闇を知る者(71〜80)

(71)

「けど、トラップ、どうしたのかな?」
つい昨日のトラップの言動を思い出しながら、思わず呟く。
「けど、理解してくれたからいいんじゃないんすか?」
「いや、言いたいのはそういうことじゃなくて、トラップの様子がおかしかったってことだよ」
 そう、たしかに昨日のトラップはおかしかった。
なんか、少し余所余所しいっていうか、なんていうか・・・・・・。
 勝手にやれば、ってところは同じだけど、その勝手にやればの意味が違う。
こっちはこっちで、ちゃんとやってやるから、だって。
 おかしいと思うでしょう?
「深く考えるのはやめろって。こっちはこっちで捜索しなきゃいけないんだ」
「そだね」
 ちなみに、今のメンツは私、クレイ、セインの3人。
リークは、図書館のほうに行って、ミネルバの資料を集めるだって。
 まぁ、自分がファンなんだから、必死に探しているだろうね。
そして、私たちは。
「ここだよ、長老の家は」
 木造の平屋。
けっこう広いけど、この町の役所よりは少し狭い。
 今、ここでサードが眠っているハズだから。
たしか、サードはそのミネルバに直接会ったって言ってたから。
 重要な手掛かりを持っているに違いない、ってわけ。
「俺らの間で伝説になりつつあるサード・フェズクラインの会えるとはね。
正直、かなり緊張するな」
 セインが心臓のところをおさえながら言った。
そだよね、サード、傭兵の内では、最強って言われてるんだったね。
 すっかり忘れてたけど。
「んじゃあ、入るか」
 クレイが緊張した顔でこちらを振り向く。
そして、ドアノブに手をかけ・・・・・・ぶつかった。
 内側からドアが開けられ、思いっきりぶつけられたのだ。
「いって・・・・・・」
「あれっ、おまえらか。久しぶりじゃん」
 サードが、言った。
銀髪の、サード・フェズクラインが。
「えっ・・・・・・!!?」
「そんなに驚くなよ、パステル。久々会ったってのによ」
「いや、そうじゃなくって、なんであんたに変わってるんだよ!!」
 クレイの言葉。
うん、それは私も聞きたかった。
「ん?こいつが起きないから、変わりに出てきてるだけ、ただそれだけだから」
そういって、私たちを置いていこうとする。
「ちょ、ちょっと待って」
思わず、その手を取り、引き寄せるクレイ。
「んだよ」
「あんたが出てきてる理由は、わかったことにしよう。それより、聞きたいことがあるんだ」
「俺が答えられる質問だったらな。しかし、こっちの質問が先だ。
こいつ、誰だ?」
 といって、指さされたのは。
疑惑の視線をサードに向けるセインであった。

(72)〜進展〜

「なぁ、ほんっと〜に、サード・フェズクラインなのか?」
 セインが疑わしそうな声で聞く。
事実です、って胸張って言えないなぁ。
 それに、今のサードは、サードであってサードでないんだから・・・・・・。
「そ、正真正銘のサード・フェズクラインだよ。そっちの名前は?」
「セイン・アラン。フリーの傭兵やってます」
 何故か静寂が訪れた。
サードが固まり、全員、彼の言葉を待った結果である。
「セイン・アラン、だと・・・・・・」
ようやく口にしたサード。
「やっぱり、何か知ってるのね!!!!!!」
 思いっきり期待したんですけど。
やっぱり、サードはサードだった。
「あぁ、知ってる。冒険者カードを知らなかった傭兵って、この前聞いたな」
 途端、真っ赤な顔になるセイン。
ほとんど禁句だもんな、その事は。
 そういえば、クリスにも同じ事、言われたんだよね、彼。
ただ、この場にトラップがいたら、気付いていたであろう。
 彼が、嘘を言っていることを。
「んで、そっちの聞きたい事って?」
「えっとね、ミネルバ・アランって知ってる?」
「あぁ、サードのファンで、冒険者の詩人の・・・・・・」
「そのミネルバ・アランだと思いますけど、知ってます?」
「知ってるって言ったじゃん」
「いや、会ったこと、あるんでしょう?」
 少し、考える素振りをした。
だが、すかさず首を振る。
「そんころは、封印していたな」
「ふっ、封印!!?」
 そっそれって・・・・・・。
どういうことなんだろう。
「あいつと大喧嘩してよ、まぁ、不貞寝していたら、封印された」
「それって、いつ頃?」
「だいたい、130年くらい前からだな。俺が解放されたのは120年前くらい」
 たしかに、その時期なら、ミネルバって人と会っていたかもしれない。
と、すると、肝心のサードが起きるまで、膠着がつづくんだ・・・・・・。
「ねぇ、本人は、いつ起きるの?」
「気の向いたときだな。ヘタすれば、一年中寝ていることもある」
素っ気ない返事の後、サードはどこかに歩いていった。

「ここ、か」
 やっと見つけた、墓。
たしかに、ゼフ・ラグランジュと書かれている墓がある。
 その他の、花の添えられている墓は・・・・・・。
「なっ、まさか・・・・・・」
 思わず絶句した。
この名前が、ここに刻まれているということは・・・・・・。
「ヘタすると、とんでもない関係があるかもしれねぇな」
最後の一つ、そこに書かれていた名前は、聞いたこともない名前。
「こいつは、聞き出せばわかるだろう」
 そのまま、振り返り、森の中に入る。
迷ったあげく、偶然に墓のある場所に出てきた、その森に。

