闇を知る者(61〜70)

(61)〜ケルアイニスの謎〜

「勘弁してくれよ・・・・・・」
「いや〜、もうこっちも勘弁して欲しかったですよ。みんないないんですからね」
 突如として笑い声が響く。
それを聞いたみんなは、いきなり座り込んだ。
「人間って、こーゆーやつもいるのか?」
「いるからそこに存在してんだろ」
 ガルバードの質問に答えたトラップ。
でもねぇ、そんな言い方はないでしょ、トラップ。
 さっきまでの時間、男ども全員で洞窟内捜索。
私は、外でルーミィー(さすがに起きた)とシロちゃん、それに寝たままのサードと共に待っていた。
 キットンが知らずに出てきても困るからね。
「うーっし、全員集まったことだし、一回シルバーリーフに帰るか」
「その前に寄るところがある」
 クレイの提案を却下したクリス。
どうして?って顔で聞いてみると、サードを指しながら言った。
「こいつが眠ったままだからな。その原因をつきとめる」
 そうよねぇ。
そう、キットンを探していた5時間。その間もずっと眠ってるのよ。
 いくらなんでもおかしい。
「エベリンの医者にでも見せれば・・・ってそうもいかないですね」
 リークがそういえばって顔をする。
サードは半分は神獣だからね。たぶん医者に見せたりなんかしたら、
 すぐに人間じゃないってわかるんだろうね。
「でも、どこに行くんですか?」
「ケルアイニスに行く。そこでしばらく滞在すればいいだろう」
「ケルアイニス無法地帯にか!!?」
「ケルアイニス自治領にですか!!?」
 トラップ、キットンが別々の名前を言った。
えっ!!?無法地帯じゃなかったっけ?
「なあ、自治領と無法地帯じゃ、相当違うぞ」
 ガルバードが疑問符を頭上に浮かべる。
そんなこと言われたって、ねぇ。
「クレイ、パステル、それにトラップは地理の授業で無法地帯って習っただろう?」
ズバリクリスが言い当てる。
「リークも最初そう、ならっただろうけど、ロンザ国国家図書館の隠し部屋に入ったんだったら、話は別だな」
「そういうこと」
「えっ、ちょっと、どういうこと?」
二人に質問すると、
「ちーっとまっとけ。最後の確認。キットンとノルは自治領って習っただろう?」
「はい」
「自治領って、聞いた」
「ルーミィーは・・・知ってるわけねぇか」
「なんら?」
 クリスはハハって軽く笑う。
気持ちわかるよ、うん。
「ケルアイニスは・・・・・・まっ、いいか。説明は後だ。とりあえず早く行こう」
「えっ、えっ?」
「なんだって?」
「向こうに着いたら説明してやるよ。早く行くぞ」
といって、とっとと歩いていってるし〜。
「んじゃあ、いくか」
「ノル、サードはよろしくな」
「ああ」
「えっと・・・・・・あれっ?」
 人数を何気なく数えたんだけど。
一人足りない・・・・・・ジェームスだ。
「クリス、ちょっとまって」
「なんだ?」
「ジェームスがいない」
そしてら、クリスは。
「あいつはエベリンに戻ったぞ」
「そんな!!!どうするのよ!!!!!!」
「大丈夫だ。どうせ10日もすれば来る」
 だってさ。
信頼しているんだろうね、彼を。
「それじゃあ、行こうか」
私はクリスたちの後に続いた。

       そして、そこに。ある再会が待っていた

(62)〜サードの理想郷〜

「ここが、ケルアイニスだ」
「・・・・・・・・・」
 全員が無言でそこを見つめている。
山の上、そこの崖の所から見下ろした町。
 広大な森と草原、そして、中央にある大きな町と、点々とある小さな村。
遠目だからよくわからないが、人々は仕事に精を出して入るみたい。
 たしかに、無法地帯というより、自治領といったほうが正確かもしれない。
でも・・・・・・なんで?
「これのどこが無法地帯だぁ?習ったことと全然違うぞ」
 それは私も疑問に思っていた。
たしか、日々暴力沙汰が絶えず、ゴーストタウンはいくつあるかわからない。
 自然は全て荒野と化し、ロンザにはいないような凶悪なモンスターが日夜活動しているって。
でも・・・・・・そんな様子全然ない。
「話しながら事情を説明しよう。行くぞ」
といって、クリスは歩き出した。

 だいたい、要約するとこんなところだ。
ここ、ケルアイニスは元々ロンザ国が進攻しようと企んでいたところだったらしい。
 だけど、そのたびに手痛い打撃を受けた。
もし、それがありのまま歴史に刻まれれば、ロンザ国の威信に関わる。
 そこで、ケルアイニスは「攻め込んでも資源もなにもない所」「凶悪なモンスターが徘徊する所」
っていうふうに噂を流して、ケルアイニス攻略失敗のいいわけにしたんだとか。
 それで、行商人たちも立ち入らず、冒険者たちも、人のためにもならないので、この地には立ち寄らない。
交通網もないからね。
 けど、実際は鉱物資源がかなりあり、モンスターも大人しく、産業もかなり進んでいるらしい。
ロンザ以外の国は、貿易をしようとするのだが、ロンザ国の圧力によって、それを禁じられている。
 そんな内容だった。

