エンジェルリングとダークリング(1)

(1)〜エンジェルリング〜

 何よ何よ!あんなヤツ大っきらい!
 わたしの怒りは絶頂に達していた。わたしの言うあんなヤツというのは言わずとしれたトラップだ。
口が悪くて、逃げ足早くて、パーティのトラブルメーカーで、そんなヤツだけど・・・。
「待てよパステル!」
 トラップが追いかけてくる。
 でも、わたしは無視して走った。
 嫌いなはずなのに・・・なのに・・・涙がとまらない。
 やっぱりわたしは好きなんだ。
「パステル?」
 聞き覚えのある声。
「クレイ・・・?どうしたの?」
 わたしはぐいっと涙を拭いて訊いた。
「あのなぁ、どうしたのっていうのはパステルの方だと思うけど・・・?」
「え?ああ、そうだけど、・・・・・・・・」
 痛いところをつかれて慌てて口ごもる。
 言えるわけないじゃない、泣き顔見られてて。
「さっきトラップがパステル探してたんだぜ」
 聞きたくない!トラップのことなんて・・・。
「指輪買ったらしいけど、そのジュエリー店の女の子に捕まってな。けどあいつ何て言ったと思う?」
「・・・」
 わたしは無言で首を振る。
「それは、自分で聞いてみろよ。俺がヤツの手助けできるのここまでだからな」
「えっ?ちょっクレイ・・・?」
 クレイは顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
 手助けってどういうこと?グルだったの?
「パステル!」
 すぐ目の前にトラップがいた。
 逃げようと思ったけど彼がわたしの腕を離さない。
「今の子とは何でもねぇよ!勘違いするなよ」
「でも・・・、鼻の下のばしてヘラヘラしてたじゃない?」
「いや、ああそうだっけ?」
「とぼけないでよ!」
 八つ当たりしそうな自分が嫌になってきた。
「悪かったよ、でもおれはお前しか嫌なんだよ!」
 大胆な告白にわたしは顔が火照っていくのがわかった。
「わたしだってトラップしか嫌だよ、絶対他の子といるの嫌だもん」
 トラップはその言葉を聞くとわたしに何か差し出した。
「開けてみ」
 それはクレイの言っていた指輪だった。
「ありがとう!わたしずっと大切にするからね」
 いつの間にか涙も止まっていた。
 
 その時はまだ知らなかったんだ、その指輪の秘密を・・・。


(2)

 フフフ、顔がにやける、わたしはパステル。
 この前トラップにもらった指輪が宝物なの。
「おい、そっち気をつけろよ!」
「うんわかってる」
 今、わたしたちはロンザ国に召喚モンスターが発生したからそのモンスターを排除するために来ている。
 実は騎士団の人...そう、クレイのお兄さんに頼まれたことなんだけどね。
 それで、わたしたちは今声のする方に駆けつけている。
 誰かが戦ってるようなのだ。
 人一倍正義感の強いクレイは、
「心配だから行ってみよう!」
 という言葉により動いている。
 わたしはルーミィにさっと魔法を言えるようにメモを取りだした。

「ちょっと、あんたの魔法でなんとかならないの?」
 銀色の髪の美女が怒鳴りつける。
「あのねぇ、だったら静かに攻撃しててよ。呪文が言えないじゃない」
 美女とは対照的にかわいい少女...?は呪文を唱え始める。
 でも、古代呪文なのかなんて言ってるのかわからない。

「どうやら女二人のようだぜ、かなりいい線いってるよな」
 もう!トラップったらどこ見てんのよ。スケベなんだから。
「ねぇ、キットン。あの獣人載ってないの?」
 わたしは図鑑を広げているキットンに訊いた。
「それがですねぇ、リズーみたいなようなものとしか。
ああ!もしかしたら新種のモンスターかもしれない!早速スケッチしなくては」
 もう、キットンまで...。
「くりぇー、どうすんのかぁ?」
 ルーミィが可愛い声で訊いた。

「全く...どうしてあたしがこんなことしなきゃいけないのよ?後でたっぷりとアルテアとイムサイに嫌味を行って来ないと気が済まないわ!」
 美女は獣人相手にレイピアで応戦しながら言った。
 あれ?どこかで聞いたことあるような名前...。
「どいて!準備いいよ。あなたがマジカルファイター転職してて良かった」
 少女が獣人に手をかざすと赤い光が獣人を包んだ。
「大丈夫、おびえないで、怖がらないで。戻りたいんでしょ?ちゃんと戻れるよ。ほら、......さよなら......」
 少女が微笑むと獣人はスゥゥと空の彼方に消えていった。

「すげぇ!」
「わたしもはじめてみましたよ。あんな技は人間技ではありませんね。古(エジェント)エルフぐらいでしょうか?でもすごい魔力ですね」
 キットンはさらに興奮して言った。
 へぇ、魔法ってすごいよね。

「いつも思うけどあんたの魔力って無限大?無尽蔵?」
「まぁまぁ、もう終わったんだからいいじゃない、早くアルテアとイムサイの所に行かないと。アルテアは短気だから怒るよ?」
「ふぅ、本当にあんたといると神経使うわ。そこの茂みの気配くらい気づきなさいよ!」
『えー?』

 叫んだのは、少女とわたしたち。
 今思い出したけどアルテアとイムサイってクレイのお兄さんだぁ!!
「ど、どうするの?」
 確認するかのようにわたしが言うとみんな「仕方ないよ」って感じで茂みから這い出た。

