな顔するなよ、な、な。かなり早くつくんだからよ」
 この三人の反応、どれが正しいんだろうか。
おもわずシロちゃんと目をあわせてしまった。
 このあと、しばらく口論を続けたが、トラップとジェームスが先に折れた。
「ちぇっ、仕方ねぇーなぁー」
「まぁ最後にはこうなる運命ですね」
「うーん、そうこなくっちゃ」
といって私たちの手を取って、自分の肩につける。
「パステルとシロは初めてだよな。しっかり捕まってるこった」
「うん」
「わかったデシ」
「そうだ、パステル。マップかしてくれや」
「うん」
私からマップをとった後、しばらくぶつぶつ言っていたが。
「うん、進路決定、レッツゴー」
そしてふと真顔になった。
『風よ、疾風となり、我と共に走れ、ダッシュ』
 次の瞬間、約三名の恐怖の声と、一人と一匹の喜びの声が去っていった。

(27)〜運命〜

 しばらくして空が回った。
いや、回ったのは私たちの方だった。
 と、いうことは、こうなる。
「いってぇぇぇぇぇーー」
「うわっ」
「きゅう」
「きゃっははーー」
「飛んでるデシ」
 ・・・後半の二人の言葉はわかるだろう。
とにかく私たちはそれぞれ変な格好で転けていた。
「ったくよぉー、どーなってんだ?」
トラップが悪態をつきながら立ち上がる。
「ほら、前のダンジョンの時も言ったろう?大人数はあんまし慣れてないって」
笑い出すサード。
「でも・・・いくらなんでも速すぎない?」
でもサードはキョトンとした顔で、
「なにいってんだ、けっこう加減したぞ」
 だってさ。
全力で走ったら・・・・・・いったいどれくらいだろう。
「なーんてな。俺も人から教えてもらったもんだから、うまく使えないだけ、
本当はもっと別の用途があるのを俺が自分でちょっとなおしたんだ?」
 えっ!?
あんまり早口だし、小声だったからよく聞き取れなかったな。
 まっ、いいか。大したことじゃないだろう。
「それで、どこですか。その隠し通路は」
「えっとねぇー、こっち」
私たちはマップを確認しながら進み出した。

「へぇー、ドラゴンは隠し通路を持ってるって聞いたことあるけど・・・本当なんだな」
「私も聞いてましたけど・・・いやー、本当だったんですね。感激だ」
 サードとジェームスがなにやら話している中、私たちは刻一刻と近づいていく。
  
          これから待っている運命を知る由もなく

(27)〜会談〜

「よし、ではイニシアティブをとるぞ。まずはこっちから・・・」
「おい」
「5と2の7だな、よし、こっちは・・・」
「おいって」
「なんだ、紅茶の時間は十分遅らせると・・・」
「JB、私たちよ」
 まったく・・・これが冒険者たちが恐れるブラックドラゴンとは・・・・・・。
現にサードとジェームスも呆れてるし。
「俺らの期待してたのは、なぁー」
「はい、非常に残念です」
二人そろって溜息。
「おぉ、なんだおまえらか。ん、私と一局つきあってくれんか?」
「JB、今回はこの人からの話を聞いて」
私が指さした先にはうつむいた姿のサードがいた。

とりあえずコボルトたちとのゲームを終わらせ、紅茶片手に優雅にくつろぐJB。
「それで、そちらは?」
「サード・フェズクライン、フリーの傭兵です」
 一応律儀に自己紹介するサード。
たぶん傭兵としての条件反射なんだろうね。
「ほう、あのサード・フェズクラインか。私を倒しにきたのかね?」
 次の瞬間、私は背筋に悪寒を感じた。
なんか・・・ヤナ雰囲気。
「いいえ、ちょっと教えてほしいことがあって」
「なんだい?」
「悪魔と、契約なしで、しかも特定の悪魔を呼び出す方法、知ってますか?」
これにはさすがにビックリした表情のJB。
「それを・・・聞いてどうする?」
「ある奴呼び出す。そして一つ聞きたいことがある」
「なんだ・・・」
銀色の瞳が不思議な光をかもしだす。
「誰が、俺と親友の暗殺を依頼したか、だ」
辺りが沈黙に包まれる。
「人間ではないな、おまえは」
 ズバリといいあてるJB。
なんか・・・こんなかっこいいJB始めて見た。
「ご名答、神獣と人間のハーフだ」
「まさかっ・・・・・・おまえがっ・・・」
その表情は、さらにけわしく、深刻なものになった。