「そうだったんだ・・・・・・」
 本当は足が痛いんだろうけどね。
ただ、その話に夢中で、そんなことは感じなかった。
「ここは、元々ゼフとサードが住んでいた町なんだ。向こうの山の中腹に、
実際その山小屋もある、それにゼフの墓もな」
「そうなんだ」
「後で、見に行ってみたいもんだな」
そう言うと、クリスは微笑んだ。
「こいつが眠っているうちにいった方がいいだろうな」
「それにしても、よくロンザ国の進攻をくい止めましたね」
キットンが興味津々で聞く。
「ロンザ海軍、それに3国連合艦隊をはねのけたヤツらだ。負けるわけがない。
それにその時は私とサードもいたからな」
 あれっ!!?っていうことは・・・・・・。
ロンザ海軍、それに3国連合艦隊をつぶした所って、一つしかないよ・・・・・・。
「そっ、シー・キングの船に乗っていた船員の子孫もこの町に住んでいる」
「えぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
 それには流石に驚いた。
だって、最強の海賊団といわれた人たちの子孫が、ここに住んでいるんだよ!!
「ああ、そしてサードの理想郷創造の第一歩の町だよ」
「理想郷!!?」
ガルバードが問い返す。
「人間と神獣の共存、それが実際におこなわれている町だ」

(63)〜この町〜

「クリスさんじゃないですか」
 いきなり、農夫風の男の人が声をかけてきた。
日に焼けた顔、太い腕には、クワが握られていた。
「おぉ〜い、クリスさんが帰ってきたぞ」
 と、叫んだ時、町の中からぞろぞろと人が来る来る。
うわぁ、辺り一面が人でうまったってるは。
「ホントだ、ホント」
「おい、サードさんもいるぞ」
「2人揃ってってのは、めでてぇーや。祭りひらくぞぉ〜」
「そりゃあいいや。全部の村に連絡だ」
「おーい、祭りだってよ」
 ってあっというまに祭りの段取りが決まっちゃって。
いっきに人が退いていった。
 が、たった1人だけ、残っている人がいた。
「珍しいですね、あなた方2人、それに他の人間も連れてくるなんて」
「長老の所に行くんでな、話は後だ」
 といって、サードをノルから受け取り、どこかに消えていった。
どうやら、その長老って人に会いに行くためだろう。
「やれやれ、元部下なのに冷たい人だ」
「あの〜」
 キットンが、遠慮がちに声を出す。
なにか?という顔で問い返す男。
 だいたい、身長はトラップくらい。
黒い髪は、肩の所でプッツリ切れており、それと同じ黒い目。
 白い肌から、農夫じゃないって事はわかる。
お役所勤務の人だろうか。
「あなたは、誰ですか?」
「ボクですか?この自治領の頭首、ですけど」
「頭首、ですか」
「っていうことは、1番偉い人、ですよね」
「4番目ですよ、正確にはね」
 えっ、どういうこと!!?
普通、頭首が一番でしょう。
「まっ、いいでしょう。あの人の連れですからね。ご案内しましょう。この町をね」

 サードの理想郷、人間と神獣の共存する町。
そして、サードとゼフが150年前、住んでいた町。
 この後、ある再会が待っている町。
全ての過去も、ここにある。

(64)〜自由行動開始〜

 その町は、活気に溢れていた。
道行く人々は、笑顔を浮かべ働き、時々私たちを引き留める出店のお兄さんたちも
楽しそうに笑っていた。
 そのうち、町の中央のちょっとした屋敷に辿り着き、中に入ることに。
「さあ、どうぞ」
 男は、どうやら応接室のようなところに連れていき「すぐに戻ってきますので」と
言い残して、部屋を後にした。
 トラップは部屋の物色を、キットン、ガルバードとリークは私たちには理解の
出来ないような話を。その他(私もふくめて)は、持ってこられた紅茶を啜りながら楽しんでいた。
 約30分後、その人が戻ってくる。
「お待たせしました。今夜の宿の方は手配しておきましたし、このあとは自由に行動していて
結構ですよ」
「ありがとうございます、ええっと・・・・・・」
「あぁ、自己紹介はまだでしたね。ショウです、ショウ・カートゥコメイ」
 よろしく、と言わんばかりに、手をクレイに差し出す。
もちろん、クレイはその手を握る。
「こちらこそ。俺はクレイ・S・アンダーソンです」
「ほう、クレイ・J・アンダーソンの子孫ですか」
 これにはびっくりしたね。
だって、すぐに言い返すんだもん。
「よく、ご存じで」
「まあ、程々に、ですけどね」
 曖昧な笑みをかわしつつ、2人は手を離す。
この後、私たち全員の自己紹介があり、この屋敷を後にした。