「ふーん、あなたがアルテアとイムサイの弟?あんまり似てないわね」
 美女――エレンが言った。
「ちょ、ちょっと。本当のこと言ったら可哀相だよ...」
 少女――フェリアの言葉の方がクレイにとっては可哀相なのだが気づいてないようだ。
「くりぇー?何か変だお?ねぇどうしてママがいるの?」
 ルーミィが素朴な疑問を言った。
「あら?フェリア、まさか子持ちだったの?」
 エレンがからかうと、
「ちょっと待って。ルーミィちゃん人違...でなくてエルフ違いだと思うよ。悪いけどわたし子供はいないから」
 フェリアがルーミィに小さく謝った。
「その割には子供慣れしてるわよ?」
「すみません...」
 わたしが謝ると「いいのいいの」とエレンが答えた。
 フェリアは慣れているのかエレンが答えたことに何も言わなかった。
 でも、すごいよね、二人とも。
 冒険者カードも見せてもらったんだけど。

エレン−マジカルファイター(魔法戦士)−26歳−レベル21
フェリア−魔法使い−推定年齢不明−レベル17

 こんなかんじで、エレンは風の精霊使い(エレメンタラー)だったらしい。
 それとさっきのモンスターは召喚モンスターだった。

「ああいうのを使うのは、魔法使い、エレメンタラー、魔術師、なんかなのよ。もしかしたら、闇の指輪(ダークリング)を持っている者...。そうなったら光の指輪(エンジェルリング)しか対抗できないでしょうけど」
「どうも、ロンザにしか現れないの。もちろん、そのまま倒しちゃえば経験値につながるけど、また人を憎んで召喚されるのがオチ。だから、さっきみたいに召喚されないようにモンスターを清めてもとの世界にかえしてあげてるの。それをアルテアとイムサイに依頼されてこうしてきてるってわけ」
「仕方ないわよ、だって昔のパーティだし、ロンザ国で起こってるんだから。あたしが行かなくてどうするのよ?」
 エレンはさも得意そうに言った。

 そっかぁ、でもわたしたちに何ができるのかな?
 
 ダークリングという言葉にわたしの宝物が光ったことにわたしは気づかなかった。

 結局、そのままエレンとフェリアがパーティに入ってくれてにぎやかになった。
 さすがにレベルが高いと召喚モンスター以外はほとんど雑魚モンスターだった。
 まだ、依頼者への道のりはずいぶん遠い...

                     *つづく*


(3)〜王女2〜

「ちょっと!なんであたしがこんなことしなきゃいけないわけぇ?」
 エレンの叫びが森中に響いた。
「もう、エレン。そんな大声だしたらモンスターがでちゃうじゃない」
 フェリアがつっこむがエレンはそっちのけ、プンプン怒りだして、とうとう知らぬふりをした。
 たまたま森の中にある村についたわたしたち。
 でも、彼らとの通貨が違うためここでは無一文だったの。
「仕方ない、エレン抜きでやろう」
 クレイが言うと即座にトラップが反対した。
「待てよ、ロンザの王女かなんだかしらねぇけど俺だって薪割りなんてやりたくねぇよ。王女だろうと何だろうと仕方ねぇじゃんか」
 おいおい、王女様に向かって失礼な...と思ったけど、エレンって王女に見えないんだよね。青のローブがドレスだったら見えるかもしれないけど。
「何ですって?あたしが楽してるって言うの?」
「ああそうだよ、だったら薪割りしなくてすむようにでもしろよ!」
 トラップも相当薪割りが嫌なのかエレンに八つ当たりしている。
「と、止めなくていいの?」
 黙々と薪割りをしているフェリアに声をかけると彼女は手を休めもせず、
「無駄無駄、どうせエレンは楽しんでるから。ほら、パステルちゃんもやらないと日が暮れるよ。結構楽しい物ね、薪割りって」
「え?あ、あはは。そうね」
 わたしは適当に合わせて笑った。
 フェリアってちょっとおボケさんなのかな?薪割りが楽しいって...。
「ちょ、ちょっと待って?楽しんでるって...」
「ん?昔ッからエレンはああいうのだから慣れてるよ。トラップに本気になるばかじゃないって」
「と、トラップが本気だったら?」
 でも、フェリアは首を傾げただけで何も答えず薪割りを続行した。
「いいわ、そんなに言うなら何とかしてあげるわよ。1000G賭けなさいよ!」
「おう、いいぜ!」
 売り言葉に買い言葉、ってトラップ、1000Gなんていうお金誰が出すのよ?
 うう、こういうときってエレンを応援するべきなのかしないほうがいいのかわからない。
「えりぇん、どうすんのかぁ?」
 ルーミィが訊くと、
「こうするのよ!」
 と言って村の中に飛び込んでいった。
 一体何をする気なんだろう?

「何だ?薪割り終わったのか、それじゃ次はその薪をむこうの納屋へ運んどいてくれ」
 エレンの姿を見るやいな、村の男は別の注文をした。
「今時この村で無一文なんて珍しいもんだ。まぁ、この前みたいにロンザの騎士団なんかが来てくれればあんたらみたいなやつでも歓迎してやるがな」
 別の男があざけ笑った。
「あたしがロンザの王女だったら?」
 エレンはかすかに笑みを浮かべて言った。
「まっさかぁ!そりゃあんたみたいなべっぴんさんは初めてだけんど王女なら証拠をみせてくれないとなぁ」
「証拠?例えば?」
「そうだなぁ、王女の身分証明書とか?」
「これでいい?」
 エレンがロンザの紋章の入ったペンダントを見せると男達は目をひんむいて見た。
「あ、あんた本物の王女様だったのか?」
 確認するように訊く男共をエレンはうざったそうに払いのけながら言った。
「そうよ!あたしはシルミア=エルミナン。ロンザの王女よ、この村で一番偉い人をだしなさい!」
 ビシィィっとエレンが言うと一人の女がさりげなく出てきた。
「私がこの村を...いえ、ここはサナトリウムだったのですが、ここをまとめている者です」
 女はまだ若そうだ...10代後半か20...。
「ただものじゃないわね?」
 エレンは顔をしかめた。
「ええ、一応」
 女はにこやかに笑った。
 