(73)〜それぞれの夜〜

「あれっ、トラップは!?」
 夕食の席にトラップがいないことに気づき、誰とも無しに聞いてみた。
だけど、誰もこたえてくれなかった。
 誰も、知らないらしい。
ちなみに、この場にセインの姿はない。
 自分の実家の方に泊まっているのだ。
そして、クレイは、そっちの方に行っている。
「キットン、トラップって、あなたと一緒に行動してたんじゃないの?」
「はい、でも、彼が、北の森の方に行くってそれっきりです」
 スープを啜りながら、キットンはこたえる。
メインディッシュであるミケドリアのショウガ焼きを食べていたクリスが呆れた顔で、
「あそこに行ったのか!?地元のヤツらでも迷う名所だぞ」
「でも、目印をつけるでしょう、トラップは。方位磁針も持ち歩いているし」
「それがまずいんだ。あそこは、磁場が狂ってるから。方向音痴がまともに歩いてしまうくらい
複雑に入り組んでるし。ここで迷わないのは私とサード、それに町の重役たちくらいだ」
 私が山菜のコショウ炒めに手をかけたとき。
入り口から、サードが入ってきた。
「よっ」
 一応、他の人たちにもサードの状況を話したから、別に驚いてはいなかったけど。
ただ、私たちと別々の反応を見せたのはリークとガルバード。
「へぇ、ホントに二重人格だったんだ。髪の色まで変わるのは大事だね」
これはリーク。
「よほどショックなことがあった証拠だろう。まぁ、何かはわかるがな」
これはガルバード。
「へぇ、やっぱり悪魔だからかな?」
ピクッと眉をつり上げるガルバード。
「知って、いるのか?」
「あぁ、あいつが俺が起きていれば、あいつの目を通して全部見ることが出来る」
そこで、クリスを向いて。
「久しぶり、だな」
「あぁ、お互いよく死んでいないもんだ」
 意味ありげな言葉。
ただ、この理由を知るのは、もうちょっと後になる。
「そうそう、話あるから、外に来てくれ」
そういって、外に出ていった。
「やれやれ、どうせあのことだろ」
クリスは後を追う。
「んじゃあ、俺もこのへんで」
リークは、部屋に戻っていった。
「少し散歩でもしてくるか」
ガルバードも外に出て。
「それじゃあ、私も寝ますよ」
キットンも部屋に戻っていく。
「ぱーるぅー、これちょーらい」
ルーミィーが私のお肉にフォークを突き刺す。
「だっ、ダメよルーミィー」
「ルーミィー、俺の、やるから」
残されながらも、この食卓は賑やかだった。

「で、話って!?」
「焦らすんじゃねぇよ」
「なんのこと?」
「あいつのことだよ」
しばしの沈黙。
「気付いて、いたの?」
「気付くさ。俺が見たのは一目だけだが、それでも覚えている」
「あんたの『過去の落とし物』だからな、そりゃあ敏感でしょうね」
「正確には、もう1人の俺だ」
「それと、トラップが北の森に入ったって件だけど・・・・・・」
「あぁ、あいつが眠っているせいで、あそこの封印は解けているはずだ」
「そうなると、あそこの墓に行き着く可能性も出てくるわけね」
「全ては、夜空の星たちが見届けている、か」
「あんたが言う台詞じゃないさ」
「違いない」
笑い声が響いた。

「なぁ、セイン」
「なんだ?」
ランプの火を消そうとしたセインに声をかける。
「もし、本当の父親に会えたら、どうする?」
「どうすっかなぁ」
ふと、考えて、
「どうして、俺を捨てたのかを聞く。そして、理由次第では容赦しねぇ」
「いつまで、この町にいるんだ?」
「そうだな、後、一週間くらい。いつまでもおまえらといるわけにはいかないからな。
それに、そのミネルバって・・・・・・俺の母さんかもしれない女の人が、
どこに住んでいたか。それも調べたい」
「明日からも、頑張ろうな」
「あぁ」

「また、ここにでてきちまったか」
 三つの墓がる丘。
また、帰ってきてしまった。
「ったく、ここの霊に引き寄せられてんのかねぇ」
 どっかりと腰を下ろし、その場に寝る。
今日は、野宿だ。
「そうだな、方位磁針は頼りにならないから、太陽の位置を確認しながら行くか」
 毛布すらない。
寒さに晒されながらも、どうにか寝ようと心がける。
「このまま、死ぬじまうかもな」
 冗談とは言えない事を呟き。
トラップは、眠りにつくのであった。

(74)〜あの頃と〜

「すぐにリーク呼べ。あいつも治癒の魔法くらいしってるだろう!!
それでなくても、薬草の知識ぐらい。ついでにキットンも。
あと、ついでのついでにショウもだ」
「わかった!!」
クレイが外に飛び出した。
「クリス、手元照らしてくれ、傷口をよく照らさねぇと、全然見えねぇ!!」
 指を弾くと、全然熱くない炎が出てきた。
それを、傷口にかざす。
「どうだ!?助かるか!!?」
「傷の方はなんとかだ、でも、よりによってクレイスの棘だからな、確率は・・・・・・」
そこで、サードは地面に拳を打ち立てた。
「くそっ、だからもっと治癒系統の魔法、覚えとけって言ったんだよ!!!!あの大馬鹿野郎が!!!!!!!!」