(28)〜依頼〜

「と、なると・・・・・・・おまえは『唯一無二の一族』だな?」
 へっ!!?
唯一無二の一族?
 いったい・・・何のことなの?
「あぁ、俺の友人もそう言ってた。そうやら確定らしいな」
寂しそうにサードが言う。
「おい、二人の世界に入りこんでんじゃねぇよ、説明しろ、説明」
 トラップが二人につめよる。
だが二人はなにも話そうとはしなかった。
「これ以上は・・・・・・立ち入ることはできないよ、おまえたちは」
「そうだ、な。ゲームに百局つきあってくれても、これだけは勘弁だ」
 あぁ、歯がゆいな〜。
いったいなんなのよ、もう。
「と、なると。やはりこちらも悪魔を契約なしで呼び出す方法を教えなければならない」
きらきらと輝くサードの目。
「が、それでもだめだな」
じっとにらみつけるサードの目。
「まぁ、そういう目をするな。こちらも事情というものがある。悪魔の契約のためだ」
 えっ!?
さっきの台詞、どう考えたっておかしい。
 もしかして・・・・・・JB自身が悪魔と契約してるって事?
「遥か昔だ。今のジグレスの年号が使われるより遥か昔。伝承によると、我らの大いなる祖先が
この大地に君臨していた時代。まだ人間は乏しい知識しか持っておらず、
さらに少々の道具の使用方法しか知らなかったため、その時代を生きていたものたちは
速からず絶滅すると噂していたらしい。
だが、我らの祖先は、人間が将来繁栄すること、我がドラゴン族の驚異になることを
予想していた。そして悪魔と契約をした。我が一族の一生の繁栄を、だ。
しかし、そのころの悪魔は魂の契約ではなく、悪魔が不利になるような、
しかしこちらにとっても過酷な条件を提示したんだ」
 なんか・・・難しい話なんだけど・・・・・・。
サードとジェームスは理解したらしい。
「で、その条件ってのは?」
「悪魔のことを全て教えて、さらに子孫にもそれを伝えること」
「なんにも問題はないようなんだけど」
「この続きが肝心なんだ」
ここで深々と溜息。
「しかし、その秘密を他の種族の話せば、一族が最大の不幸にみまわれる、とな」
 たっ・・・たしかに。
それはかなり過酷なものだ。
 秘密よっ、って言われてもついつい喋っちゃうもんな、私って。
その報復が何であれ、ね。
 しかし、自分の一族全てとなると・・・・・・やっぱ、ねぇ。
「それに、悪魔そのものを召喚することは不可能だ・・・いや、それが今、崩れようとしている」
「どういう・・・意味ですか?」
「君は傭兵だろう?だったら私からの正規の依頼だ。報酬は無論はずむ。
たのむから、今から言う仕事を引き受けてくれないかな。運が良ければ
悪魔そのものを、しかも特定のそれを召喚する方法がわかるかもしれん。
そちらとしても悪くないだろう?」
その提案にすぐにとびついたサードであった。

(29)〜魔原開研〜

「魔原開研というのを知っているか?」
 へっ!?
なにそれ。
 サードも首を傾げている。
その時、思いもよらぬ人が口をひらいた。
「正確には『魔導原理開発研究部』といいます。ロンザ国王直属の部隊で
主な仕事は魔法の原理を調べ、また新たな魔法を開発し、研究するという・・・・・・。
まぁ名前どうりの部です。それがどうかしましたか?」
 ジェームスがすらすらと。
おぉ、なんかすごい。
 伊達に長く生きてるねっ、ってかんじですね。
「そう、その魔原開研が、このところ不穏な動きを見せている」
「へぇ」
サードが興味を示すと、JBは勢いづいた。
「どうも召喚の魔法を開発してるらしくてな、魔法陣を利用したモノらしい。
部長のリーク・ハーゲンが独自にやっているらしい」
「リーク・ハーゲン、たしか魔法師団を国王に勧めたやつだな」
サードがそういえば、ってな顔をして言った。
「魔法師団!!?」
初めて聞く名前に、私がオウム返しに聞き返すと、
「ロンザ国騎士団ができたときから始まっている計画だ。有能な魔法使いを
優遇し、何度も結成しようとしたが結局失敗している」
「なんで!!?」
トラップが私を小馬鹿にしたように見ながら、
「わかんねーのかよ。国家の予算がオーバーしたからだろう。んなたくさん
優遇したらすぐにつぶれっちまう」
そう言うと、JBが親指を立てた。
「正解だ、トラップ。そしてまた結成しようと国王に言った男、それがリーク・ハーゲンだ。
彼は優秀な魔法使いと聞いている。いまの魔原開研は魔法師団の前身としてのものらしい」
「で、その優秀な魔法使いがいったい何を召喚しようとしてるんだ?」
すると、JBが溜息をついた。
「それが・・・・・・悪魔だ」

(30)〜関わり〜

 私はマップを確認した後、ちらっとサードを見た。
あきらかにおかしい、サードの表情。
 やはり、目的の悪魔がすぐ目の前に迫っているからだろうか?
いや、たしかあれは・・・・・・。
 ロンザ国が関わっている、って自分で言ったときからだ。
「しかしよぉー、よくもまあ、ご丁寧にマップ残しといたな」
トラップが感心したように言う。
「あぁ、それが傭兵としての基本だ。家計に困ったときはシナリオ屋に
ちょっと修正してたたき売れば丸儲けになるからな」
 サードが辺りを警戒しながら先頭をトラップと共に進む。
ちなみに隊列はサード&トラップ、私&ルーミィー&シロちゃん、そしてジェームス。
 ここは、そう。あの悪魔がいた洞窟だ。
前にとっておいた私たちのマップ。
 あれはノルが持っていったため(古いマップは全部)私たちは、サードがとっていた
 マップのを頼りに進んでいる。
出発する前に、JBはこう言っていた。
「悪魔の魔力が集まる有数の場所だから、召喚するにはもってこいだ。
いいか、これは全世界の生命の命がかかっている。悪魔が自由に行き来
できるようになったら、それは世界が滅亡する日だ。よく覚えておいてくれ」
 だ、そうだ。
そんなに言われるとなぁー。
 私たちじゃあ身分不相応な感じがするんだけど・・・・・・。

「ここ・・・・・・のはずよ」
 私は下へと続く階段を前に、喉をしめらせた。
前とは違う、何かただならぬ威圧感が、下から押し上がってきていた。 

 1999年6月26日(土)21時44分11秒〜7月12日(月)22時41分37秒投稿の、PIECEさんの長編「闇を知る者」(21〜30)です。

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