「どーする、これから」
トラップがクレイに問う。
「そうだな、それぞれ自由行動をすればいいだろう」
「じゃあ、私はこの町の畑を見に行きます。何か特殊な肥料を使っているみたいですからね」
 といって、止めるまもなく、キットンは走りだした。
もう、彼の頭にはその事しかないだろう。
「俺はクリスの所に行ってくるな。たしか長老の所に行くって言ってたろう」
「じゃあ、俺も付いていくは。こいつ1人にするとあぶなっかしから」
 うん、そだね。
トラップひとりだったら、なにするかわかんないもん。
「おまえらは?」
「私は、サードが住んで立って所に行ってみる。興味あるもん」
「ルーミィーは遊びたいおう」
 あらら、私の服を引っ張って。
こりゃあ、私がいかなきゃいけないかな?
「パステル、ルーミィーは、任せて」
 ノルが、ルーミィーをかかえる。
すると、シロちゃんもノルの肩の上に乗った。
 大丈夫だろうね、これなら。
「じゃあ、俺はパステルに付いていくよ。方向音痴なんだろう?この人」
「あぁ、任せたな、リーク」
おぉ、珍しくトラップが悪態をつかない。
「ガルバードはどうする?」
「俺は、しばらくこの町をうろつく。人間観察もしてみたいからな」
 といって、どこかに歩いていった。
彼だったら、1人でも大丈夫だね。
「それじゃあ、行くか、パステル」
リークが微笑む。
「うん」
笑顔で返す私だった。

(65)〜町で(1)〜

・・・・・・・・・・ファイタークレイ・S・アンダーソンの視点で・・・・・・・・・・

「ありがとうございます」
 町の住民からその長老のところに行く道を教わり、お礼を言う。
トラップも、一応頭を下げた。
「ったく、大丈夫かな?」
「ん!?何の話だ!?」
「サードだよ、いくら半分神獣で、人間とはちょっと違うっていっても、異常だからな」
「なんだ、サードのことか、俺はてっきり・・・」
俺は1人の少女の姿を頭に浮かべる。
「てっきり!!?」
「パステルのことかと思ったよ」
 とたん、幼なじみの俺にしか見せたことのない表情を出す。
照れている、表情だ。
「ばっ、ばかいってんじゃねぇよ。リークがいるから大丈夫だって」
 クスッと笑う。
あの時、トラップはてっきり自分たちについていくと思ったんだろう。
まったく、素直じゃない。
 訂正しておけばよかったのに。
「これ、かな?」
目の前には、少々古ぼけた家が建っていた。
「んじゃあ、入るか?」
「シッ」
 トラップが俺を制す。
しばらく、聞き耳をたてていたが(俺には聞こえなかった)
 やがて、必死の形相になり、扉をけり開けた。
「その話、もうちょっと詳しく聞かせてもらおうか」
 中には、クリスと、眠っているサード。
そしてもう1人、何千年も生きてきたような老人が奥の方に座っていた。

・・・・・・・・・・運搬業ノルの視点で・・・・・・・・・・

「のりゅー、はやくぅ〜」
 ルーミィーが手を振っている。
どうやら、砂場で遊びたいらしい。
「わかった」
 小走りに近づき、ちゃんとルーミィーから目を離さないようにする。
もちろんシロも。
 この町に、神獣が住んでいるというのは本当の話だろう。
人間でもない、他の何でもなく、サードと同じ様な雰囲気のする人を何人も見た。
 人の姿をした神獣。
彼らは、自分の姿を変化自在に変えることができるらしい。
 でも、全然邪悪な気はしないから、大丈夫だろう。
「ノルさん、どうしたデシか?」
心配そうにシロが見上げる。
「大丈夫」
 シロをかかえる。
そして、その奥に、見覚えのある人が立っていた。
「あなたは・・・・・・」
「おぉ、久しぶりじゃん。他のヤツらはどこだ!!?」

・・・・・・・・・・詩人兼マッパーパステル・G・キングの視点で・・・・・・・・・・

 ちょっとカビ臭い室内。
少し広めのベットと、簡易な机と椅子。
 本棚には、いくつかの本が立てかけてあり、埃をかぶっていた。
他に目に付くのは、水瓶くらいだ。
「あぁ〜あ、疲れた」
 そのベットに寝転がる。
ちょっと堅いけど、そんなの全然気にならなかった。
「ずいぶんと、質素な部屋だな」
 椅子の方にリークが座る。
彼も、興味深そうに室内を見渡していた。
「ここに、サードが住んでたんだ・・・・・・」
 溜息をつく。
そう、サードとゼフが住んでいた小屋。
 150年前、ここにサードとゼフが住んでいた。
時代を感じさせる、でも、そんなに長い間使っていなかったって感じはしないなぁ〜。
 もしかして、今は普通の山小屋として使われてるのかも。
「へぇ、本も読むんだ、あの人は」
 本棚に近づく。
いくらかの本を見ていたが、やがて一冊の本に手が触れる。
「おぉ、これ、『海の章』じゃないかよ!!!もしかして初版か!!?」
「なぁ〜に、海の章って」
「知らないのか?ほら、俺の大ファンだっていうミネルバの作品さ。
サードもファンっていってたけど、本当に持ってたんだ。
俺の一番のお気に入りでもあるんだ。読んでみるか?」
 そう言って、本を差し出す。
私の目をひいたのは、題名ではなく作者名。
「ミネルバ・アラン!!?」
 その姓は、どこかで聞いたことがある。
あまり昔ではないはずだけど、いったいどこで・・・・・・!!?