 肌は透き通るように白く瞳は紫水晶の色。
 ふたつの編み込んだ髪は真っ青でどこか寂しげだった。
 エレンのおかげでわたしたちは薪割りから逃れることができ、1000Gとられてしまった。
 そしてここはその偉い女の人の家なんだけど、すごい量の医療器具が並んでいた。
 そういえば、サナトリウムだったんだっけ?最近は結核の治療法も見つかってほとんどそういう施設はなくなったけど。
「すばらしい!こんなに良い診療所は滅多にありませんよ。失礼、あなたは一体?」
 キットンは興奮しながら言った。
「私はエルティシカ・M・ディッセル。薬師で、司教をつとめています。一応冒険者なんです」
 女は紅茶を差し出しながら言った。
「司教って?」
「教会に司祭様がいらっしゃるでしょう?彼らは神官という職で、一番偉い方から順に大司教、司教、大司祭、司祭、神官という位で神に仕える人のことを言います。......難しかったですか?」
 つまり、二番目に偉い人ってわけね。
「司教様、ここにロンザの騎士団が来たんですよね?」
「ええ、来たわ。そうそう、これを渡して欲しいと頼まれていたの」
 彼女はそう言うと二枚の封書を取り出してフェリアとクレイに差し出した。
「アルテアからだ(わ)...『ええ?』」
 二人とも同時に叫んで驚いた。
 まずは、クレイの方。

「そたっれきらゅやうがにいきさてむくいれ。」
 その後にリバース記号とスキップの絵がついている。

 そしてフェリアの方。

「くるすてしけにつきををぐつんけりろく、ーもだしがかつしいたそら」
 その後に同じようにリバース記号とスキップの絵。

「暗号かな?」
 ノルがボソッと言った。
「でも何で暗号なんか使うんだ?」
 トラップが首を傾げて言った。
「アルテアがこんな手のこんだことするわけないわ!もしかしたら、よっぽど重大なことがあったのかもしれないわね」
 エレンも頭をかかえこむ。
 暗号かぁ...、謎解きってわくわくするよね?わたしはこういうのって好き。でも、今はそんなこと言ってられない。
「よし!解読しながら兄貴たちのところへ行こう!」
「あの...私も手伝います」
 司教さんが遠慮がちに言った。
「でも、村のみなさんはどうするんですか?」
 クレイが訊くと、
「大丈夫、ここは私がいなくても成り立っていけますから」
「そうですか?」
「ええ、それに誰かの役に立ちたいんです。薬草代わりに連れていってくれませんか?」
「それはもちろん。薬草代わりなんか...」
 クレイが言うと司教さんはニヤリと笑った気がした。でも、次の瞬間にはもとの顔に戻っていた...

                 *つづく*


(4)〜司教の真実〜

 わたしたちは乗り合い馬車に乗り込んでいた。
 でもね、ほとんど貸し切り状態。だって、総勢8人と1匹だもん。
 馬車での様子はこんな感じ。
 ノルとクレイが御者さんの隣に乗って何か喋ってる、ルーミィとシロちゃんは寝てるし、キットンはまた何かの図鑑を広げている。
 トラップとわたしは暗号解読、司教のエルティシカさんは遠くをみつめて祈ってる。
 フェリアとエレンも暗号解読をしているけど青ざめた表情でお互い言葉発しない。
「おたくら、なんか解けたのか?」
 トラップが言ったけど、彼女らは顔を見合わせて困惑した表情をうかべただけだった。
「解き方はわかったの......でも、内容が信じられなくて」
 少し間が有ってからフェリアが言った。
「あたしは最初から変だと思ったけど、もう後戻りできないわね。証拠を見つけても取り上げればなんとかなるでしょうけど」
 エレンが司教さんを睨んだ。
「何かありました?」
 視線に気づいた司教さんがゆっくりと微笑んだ。
「あなた、あの暗号見てないわよね?」
「?、どういうことです、疑っていらっしゃるのですか」
 待って、いったいどういうこと?
 強い眼差しで睨むエレンと何かを秘めたような瞳の司教さん。
「フェリア、どういうことなの?」
「......。一文字ずつ読んで次は後ろから読んでみる...これがスキップとリバースの意味」
「なるほど!そうなると
そ つ き ゆ う に き て く れ 。 い む さ い が や ら れ た
速急に来てくれ。イムサイがやられた、大変じゃねぇか!!そんでそっちは?」
 トラップが興奮しながら訊くとエレンが答えた。
「薬師に気を付けろ、もしかしたらそいつがダークリングをつけてる。
つまり薬師であるエルティシカが妥当と思うけど?」
 言葉に反応したのか今度はキットンが口を挟んだ。
「でも、私も薬師ですよ?あ、その上に自称がつきますか。ぎゃははははは」
 あんたねぇ、笑ってる場合じゃないでしょ!
「何のことかサッパリなんですけど、半分ぐらいはそうですね。私はエンジェルリングをつくった本人ですから。
そう、パステルさんのつけてるその指輪がそうなんです。
 私はそれと同時にダークリングもつくりました」
 なんか、わたしの方がわけわかんないんだけど。何なの?エンジェルリングって。
「一体どういうものなんですか?私達何にも知らないで巻き込まれてるんですよ?」
 キットンが訊くと、3人...つまりフェリアとエレンと司教さんはため息をついた。