 事の起こりは、約12時間前。
まず、朝気付くと、サードが、どこかに行っていた。
 クリス曰く。
「墓参りだ、心配するな」
 ただ、平凡な日だった。
リークは、あとちょっとだと言って、図書館に出かけ、私は、ルーミィーと遊んでいた。
 キットンは、山の方(トラップが行かなかった方)に、薬草を取りにいった。
クレイたちは、早速稽古なんかやっていて。
 結局、昨日、トラップは帰ってこなかった。
「ヘタに全員で捜索するより、私たちにまかせておけ」
 これが、トラップを捜しに行ったクリスの言葉。
そして、見つかった。
 とんでもない、重傷で。
最初に発見したのは、サードらしい。
「どこで見つかったの!!?誰に襲われたの!!?」
「非常にまずい、クレイスの棘にヤられてる」
 どうやら、どこかの深みに落ちたらしい。
それだけだったら、よかったのに、よりによって、クレイスの棘に・・・・・・。
 私だって、その名前を知っている。
クレイスの棘、何かの花についている棘。
刺された者は、何かの病気におかされる。
 しかも、それはなんになるのかはわからない。
即効性の病気もあれば、一生苦しみ続ける病気もある。
 ただ、これだけは確かだった。
生存率0パーセント。
 トラップはというと、意識がないみたい。
真っ青な顔、血に染まった赤い服、そして、時々おこる痙攣。
「クレイスの棘だって!!?」
 リークがドアを蹴破って入ってきた。
つづいて、そのドアにつまづくキットンも。
「傷の方は何とかなった。後は、病気の方だけだ!!!!」
「まだ死んでないってことは、即効性ではないんだな!?」
「でも、24時間で死ぬヤツだったりして、ギャーッハッハッハッハ」
 こっ、こんな時にこいつは・・・・・・。
マジで、クロスボウをキットンに向ける。
「まっ、待って下さい、パステル。こっちだって考えなしに脳天気にやってるわけじゃあ・・・・・・」
 それを聞いた全員は。
一気にキットンに飛びついた。
「なにかあんのか!?あぁ!!?」
「キットン、早く言いなさい!!!!」
「そんなに締められて、言えるわけないだろ」
いつの間にか、ショウも来ている。
「はっ、はっ・・・・・・。切羽詰まってるのはわかりますけど、みなさん落ち着いて・・・・・・」
 こっ、こいつは・・・・・・。
つくづく思うけどさ、なんか、なんか・・・・・・。
「薬と毒は紙一重、つまり、たとえばよく使われる薬草の原材料だって、
作り方をちらっと変えれば、毒薬にだってなるんですよ」
「てするとさ、もしかして・・・・・・」
「そうです、クレイスの棘を、いや、そのグレイス全てをいろいろな調合を試して、
それで、解毒剤を造ってみましょう、それ以外ありません」
「確証があっての事か?」
「いえ、全て憶測です」
「んだって!!?」
 セインがキレた。
思いっきり、キットンの胸ぐらをつかむ。
「やめとけ」
クリスが、セインをつり上げた。
「これに関しては、まったく手の施しようがないんだよ」
リークも、頷く。
「ウチの薬学部も、これにはお手上げだ」
「だからって、こんな根拠もないことで」
「試す時間だったら、つくってやるよ」
 いつの間にか、ショウが魔法陣を描いていた。
ちょうど、トラップを中心にした魔法陣。
「残念だが、魔法で直すことは出来ない。だが、魔法で時間をつくることは出来る」
 すると、魔法陣が輝きだしたのだ。
すると、そこだけ何もかもが止まった。
 息すらもしていないトラップ。
その魔法陣の空間だけが、止まっていた。
「えっ・・・・・・」
「時間停止の魔法陣だ、これで病気の進行も止まるから、さっさとやれ」
 それを聞いて安心したのか、キットンとリークは、外に行った。
おそらく、材料を調達するのだろう。
「でも、ショウは大丈夫なの」
「神様だって、時間を止めることは許されない」
淡々と言うショウ。
「大丈夫だ、安心して足手まといになってこい」
 その時が、初めてだった。
彼の、笑顔を見たのは。
「うん、力になってくる」
 最後の台詞のお返しをやって。
私は、外に駆けていった。

「ホント、いい仲間たちだな」
「久しぶりよ、こんな気分は」
「俺らと海賊やってたときより、楽しいか?」
「あの頃の私と、今は違うんだ。おまえも、もう参謀じゃない、そうだろう!?」
「あの人と、逢ったからですか?」
 しばしの沈黙。
間に立たされている、銀髪の青年も、黙っている。
「今更、わからないわよ。私の気持ちも、確かめられないのに・・・・・・」
誰も、こたえる者はいなかった。