(66)〜再会〜

・・・・・・・・・鍛冶屋クリス・メグリアーザの視点で・・・・・・・・・・

「お久しぶりです、長老」
 ノックなどはせずとも、この方なら、気付いておられる。
奥に座っているのは、大体100才すら見える老人。
 長い髭と長い髪の毛、そして眉毛は、目を隠すほどに。
全てが白で覆われている、ローブも白。神秘的な老人だ。
 いつ見ても、この方だけは異質だ。
「おぉ、クリスか、久しぶりじゃな」
「今回は、サードの方が・・・・・・」
 といって、サードを長老の前に差し出す。
まだ、眠っている。
「ほうほう、いったい、いつから眠っているのかな?」
「だいたい、5日間くらい・・・・・・」
「だったら安心じゃな、こいつはただ、眠っているだけだ」
意味が、よくわからないのだが。
「うわさを聞けば、こやつは一度、死んだことになっているらしいな。
それを訂正するために、一度も眠らずに各地を奔走したのだろう。
まったく、よほど、この後にある約束のことが気になっていたらしいな」
 長老が、笑う。
こちらも、つられて笑うことに。
「どれ、こやつはそこに寝かしておこうかの」
 すると、サードが滑るように動き、ベットの前で浮上。
そして、布団がかぶせられた。
「それより、調査の方はどうじゃ?ジェームスは残してきたようだが」
 不意に、声が変わる。
こちらも、真顔にならずにおえない。
「えぇ、大体の調査もつきました。ジェームスには、王城の方に向かわせましたし。
まず、ガイナの件ですが・・・・・・」
 ここからは、流石に声をひそめることになる。
普通の人間だったら、外からはまず聞こえることはない。
 腕の立つシーフ以外は。
「その話、もうちょっと詳しく聞かせてもらおうか」
 ドアを蹴り開けたトラップ。
後ろには、クレイも立っていた。

・・・・・・・・・詩人兼マッパーパステル・G・キングの視点で・・・・・・・・・・

「う〜ん、疲れた」
 おもいっきり背伸びをする。
もう、太陽は夕日に化していた。
 山路を下り、町に向かう。
「今度、他のミネルバの作品を読めばいい。小説もありますよ」
 といって、楽しそうに説明をする。
こういう所は、まったくの子供だなぁ〜。
 そう想いながら、クスッと笑うと、
「なんか悪いこと言った?」
「うんん、思い出し笑い」
 それを聞いて、なんとも難しい顔をするリーク。
この人は、本当に・・・・・・。
「あの時は、うれしかった」
「えっ!!?」
なんのこと?という顔をすると、
「サードと闘っている時、ボクと闘うことを止めてくれたことですよ。あの時は、うれしかった」
「ううん、こっちも夢中だったから、よ〜くは覚えていないんだけどね」
 テヘッと舌を出す。
その時、ほっぺたを両方、捕まれた。
「ふぁにしゅりゅにょ?(なにするの?)」
「ん〜、楽しいこと」
 といって、ほっぺたを縦たて横よこと動かす。
それにつられて、情けない声を出す私。
 すっかり楽しんでるな、この人は。
その時、後ろから衝撃が来た。
「いったぁ〜い」
 こういうことをするのは、トラップ!!かと思いきや。
まったく別の、そして、久しぶりに逢う人がいた。
「久々にあったと思ったら、彼氏つくってやんの」
「せっ、セッセセセ」
「誰、この人!?」
リークの疑問に、私は答えた。
「セインじゃない!!!!!」
「そう、セインだよ」
 後ろからは、ノルと、ノルに抱えられたルーミィー。
そして、セインの足下には、シロちゃんもいた。
「どうして、ここに!!?」
「どうしてって、あたりまえじゃん」
笑顔でこたえるセイン。
「ここ、俺の故郷だぜ」

・・・・・・・・・・盗賊トラップ(本名、ステア・ブーツ)の視点で・・・・・・・・・・

「トラップ・・・・・・」
「連れ、かのぉ」
 老人のほうも声を出す。
一部の隙もない、そんな感じ。
「トラップ、失礼だろう!!いきなり入って、そんな台詞はくなんて」
 クレイが後ろから方をつかむ。
だが、それを振り払い、俺はクレイをにらみつける。
「こいつらが、さっきまでどんな話をしていたと思う!!?」
「なっ、なんだよ」
俺の勢いに押されたのだろう、少し後退する。
「いいか、パステルの故郷、ガイアの・・・・・・」
 さっき聞いた全てをクレイに話す。
みるみるうちに、表情の変わっていくクレイ。
「それは、もう少し詳しく聞きたいものですね」
 クレイも座り込んだ。
徹底抗戦のかまえを示している。
「いいじゃろう、後悔、することになるかもしれんぞ」
「パステルには、言うなよ」
 その老人がOKと言ったためだろう。
クリスが、渋々話し始めた。