「何年か前に、そうねパステルよりちょっと上ぐらいの時にあたしとフェリアとアルテアとイムサイであるクエストに出たのよ。
 すごく難しくて一時はまた全滅するかと思ったわ。
 そのクエストっていうのがエンジェルリングとダークリングを回収することだったのよ。
 エンジェルは光、ダークは闇、お互いがうち消す能力を持ち破壊してしまう物だった。
 でも、破壊できずロンザの厳重金庫に保管していたはずなのに誰かがその金庫を破壊したってわけ。
 だから、これで二度目なのよ。もちろんただの指輪じゃないからそれなりに強くなってるし、装備した人の能力を上げる働きを持ってると思うわ。
 エンジェルリングの方はパステルが持ってるから回収できるけど、ダークリングは誰が持ってるかわからないのよ。
 それを、騎士団も陛下も探してる...ダークリングは想像以上に強くなってるわね。召還能力が芽生えてるとは......」
「あたしたちの場合、回収した経験があるとはいえほとんど運のようなものだしね。
 たまたま落としたのを拾ったんだから。
 それで、どうしてあのリングをつくったの?」
 フェリアが司教さんに訊いた。
「一種の気の迷いというか...魔の手があったんです。
 私は多くの人を助けたくてエンジェルリングをつくりました、しかし、つくったあとに人々が求めてきました。
 『俺にくれ、私にくれ』でも、ひとつしかないこのリングを奪い合い人は殺し合った。
 だから壊すためにダークリングをつくって破壊しようとしたんです。しかし力が強すぎました。
 無駄な努力でした。両方とも人の生命を奪ったのですから......
 私はこの二つのリングを地中に深く埋めたのです。でも掘り返されてしまったのですね。
 私には人の命を救うことはできなかった...つくらなければよかった。
 ダークリングを破壊するにはエンジェルリングを強化しなければなりません、でも、また繰り返すのが怖くてできません。
 だから、私はパステルさんたちと一緒に行動しようと考えました......
 もう、司教じゃないですね、そのうちに天罰がくだりますもの」
 しかしフェリアが否定した。
「あなたは司教よ、決して間違った訳じゃない。人を救おうとしてのことなんだから素晴らしいじゃない?もっと自分に自信持って!
 どう?あたしたちと一緒に来て。...ってこのパーティのリーダーなんかじゃないんだけどね」
 ごもっとも、リーダーはクレイであってフェリアじゃない。それにこの人(エルフ)童顔だからかわたしより年下に見えるんだもん。
 まぁ、言ってることは大人っぽいから年上なんだろうけど、あまりにもぼけて...
「どうしたのパステル?あたしのこと考えてたみたいだけど」
「え?あ、何でもない。あはははは...」
 いきなし本人に言われたらねぇ、けど、本当に不思議なエルフ。
 この人(エルフ)、わたしの考えてることなんでわかったんだろう?