(75)〜別れの言葉は〜

「骨折り損のくたびれもうけ、か」
 ショウがフッと溜息をつく。
あれから2週間、トラップの容態は、良好に向かっていた。
 そのきっかけとなった一言。
「ボクの血、トラップあんしゃんに効かないんデシか!?」
 ショウの魔法陣を解き、シロちゃんの血を飲ませる。
万が一の事を考え、その間もキットンたちは研究に没頭していた、が。
 冒頭の通りになった、ということである。
「お疲れ、みんな」
 返事する気力、ナシ。
全員が全員、ぐったりと眠っている。
 私もねぇ、手伝おうとは思ったんだけど・・・・・・。
彼らの気迫ったら、これ以上にないってくらいに凄かった。
 だから、夜食とかを作ってやるくらいのことくらいしかできなかった。
ちょっと、悔しかった。
「パステル」
 1人だけ、体を起こした人が1人。
セインだった。
「あっ、セイン。起きてたの?」
「ん、体力には自信があるんだよ」
そう言って、眠っているメンツを見回す。
「あんたたちさ、何気なく会話してたけど、ボロボロと俺の知らないことぶちまけてぞ」
そう言って、パチリとウインク。
「ったく、最強の傭兵は神獣だし、鍛冶屋は永久賞金首のシー・キング。
放浪者のリークも、国王直属の部下だ。揃いも揃って、夢中になって」
 確かに、今気付いたけど。
何もかも、包み隠さずに、セインの前でぶちまけていた。
 途中、サードの血を飲ませれば、助かるって意見が出た。
それが誰だったか忘れたけど。
 でも、サード自身が「んなことするくらいだったら、こいつは死を選ぶぜ」って言ったから。
思いとどまった。
「幸せだな」
「えっ!!?」
急に神妙な顔になった。
「トラップだよ。生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされて、それでこんなに多くの人が、助けよう。
そうやって躍起になるんだから、ホントに、幸せ者だ・・・・・・」
「そりゃあね、パーティーだから」
「そんなにやってくれるヤツが、俺にはいない」
「なにいっ・・・」
「親も、仲間も、友人も、ただ、顔を見知っているだけの相手だって」
「セイン・・・・・・!?」
なんか、ヘンだ。
「おまえらに泣かれたら、俺、成仏できないからな」
ドアに近づく。
「ちょ、ちょっと」
「どのみち、別れるってクレイには言っておいたからな」
「どうしてっ!!?」
「自分の親捜しに、おまえら巻き込めないだろう?それに、ヒントくれたしな。
だから、俺自身がビシッとしなくっちゃ」
「だからって・・・」
「甘えてたらな、いつまでも大きくなれない、そうだろう?」
もう、言葉はでなかった。
「でもよ、せめてトラップがどうなるかは見届けたかった、いや、力になりたかった。
ただ、最後のケジメとして」
ドアが開く。
「じゃ・・・・・・」
「待て!!!」
 眠ったまま、サードが怒鳴った。
止まるセイン。
「もし、本当の親を見つけたら、ぶん殴ってやれ」
眠っているサードと、ドアノブを持っているセインの目線があった。
「あぁ、俺もそのつもりだ」
「よし」
また、眠るサード。
「パステル」
目があった。
「ホントはよ、別の台詞言おうと思ったが、やっぱやめた」
首を振り、こちらを向く。
「あの時と、同じ台詞」
 緑の瞳が、細められる。
そして、最初で最後の手紙の、あの台詞が、言葉になる。
「別れの言葉は、言わねぇからな」

(75)〜全てを〜

「結局、どこ行ったかわからない、か」
 クレイが溜息をついた。
昨日の夜、私とサードは、セインと別れたのを知ってるけど、他のみんなは知らないわけ。
 だから、一応、事情を説明してたワケ。
そうそう、サードは、長老の家に行ってるから。
 セインの行き先聞いてなかったんだよね、私。
だから、追いようがない。
 ショウ曰く。
「ここに繋がる交通網は少ないが、少し抜けたら、主要街道に囲まれてるから。どこに行ったかは、まったくつかめないだろう」
 だって。
まぁ、私は安心してるけど。
 あんな事言われたんだもん。
今から追ったら、失礼だ。
「まぁ、トラップが起きるまでは、こっちも動けないからなぁ」
「そだね」
「で、その間、何するつもりだ?」
クリスが、言った。
「そりゃあ、あんたらに本当のことを聞く以外ないよな」
 ミネルバの本を読みながら、リークが言った。
そうそう、私も見せてもらったけど、彼女の詩って、すっごくいい。
 海の詩が多いから、セインはそれを足がかりに、海の方にいったのかな?
でも、本当に、海が見え、波の音が聞こえ、そして、水平線が見え。
 う〜ん、表しようがないなぁ。
これぞ、詩人って感じの詩だった。
「言う必要はない。それに、聞きたいなら調べろって言ったはず」
「調べたぜ、ちゃーんとな」
その、懐かしい声は・・・・・・。
「トラップ!!!」
「大丈夫か、起きても!!」
「だーいじょーぶ。知りたいことがいっっぱい、あるからな」
 そう言って、クリスの前に座る。
それ以前に、座っていたクレイを押しのけ。
「なぁ、クリス」
「なんだ?」
「なんで、ゼフ・ラグランジュの墓があるところに、セイン・アランの墓があるんだ?」
 それを聞いて、過剰な反応を見せたクリス。
えっえっえっ!!?何!!?どゆこと!?
「ちーっと待て、トラップ。つまり、おまえはゼフ・ラグランジュの墓を見つけ、もう1つ、セイン・アランの墓も見つけたんだな!?」
リークが、自分の頭の中を整理している。
「えっ、だったら、あのセインは幽霊!!!?」
 キットンってら・・・・・・。
パニックすると、変なこと言い出すんだよね。
「そう、もう1つは、俺は名前は知らねぇが・・・・・・ミネルバ・アランって名前の墓もあったぜ」
『うそぉぉぉぉぉ!!!!!!!』
 全員の声が重なった。
それには、トラップも驚いていた。
「なんだ、なにか知って・・・」
「そうか、あの墓まで辿り着いたか・・・・・・」
 クリスが、トラップの言葉を遮った。
その目は、遥か遠く、そう、星空を見上げるように、細められていた。
 懐かしい、過去を思い出している。
海の青、空の蒼、遥か遠くに見える大陸、気の遠くなるくらい高いマスト。
全てが海、全てが青く、全てが綺麗で。
 もう、二度と、あそこに帰ることはないと誓った。
だけど、時々、帰ろうかと思うこともある。
 愉快な仲間たちと、あの人が待つあの海。
だけど、それは、二度と帰ってこないとわかっている。
 話しても、ただ空しいだけなのだ、なのに・・・・・・。
「わかった、全てを話そう。そう、全てを・・・・・・」