(67)〜祭り〜

 その夜、本当に祭りが始まった。
まず、ショウさんが手配してくれた宿屋で一休み、かと思いきや。
 宿屋の主人が部屋にやってきて、「今日は祭りですよ」と言う。
それを聞いたミンナは、すぐに会場に向かった。
 で、今、私は、リークとセイン、それにクレイといる。
ただ、クレイの様子がおかしいと思えたのは今は気のせいだということにしておくことにした。
「みんな、どこに行った?」
「ルーミィー大丈夫かな・・・・・・」
 あまりにも人が多すぎて、散り散りになった私たち。
かろうじて集まったこのメンツ、っていうわけだ。
「心配なのはガルバードでしょう。彼は何をするかわからない」
 リークが、普段着(ホント、いかにも庶民って感じの)の格好で言った。
ちなみに、クレイもセインも私も。
 そりゃあねぇ、冒険者としての格好で祭りなんかでられますかって。
「しっかし、驚いたな。ここがセインの故郷だなんて」
「まぁ、ね。養父母も死んだから、戻ることもなかったけど。足がこっちに向いていたよ
そういえば、おたくら。サード・フェズクラインは見つかったのか?」
 あっ、そっか。
セインは、ドーマで私たちと別れたから、サードとあったって事知らないんだ。
「うん、一応あったよ、でも・・・・・・」
「でも?」
「いま、寝ている」
 ガクッとこけるセイン。
リークは、そんな彼を見て、ククッと笑う。
「んだよ・・・あんたは」
「そういえば、お互い自己紹介もまだだったな。ボクはリーク・ハーゲンです、よろしく」
「あぁ、俺はセイン・アラン。フリーの傭兵やってるよ。そっちは?」
 この時、な〜んかひっかかったんだよね。
それに気付くのはまだ先だけど。
「ボクは今は・・・放浪者、ってところかな?」
 いつもの笑顔でこたえるリーク。
祭りは、本格的になっていく。

・・・・・・・・・・盗賊トラップ(本名ステア・ブーツ)の視点で・・・・・・・・・・

「やっと、別れられたな」
 あの人ごみを利用し、ようやくあいつらから離れられた。
せっかくの祭りだ、あいつらと一緒に行動して、つまらなく過ごすのはいやだからな。
「んっと、流石に綺麗なねぇーちゃんは多いな」
 もちろん、目的はナンパ。
それに失敗したって、1人で過ごすのなら別に構わないからな。
「おっ☆」
 遠目だったからよくわからなかったが、ターゲット発見。
紫の髪をポニーテールにしている、女。
 服は、同じ薄い青の、ワンピース長いやつ。
いや、ドレスだったかもしれない。
 とにかく、追う。
「あの、すみません。落としましたよ」
 作戦その1、100ゴールド硬貨をその人が落とした、ということにする。
それでさりげなく近づき、後は向こうがしつこく言い寄るようだったら逃げるだけ。
「あぁ、どうも」
 手を差しだし、硬貨を受け取って・・・・・・去っていった。
おいおい、人の金を持って行くなよ。
 こうなったら、意地でも口説いてやる。
そのうち、花火売場に近づく女。
 作戦その2、同じように近づき、偶然を装って同時に同じものに手を出す。
それも、見事成功。
 だが。
「あぁ、取ってもいいですよ。他あたりますから」
 といって、また歩き出した。
こうなったら、もう、意地でやるしかない。
 作戦その3、道を聞き、方向音痴だからと言って、そのままついてきてもらう。
その間に口説けばいい。
「すみません、あの〜」
「なんですか?」
 今気付いたけど、すっげぇ綺麗な声。
どっかの誰かとは大きな違いだ。
「長老の家に行きたいんですけど、案内していただけますか?」
「昼間にいったでしょう?ナンパヘタだね、トラップ」
「へっ!!!?」
 顔を間近で見た俺は。
そのまま、固まるしかなかった。