                   *つづく*


(5)〜エルフとエルフ〜

 一応わたしたちはアルテアさんと負傷したイムサイさんの所に向かってるけど、今いる所ってセラファム大陸なんだよね。
 たぶん、騎士団の人たちもルートが同じだったんだろうけど。
 相変わらず、乗り合い馬車でコーベニアに向かっている・・・、司教さんはエンジェルリングを強化中。
 キットンも相変わらずぶつぶつやってるし、トラップとエレンは何か冒険談を話してるし、クレイとノルも御者さんの隣でまだ喋ってる。
 暇なわたし、......フェリアはルーミィとシロちゃんの相手をしてる。
「ぱーるぅ、えりあってるーみぃとおんなじなんらね」
 えりあっていうのはフェリアのこと、『フェ』という発音がルーミィには難しいらしい。ちなみに、エレンはそのまま司教のエルティシカさんはエリカって略してる。
「同じ?ああ、エルフってこと?」
「そうらお、るーみぃもえりあみちゃいになりぇりゅ?」
 今度はフェリアに訊いている、そうそうルーミィったら最初フェリアのことママと間違えたんだ...本当は山火事で全滅したんだけど。
「どうかなぁ、あたしより強くなるかもね。こんなにちっちゃいときに冒険者なんだもの、どうして冒険者になったの?」
 顔を低くしてフェリアは訊いた、子供慣れしてるよこの人・・・。(小さい子を相手するときはなるべくかがんであげると子供は怖がらないのです。子供は大人を壁と考えて怖がるんだそうで...*有希*)
「えっとぉえっとぉ、るーみぃのママとわかえちゃってぱーるぅとあってぇ......」
 それからルーミィは口をつぐんでしまった。
「ルーミィは山火事でたぶんみんな全滅しちゃったんです、それで、泣いてるところをわたしが見つけてクレイとトラップとエベリンまで行って冒険者テストを受けて一発で合格したんだよね、ルーミィ?」
「......」
 無言でルーミィは頷いた。
「それってズールの森......?」
「うん」
「そう......やっぱり。ルーミィちゃんごめんね。でも...あ、ごめん何でもない」
 フェリアまで口をつぐんでしゅんとしてしまった。
「大丈夫デシか?......パステルおねーしゃん、フェリアしゃんとルーミィしゃんって同じデシね」
「え?」
 シロちゃんの問いにびっくりした、今まで気づかなかったんだけど。ルーミィって銀色の細い棒みたいな物持ってたんだよね。
 フェリアにも同じのがあって、やっぱり腰の辺りにくくりつけられてる。
 そのことをわたしが訊いたら、
「これ、エルフ族の文字で名前が彫ってあるの。たぶんルーミィちゃんのもあると思う」
 早速わたしはリュックから取り出してみる。奥の方に入れてあるから取るのに時間がかかったけど、なくしてなくて良かった。
「ほんとら、ぱぁーるみてぇ。こえるーみぃってかいてあるぅ。こっちはふえりあ...えりあのことらお!」
 すっかり機嫌良くなったのかルーミィはぴょんぴょん飛び跳ねた。
「でも、それって読めないわよねぇパステル?あたしなんか最初古代文字かと思ったわよ」
 トラップと喋っていたエレンが割り込んできた。
 確かに読めない......でもルーミィにはなんで読めるんだろう?
「古代文字なんて失礼な!ちゃんとした文字なの。ったくぅ、アルテアとイムサイも同じこと言う始末だし。エレンが一番ひどいけど」
「何よ?わかった!傷って言ったことでしょ。だってあれはそうにしか見えないわよ。それのどこが文字なの?」
「傷なんてついてるわけないじゃない!毎日手入れしてるんだから」
「あら、そんな姿見たことないわよ?」
「エレンが爆睡してるときよ」
「ああ、だから夜中にするからお肌が荒れてるのね」
「うるせぇなぁ、おめーらテンション高すぎエリカの邪魔になるだろ?」
 割り込んだのはトラップ、耳を押さえて銀の棒をしげしげと眺めながら言った。
「それなら今終わりましたから、大丈夫ですよ。はい、パステルさん。前より何か感じたら言って下さいね」
 司教さん、改めエリカさんにわたしはエンジェルリングを受け取った。
 前よりなんか重く感じるけど苦にはならなかった。
「ちぇ、タイミング悪いの」
 トラップったら何考えてたんだろう?舌打ちしている。
「なぁにがタイミング悪いのよ、あんただって同じでしょ?せっかく楽しいときだったのによくも邪魔したわね?」
 エレン?あんたも何考えてるの一体......。
「どこが楽しいんだよ」
「楽しいじゃない!フェリアを潰すのに」
「けっ、やなヤツ」
「あんたも相当やなヤツよ!」
「あのさぁ、あんたってのやめてくんない?」
「うるさいわね、本名で呼んじゃだめなんでしょ?」
「だぁらトラップって愛称があるんじゃねぇか!」
「あら、愛称だったの?変なの!」
「むかつく、この女!!ぶっとばしたい」
「あんたにぶっとばされるようなあたしじゃないわよ、返り討ちにしてあげるわ。それにリングあんたがパステルにあげた張本人じゃない!」
「お生憎様、おれは宝石店で買ったんだぜ?知るかよ、んなもん!」
「その宝石店の名前なんていうのよ?」
「調べてなんになるんだってんだ?」
「ばかねぇ、そこでリングを辿るのよ、もしかしたらダークリングも見つかるじゃない!」
 ここまで来て両者ともはぁはぁと肩で息をした。
「エレンもばかね、最初っからそうすればよかったじゃない!」
 フェリアが水を渡しながら言ったもんだからトラップの怒ること怒ること。
 でも、怒鳴る気力もないって感じでエレンを思いっきり睨んでた。
「今、気づいたんだから仕方ないじゃない!」
 エレンの方はまだ怒鳴り足りないみたいだけど、この人達いい勝負よね、フェリアやクレイのお兄さんたちも手を焼いたんだろうな。
「いつものことだから」
 なんてフェリアは言うけど『いつものこと』ってやばくない?
 
 その時馬車が止まった。
 クレイがドアを開けて場違いなほど明るい声で言った。
「コーベニアに着いたぜ!」
                        
                     *つづく*


(6)〜ラズベリー館〜

 わたしたち―クレイ、トラップ、キットン、ノル、ルーミィ、シロちゃん、わたし(パステル)、エリカさん、フェリア、エレンの総勢9人と一匹は負傷したというイムサイさんと合流して、依頼者のアルテアさんがいるロンザ国に戻るため今、コーベニアに来ている。
「イムサイ・・・ここにきてないかなぁ? 負傷しているんだし・・・・それに召還獣もロンザだけではないみたいだし」
 フェリアが心配そうに呟くと、
「案外、女の子に囲まれているんじゃない?」
 エレンがしらっと言った。
「占ってみます?」
 エリカさんがにこにこしながら訊いてきたけど丁重にお断りした。
 だって二日もかかるんじゃねぇ・・・
「それじゃ、俺とトラップとキットン、ノルとエリカさんとエレン、パステルとルーミィとシロとフェリアで分かれて探そう」
「集合場所は、港の方がいいんじゃない?」
 エレンが提案するとクレイは頷いて賛成した。
 わたしはちょっとトラップと同じ班じゃなかったのが気に入らなかったけど、仕方ないよね。

「イムサイさんってどんな人だったっけ・・・?」
 わたしは一度しか会ってないからなぁ。
「う〜ん、あたしももう3年ぐらい会ってないからわかんないけど。でもあんまり変わってないんじゃない?」
 そっかぁ・・・。ってわたしが会ったのは半年ぐらい前のことだからフェリアよりかは知ってる感じなのかな。
「ぱぁーるぅ、おなかぺっこぺこだおぅ!」
 ルーミィがまた得意の台詞を言ってきた。
「ええ?さっきビスケット食べてたじゃない」
「らって、とりゃーにすこしとられたんらもん」
 もう、仕方ないなぁ・・・・
「探すついでだし、どこかはいろっか?」
 わたしがフェリアに提案すると彼女は思い出したように言った。
「あ!!そうそう、もしかしたらラズベリー館っていう喫茶店によく行ったんだけど、もしかしたらいるかな」
「わぁーい、ぱぁーるぅ、はやくいこう!!」
 ルーミィったらイムサイさんを探すよりも食べる方のがいいらしくシロちゃんを抱きながらぴょんぴょん飛び跳ねた。
「目が回るデシ・・・・」