(77)〜過去〜

「順を追って話そう。まず、最初。私とサードがあったときの話だ」
 それってすっごく興味ある。
この2人が出逢って。それから150年、親友でいるんだから。
「私は、海賊シー・キングで、あいつは商船に雇われた傭兵だったんだ。つまり、最初は敵同士」
 そりゃあそうだろう。
お互い、肩書きを見ればただの敵だ。
「その時、あいつは私に惨敗。商船は沈められ、あいつは私に捕らえられた。その時、とんでもない過ちを犯したんだ」
 かなり、辛そう。
それはそうよね。誰だって好きこのんで自分の過去を語ることはない。
「先代からの風習で・・・」
「先代!!?」
「ちょとまった、それ、どういうことだ?」
ハハッと軽く嘆息を吐く。
「知るわけないよな。私を子供の頃から育てている人、つまり義理の父親が、先代なんだよ。その人の海賊団を引き継いで、私の代でシー・キングになったんだ」
「うっそーーー!!!」
「まぁねぇ、シー・キングの称号を、一代でとれるほど、海はあまくはないよなぁ」
 リークが、喉につっかえていたモノがとれたように、ホッとしている。
まぁ、気持ちはわからないでもない。
「話戻すぞ。その、先代からの風習で、その日一番強かったヤツの血を全員で飲むのが、風習だったんだ。その日一番の獲物がサードだったんだよ、つまり、あいつの血を飲んだ」
 サードの、血を、飲む。
それすなわち、神獣の血を飲む事。
 って、事は・・・・・・。
「偶然だったよ。まさか、あいつが半分だろうと神獣だったとは思わなくてな」
 そう、神獣の血を飲めば、永遠の命が手に入る。
それが、『神獣狩り』がおこる一つの要因だったはず。
「だから、人間が生きていく上で、果たさなければならない義務を果たせない人間、ね」
 ガルバードが1人で納得している。
すると、キットンも気付いたらしい。
「なるほど。人間が生きていく腕果たさなければならない義務、つまり、死、ですね」
 はぁ!?
どゆこと?
「人間は、生きれば、死にます。つまり、生きる義務を果たせば、死ぬ義務もあるわけです。つまり、それを果たせない。だから義務を果たせない」
 わかったような、わからなかったような。
みなさんは、おわかりいただけたでしょうか?
「あの野郎のせいで、って思うと、むかついてるがな、今でも」
「ちょっと待て、じゃあ、なんでサードを生かしたんだ?」
「あいつから、私を狙った事情を聞いた。それを聞いて、殺すことをやめたんだ」
 事情。
それは、サードがシー・キングであるクリスを狙った理由。
 つまり、サードの相棒であった、ゼフ、彼の親友が、クリスの船に襲われ、死んだということだった。
「それが、どうした?別に殺さない理由にはならないハズだが」
 ガルバードも不思議に思う。
でも、1つの事実がハッキリした。
 サードは、その事をクリスに話した。
そして、お互い、それを知っていたんだ。
 だけど、サードは、それを、自分の気持ちに、どう決着をつけたのだろうか。
「殺せるハズがないさ、それを知った、私も、サードも、お互いに」
 とても遠くを見ていた、その目は。
私たちを、見ては、いない。
「順を追う、といったが、少し過去に遡ろう。そう、あいつ、私が、まだ、ミネルバと名乗っていたときに・・・・・・」
 その台詞は、パステルたちを驚かせるのには十分だった。
ただ、クリスは、遠い過去を見ていた。
 あの時、あの船を襲ったときから。
全てが、始まった。


(78)〜プロローグ〜

 広い、海。
それは、限りなく広く、言うなれば無限の世界。
 この海を統べるのならば、それは、一大国を築くのよりも難しいであろう、と、言った有名な国王もいた。
そして、この海を支配していた者たち、海賊。
 彼らは、この海で、数々の物語を生み出してきた。
だが、決して、海を統べたものはいなかった。
 だが、その均衡が、崩れた時もある。
後にも先にも、この人物だけが、海を統べたと言われている。
 海賊、シー・キングこと、ミネルバ・メグリアーザ。
後生には伝わっていないが、この方は、女であった。
 あまりの強さのため、男として後生に伝わったのである。
しかし、理由は、それだけではなかったが・・・・・・。

 広い海。
世界にも類を見ない大型の船も、米粒にしか見えない。
 その船の先端に、1人の人物が立っている。
歳はおそらく、20代前半。
 紫の長髪を青のリボンでポニーテール、同じく紫の瞳が、その人の意志の強さを現している。
左手には、超重量のハルバードが握られ、右手は、青いスカーフで巻いてあった。
 甲板には、長年海賊をやってきた猛者がおり、それぞれ、自分の獲物を肌身はなさず持っており、たわいもない話をしていた。
船室の方から、1人の男が走ってくる。
 歳は、30程度。
焦げ茶に近い髪の毛が、無造作に伸びている。
 獲物は、ない。
いや、そのように見せるのが、彼の得意技であり、戦闘方法であった。
手には、何かが記された紙が握られている。
 かなり、焦った様子。
「お頭!!!」
それを聞いて、うつむく女。
「ジェームス、私のことは、船長、またはキャプテンと読んでくれ。それでは、どこかのちっぽけな山賊の頭領だ」
「しょうがありませんよ。もう、直しようがありませんから」
 ジェームスと呼ばれたその男。
シー・キングの船で、諜報隊隊長を務める。
 元々、どこかのシーフギルドから、先代の船長がその才能を見いだし、無理矢理連れてきた者だ。
どうやら、昔育った環境上、お頭が、目上の者に対する敬意の言葉らしい。
「で、なんだ?」
「島からの魔伝です」
「また、出産祝いじゃないだろうな」
 2日前、魔伝で伝えられたものが、女船員の出産祝いを知らせたモノであった。
それが原因で、翌日、船員全員が2日酔いになったのは言うまでもない。
「いえ、それが・・・」
「どうした?」
 ただならぬ様子に、紙を受け取るミネルバ。
そして、そのまま、紙は海の中に消えていった。
「翁が、死んだ?」
「はい」
 彼女の言う翁とは。
いや、まず、魔伝の方から説明しよう。
 魔伝とは、正式名称、魔法伝令通信手段の略である。
簡単に言えば、魔導師同士が、魔力によって通信すること。
 ただ、その技術は、公には公開されていない。
この船の、船員たち、それと、先程言った島の者たちだけが知っている。
それを使う者も、限られているが。
「航海士に伝えろ!進路を島の方に変更!!至急、島に帰還する!!」
「はっ!!」
 そのまま、ジェームスは、船室に戻っていった。
それを追うように、シー・キングこと、この船の船長、ミネルバ・メグリアーザも、自室に戻っていった。