・・・・・・・・・・運搬業ノルの視点で・・・・・・・・・・

「どうしよう、キットン」
「仕方ありませんねぇ。みんな、迷っちゃって」

・・・・・・・・・・サライアム・D・ガルバード五官総長の視点で・・・・・・・・・・

「お守り役、みたいだな」
 そういう自分の両手には。
ホワイトドラゴンの子供と、エルフの赤ん坊が握られていた。

(68)〜衝撃の真実〜

「キャッ」
 突然、空に轟音が響いた。
それと同時に舞い降りてくる光。
 それは続けざまに何発も放たれた、花火。
空を見上げる。
「ふわぁ」
 感嘆の声が思わず漏れる。
エベリンでも何度も見かけているけど、そんなのとは比にならないくらい綺麗。
 う〜ん、うまく表現できないのが残念だ。
「ねぇ、クレイ・・・」
 何か値だろうかと思って振り向いたけど。
そこには、誰もいなかった。
 さっきまでいたクレイ、リーク、セイン、3人とも。
うそっ、花火に気を取られている内に・・・。
「もう、花火のバカ!!」
 さっきまで綺麗とかなんとか言ってた花火に向かって、何だか変だけどね。
そう思っている時に、いきなり声をかけられたもんだから、更にビックリしちゃった。
「あら、この地方の名産にケチつけるなんて、度胸あるじゃない」
 いきなり背後から声が。
それも、かなり怒っているっぽい。
「ごっ、ごめんなさい」
 振り向きざまにあやまる。
でも、かえってきたのは笑い声だけだった。
「ゴメンゴメン。そんなに必死に謝ることはないって。ちょっと脅かしただけよ」
 だいたい20代くらいの女性。
紫の髪をポニーテールに結っていて、それと同色の瞳に端正な顔立ち。
 青いドレスは、上から下までゆったりと身を包んでいた。
どことなくクリスに似ているけど、包帯もしてないし、雰囲気も全然違うもん。
 彼の場合、ぶきっちょで不器用で、髪の手入れも面倒って感じ。(でも、彼の髪、サラサラなんだよね)
変わってこちらの女性は、几帳面っぽくて、その髪がそれを示している。
 だって、ポニーテールの髪の一本一本が、丁寧にされてあるもん。
思わず、クスッと笑うと、
「どうしたの、私の顔に何かついてる?」
「ううん、仲間の1人にあなたによく似ているようで似てない人がいるから・・・・・・」
「クリスさんの事?」
いきなりズバリ言い当てた。
「えぇっ、知っているんですか?」
「この町であの人を知らない人はいないわよ。なんせこの町で2番目に偉い人だからね」
「2番目!!?」
 ふと、ショウさんが言っていたことを思い出す。
彼は、頭首なのに自分は4番目だって、言ってたもんね。
「それじゃあ、1番目と3番目は?」
「1番目は長老、3番目はサードさんよ」
 長老、っていうと。
そうそう、今日、クリスがサードを預けたところだな。
 そいえば、迎えに言ったクレイとトラップの様子が変だったけど・・・・・・。
 何かあったのかな?
「でも、何でですか?」
「この町が発展していった理由でね。サードさんとクリスさん。この2人が
資金を援助していたのよ。理由は知らないけどね。だから、この2人が偉いの。
長老ってのは、町の影の実力者みたいなもので、ショウ頭首はこの町をおさめている人。
だから、こんな順番がついたんでしょうね」
「へぇ、そうなんですか・・・・・・」
 あの2人がこの町を援助。
たしかに、サードはゼフの事もあるし、この町の人たちとも親しかったろう。
 でも、クリスが援助する理由は、ないはずだ。
「この町で、花火が発達した理由、知ってる?」
「いいえ」
「実は、元々は大砲の産地だったの」
「えぇぇーーー!!!!!どういう事ですか!!?」
すると、面白そうに微笑んだ彼女が、
「理由は知らないけど、とにかく大砲を造って。それで、火薬を扱うのは朝飯前ってことよ。
その名残からかな?ここで花火が栄えているのは」
 はぁ〜。
いくら地元の人だからって、ここまで知っているものかね。
 私だって、故郷のガイナで知らないことはいくらでもあるもん。
よっぽど、この町が好きなのかな?
「えっと、もう1つ聞きたいんですけど」
「なに?」
「ゼフ・ラグランジュって人のお墓、ありますか?」
「私は知らないは。ごめんね」
「いいえ、謝らなくても・・・・・・」
 ここで、いきなり彼女が笑い出した。
あれっ、私なんか変なこと、した?
「ここまで顔接近して話しているのに、ぜ〜んぜん気付かないのね」
 言ってる意味がよくわからない。
いや、考えてみて、それでよ〜くみて、わかったんだけど。
 認めたくはなかった。
「あの〜、名前、聞いてませんでしたよね」
「あら、よ〜く知っているんじゃない?それとも、一緒に旅した仲間の名前も、忘れちゃうワケ?」
 ただ、固まり。
ただ、絶句するしかなかった。

(69)〜嘘か誠か〜

「うっそぉぉぉ!!!!!」
 固まって約30秒。
次に出た言葉がこれってワケだ。
「ホントだよ、パステル」
その女性・・・・・・クリスが笑う。
「だって、あれっ、クリス、男じゃ・・・・・・」
「私は一度も自分のこと男だなんて言ってないし。サードもジェームスも、でしょう」
 たしかに、言われた覚えは、ない。
でも、それにしたって・・・・・・。
 クリスが女だなんて。
いやいや、ジュン・ケイだってそうだったけどさ。
 どっちもいい勝負だ。
「もうすぐ祭りもおひらきになるから。先に宿屋に戻ってて」
 そういって、彼女は。
夜なお明るい、祭りの中に消えていった。