 その「ラズベリー館」というのは、港の近くにあって文字通りラズベリーが綺麗に飾ってあった。
「お久しぶり、マスター」
 フェリアがドアを開けて開口一番にこういった。
「おや、フェリアちゃんじゃないか。また少しきれいになっちゃって。彼氏でもできたのかい?」
 マスターは女の人だけど、ドーマのハンナおばさんといい勝負っていうぐらいの迫力はある。
「そんなんじゃないって。ところで、ここにイムサイ来てない?」
「ああ、あの騎士になった子だね。すいぶんたくましくなったもんだね。あの子ならいつも両手に花を添えてこの店に来るよ。ええと、もうそろそろだと思うけどね。さぁさ、立ち話もなんだから、奥にお座り。そこのお嬢ちゃんたちも。何にする?」
「パステル、ここのマスターはね、女一人でこの店を経営してるの。ここのメニューはみんなマスターのオリジナルなの」
「へぇ・・・それじゃ、このBセット下さい」
 両手に花・・・ねぇ。やっぱりエレンの言ったことはあたってたんだ。
「はい、それじゃフェリアはいつものでいいのね?」
「うん。それでいいよ、それからシロちゃんにも何かあげて」
「はいよ、つもる話もいろいろとあるだろうしね。ゆっくりしてお行き」
 マスターはそういうと厨房に戻っていった。
「綺麗な店だね」
「うん、この店ねあたしたちの想い出の店なの。そのことは、今度話すとして。ねぇ、パステル?」
「何・・・?」
「貴女、トラップからその指輪を貰ったのよね? その時何か身の回りがおかしくなったことはなかった?」
「ええ・・・。いや、何にもないけど。でも、どうして?」
「前の時にね、エレンが指輪を付けたらあたしがエレンに襲いかかってたの」
「・・・・!? どういうこと!?」
「わからない。でも、何かあったらすぐ知らせてね」
 フェリアが深刻な顔で言うと、わたしはおずおずと頷いた。
「はい、お待ちどう!BセットとCセット。それからワンちゃんには骨付き肉ね」
 マスターが料理を運んできて、フェリアの隣に座った。
「ちょっと聞いておくれよ。最近いろいろなことが起こり始めたんだけどねぇ・・・」
「どうかしたの?」
 フェリアが訊くと、マスターは「実は・・・」と話し始めた。


(7)〜ラズベリー館2〜

 わたし(パステル)とルーミィ、シロちゃん、そしてフェリアでマスターの話を聞いていた 。
「確か・・・一週間くらい前だね。エベリンとの流通も突然途絶えてしまったのさ」
「一週間前・・・ってことはあたしたちがアルテアたちに依頼書を受け取ったときだわ」
 しかめっ面の無表情でフェリアが呟いた。
「それで、噂ではロンザの秘宝が盗まれたとか、伝説の生き物が現れたっていう話さ」
 召還獣・・・のことね。
「まぁ、ロンザにだけ現れてるならここらはいいかと思ってたけど、2〜3日前からこの大陸にも現れたとね。そこで来たのがイムサイだったのさ」
 それじゃ、もう少しでアルテアさんに追いつける・・・かな?
「イムサイに聞いた話だとアルテアより後から駆けつけたそうでね。その伝説の生き物をやっつけたのはイムサイだったんだろうね。騎士で残ったのはイムサイただ一人だった。おかげで彼は右手半分が麻痺してる」
「麻痺!!?」
「でも、待って。エリカのところまではアルテアとイムサイは一緒にいたのよね・・・そう、そうだわ。本人に直接聞けばいいのよね」
 フェリア〜〜・・・なんか抜けてるのよね。この人。その分ではエレンのがしっかりしてるのね。
「パラライズの解除魔法は・・・・でも、こんなの効くかしら」
「でも、フェリア。医者でも魔法でも治らなかったんだよ。そのことでイムサイは落ち込んでる・・・」
 マスターはふっと顔を曇らせて呟いた。
「そんなのやってみなきゃわからないよ!!」
 フェリアが立ち上がって言ったと同時にラズベリー館の扉が開いた。

「なんだ、フェリアじゃないか。お前よくここがわかったな」
 入ってきたのはイムサイ・・・とその取り巻き連中。
 本当にけが人なんだろうか?
「なんだじゃないわ! ところで、その女の子たちは何なの? だいたい怪我をしたからこっちは心配して来たのに」
 フェリアが怒ると取り巻き連中の一人が言った。
「あらん、何年ぶりかしらん。リーゼルよん、お・ぼ・え・て・る?」
「げっ・・・貴女こんなところで何やってるの?」
 言ったのはフェリアじゃない。後ろから入ってきたエレン・・・とエリカさんとノル。
 たぶん、リーゼルっていうのはフェリアたちの知り合いかな・・・。
「まぁ、貴女生きてらしたのん? 何って決まってるじゃないん、イムサイさんのか・ん・ご・よん」
「あ、そう。そんなの一生かかってもあんたには無理よ。それで、ちょっとイムサイ。あなたは何やってるのよ?」
 エレンとフェリアにつめよられてイムサイさんはちょっと言いにくそう・・・。
「もう・・・騎士なんて無理だろ。こんな腕じゃ・・・動かないし。だから・・・・・・」
「だから何なのよ? 貴男言ったわよね、騎士になるのが夢だって。代々騎士の家系だから騎士になりたかったわけ? なりたくてもなれない人だっているのよ! たかが怪我じゃない、そんなのであきらめる? 何がしたいのよ、貴男こんなチャラチャラしてて。最低の男ね」
 ちょっとちょっと・・・エレン、それは言い過ぎじゃ・・・・。
 