「翁が、死んだか・・・」
 安楽椅子の上で、呟く。
彼女の言う翁とは。
 シー・キングの先代、カイル・メグリアーザが旗揚げしたときからの古株であった彼だが、戦闘員でもなく、航海士でもない。
武器職人、それが、彼の仕事だった。
 彼の造った武器は、その持ち主の実力を最大限に生かすモノだった。
実際、ミネルバが手にしているハルバードも、彼が手をかけたのだ。
 そして、自分が幼い頃、よく遊んでくれた相手。
他の相手には無愛想だった彼からは想像できないほど、あまりにも不自然な光景に見えたらしい。
 だが、ミネルバにとって、それ以上に気になることがあった。
彼以外、武器を造れる者が、いないということ。
 もし、仮に見つけたとしても、彼以上、いや、彼並の武器職人がいるかどうか。
それが問題だった。
「なんにせよ、はやく戻らなくっちゃ・・・・・・」
彼女が呟いたとき。
「左舷後方に船を発見!!!!」
 こんなときに・・・・・・。
溜息をつきながらも、彼女は甲板を目指した。


(79)〜そいつは〜

 太陽は、垂直に船をさしている。
一応、暗いところから明るいところに出る事は、慣れている。
 だが、その日差しの暑さに、なぜか身震いを覚えた。
そして、近くの船員に話しかける。
「敵襲か?」
「いいえ、おそらくただの連絡船かと思います」
 さきほどの叫びどうり、左舷後方に船が浮かんでいた。
非武装の連絡船。格好の相手だ。
 ただ、今は一刻も早く、帰ることを先決したいのだが・・・・・・。
「船長!!どうします?」
「もちろん、やっちまうよな?」
 血の気の多いこいつら。
ここで見逃して帰れば、こいつらが暴れるだけだ。
「しかし、早く帰って翁を弔いたいのだが・・・・・・」
「それじゃあ、これは翁への手土産だ、あのおっさん、俺らの手土産が、一番の楽しみだったろう?」
 時々、船にはとんでもないモノが積んである。
例えば、高価な物質や、良質の鉄。
 これらのものを使って、武器を造るのが、老い先短いあの老人にとって、なによりの娯楽だった。
「しょうがないな、ったく」
渋々頷き、ミネルバは立ち上がる。
「これより、高速巡航で船に近づく。狙撃隊は、アームストロング砲で威嚇、実働隊は第3、第6部隊。それに、私自ら出陣だ!!!」
 途端、歓声が上がる。
そういえば、自分が、非武装の船を襲うのに出るのは、先代からこの船を受け継いだとき以来だ。
「待機部隊は、第2部隊、それ以外は、非武装で待機していてもかまわん」
 最後の土産だ、翁。
心の中で、そう呟いた。
 だけど、それは違った。
この船に乗っていた、そいつ。
 もしかしたら、死んだ爺からの、最後のプレゼントだったのかもしれない。

・・・・・・・・・・???の視点で・・・・・・・・・・

 その日は朝から最悪だった。
まず、前日からの船酔いが、更に悪化していること。
 そして、夜も明けぬ内から、起こされたこと。
さらに、ベットの端に寝ていたため、そのまま頭から落ちたこと。
 赤ん坊が、いきなり泣き出したのだ。
低血圧なため、朝はかなり弱い。
 彼の今の天敵、船酔いには負けるが。
「勘弁・・・・・・」
 しかし、自分が父親である以上、世話をしなければならない。
いや、そのような義務感は感じていなかった。
 単なる親バカである。
ようするに、自分の子供が可愛いため。
「ほらほら、たかいたか〜い」
 本当に朝が弱いのか?と自分で疑うほどの豹変ぶり。
ほんの1ヶ月前、自分の妻に死なれたのだ。
 原因は、この子の出産。
元々体が弱かったため、医者からも止められていたが、無理に出産したための結果だった。
 覚悟していたというものの、あまりにもショックが大きく、見知らぬ地に移住し、心機一転、やり直そうと思っていた船旅だった。
いや、遠い昔、自分の友人と交わした約束を果たすためでもあったが。
 そう、あいつとの約束を。
「おっ、夜明けか?」
 すっかり、赤ん坊は泣きやみ、父親に抱えられ、スヤスヤ寝息をたてている。
小さい窓から差し込む。
 それが、彼の顔を露わにする。
綺麗な緑の髪に、同じ色の目。
 シンプルな白のパジャマが、彼の性格を現しているようだ。
ちなみに、彼に抱えられてる赤ん坊も、同じ髪と目だ。
「爽やかな朝だ・・・・・・」
 続きの言葉は飲み込んだ。
気分は最低だけど、とは。

 しばらくして、外が騒がしくなってきた。
身支度を整え、食堂に向かおうとしている矢先にだ。
「あの〜」
 ドアを開け、通路を走って行っている船員を呼び止める。
かなり走っているらしく、ゼェゼェ息をきらしていた。
「なんか、あったんすか?」
「大変です!!!海賊ですよ、海賊!!!!」
その日は朝から最悪だった。