「キャアァァァァァ!!!!」
 目が覚めて、叫ぶ。
あれっ、さっきの・・・・・・夢!!?
「どうしたんだ、パステル」
 後ろからクレイの声。
あれっ、まだ祭りの最中なの!?
 どうやら、立ったまま眠っていたらしい。
肩には、クレイの手が置かれている。
「あっ、クレイ」
「ビックリした。いきなり大声出すんだもんな」
リークの声。
「どった?眠ってたのか?」
セインの声。
「うん、夢、よね。さっきの」
「はぁ?」
「なんのことだ?」
「うんん、なんでもない」
 そういって、その場を取り繕った。
そう、さっきのは夢だ。悪い夢なんだ。
 そう自分に言い聞かせながら、歩き出す。

「フゥ・・・・・・」
 翌朝、井戸の水で顔を洗い、溜息をつく。
昨日の、悪い夢だったろう出来事を、振り切るが如く。
「おはよ、パステル」
 いきなり、後ろから声をかけられる。
その声の持ち主は、クリス。
 昨日の女性と、やっぱ似ているよなぁ。
昨日あげた雰囲気の違いもあるし。
 包帯もしている。
「あっ、おはよう、クリス」
 流石に、昨日の今日だから動揺は隠せない。
どうした?みたいな顔でこちらを見る。
「そうそう、クリス。昨日の祭りの時、どこに行ってた?」
「昨日か?サードの世話やって、んで、そのへんブラブラやってたぞ」
「誰かに会った?」
「トラップには会ったな。ナンパしてたぞ、あいつ」
「私には会ってないのね?」
「自分に聞いてみろよ」
 なに、バカなことを言ってるんだ、いたいな顔をする。
よかった・・・・・・昨日のは、夢だったのね。
「ありがとう、クリス」
 なんでお礼を言ったのか知らないけど、まいっか。
そして、浮かれ気分のこの時は、クリスの声が聞こえなかった。
「ったく、ホントに鈍感だねぇ」

(70)〜新たな路〜

「で、聞かせてくれるんだろうな」
 トラップがクリスに聞く。
一方、クリスはとぼけ顔。
「なにを?」
「なにを、じゃないんだよ!!」
 何を問いつめているかというと。
私たちが知りたがっていること、全て。
 つまり、クリスのこと、、そして、ケルアイニス自治領のこと。
クリスは、本当にシー・キングなのか、そして、サードの親友、ゼフの友達である人。
 その人が、シー・キングの船に襲われた後、どうなったのか。
そして、2人はその事お互い知っているのか、などなど。
「知ってどうなる?」
「すっきり」
 テーブルに突っ伏すクリス。
かなりあきれているな、これは。
「んん、まぁ、知られて困るようなこともないんだが、でも、なぁ」
ブチブチ言いつつ、顔を上げる。
「わかった。私が言える分は言おう」
 全員が、目をきらきらさせる。
ちなみに、全員とは、サード、ノル、ルーミィー、シロちゃん、セイン、そしてガルバードを除いた全員。
 サードは、その長老の所でまだ眠っていて、ノルたちは公園に遊びに行っている。
セインは、知り合いに会いに行くって言ってたし、ガルバードは興味なし、だとさ。
「まず、私は確かにシー・キングだし、ジェームスは私直属の諜報隊隊長。
ショウは、参謀で、長老は神獣で、正体はよくは知らない、以上」
 あまりにも速い、速すぎる。
それに、まだ聞きたいこともあるのに・・・・・・。
 そのまま、部屋を出ようとしたところを、クレイに止められる。
「ちょっと、そんな速く話してわかるわけないでしょう・・・・・・」
「わかれ」
 というと、クレイが吹っ飛んだ。
クレイとクリスの間で、爆発が起こり、クレイだけが吹っ飛んだのだ。
「ちょっとまった、なにおこってんだよ!!!!!!」
「これ以上言うことはないからだ。後は自分たちで調べて見ろ」
そのまま、クリスはどこかに行ってしまった。