                    *つづく*


(8)  〜治癒〜

 気まずい雰囲気が流れてる。
 両者――エレンとイムサイさん――とも睨み合ったままだし。
 こっちでも――フェリアとリーゼルさんたち――なんか危ないし・・・。
 状況がわからないわたしたちは何もできない。
 いや、一人だけ止めてくれた人がいた。
「悪いんだけどねぇ、この店あたしが知ってる人しかいれない主義なのさ。そこの派手な連中はとっとと出てっておくれ!」
 しっしと犬猫を追い出すように言ったのはマスター。
「な、なんですってぇん? あたくしいつもここにきてますわん」
 反論したのはリーゼルさん。
「でも、このラズベリー館は10人しか椅子がないんでね」
「あたくしを入れて10人よん?」
「そこの巨人族がいるからね、さぁ、とっととお行き!!」
 すごい。マスターって本当は怒らせると怖いのかも。
「(むかっ)・・・いいですわん。今度この店を買い取るからん」
 扉越しにリーゼルさんたちが叫んだ。
 ふぅとため息をつくマスターにフェリアが囁いた。
「大丈夫、絶対守ってみせるから・・・」
 ほっと一息・・・なんてしてる場合じゃないんだ。エレンとイムサイさんのこと忘れてた。

 エレンだと喧嘩になっちゃうからってフェリアと代わり、マスターとエレンとわたしたちでロンザの情報を得ることにした。
「そういえば、トラップたちどうしたんだろう?」
「おれ・・・見てくる」
「ごめんね、ノル。それじゃ、お願い」
「わかった」
 まさか、まだ捜してたりして・・・
「パステル。ちょっと来て」
 フェリアがわたしを呼んだ。
「・・・。行ってみたら? ルーミィたちはみててあげるから」
「あ、うん」
 エレンに促されてわたしはフェリアのところに行った。

「パステル、そのエンジェルリングであたしの魔法を強化いてくれない?」
「ええ!? でも、フェリア。わたしそんなの知らないし・・・」
 やっぱり、普通の魔法じゃだめだったのかな?
「念じるだけでいいから、ね、お願い」
 きっと半信半疑なんだと思う。イムサイさんは下を向いたままだったけど、フェリアがなんとか説得したみたい。
「本当に、念じるだけでいいの?」
「うん、そう」
 ううう、その童顔で言われると余計心配なんだけどな・・・
「わかったわ」
 わたしは、指輪に強く念じてみた。
 その間にフェリアがヒールの魔法を唱える。
 イムサイさんの腕・・・治るといいな。
 そう思った瞬間に治癒は終わったらしい。
「大丈夫か、フェリア?」
 目を開けるとイムサイさんがフェリアさんを支えてる。しかも右手動いてるよ!!
 よかった。成功したんだね。
「ちょっと、フェリア! あなた何ふらふらしてるのよ?」
 いつの間にかそばにエレンがきてフェリアを揺さぶる。
「痛いってエレン・・・。ちょっと魔力大きすぎて制御できなかっただけだから。それで、イムサイ。腕、どうなったの?」
「治ってる・・・・・・」
 ぐるぐる腕をまわしながらイムサイさんは呟いた。
 今まで気づかなかったってところがクレイに似てる。やっぱりクレイのお兄さんだわ。
「そう、良かったぁ。パステルのおかげね」
 いきなり振られてわたしはびっくりした。
「そんなことないって」
 わたしは横に手を振って否定した。
 そしてまた、ラズベリー館に新しい客が入ってくる。
 誰かなんて予想がつくけど。
 これで、全員集合ね。
 早く、パントリア大陸に渡らなくっちゃ!!

         *つづく*


(9)   〜船旅〜

 青い空、肌をすべる心地よい潮風、目の前に広がるのは、そう、海。
 なんて綺麗な青なの。ルーミィの瞳と同じぐらい綺麗に広がってるの。
 もちろん船には何回も乗ってるけど、いつ見ても綺麗だよね。
「パ〜ス〜テ〜ル〜。なぁ、酔い止めないか?」
 心地よい気分を台無しにしたのはトラップだった。
 相変わらずトラップは船酔いが激しい。
「そんなのキットンのところにいきなよ、わたしは薬師じゃないんだから」
 ふらふらのトラップを支えながらわたしは言った。
「そんなこと言ったって、彼奴の薬、効かねぇもんなぁ」
 トラップはぶちぶち文句を言いながらわたしに抱きついてきた。
「ちょっと、トラップ?」
 あわてるわたし。あったり前だ!
「だったら、これあげるわ」
 差し出したのはエレン。
「おたくも船酔いすんのか?」
「あたしじゃなくて、あっちよ」
 エレンの指さす先はフェリアだった。イムサイさんが心配そうにフェリアの背中をさすってる。
「げぇ・・・あの様子じゃ効かねぇんじゃないか!」
「あのこはかなりの船酔いよ。それにちゃんと効くから安心しなさい」
 エレンはそういうとトラップに薬を握らせて船の中に入っていった。
 う〜ん、なんか様子が変だったな。さっきのエレン。
「まっ、キットンの妖しげなのよりかはましか」
 トラップは薬を飲んでへらへらと笑った。
「・・・って、ちょっと。トラップ、いつまで抱きついてんのよ?」
「いいじゃねぇか、別に」
 っとにもぉ、仕方ないなぁ・・・・。
 わたしたちが今いるのはさっするとおり船の中
 甲板にわたしとトラップ。フェリアとイムサイさんがいて、船室にクレイとキットンとノルとルーミィとシロちゃん。エリカさんとさっきまで外にいたエレンがいる。
 それにしてもこんな大人数。
 船賃はフェリアたちもカンパしてくれて、助かったけど。
 そうそう、フェリアたちってかなりレベル高いじゃない。でも、必要経費しか手元には持たなくてクレジットカードなんかを持ってた。
 いいよな・・・リッチで。
 このクエストでいくらか収入あればいいんだけど。
 そしたらクレイももっと丈夫なアーマー買えるし、ちょっと遠いところにだってクエストできるじゃない。それに、冬越しもね。
 な〜んて、夢はふくらむばかり。実際、まだ乗り合い馬車代ぐらいかは残ってるはず。
 なんだか、眠くなって来ちゃった。
 見るとトラップもわたしを膝枕にして寝てるではないか!
 いいや、わたしもこのまま少しだけ寝ちゃおっと。