(79)〜海を統べる者〜

「アームストロング砲第一弾装填完了、発射準備OK。ご命令を」
「よし、撃て!!!」
 第1弾が放たれた。
それは、ちょうど船首の真上を通り、海に入る。
 いつも通りの警告だ。
「次は当てるっていう最高の警告だな、これは」
 自分が考えたわけではない。
島に残っている、性悪男が考えた作戦だ。
 もちろん、心理的には効果大だ。
「船長、第2弾、装填しますか?」
「いや、いい。これ以上は玉の無駄だ」
 たぶん、あれでパニックに陥っているだろう。
船員がそうでなくても、乗客がそうなればそれでいい。
 船はもう目前にあった。
これで、あれが命中すれば完璧だ。
「鎖を放て!!」
 船首と船尾の部分、それと、側面に2本、鎖が突き刺さった。
先端にフックが取り付けてあり、そう簡単にはとれない。
 船のでかさでは、こちらが遙かに大きい。
こちらが止まれば、向こうも止まることになる。
 逆に、自分のこれからの進行方向に運んでいくのだ。
こうすれば、時間短縮一石二鳥。
 たいがいの船を襲うときは、こうだ。
「大丈夫です、外れません」
「よし、旗を上げろ!!相手が誰だか示してやりな」
「無駄な抵抗はよせ、ですね」
 ジェームスが、苦笑いをする。
そう、この旗をしらないやつも、そうはいないだろう。
 さきほどの大砲による恐怖、そして、縛り付けられた恐怖、最後に、その相手を誰かを知らせる恐怖。
「っしゃあ!野郎ども!!いくぞ!!!」
 ミネルバの号令と共に、船員たちは船に飛び移る。
たいていの部隊が飛び移った後、自分はお手製の頭から、全身をゆったり包む外套を身にまとい、さらに、右手に巻いてあるスカーフで、目の所以外を隠し、後を追う。
 ローブとスカーフを身につける理由。
じつに、くだらないことだが、本人が女だと思われたくないため。
 これは、ミネルバ自身の願いであり、船員全員の願いでもある。
本人の言い分。
 自分が、義父から男として育てられたため、その言葉遣いと容姿のギャップの違いが、オカマと思われるため。
船員たちの言い分。
 まさか、自分たち男(女の船員もいるが)が、女の下にいるとは思われたくない、と。
この船長と船員の意見の一致によって、この姿のシー・キングが生まれたのである。
「爺、これが、あんたへの最後のプレゼントだ」
そう呟き、降りていった。

・・・・・・???の視点で・・・・・・

 その日は朝から最悪だった。
海賊騒ぎですっかり船酔いは忘れたモノの、その船酔いを収めてくれた海賊がきている。
 別に、裏切られたとか、そういうようなものはないが、なんだか複雑なかんじだった。
甲板に向かう階段を上がっていく。
 右手にロングソード、左手に赤ん坊を持って。
まず、右手の方に握っているモノの理由。
 別に、戦う職業についているワケではない。
ただ、自分の友人が、その系統の職業についていたため、なぜだかわからないが「鍛えてやる」ということになり、一応、剣を扱えるようになったのだ。
 今では、それなりに役には立っている。
事実、こうして、自分の可愛い娘を守れるのだから。
 そして、左手の方に持っているモノの理由。
もし、船が沈められて、船室に行くヒマもなかったら。
 そう考えると、どうも手放すのが怖くなった。
もし、甲板に、自分の娘を預かったくれる人がいるなら。
 その人に預ける。
仮に、そのような人がいなかったら。
 抱えながらでも戦う。
そう考えているのだ。
「うっわ・・・・・・」
 甲板に出て、初めてその船を見た。
この船より、遙かにでかい。
 そして、それを睨んでいる船上の強者たち。
「あの・・・・・・」
 それからの言葉は、かき消された。
いきなりの轟音、そして、何かが上を通っていき、そして、どこかに落ちていった。
「おい、いまの・・・・・・」
「大砲だ、大砲!!!」
「そんな、嘘だろ・・・」
「沈まされるぞ、おい!!!」
 途端、混乱が起こった。
冒険者たちは、それでもなんとか堪えた方だ。
 だが、一般人は違う。
それぞれが恐怖にひきつり、絶叫する。
 我先にと、救命ボードに向かう者。
船室に向かい、何かをやりに行く者。
 他人に殺されるくらいなら、と、自殺をしようとする者まで・・・。
それを止める船員。
 なんとか逃げ切ろうと部下に命令を下す船長。
我が愛する娘も、この大騒ぎに、泣き出してしまった。
「おぉ、よしよし・・・・・・」
これでは、人に任せるどころの騒ぎではないな。
「よしよし、いい子だから泣きやんでくれ」
 そして、また異変が起きた。
何かが船から放たれ、それがこちらの船にひっかかった。
 船員や冒険者が、それを取り外そうと四苦八苦している。
「ダメだ、よっぽど深く食い込んでいる」
「こっちもだ。かなり精巧に造られているぞ、これは」
どんな力自慢のファイターでも、ダメらしい。
「あっ、あれは・・・・・・」
 1人のシーフが愕然としている。
目線は、マストの上方。
 それを、見た。
そして、全員が固まる。
 自分も、それを見て、固まらざる終えない。
そいつらしか知らない世界地図。
 それを背景に、前方には、人間の頭蓋骨、そして、両脇には、ある文字が刻まれていた。
「シー・キング・・・・・・」
 『海を統べるもの』その名が、刻まれているその旗。
そして、全員がそれに釘付けになったとき、船から、数々の猛者たちが降りてきた。
「よりによって、海を統べたもの、か。ハハッ」
その日は朝から最悪だった。