「いらっしゃい」
 図書館の司書の人だろうか、それともただのバイトだろうか。
若い女性が出迎えてきた。
なんで図書館か。
 クリスに調べろと言われた私たち。
とにかく、調べるのなら図書館と、聞き込みだ、ってことで。
 二組に分かれたのだ。
「あれっ、なんでここに?」
「セイン!!」
 なんと、カウンターの所で若い女性と話しているのはセイン。
たぶん、い、ち、お、う知り合いなんだろうね。
「口説いてたのか?隅におけないね」
 リークが冷やかしで言った。
だが、図星らしく、動揺している。
「バカいえ、ここは俺の故郷だぜ。知り合いだよ、ただの」
 なぁ〜んていいながらも、顔真っ赤。
なんか、かわいいなぁ〜。
「それより、なんでここに来たんだよ」
「いろいろ。すみません、ケルアイニスの歴史みたいな本、ありますか?」
 図書館メンバーは、私、クレイ、リークの3人。
他の人たちは、町で聞き込み&何か手掛かりになりそうな物を見つける、だそうだ。
「はい、歴史のコーナーは一番奥です」
「ありがとう」
 クレイについていく私とリーク。
後ろからは、セインも来ている。
「そうだな、これとこれ、それにこれもいいかな?これは、さっきやったろう?」
「創造のケルアイニスだろう?あるぞ」
 ケルアイニスと名が付けば、全てを取るクレイ。
リークは、題名から種類を分けていく。
「こんなもんだな」
「って、クレイ。全部読むの・・・・・・」
 唖然とするわ。
だって、全部で30冊はあるんだもん。
 しかも、それぞれ、それ相応の厚さがある。
一日中読んだって、絶対間に合わない。
「そうだな。これじゃあ、いくら弁が立つからって、キットン向こうにやるんじゃなかったなぁ〜」
「とにかく、あたるまで読み続けるぞ。とにかくとにかくだ」
「なにを読むんだ?」
 セインにいろいろと説明(流石に、シー・キングの事とかは言わなかった)
そして、とにかく読んだ。
 調べることは、いろいろとある。
まず、クリスがこの町に援助していた理由。
 もしかすると、それ以上の情報も得られるかもしれない。
一応、この町の発展の様子、サードとクリスが援助していたこともほのめかしていた。
 だけど、肝心な部分は全然書いていない。
まぁねぇ。サードたちを書いてるわけじゃないんだから、そりゃあわかるけど・・・・・・。
 新しく知った事はこれだけ。
いろいろな村や町が合併してこの自治領ができたこと、だ。
 そのうち、カラスが鳴く時間になってきた。
「ったく、全然手掛かり無しだ」
クレイが本を畳み、溜息をつく。
「骨折り損のくたびれもうけ。トラップたちに期待するしかないな」
リークも溜息をつき、つづいて司書の女の人に言った。
「すみません、本を借りたいんですけど」
「はい。貸し出しは3冊までとなっておりますが、ここにあるものでしょうか?」
「いや、違う。そうだな・・・・・・ミネルバ・アランの・・・・・・・・・・・・・」
 そこで、止まった。
急に真剣な顔つきになり、セインを見る。
「なぁ、セイン」
「なんだ?」
いきなり呼ばれて、キョトンとしたセイン。
「あんたのフルネーム、たしかセイン・アランだったよな!!」
「あぁ、そうだけど」
「あぁ!!!もしかして!!!!」
そうよ、ミネルバ・アラン。それに、セイン・アラン、同じ姓だ。
「もしかして、ミネルバ・アランの子孫か!!?」
「自分の両親の名前すら知らないのに、そんなことわかるか!!!」
セインが思わず怒鳴るが、そういえばって顔になってリークに逆に問う。
「なぁ、そのミネルバ・アランって、何年前の人間が?」
「だいたい、130から120年前だな」
 ちょっとまってよ。
たしか、セインって、かなり長生きだって言ってた。
 自分も理由を知らないけど、130年くらいわって言ってたはず・・・・・・。
「まった、整理するぞ。セインが生まれたのが、だいたい130年前だ。
そして、そのミネルバ・アランが活躍していた時とも重なる」
 クレイが、ブツブツと言ってる。
少しずつ、興奮してきた。
「そうだ、ミネルバってやつの髪の色や、目の色は!!?」
セインが言うと、
「たしか、両方緑のハズだ」
 リークが答える。
セインの髪は銀髪だけど、目は緑だ。
「髪の方は父親の遺伝だな」
「でも、俺の義父も同じだったぞ。緑と緑!!!それに、俺の実の母親は自分の姉だって・・・・・・」
すると、セインは子供のようにリークの肩をつかむ。
「その、ミネルバってやつ、結婚したのか?」
「たぶん、結婚していると思う。一時期だけど、本の出版をやめているんだからな」
「それじゃあ、それじゃあ・・・・・・」
「あぁ、可能性は0じゃない!!!!!!」
「セインの、母親かもしれないんだ!!!!!!!!!!」
 現金なもんで、迷宮入り寸前のクリスの事より、断然セインの方に傾いてきた。
よぉぉぉぉーーーし。
 こうなったら、意地でその父親の方を、つきとめるぞ!!!
と、全員が意気込んでいたとき、その全てを崩す一言があった。
 それは、司書のおねえさんが発した言葉。
「あの、ここは図書館ですので、静かにしていただけます?」
 私たちは、ただ、黙って図書館を出るしかなかった。

 そして、これが。
後に、重大なことになるなんて。
 その時は、知る由もなかった。

「久しぶり、だな」
 紫の髪がなびく。
目の前にある三つの墓。
 その墓碑の下に、遺体は、ない。
その内の2つに、花を捧げる。
 1つは、青い花。
 1つは、白い花。
花が添えられていない、もう1つの墓には、ゼフ・ラグランジュと刻まれている。
 他の、二つの墓は─
「ごめん、これ以外、見つからなかった・・・・・・」
青い花の捧げられている墓に囁く。
「あいつと同じ花だけど、我慢してね。これ以外、あんたに似合う花、ないから」
白い花の捧げられている墓に囁く。
「また、いつか、来るから」
髪を掻き上げる。
「さよなら」
女は、去っていった。

 1999年8月23日(月)20時57分07秒〜9月01日(水)15時43分39秒投稿の、PIECEさんの小説「闇を知る者」(61〜70)です。

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