              *つづく*


(10)  〜酔う人〜

「おい! パステル」
 わたしはトラップの声で目覚めた。
「何?」
 すっとぼけた質問をするとトラップは呆れ顔になった。
「もうすぐ飯だからさ、さっさと食いに行こうぜ」
「えーー? もうそんな時間?」
 今更だけどわたしは外の様子を見る。
 もう、夕焼けが出ている。嘘・・・そんなに寝てたの? わたし・・・。
「じゃ、ルーミィたちも呼んで来なきゃ」
「先に行ってるってよ。おれたちと、そこで待ってくれてるエレンが一番最後だ」
「パステルって、どこでも寝られるのね」
 いい加減エレンの口の悪さにも慣れてきた。
 この人はからかってるだけなのよね。
 でも、やっぱり何か違う・・・。
「あ、そうだ。パステル、エレンって三重人格らしい。今のエレンは今まで見たエレンとちょっと違うそうだぜ」
 トラップがわたしに耳打ちした。
 はぁ〜・・・三重人格かぁ・・・はじめてみたかも。
「さっさと、行かないといけないでしょう? 待ってくれてるんだから」
「あ、そうだった」
 わたしはトラップに支えられながら起きた。
 3人並んで食堂に行くと既に他のみんなは席に着いていた。
「遅かったな。ほら座れよ、パステル」
 クレイに促されてわたしは席に座った。
 わたしの右隣はクレイ、そして順番にルーミィ、シロちゃん、キットン、ノル、フェリア、イムサイさん、エレン、エリカさん、トラップ。
 というふうに円になってる。
 つまり、わたしはクレイとトラップの間にいるってこと。
「ぱーるぅ、おそいお。るーみぃぺっこぺこだったんらお? もうたべていいんかぁ?」
「ごめん、ごめん。ほら、ルーミィもう食べていいよ」
 いつもなら食べちゃうのに、ずっと待っててくれたんだなぁ。
 そう思うと、ルーミィも少しは成長したのよね。
「いったあっきまあす」 
 でも・・・すごい量をほおばるところは変わってないか。
 わたしは・・・あいかわらず方向音痴だしな・・・
「何考えてるんだよ。ほら食おうぜ」
 トラップがわたしの肩をたたいて言った。
 そうよね、ここで悩んでも仕方ないし。
 立ち直りが早いのがわたしの取り柄。
 まずは、食べて体力つけなきゃね、旅は始まったばかりなんだもの。
「ぱーるぅ、るーみぃもくりぇーとおんなじのみものほしいお」
 それってビールじゃない!
「だめ! 絶対だめよ」
「ぶっぶぅぅぅ。なんでなんだぁ?」
「なんでって言われても・・・」 
 わたしは口ごもった。どう説明したらいいのかなぁ。
「だめよ、ルーミィちゃん。クレイの飲んでるものはルーミィちゃんにとって毒だから。かわりにこっちをあげる」
 助け船を出したのはおなじくビールを飲んでいたフェリア。
 しかも差し出したのはシャンペン。普通クリスマスに飲むんじゃ・・・って違う。
「フェリア、それもアルコール入ってるじゃない」
 わたしが反論するとフェリアは「そうだっけ?」っていう顔。
 だめだ、完全に酔ってるね。
「御神酒ならありますけど・・・」
「エリカさん・・・あなたも酔ってます? アルコールのないものじゃないとだめですよ」
 あなた、司教でしょう? って御神酒なんて飲んでるし・・・その前にどこから持ってきたの?
 本当に大丈夫なのかなぁ・・・。

 食事が終わったのはそれからずいぶんしたときだった。
 おかげで酔った人は、クレイにイムサイにフェリアにトラップ、そしてエリカさんと飲まされたルーミィの6人。
 わたしとキットンとノルとシロちゃんは飲まなかった。
 ここで一番お酒に強かったのは残ったひとりエレンだった。このときには人格がもどってたみたい。
 エレン曰く
「弱いんだったら飲まなきゃいいのよ」
 確かにそうかも。
 きっと明日の朝、起こすのが大変だなぁ・・・
 ちなみに部屋は大部屋で男性陣と女性陣でわかれた。
 シロちゃんはルーミィと一緒についてきた(っていうかルーミィが離さないんだけど)から女性陣の部屋になった。
 わたしは残っていた小説を書き始めた。

                   *つづく*



 1999年9月15日(水)16時50分〜1999年12月29日(水)17時41分投稿の、有希さんの小説「エンジェルリングとダークリング」(1)です。

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