(80)〜互いの視点より〜

・・・・・・・・・・???の視点で・・・・・・・・・・

 その日は朝から最悪だった。
敵の数は約20程度(船から、それ以上の数が顔を出していた)
 対して、こちらは、40程度。
だいたい、冒険者が10と、船乗りが30で更正されている。
 もっとも、ボクはそのどちらにも所属しないが。
「降伏するなら今の内だ。どうする?」
 おそらく、リーダーらしき人─右手にハルバード、外套で全身をかくし、さらにスカーフで口元を隠すという変人らしきヤツ─が、叫んだ。
対するこちらは、船長がこたえた。
「降伏しようが、どうせ殺される運命だ。この命果てるまで戦ってやる!!」
それが合図となり、両者の戦いが始まった。
「あっ、結局預けてないや・・・・・・」
 左手に、娘を抱えたまま、戦う羽目になったらしい。
周りを見回しても、誰も彼もが戦っていて、それどころではないらしい。
「とりあえず・・・・・・」
 来たヤツだけを倒そうという、自己中心的なおかつ、非協力的な考えだが、それはそれでいいだろう。
そもそも、自分みたいな素人が切り込んでいったら、逆に迷惑だろうから。
「どこ向いてんだよ!!」
 早速、一人が来た。
小柄で、俊敏そうな体格。
 得物は、ショートソードの二刀流。
この場合、相手が勢いに乗ってくれた方がいい。
「おっとっと」
ひらりと一撃目をかわしたところで、もう一方の刃先が、こちらに向けられた。
「とっととと」
それを軽く剣で受け流す。
「ちっ!!」
相手は、なぜか悔しがりながら、同時に剣を繰り出した。
「よっこらしょっ」
 それを横に避け、すれ違いざまに足をかける。
そのまま、干し肉入れの樽に突っ込み、気絶した。
「ご苦労なことで・・・・・・」
 と、いっていたところ、また一人。
2メートルはあろう、その強大な身長と体格。
 さらに、本人の身長くらいはあろう、強大なバトルアクス。
この場合、どうやら相手が自爆するのを待った方がいい。
「うっそ!!?」
 振り下ろされたそれは、床をぶち破った。
あれを一発くらえば、おそらく真っ二つになる前に、つぶされてミンチにされるだろう。
「うおぉりゃあ!!!」
持ち上げられ、横薙ぎに繰り出されたそれを、屈んで避ける。
「のらりくらりとぉ!!!!」
 最後に、また振り上げられたバトルアクス。
思いっきり、隙だらけだ。
「よっと」
 手をポンと押してやると、そのまま倒れた。
バトルアクスの重さ+自分の重さで、床をぶち破り、どこかに消えていった。
「よかったなぁ。ここの下は、ちょうど船員の宿泊室だ」
 客室に落ちなくて良かったよ、と、思いつつ。
我が娘も、おとなしく眠っている。
 よかったよかった。
今、騒がれれば、おそらく、一気に緊張感が解けるだろう。
 そんなことをしてみろ。殺される。
次は、誰が・・・・・・!!?
「ほっ!!」
 不意をつかれた一撃。
だが、最初から当てるつもりはなかったらしく、髪を2,3本切られる程度で終わった。
「よりによって、ねぇ」
 次の相手は。
おそらく、この隊のリーダーであろう、あの変人だった。

・・・・・・・・・・ミネルバ・メグリアーザの視点で・・・・・・・・・・

「降伏するなら今の内だ。どうする?」
 もちろん、降伏する意志のある者を、殺すつもりはない。
だが、どこでそのような噂が流れたかしらないが、降伏しても殺されるという、噂が広まってるらしく、
「降伏しようが、どうせ殺される運命だ。この命果てるまで戦ってやる!!!」
 このような答え、いったい何回聞いたことだろうか。
まったく、本当に殺すつもりはないんだけどねぇ。
 そして、戦士たちがこちらに向かってくる。
部隊全員からの目線を感じ、軽く頷く。
 こうして、闘いが始まった。
「とりあえず・・・・・・」
 こっちに向かってくる命知らずだけを相手にしよう、この自己中心的なおかつ、部下想いでない船長を持って、なんとかわいそうな部下たちだ。
「さっそく、か」
 赤いアーマーを着て、2メートルのロングソードを手にした男。
振り下ろされた剣を、槍の石突きで受け止め、反転させ、斧の部分で武器を大破させる。
 たじろいたところで、指を弾き爆発を起こす。
海に落ちていったファイター。
 運が良ければ、助かるだろう。
ちなみに、一歩も動いてはいない。
「あっ、次こねぇな」
 どうやら、先程の光景を見て、襲うのをやめたのだろう。
まったく、つまらない・・・・・・。
「うん?」
 どこかで、ものすごい音が聞こえた。
音源を調べていたところ、誰かが樽に突っ込んでいる。
「こっちのヤツか」
 続いて襲っていった、バトルアクスの男。
対するやつは・・・・・・。
 緑の髪に緑の目。
右手には、ロングソードを持ち、左手に、何かをかばいながら持っている。
 何を、かばっている?
そのうち、こちらの船員の方が、落とされた。
 両方とも、相手の武器の短所を良く知り、それを利用して戦っている。
「じゃあ、ハルバードの短所も知っているかな?扱う相手が私でも」
 久々に、変わった相手に会った。
いっきに歩いて行き、一振り横薙ぎにかます。
「よりによって、ねぇ」
 相手のあきれた声。
そして、爺の最後のプレゼントが贈られることに。


 1999年9月03日(金)20時24分04秒〜9月19日(日)19時27分投稿の、PIECEさんの長編「闇を知る者」(71〜80)です。

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